『リーガルハイ』にあって『コンフィデンスマンJP』に致命的に「欠落」している点

『リーガルハイ』にあって『コンフィデンスマンJP』に致命的に「欠落」している点

「オフィシャルサイトへ - コンフィデンスマンJP - フジテレビ」より

 フジテレビ系の月曜夜9時枠(月9)で放送されている『コンフィデンスマンJP』は、信用詐欺師たちの騙し合い対決を描いた犯罪ドラマだ。

 主人公は、天才的頭脳の持ち主だがハニートラップは苦手なダー子(長澤まさみ)。ターゲットの部下や愛人となって懐に入り込むが、お人好しで毎回情に流されてしまうボクちゃん(東出昌大)。変装の名人・リチャード(小日向文世)。

 この3人を中心とした詐欺師チームが毎回、悪徳企業の社長やマフィアに罠を仕掛けて大金を奪う姿がコミカルかつ爽快に描かれるエンターテインメント作品である。

 脚本を担当するのは古沢良太。人気刑事ドラマ『相棒』(テレビ朝日系)シリーズの脚本家として異色作を次々に発表することで注目され、『相棒』のスタッフで制作された刑事ドラマ『ゴンゾウ〜伝説の刑事』(テレビ朝日系)で向田邦子賞を受賞した実力派だ。

 近年の代表作は、なんといっても『リーガルハイ』(フジテレビ系)シリーズだろう。裁判に勝つためなら手段を選ばない弁護士・古美門研介を演じる堺雅人の怪演と、二転三転する物語が高く評価されたドラマだ。明らかに堀江貴文や宮崎駿をモデルにしているとわかる人物を戯画的に描き、東日本大震災以降の日本をシニカルに見せていく語り口はブラックな社会派コメディとしておもしろく、2010年代を象徴するドラマといえる。

●「フェイクニュース」を先取りしていた古沢作品

 毎回、問題作を生み出してきた古沢の最新作ということもあり、放送前から注目されていた『コンフィデンスマンJP』だが、「過去作に比べると物足りない」というのが第2話終了時点での印象だ。

『ルパン三世』や『オーシャンズ11』のような華やかなエンタメ作品としての見せ方をするため、あえて戯画的に描いているのは理解できる。『ゴッドファーザー』や『スティング』といった映画の引用で見せる手法も悪くないのだが、『リーガルハイ』にあった毒っ気が薄まっているように見えるのが、物足りなさの原因だろう。

 また、どんでん返し的な展開も、そもそも物語が「詐欺師たちの犯罪ドラマ」という枠組みであるため予定調和に見えてしまう。もともと古沢の作品自体が詐欺師的なつくりで毎回予測不能だったのだが、それは刑事ドラマのような作品でやるからこそ効果的だった。

『コンフィデンスマンJP』は「詐欺師のドラマ」という時点で「視聴者も騙される」のが前提のようなところがあるため、最初からカードが開いているポーカーを見せられているような物足りなさを感じる。

 一方で、古沢作品の根底にある詐欺師的な感覚、つまり「情報の組み合わせ次第で物語はいくらでも捏造できてしまう」というスタンスは、現代における「フェイクニュース」の問題を先取りしていたといえる。

 たとえば、『リーガルハイ』第1期の第9話では公害訴訟を扱っているが、企業に懐柔されてあきらめようとする村人たちに、古美門が「それでいいのか?」と大演説をする場面がある。物語が福島の原子力発電所事故を連想させることもあり、古美門の演説に多くの視聴者が感動した。しかし、実はこの演説は古美門が訴訟に勝つために村人を扇動しようとして言ったにすぎない。

 フェイクニュースがはびこってしまうのは、人間が愚かで騙されやすいからではなく、自分たちが信じたい物語を求めているからだ。「それなら、相手にとって都合のいい物語を捏造して与えてやれば勝てる」という古美門の露悪的な振る舞いは、時代の一歩先を行っていた。

 フェイクニュースが日常化した現在では、もはや古美門の感覚は当たり前になっているといえる。『コンフィデンスマンJP』がいまいち煮え切らないのは、そういった時代の変化も背景にあるのだろう。

●『コンフィデンスマン』のカギを握る「毒」

 そんななか、「古沢らしい毒が効いている」と思ったのは、第2話の後日談だ。

 第2話では、ボクちゃんが好きになった老舗旅館・すずやの女将のために、旅館を買収しようとする大手ホテルチェーン・桜田リゾートの女性社長を騙して5億円を奪い取るというストーリーだったが、問題はその後の展開だ。

 ボクちゃんは成功報酬の1億5000万円を経営難に苦しんでいた女将に渡すが、女将には板前の恋人がいて、お金はその男が料亭を開くための資金にあてられてしまい、もともと接客が嫌いだった女将も旅館を辞めてしまう。

 1年後、その旅館は桜田リゾートの傘下に入っており、老舗旅館の風情は失われたものの、従業員は引き続き雇用されて繁盛している。一方、やり手だった桜田リゾートの女性社長は会社を辞めて夫と外国人向けのゲストハウスを始めており、それによって不仲だった夫婦関係が改善した。

 事件が終わった後の皮肉な後日談は『リーガルハイ』でも描かれていたが、「今までの物語はなんだったのだ」とあきれながらも、一方で「人間って、こんなもんだよなぁ」という、引いた目線ゆえの優しさが感じられる。

 優れたエンタメ作品を書く一方で視聴者が唖然とするようなオチを平気で書けてしまう、人を食ったセンスこそが古沢の本領だ。そういった毒のある展開ができれば、『コンフィデンスマンJP』も今後おもしろくなるのではないかと思う。
(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)

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