牛丼並が一番高い吉野家に、松屋とすき家から客が流入している理由

牛丼並が一番高い吉野家に、松屋とすき家から客が流入している理由

吉野家の牛丼

 牛丼大手3社の客数で明暗が分かれている。吉野家が絶好調の一方、すき家と松屋が客離れに苦しんでいる。

 吉野家を展開する吉野家ホールディングス(HD)が7月6日に発表した2018年3〜5月期の吉野家事業売上高は、前年同期比3.8%増の249億円だった。

 既存店売上高が好調に推移したことが寄与した。客数が好調で、3月は前年同月比3.6%増、4月は4.4%増、5月は2.9%増だった。6月も好調で7.5%増となっている。6月まで8カ月連続でのプラスだ。好調な客数に引き上げられるかたちで売上高も好調に推移し、同じく8カ月連続でプラスとなっている。

 吉野家の客数が好調である一方、ライバルのすき家と松屋は冴えない状況が続いている。

 すき家の客数は、3月が0.2%減、4月が2.7%減、5月が4.6%減、6月は0.6%減となっている。6月まで4カ月連続でのマイナスだ。

 松屋の客数も厳しい状況が続いている。3月が3.5%減、4月が1.8%減、5月が1.1%減、6月は3.3%減となっている。6月まで9カ月連続でのマイナスだ。

 このように、客数の面では吉野家が一人勝ちとなっている。その理由のひとつとして、すき家と松屋の値上げがある。すき家と松屋の値上げを嫌気した客が吉野家に流れたと考えられる。

 すき家は昨年11月下旬に値上げした。牛丼の並盛りは価格を350円に据え置いた一方、中盛り・大盛りは470円から480円に、特盛りとメガ盛りは50円引き上げ、それぞれ630円、780円とした。

 主力の並盛りは据え置いたため大きな客離れにはつながっていないが、客数の動向に鑑みると、多少は影響したと考えられる。ただ、値上げ以降、客単価が前年同月比で大きく上昇しており、客単価が引き上げるかたちで売上高は好調に推移している。昨年11月から今年6月までの8カ月間で前年同月を下回ったのは今年の5月だけとなっている。

 松屋は4月上旬に値上げした。牛めしの並盛りは290円から320円に引き上げている。それ以外のサイズの牛めしは40〜50円値上げした。定食やカレーなどのメニューも10〜50円引き上げている。主に首都圏で展開する少し高めの「プレミアム牛めし」は並盛りを据え置いた一方、大盛りと特盛りを10〜20円値上げした。

 先述したとおり、松屋の客数は値上げ後の4〜6月はいずれも前年同月を下回っており、値上げが客離れにつながったと考えられる。ただ、すき家同様、値上げ以降の客単価は大きく上昇しており、マイナス傾向にあった売上高は客単価が引き上げるかたちでプラスに転じている。4〜6月はいずれの月もプラスだった。

 これは、値上げ後も牛丼並盛りに関しては大手3社のなかで最安値を維持していることが大きいだろう。値上げしたものの、それでもまだ十分安いため客離れが限定的だったとみられる。ちなみに、現在の牛丼並盛りの価格は、松屋が320円、すき家が350円、吉野家が380円となっている。

●値上げ→客離れ→値下げを余儀なくされたユニクロ

 すき家と松屋は既存店売上高でプラスが続いているため、値上げは一定の成果を上げたといえるが、油断はできない。このまま客数の減少が続けば、客単価の上昇だけではカバーできなくなる可能性があるためだ。一度離れた客を取り戻すことは容易ではない。

 実際に、値上げによる客離れで値下げを余儀なくされた例もある。たとえば、業種は異なるがユニクロがそうだ。

 ユニクロは14年の秋冬商品を平均5%値上げし、15年の秋冬商品も平均10%値上げした。原料高や急激な円安を受けての値上げだったが、消費者に受け入れられず、既存店客数は減少が続いた。14年9月〜15年8月が2.9%減、15年9月〜16年2月は6.3%減となった。

 ただ、客数は減っていたものの、客単価が大きく上昇したため、売上高はそれほど悪くはなかった。14年9月〜15年8月は6.2%増と大きく伸び、15年9月〜16年2月はマイナスとなったもののマイナス幅は1.9%にとどまった。しかし、客数減を嫌気し、16年2月ごろから一部商品の値下げに踏み切っている。客数は人気のバロメーターであり、客単価より重要な指標と考える人は少なくない。ユニクロもそのような考えだったと思われる。

 牛丼大手3社に話を戻す。前述のように、3社のなかで一番好調なのは吉野家だ。客数と売上高は6月まで、それぞれ8カ月連続プラスで推移している。吉野家はこの間に値上げを実施しておらず、それを好感したすき家と松屋の客が吉野家に流れたと考えられる。

 吉野家は過去に値上げで痛い目を見ている。そのため、近年は値上げを実施していない。

 主力の牛丼並盛りの価格を直近で引き上げたのは14年12月。300円から380円に値上げした。同時に、並盛り以外のサイズの牛丼なども最大120円引き上げている。牛肉の主要輸入国である米国が干ばつの影響から出荷量を減少したほか、アジア市場の需要増加や急激な円高により価格が高騰したことが背景にあった。なお、14年4月にも値上げしており、そのときは並盛りで20円引き上げている。

 厳しい状況を受けて吉野家は値上げに踏み切ったわけだが、客離れが起きた。15年3月〜16年2月の客数は11.5%減と大幅なマイナスとなった。一方で客単価が大きく伸びたため、売上高は0.8%増となっている。

 売上高がプラスだったことから、値上げは成功したといえなくもないが、実は値上げ以降、売上高の成長が止まってしまった。

 14年4月に実施した値上げの前の時期である13年3月〜14年2月の売上高は7.3%増と好調だった。しかし、値上げにより14年3月〜15年2月は1.2%増にとどまり、14年12月の値上げが直撃した15年3月〜16年2月は先述したとおり0.8%増と微増に終わった。そして、16年3月〜17年2月は0.1%増とほぼ成長が止まってしまい、17年3〜8月は2.5%減とマイナスに転落している。

 このように、吉野家では客数の減少が売上高の成長の足かせとなったが、すき家が値上げした17年11月からは吉野家の客数が増加に転じ、それに連動して売上高もプラスに転じた。そして松屋が18年4月に値上げしたことで、吉野家にさらなる追い風が吹いたと考えられる。

 もちろん、それ以外の要素もあるだろう。たとえば、吉野家の施策が奏功したといえる。今年2月に実施したソフトバンクとのコラボ企画「スーパーフライデー」や、4〜5月に実施したグループ会社「はなまる」とのコラボ企画「毎日80円引き!定期券」といったキャンペーンや、新商品の投入などで集客できた側面もある。

 こうしたことに加え、すき家と松屋が値上げして客が流れてきたため、吉野家だけが集客に成功しているといえるだろう。

 値上げが客離れに直結することが明確になりつつあるなか、各社は当面、価格政策に苦慮することになりそうだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。

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