審議わずか8時間で水道民営化法案が衆院通過…海外では料金3倍に高騰や25万人コレラ感染事件も

審議わずか8時間で水道民営化法案が衆院通過…海外では料金3倍に高騰や25万人コレラ感染事件も

安倍晋三首相(写真:日刊現代/アフロ)

 FIFAワールドカップ(W杯)で日本代表がベルギー代表に敗退した翌々日の7月5日、水道の民営化を含む「水道法改正案」が衆議院で可決されました。水道は生活インフラの要であり、私たちの命にもかかわるものですが、審議時間はわずか8時間足らずでした。

 しかも、当時はW杯のほかに、西日本豪雨、オウム真理教元代表の松本智津夫死刑囚らの死刑執行などの大きなニュースが立て続けにあったため、メディアでクローズアップされることもほとんどありませんでした。

 結局、7月22日の閉会までには、自民党が是が非でも通したかった参議院の「6議席増法案」と、参議院議員選挙が近づくと公明党が賛成しにくくなる「統合型リゾート(IR)実施法案」(カジノ法案)を優先したために成立せず、水道法改正案は秋の臨時国会で再び審議される見通しです。この法案の改正ポイントは、次の5つになります。

1.関係者の責任の明確化
2.広域連携の推進
3.適切な資産管理の推進
4.官民連携の推進
5.指定給水装置工事業者制度の改善

 人口減少で水そのものの需要が減っているなか、水道施設が老朽化しているのに修理保全する人材も財政基盤も脆弱になりつつあるため、それらを強化しようという内容です。水道法の大きな改正が国会で審議されるのは16年ぶりで、「時代に合ったものにしよう」という趣旨はわかります。

 ただ、問題は、基本的に「自治体が広く連携し助け合って水道を維持していこう」という趣旨の中に、4の「官民連携の推進」をスルリと滑り込ませているところです。そして、そこには「コンセッション方式」を導入することが明記されています。

●「官民連携」とは異なる「コンセッション方式」

 コンセッション方式とは耳慣れない言葉だと思いますが、高速道路、空港、上下水道などの利用料を徴収する公共施設などで、施設の所有権は公的機関に残しながらも、運営は“民間事業者”に任せるというものです。

 この方式では、「運営権」を民間に売却できるので、その代金で自治体の赤字を減らすことが可能となります。また、採算意識を持った民間事業者が独自の経営スタイルで運営するため、自治体が運営のリスクを抱え込まなくても済むことになります。

 もちろん、民間事業者が背負いきれないリスクを負った場合には公的資金が投入されるケースも想定されますが、それはよほどの場合ということになるでしょう。

 この方式では、民間事業者は、自分たちの工夫で料金徴収を伴う公共施設の運営を行うことができます。つまり、それまでのように一部の事業を請け負う下請けのような立場ではなく、公共事業の運営に主体的に参加できるということです。また、民間事業者は運営権を持つことができるので、この運営権を担保に金融機関から資金調達をすることもできるようになります。

 コンセッション方式は、よく言われる「官民連携」とは異なります。もっとも大きな違いは、官民連携では“官”が経営主体になっているのに対して、コンセッション方式では“民間事業者”が経営主体になることです。最終的な責任を民間事業者が負うため、重要な方針、計画、施策の決定権は民間事業者が持ちます。

 この法案を表面的に見ると、「“官”のもとで“民間事業者”が、そのノウハウで儲けを出しながら“官”を助ける」というイメージがありますが、よく見ると、そういうことにはなっていません。「コンセッション方式」という言葉が埋め込まれているからです。

●水道民営化の落とし穴…料金3倍、コレラ大流行

 コンセッション方式は民間の知恵で効率的な運営ができ、しかも自治体の財政健全化にも役立つということで、「一石二鳥」と評する人もいます。しかし、見落としてはいけない大きな落とし穴もあります。

 この方式では、民間事業者に「運営権」と「料金徴収権」を渡すことになるため、私たちの大切な生活インフラである「水道」を利益重視の競争原理にさらすことになる可能性があります。

 これまでも、さまざまな公共事業が官民連携で行われてきましたが、運営権や料金徴収権を民間事業者に持たせるコンセッション方式は、従来の官民連携とは違い、大きく民営化に踏み出す一歩となります。

 では、水道が民営化されると、どんなことが起きる可能性があるのでしょうか。極端な例ですが、南アフリカでは水道の民営化後に民間企業がすべてのコストを水道料金に反映させたために、貧困家庭の1000万人以上が水道代を支払えず、汚染された川の水を飲むなどして約25万人がコレラに感染するという痛ましい事件が起きています。これは、南アフリカ史上最悪の事件とまで言われています。その結果、民営化された水道は再び公営に戻されました。

 これほど極端な例は珍しいにしても、フランスのパリでは民営化によって1985年から2009年の間に水道料金が約3倍になりました。そのため、パリでは2010年に再び公営化されています。

 基本的に、民間企業は利益が上がらないことはやりません。そのため、民営化によって主導権を民間に握られてしまうと、コスト削減で水質が落ちたり利益重視で利用料金が上がってしまったりするケースは珍しくありません。そして、国によっては暴動が起き、多数の死者が出た例もあります。一度は民営化したものの、国民生活を考えて再び公営化するという国も多いのです。

●すでに日本に進出している「ウォーターバロン」

 人間は水がなくては生きていけないため、「水を握る」ということは大きな利権にもなります。「水ビジネスは、10年後には100兆円市場になる」とも言われています。

 その水ビジネスを仕切るのは、フランスのスエズ・エンバイロメントとヴェオリア・ウォーター、そしてイギリスのテムズ・ウォーターという企業です。この3社は、世界の水ビジネスを仕切る「ウォーターバロン」(水男爵)と呼ばれています。なかでも、スエズ・エンバイロメントとヴェオリア・ウォーターは、すでに世界で10%以上のシェアを持つ2強です。

 実は、ヴェオリア・ウォーターは2002年に日本法人のヴェオリア・ジャパンを設立しており、自治体および産業向けの総合水事業を展開中です。直近では、今年4月に浜松市公共下水道終末処理場の運営事業を開始したり、6月には大阪市の水道メーター検針・計量審査および料金徴収等を受託したりしています。水道民営化に備えて、日本でも着々と実績を積んでいるわけです。

 現在の法律では限られた分野の下請けタイプの仕事しかできないのですが、水道法改正案が成立すれば、運営の主導権を持って自治体の水道・下水道の運営にあたることが予想されます。

 民営化によって民間のノウハウで効率的な運営が可能になるのは確かですが、そこには光と影が存在します。その象徴的なケースが1980年代の「国鉄分割民営化」ですが、それについては次回に詳述したいと思います。
(文=荻原博子/経済ジャーナリスト)

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