ドンキホーテとバブル崩壊後の日本経済30年史…約30年連続増収増益の秘密と意味

ドンキホーテとバブル崩壊後の日本経済30年史…約30年連続増収増益の秘密と意味

ドン・キホーテ店舗(撮影=編集部)

 最近、“驚安の殿堂”のドン・キホーテを運営するドンキホーテホールディングス(ドンキホーテ)の経営が市場参加者の関心を集めている。同社は、1989年6月期から2018年6月期まで29期連続で増収増益を達成している。

 ドンキホーテの業績は、バブル崩壊後のわが国の経済状況と好対照だ。1989年12月末、日経平均株価は終値ベースで3万8915円87銭の史上最高値をつけた。それが、資産バブル(株式と不動産の価格高騰)のピークだった。その後バブルは崩壊した。1990年代半ば以降、わが国の経済は広範な物価が持続的に下落する“デフレ経済”に陥った。

 その環境の下、ドンキホーテは独自の陳列手法や店舗運営、消費者の欲しい気持ちをつかむ商品開発によって成長を続けている。近年では中国人観光客などの“インバウンド需要”を取り込めたことも、ドンキホーテの成長を支えた。同社は低成長時代の優良企業というにふさわしいといえるだろう。

 ドンキホーテはさらなる成長を目指している。そのために同社には、自社の強みを徹底的に引き上げて、低価格の販売戦略や商品開発力の強化に取り組むことを期待したい。

●低価格路線への徹底したフォーカス
 
 ドンキホーテは創業者である安田隆夫氏が始めたディスカウントストアをベースに、ボリュームゾーン(普及価格帯)の商品を多く扱う小売店として成長してきた。同社の経営を考える上でのポイントは、経営陣が自社の注力すべき分野をはっきりと理解していることだ。ドンキホーテは一貫して、低価格で日用品などを販売することを重視している。成功するとあれやこれやと手を出したくなるのが人情だ。ドンキホーテはその誘惑に惑わされることなく、焦点を絞ってきたといえる。

 深夜営業や圧迫陳列など、従来の小売業界には見られなかった型破りな取り組みがヒットしたのも、ドンキホーテがマーケティングのセグメンテーションをボリュームゾーンに絞り、それを変えなかったからだろう。この結果、ドンキホーテはほかの小売店にはない宝探し的な感覚で日々の買い物を楽しむという体験を消費者に提供することができたと考えられる。

 これが外国人観光客にも受け入れられた。大阪のドンキホーテでは店舗売上の60%程度が免税売上からもたらされている。免税売上の割合は、沖縄、福岡の店舗では50%前後、銀座本館で45%に達する。「ドンキホーテは日本で一番楽しい店」と感じる外国人観光客は多い。

 また、ドンキホーテは小売りの現場で吸い上げられた消費者の欲求を、“情熱価格”の商標で展開されているプライベートブランド製品に反映させてきた。“ありそうでなかったモノ”を同社は各企業と協力して開発し、お買い得感とともに消費者に提供してきたといえる。

 一例が、菓子メーカー湖池屋と共同開発した「ONE HAND POTECHI(ワンハンドポテチ)」だ。今日、スマートフォンで動画を見ながらお菓子を食べたいと思う人は多い。問題は、お菓子を食べながら操作すると、スマホ画面が汚れてしまう。手を汚さずにお菓子を食べながらスマホを操作できれば快適だ。そのニーズにこたえて、ドンキホーテは手を汚さずに食べるお菓子のアイディアを実現した。

●小売業界に新風を吹き込んだドンキホーテ
 
 ドンキホーテは、国内外で同業他社を買収するなどし、業績を拡大させてきた。それができたのは、同社が“接客”や“陳列”など、国内小売業界の常識にとらわれず、徹底して低価格路線を実現することにこだわったからだろう。

 2007年、同社は総合スーパーの長崎屋を買収した。長崎屋はドンキホーテの店舗よりも売り場面積が広かった。それは、圧迫陳列などの独自手法が取り入れづらい店舗形態であることを意味する。

 売り場面積の広さを活かして同社は長崎屋を「MEGAドン・キホーテ」のブランドに組み替え、食料品などを中心に大型ディスカウントストアとして運営した。丁寧な商品の陳列を重視するよりも、台車に積まれたままの品物を店頭に出すなど、コストカットを徹底した。それまでは付加価値と思われていた業務を削減して顧客に還元することで、低価格路線を強化したのである。この結果、MEGAドン・キホーテの売上高増加率は、業界平均(日本チェーンストア協会の発表するチェーンストア販売統計)を上回って推移している。

 2017年、ドンキホーテはユニー・ファミリーマートホールディングスと資本・業務提携を締結した。提携契約の締結前後を比較すると、ドンキホーテと共同運営されている店舗の客数は増加し、利益率も改善している。
 ドンキホーテによる事業再生のケースを踏まえると、総合スーパーが重要と考えてきた取り組みは、消費者の満足度の向上につながっていなかった可能性がある。

 また、ドンキホーテは各店舗を画一的に管理してはいない。ドンキホーテは、店舗ごとの自主性を重視している。そのため、立地が違えば品ぞろえも価格帯も違う。それが、低価格、各地域の消費者に受け入れられやすい品ぞろえを実現し、リピーターを確保することにつながった。大手総合スーパーなどの逆を行く発想が、ドンキホーテの成長につながったといえる。

●今後の利益率向上への期待
 
 19年6月期の連結決算にて、ドンキホーテは売上高が1兆円に達すると予想している。現状の成長の勢い=モメンタムが維持されれば、それは可能だろう。売上高1兆円規模の小売業にはユニクロを運営するファーストリテイリング、イオン、セブン&アイ・ホールディングスなどがある。

 今後、ドンキホーテに期待したいのは、さらなる規模の拡大よりも、利益率の維持・向上を実現しつつ成長していくことだ。同社のROE(自己資本利益率)は13%超に達している。この水準は、セブン&アイやイオンの水準を上回っている。TOPIX採用企業の平均的なROEは9%程度だ。利益率の点で、ドンキホーテはわが国を代表する優良企業といえる。

 ドンキホーテには、低価格戦略の強化と独自の商品開発などによる消費者満足度の向上を期待したい。“驚安の殿堂”のキャッチコピーにある通り、ドンキホーテの強みは低価格で消費者の欲しいものを提供することにある。加えて、店づくりも同社の成長を支えてきた重要な要素だ。それを伸ばすためには、商品開発や店舗運営への新しい発想の導入など、内部の経営資源の活用をベースに成長を目指すことが考えられる。

 また、ドンキホーテがさらなる成長を追求するためには、買収戦略の重要性も増すだろう。この点に関しては、慎重な判断が必要だ。理由は足許、世界的に株価が高値圏にあるからだ。それに加え、中国経済の減速懸念も高まっている。そのなかで買収を行うことは、のちのちの財務リスクを高める恐れがある。ドンキホーテがそのリスクを冒す必要はないだろう。

 足許、ドンキホーテは米ウォルマート傘下の西友の買収に関心を示している。西友の立地条件を考えれば、確かに魅力的な案件ではある。ただし、買収の名乗りを上げる企業が増え、買収価格が吊り上げられた場合には、潔く手を引く勇気も必要だ。

 むしろ、ドンキホーテには、同社流の小売業再生を求めて提携などを求める企業が増える状況を目指してもらいたい。それは、より有利な条件で買収を行うことにもつながるだろう。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

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