ロシア元スパイ暗殺未遂 プーチンは「彼らは友人や仲間を裏切った」

ロシア元スパイ暗殺未遂 プーチンは「彼らは友人や仲間を裏切った」

現場で除染作業をする消防隊員たち ©AFP=時事

 ロシアの元スパイで、英国亡命中のセルゲイ・スクリパリ氏(元ロシア軍参謀本部情報総局大佐)が3月4日、英南西部ソールズベリーの自宅付近で、娘のユリアさんと神経ガスに触れて意識不明の重体となった事件は、ロシアの犯行説が強まっている。

 英情報機関に情報を流し、二重スパイだった同氏は、2004年に逮捕され、国家反逆罪で服役したが、10年の米露間のスパイ交換で釈放された。英BBC放送によると、プーチン氏は、釈放されたスクリパリ氏らについて「彼らは友人や仲間を裏切った。交換釈放で何かを得るとしても、窒息するだろう。バケツを蹴飛ばすことになる」と不満をあらわにしたという。

「バケツを蹴飛ばす」とは、首を吊るのに、バケツの上に乗り、首をロープにかけてからバケツを蹴飛ばすことから、死を意味するスラングだ。ロシア当局の犯行とすれば、秘密組織がプーチン氏の意向を忖度して“バケツを蹴飛ばした”可能性がある。

 06年にはロンドンで、プーチン氏の政敵で元スパイのリトビネンコ氏が放射性物質のポロニウムを盛られて死亡する事件があった。ロンドンにはロシア人約10万人が居住。「ロンドングラード」と呼ばれ、ロシアの工作員が動きやすい所だ。英内務省の調査委は「ロシア情報機関の犯行であり、おそらくプーチン大統領が承認した」とする報告書を公表した。

 今回の事件がロシアの犯行だとすれば、ひとつには、国内外の裏切り者に対する“見せしめ”という意味があろう。

 さらに3月18日の大統領選と絡んだ動きとの見方も一部に出ている。プーチン氏の当選が確実な無風選挙だが、このところ欧米を挑発し、愛国心を刺激するような言動が目に付く。1日の年次教書演説では、6種類の強力な新型戦略核兵器を開発中だとして、「米国のミサイル防衛は無意味になる」「現実を直視するがいい」とまで述べた。

 今回の事件への関与をロシアは全面否定したが、英国のジョンソン外相は「破壊的な国家だ」と暗にロシアを批判。だがプーチンにすれば、欧米との関係悪化を演出し、ロシアは包囲されているという国民の危機意識を高める「ショック療法」だったのかもしれない。

(名越 健郎)

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