行き過ぎた「心配性」にご注意を “強迫性障害”との向き合い方とは?

行き過ぎた「心配性」にご注意を “強迫性障害”との向き合い方とは?

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「心配性」とよばれる性格の人がいる。普通なら気にしないようなことを気にして、不安がる……。そんな人はどの職場にもいるし、ガサツな人の集まりの中にあっては、その存在が貴重になることもある。

 しかし、物事には限度がある。心配が増幅して当人の手に負えなくなると、日常生活に支障をきたすことになる。

 そんな人、あなたの周りにもいませんか?

■行き過ぎた「神経質」な性格

 都内に住むサラリーマンのTさん(32=独身)。几帳面な性格で、会社の彼の机の上は見事に整理整頓されている。

 職場だけではない。彼の自宅マンションを訪ねたことのある同僚によると、部屋の中はモデルルームのように整然としていたという。取っ手の向きを分度器で計ったように揃えて等間隔で並べられたコーヒーカップの類は、「偉大なる指導者」に敬礼しながら歩く某国の軍事パレードを彷彿とさせた、とも証言する。

「クローゼットの中の針金ハンガーがきれいに色分けされていて、青は仕事用、ピンクは私服、黒はその他――と、色ごとに任務を与えられているんです。以前付き合っていた彼女が、青のハンガーに自分のブラウス(非仕事用)を吊るしたことがきっかけで喧嘩になって、結局別れたそうです」(その同僚)

 人に迷惑をかけなければ何にどうこだわろうと勝手だ。しかし、Tさんの神経質な性格は、別の方向に向かい始める。「心配癖」だ。

 会社に出勤してから、「鍵は閉めてきたかな?」「コンロの火を消し忘れてないか?」と心配になることは誰にでもあるだろう。しかし多くは一過性の心配で、昼過ぎには忘れてしまうものだ。

■海外旅行を中止したことも……

 ところが彼は違う。不安に支配されるがまま終日にわたって悩み続けるのだ。悩み出したら仕事どころではなくなる。用事を作って外出し、内緒で自宅に戻って確認したことも何度かある。でも、そうまでして確認しても、本当に鍵が開いていたことはない。

 今年の正月休み、彼は学生時代の友人と数人で台湾旅行に出かけた。日暮里から京成スカイライナーに乗ったところで、「電気ストーブを消しただろうか……」という不安が首をもたげた。成田に着くころには、身をよじるまでに不安は増幅。結局彼は旅行を取りやめ、自宅に戻った。電気ストーブの火は消えていた。

■不安で引きこもりになってしまうケースも

「こうなると、日常生活に支障がないとは言えませんね。当人が困っていないなら別ですが、困っているなら“強迫性障害”と診断されて、心療内科での治療対象になります」

 と語るのは、名古屋市西区にある「名駅さこうメンタルクリニック」院長で精神科医の丹羽亮平医師。

 日本人は、何事もきちんとすることを美徳とし、物事に対するこだわりも強い――という民族性がある。それがいい方向に働くと「職人気質」となり、文化や芸術の構築に寄与することもある。

 しかし、逆に作用するとTさんのように自分の行動を雁字搦めに縛り付け、仕事や日常生活が大きな制限を受けることになる。これが強迫性障害だ。

「その不安が自分にとってよくないことや、不安に思う必要がないということを当人もわかっているのに、自分ではその不安を打ち消すことができない。中には、自分で作った不安で身動きが取れなくなって、引きこもりになってしまうケースもある」

 丹羽医師によると、強迫性障害の人の脳では、セロトニンという神経伝達物質が減少している可能性が指摘されている。セロトニン減少は、うつ病の人の脳でも見られる。事実、強迫性障害とうつ病を併発する人も少なくない。

■強迫性障害、治療法は?

 治療法としては、カウンセリングを柱とした認知行動療法というアプローチが有効だ。

「強迫性障害の人は、考え方や行動に“癖”があるので、その癖に気付くこと。気付いたら癖から抜け出し、合理的な考えや行動をとる方向に修正していく治療です。状況に応じてセロトニンを増やす薬や、発達障害の治療薬などを使うこともあります。人によって時間はかかることもあるが、相手は“機械”ではなく“心”なので、急ぐのは禁物。時間をかけて心に社会性を持たせていくことが重要です」

 治療が奏功し、ある程度よくなってきたら、適度な運動が効果的だ。軽いジョギングなどの有酸素運動は、セロトニンを増やす作用を持っている。

「ただ、強迫性障害になる人は、“これがいい”と言われると、そればかりに打ち込む傾向がある。軽いジョギングでいいのに、いきなりフルマラソンを目指すような極端な行動に出てしまい、思うように走れないと、そこで新しい不安に支配されることもある。いわゆる“いい加減”という考え方を持つことが苦手なのです」

■自分の利点を認めることから始めましょう

 丹羽医師によると、このタイプの人は約束を確実に守るし法令順守精神も高い。そもそも用心深いので、忘れ物をすることも少ない。火の不始末や戸締りの不備などのリスクは、普通の人に比べて低いという。

 自分がそんな利点を持っていることを、まずは認めることから始めましょう。

 そして、毎朝10分でも20分でも時間を作って、家を出る前に納得するまで何度でも火の始末と戸締りを確認することを日課にしましょう。悪いことじゃないんだから。

 いつか、消防と警察から表彰されるかもしれませんよ。

(長田 昭二)

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