年収800万以上の中堅サラリーマンはなぜ騙されたのか

年収800万以上の中堅サラリーマンはなぜ騙されたのか

スマートデイズが「かぼちゃの馬車」の名称で手掛けていた豊島区のシェアハウス ©共同通信社

 2018年4月、女性専用のシェアハウス「かぼちゃの馬車」事業を行っているスマートデイズが経営破綻した。この会社は首都圏を中心とした女性専用のシェアハウスを投資用不動産として、販売、運営を行っていたもので、約700名の投資家に約800棟1万室を販売していたという。

 仕組みはいたって簡単だ。スマートデイズは投資家向けにシェアハウスが建設可能な土地を探し出し、これに建設業者を使ってシェアハウスを建築させ、投資用不動産として投資家に販売する。さらに投資家に購入させたシェアハウスの床を一括で借り上げ、シェアハウス事業で計上した収益から一定の手数料を差し引いたうえで賃料を支払うというものだ。所謂サブリース事業というやつだ。

■年収800万〜1000万の中堅以上のサラリーマンが飛びついた

 その際、投資家の運用リスクを軽減するためにスマートデイズは賃料を保証し、投資資金をスルガ銀行との提携ローンで賄わせることで、誰でも気軽に不動産投資ができるように仕立て上げたのだ。

 利回りは8%という高利回り。保証は30年という長期。誰でもちょっと計算すれば多少巨額の借金を背負っても保証がある限りは借入金の返済は容易だし、不動産投資は運営に伴う諸費用を経費で落とせることから、年収が800万円から1000万円程度の中堅以上のサラリーマンが飛びついたというわけだ。

 ところが、この事業はいとも簡単に破綻する。あたりまえだ。都内で不動産事業を行っていれば誰にでもわかる話だが、現在の都内の新築不動産で「利回り8%」で廻る物件などほぼ存在しないことは常識だ。「かぼちゃの馬車」は女性専用のシェアハウスだが、そもそもシェアハウスは普通のアパートや賃貸マンションには経済的な理由などで入居できない人たちが、台所、居間、風呂、トイレなどをシェアすることで家賃を浮かせて住もうというものだ。賃料負担力のないテナントを多人数一緒にさせることで収益を上げていくビジネスだから、よほどテナント集めに苦労しないところでなければ成り立たない。

■ありえない利回りを謳った「はりぼて」の商品

 この「ありえない」利回りを実現するために、スマートデイズは新築シェアハウスを建築見積費よりも高い金額で発注し、業者から多額のバックマージンをもらい、この一部を保証賃料に充当していたのだ。また投資家に対してはテナントである女性からもらう家賃のみならず、ターゲットである地方から東京に出てきた女性の就職を斡旋することで収受する手数料も投資家の収益に充当することで「高利回り」であることを謳っていたのだ。すべてが「はりぼて」の商品構成である。

 あたりまえだが、新規販売が順調なうちはなんとか成立する事業も、回転が止まったとたんに破綻する。現在はこの不動産投資に積極的にかかわり、債務返済能力が不十分な投資家に対してどこかの役所のように審査書類等を改竄してまで応じたスルガ銀行が批判の矢面に立たされている。

■大手会社の管理職も1億6000万の負債を抱えることに

 こうした詐欺商法はいつの世にも存在する。今回の事件は私の知人の知人、も被害にあったそうだ。彼はそこそこ大手の会社の管理職で年収は800万円。1億円ほどの物件を全額ローンで購入し、利回り8%で30年の保証だったそうだが、運用開始後わずか3か月で賃料はストップ。あわてた彼は実際の物件を初めて見学に行き、棟内に住んでいた入居者はわずか1名であることにその場で気が付いたのだという。不動産投資に興味があったという彼は、これまでも投資用のワンルームマンションを1室所有していたのだが、かぼちゃの馬車は同じくワンルームマンション投資を行っている知人から薦められたのだそうだ。

 彼はこれとは別に住宅ローンも抱えているために、現在の負債総額は1億6000万円。「人生オワタ」である。

■サブリース事業に見る「甘えの構造」

 さてこの事件はもう、世間ではかなり有名になっているようだが、事の本質は事業者側も投資家側も「サブリース」という事業に対する「甘え」があったということだ。

 まず、事業者側が投資用のシェアハウスを実際の相場よりも相当の高値で売却した問題は置くとして、この事業が破綻した時点で、このシェアハウスのオーナーは投資家であり、このオーナーの床を借り上げているのはスマートデイズである。この場合、あくまでもスマートデイズは借家人であり、借家人の立場は借地借家法によって極めて借家人に有利なように守られているのである。つまり「賃料は保証した」ものの、実際の賃借相場よりも不相応に高く借りてしまったので、保証賃料を引き下げてほしい、というのは借家人としての正当な引き下げ事由になるのである。また最終的に賃料が支払えなくなってしまったのであれば、契約内容にもよるが、借家人は一定のペナルティーを支払えば賃借期間内での解約だって可能ではあるのだ。「いつでも都合が悪くなったらやめられる」という事業に対する決定的な「甘さ」が事業者側にあったことは否めない。

 いっぽうの投資家側だ。こうしたケースでメディアでは、投資家の人たちを「騙されたいたいけな人たち」といった視点で報道するがどんなものだろうか。何もリテラシーのない高齢者や判断能力のない人たちが被害に遭うことはともかくとして、今回の被害者の多くが中堅以上のサラリーマンだという。

■宣伝文句を鵜呑みにする前にやるべきこと

 これだけネットをはじめ様々な情報を得る手段がある現代で、「利回り8%、30年保証」といった宣伝文句を鵜呑みにしてさして考えもせずに投資金額の全額を銀行で借りてしまうなどという行動をしてしまうことは、人生におけるリスク管理ができていないのではないだろうか。賃料の保証がどこまでの保証であるのか、スマートデイズが本当に30年も保証できるほどの体力のある会社なのか、サブリース事業でこれまでどんな問題や争い事があったのか、少しの時間を使えば調べる方法はいくらでもあったはずである。それどころか自分の給与収入を「何も苦労せずに」増やそうという考えで立ち直れないほどの大火傷を負ってしまったと思えなくもない。

 少なくとも投資する物件がある周辺のアパートやマンションの相場、周辺土地の値段については公示地価や基準地価格をネットで誰でも自由に検索できる。建築費だってオフィスやマンション、アパート等の建築相場を調べる手法などいくらでもある。

 どちらにも言えるのが、事業に対するリスクの考えに甘さがあるということだ。バブル崩壊後の1994年にリリースされたウルフルズのヒットソングに「借金大王」という曲がある。その中の歌詞「貸した金返せよ! 貸した金返せよ!」のリフレインが今両者の耳にこだましていることだろう。

(牧野 知弘)

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