勝間和代さんと考える「カミングアウトのメリットとデメリット」

勝間和代さんと考える「カミングアウトのメリットとデメリット」

勝間和代さん ©深野末季/文藝春秋

 同性のパートナーと暮らしていることをネットでカミングアウトしたその日の夜、勝間和代さんはレギュラーを務めるTOKYO MX『バラいろダンディ』に出演し、告白を決意した経緯について語った。「(最近彼氏は? などと)言われても否定ができなかったり、あるいは1日旅行に出かけたりすると、(同行している彼女が)マネージャーだと思われるんですよ。やっぱり良くないじゃないですか、お互いの関係性として。私が堂々と言えないのも嫌でした」と、カミングアウトに至った心境を明かし、一般からも多くの祝福の声が寄せられたことを紹介しながら、涙ぐんだ。今回、 『総務部長はトランスジェンダー』 を出版した岡部鈴さんとの対談が実現。カミングアウトをテーマに語り合った。

■「ああこの人知ってる」

勝間 はじめまして。

岡部 はじめまして。お目にかかれて光栄です。

勝間 私のパートナーは岡部さんのことを前から知っていたようです。岡部さんの『総務部長はトランスジェンダー』を置いていたら、ああこの人知ってるって言っていましたから。

岡部 本当ですか? 嬉しいです。5月28日、勝間さんが「BuzzFeedNEWS」とブログで同性の方をパートナーとされていることを公表しましたよね。オネエタレントと言われる人のように、最初からセクシャルマイノリティであることを表明して登場してきた人ではなくて、既に名の知られた方がこんなふうに自然にカミングアウトされたのは初めてではないかと思って、ものすごく感動しました。

勝間 ありがとうございます。

岡部 私は会社の帰りにだいたい新橋で飲んだくれているんですけれど(笑)、あの日は珍しくまっすぐ帰りました。家でふと、「今日の『バラダン(バラいろダンディ)』に勝間さん出るのでは?」と思ってテレビを点けたんです。

カミングアウトしたことのメリットは?

岡部 私も観ていて泣いてしまいました。それまでの勝間さんの印象は理知的で論理的で強くて……リーダーというものでしたけど、こんなにピュアな方だなんて、大好きになっちゃった。

勝間 ありがとうございます(笑)。ワイドショーはすべて断ったんですが、さすがに自分の番組で何も言わないわけにもいかないので……。

岡部 カミングアウトしたことの反響はいかがでしたか。

勝間 最初の1、2週間はネットでいろいろ感想を寄せられたりしましたが、私がその後あまり取材を受けなかったこともあって、次第に沈静化しました。

岡部 ここ数年で社会が大きく変化していて、普通のことになりつつあるんだと思いますよ。ビールが好きだと思われていたのが、実は焼酎も好きだった、ふーんというくらいに普通になる日も近いんじゃないかしら。

勝間 そうですね。そしてまた淡々とした日常に戻りました。寄せられた反響の中には、女性にしろ男性にしろ、「自分もカミングアウトしたいけれど、メリットが見えない。一方でデメリットは見えてしまう」という声が結構ありました。私にとってカミングアウトしたメリットは、まず隠さなくてよくなったということです。それまでは人を家に呼んだときなどに、パートナーはいないものとして、隠れてもらったりしていた。ネットに書く文章や写真も細かく気をつけないといけない。そんな毎日は自分としてもやるせないし、パートナーにも申し訳ない気持ちでいっぱいでしたから、今はとても楽になりました。

岡部 ブログを拝見すると生き生きと人生を楽しんでいらっしゃることが分かります。

勝間 意外だったのは、「あなたはいいけどお子さんが可哀相」という声が多かったことですね。これは形を変えた差別だと思います。

家族への説明はどうする?

岡部 本当にそうですよ。最近同性カップルが里親になるケースが出てきてますが、バッシングを受けていると聞いたことがあります。子供の幸せを決めるのは親の性別ではないでしょうに。

勝間 娘には、カミングアウト以前にパートナーと暮らし始めるときにきちんと説明しました。

岡部 どうでした?

勝間 案外すんなり受け容れてくれました。娘たちの世代だと、必ずしも珍しいことではないようですね。

岡部 それは良かった。私には息子がいるんですが、彼に対しては自分がトランスジェンダーであり、外では女性として生きていることをまだカミングアウト出来ていません。

勝間 岡部さんは家では父親として男の格好をしていて、毎朝家を出て近くのトランクルームで女性の服に着替えてメイクをして、それから出勤されているんですよね。今日もトランクルームで着替えてこられたんですか?

岡部 はい。こういう二重生活をもう5年以上続けています。パートナー(妻)が家に持ち込まないでほしいと希望していますし、息子も多感な時期なので。普通、男性の女装趣味というのは家の中での密やかな楽しみだと思いますが、私の場合は家の中だけ男性、外では女性なので逆なんです(笑)。息子にはいずれ伝えたいと思っていて、今回本を書いたのもそのためというところもあります。彼にいつか読んでもらえば、私の気持ちもきちんと伝わるんじゃないか、と期待しているんです。

勝間 私も岡部さんの本を読んで、メールで社内にカミングアウトする場面で泣いちゃったんです。

岡部 ほんとうですか!

■一斉メールでカミングアウト、社内の反応は? 

勝間 やっぱりカミングアウトするって、何が起こるか分からないじゃないですか。悪いことばかり想像して。だから、すごく勇気のあることだなと思います。しかも会社のみんなに一斉メールで送るなんて大胆ですね(笑)。

岡部 私は思い込んだら突っ走ってしまうところがあるので……。今の時代、セクシャルマイノリティであるということを社内でカミングアウトしても、それをもってクビにすることはあまりないと思います。けれどその人が顧客に対応する部署、たとえば営業部にいたらどうでしょう? ある日私のように「性別を変えます」って宣言したら、「ちょっと待って、お客さんを驚かしてはいけないから」などと内勤の部署、資料室とか社史編纂室とかお客様相談係みたいなところに異動させられてしまう。実際に、ある大手事務機器販売会社の人が社内でカミングアウトしたところ、本人の希望外の部署に異動させられて、結果的に辞めざるを得なかったというケースもありました。私がカミングアウトする1年くらい前のことです。

勝間 岡部さんはそういう仕打ちは受けなかったんですね。

岡部 幸い、親会社の電通はLGBTに早くから取り組んでいましたし、広告というカジュアルな業界のせいもあったかもしれません。でもある日を境に中年のおじさんが女性になったわけですから、取引先の中にはびっくりしていた人もいました。でも、社内で露骨な差別を感じたことはありません。ただ、私に対してもともとの男性イメージを強く持っている人はしばしば無神経な言葉を吐いたりしますね。飲み会の席で、私がいるのに「なーんだ、今日は全員男性なんだ」と言ったり。

おっさんから女の子になって気づくこと

勝間 そういうときどうするんですか。

岡部 その場ですぐ抗議します。悪意がないのは分かってますけど、命をかけて性別を変えようとしてきた人間にとっては看過できないですからね。その一方で、むしろ女性として働くようになったからこそ「おや?」と思うことも出てきました。

勝間 どんなことですか。

岡部 たとえば部署の誰かが出張に行ってお土産を買ってきますよね。おじさんって「萩の月を買ってきたよ」とか言いながら、部署の女の子の机に置くんですよ。

勝間 配ってくれと(笑)。

岡部 そうなんです。で、ある時、私の机にも置かれたわけです、萩の月が。私がおっさんやってたときは、一度もそんなことなかったのに。「これは私が配るのかな?」って疑問に思いました。正直、女性として扱われたということにはちょっとした嬉しさもあったんですけど……。

勝間 置く側はきっと、おじさんに配られても嬉しくないだろうという配慮をしたつもりなんでしょうが、無意識の差別、無意識の偏見ですよね。根深い問題です。

岡部 男として生きているときは分からなかったんですが、こういう些細な差別的なことが女性にはいっぱいあるんですね。

■男性は本能的に自分の性対象か見分けようとしている

勝間 私はこの本で「リード(元の性を見破られる)」という言葉を初めて知りました。「パス(見破られない)」という言葉は知っていましたが。

岡部 業界用語なんです(笑)。

勝間 岡部さんはこうして目の前にしても、パス度が高いですね。

岡部 ありがとうございます。でも、完璧ではないですね。私を男とリードするのは、男性が多いです。

勝間 そうですか? なぜなんでしょう?

岡部 おそらく男性、特に30代、40代くらいまでは本能的に、相手が自分の性対象かどうかを見分けようとしているんだと思います。でもその能力は年齢とともにだんだん失われていく。私も特におばあちゃんにパス度が高いですね。おばあちゃんは私のことを決して性対象として見ませんから。

■世界のパートナーシップ制度

勝間 なるほど。

岡部 ところで勝間さんたちのような同性のパートナーを社会的に認めようと、各地でパートナーシップ制度が拡がりつつありますね。

勝間 ええ。それはそれで良いことだと思いますが、世界はもっと先を行っています。たとえばベルギーはすべての公的書類から、婚姻届も含めて、性別欄をなくした。とても感動しました。

岡部 トランスジェンダーについても、EUや南米の一部の国では、性別を変更するのに医師の診断は必要なくなっています。住民票の変更と一緒で、本人の申告があればいいんです。

勝間 ところが日本では性別を変更するためには、適合手術を受けなければならないんですよね。

岡部 ええ。日本は病理主義なので、まず精神科医に「性同一性障害」の診断書を貰い、それでもって性別適合手術を受けないと、戸籍の変更はできないんです。費用面も含めて、とてもハードルが高い。

勝間 病であるから、仕方なく変更するという考えですよね。社会公正仮説というらしいんですが、日本には世の中はこうあるものという価値観があって、そこからズレたものをすべて嫌う傾向があると。たとえば被害者ー加害者の関係では、加害者が悪い人で被害者はいい人でなければならない。しかし自分も被害を受けたくないので、被害者に非がなければいけない。それで被害者のあら探しをするのです。トランスジェンダーやLGBについても、自分とは違うから病気であったり異常であったりしないと安心できない。こういうの、私は思考停止と呼んでいます。戸籍の性別変更というのは婚姻状態でもできるんですか?

岡部 できないんです。同性婚になってしまうから。私のパートナーも私が戸籍まで女性になってしまうことは望んでないと思うので、関係を壊す気持ちがない以上、このままの状態で終っても仕方がないかな、と思っています。

■「性同一性障害」と「早漏」は同じカテゴリー

勝間 この間、世界保健機関(WHO)が「国際疾病分類」を更新して、性同一性障害は精神疾患から外れ、「性保健健康関連の病態」という分類に入りましたね。

岡部 そうなんです。性同一性障害は、これまで精神疾患とされていたんですが、「性別不合」という名称になるとともに「性の健康に関する状態」というカテゴリーに移動しました。同じカテゴリーには、「早漏」なんかもあります。

勝間 あはは。つまりそのくらいのもの、ということですね。

岡部 そうなんです。世界は変わってきている。かつて精神疾患とみなされていたゲイがそうでなくなったように、性同一性障害も病気ではなくなりつつある。これまでは病気とみなしたほうが当事者にとってもいろいろ都合のいい面もあったんですが……。

勝間 時代や人の意識が変わって来たから、それに合わせて変えていこうということですよね。

岡部 そうですね。まさに過渡期ですね。

勝間 人の意識で思い出しましたが、私の知人で、50歳くらいの女性が銀行の人事部にいてLGBT対応などを担当しています。彼女は男性と女性では、LGBTについての感覚が10年くらい違うと言っていました。女性が10年進んでいると。それは、普段から企業の中でマイノリティ性を持って苦労してきた面のある女性のほうが人権や多様性についての意識が高くなっているのではないかということです。

岡部 そうですね。特にモーレツ社員として会社を引っ張ってきたような男性管理職にLGBTなんて言っても分からないかもしれない。

勝間 そういう人たちは、私や岡部さんのような人は自分の会社にはいないと思っていますよ。本当はいるんですけど。

岡部 そうですね。そういう経営者の人も多いと思いますけど、実はいるんです。まだまだ行動に移していないだけで。

勝間 マイノリティがいないことにされないためには、これからも声を挙げていくしかありませんね。

(勝間 和代,岡部 鈴)

関連記事(外部サイト)