危機の大塚家具 「親バカ親父」と「エリート娘」の“リア王的悲劇”のゆくえ

危機の大塚家具 「親バカ親父」と「エリート娘」の“リア王的悲劇”のゆくえ

大塚家具創業者・大塚勝久 ©AFLO

「『健康に気をつけて』というだけです。電話一本で相談でもしてくれればね……。相談があれば助けられた。親バカですね。親って本当にバカなんですよ」(注1)。

 悪い男に惚れてしまった娘が親の家を出て、その後生活に行き詰まっていると聞き及んだ父が吐露する言葉のようだが、大塚家具の創業者・大塚勝久が、娘で現社長の大塚久美子に声をかけるとしたらと記者に聞かれ、述べたものである。父を追い出した久美子が経営する大塚家具は、かつては年商700億円に達する国内最大の家具販売店であった。しかし今、身売りの危機に瀕している。

■長嶋一茂が「バカ息子」と落書きされた2014年の「お家騒動」

 この「親バカ」親父と娘とが会社の実権を争った騒動は、長嶋一茂が自宅の壁に「バカ息子」と落書きされたと週刊文春が報じた2014年に表沙汰となる。一家の跡目は長男が継ぐものだからと、大塚家具の主要株主でもある一族の資産管理会社の株式を半分、長男に持たせたところ、長姉の久美子ら姉妹弟が反発、それがやがてワイドショーで取り上げられるほどのお家騒動に発展する。結果、長姉の久美子が株主総会の委任状争奪戦で父・母・長男連合を打ち負かし、社長の座を得て、父は会社を離れることになる。

■春日部から日本橋をリアカーで行き来する超人

 その争いの最中、父・大塚勝久は全社員に送ったメールでこう述べる。「血と汗で築いてきた大塚家具が久美子社長のクーデターで崩壊しつつあります」(注2)。春日部の桐ダンス職人の家に生まれ、しかし職人にならずに販売に力をいれていく。そうして今の大塚家具の礎を築くのだが、若き日にはタンスを積んだリヤカーを引いていたのは知られる話。少し前の週刊文春を紐解くと、昔を知る者の証言にこうある。

「勝久さんと親父さんは毎日リアカーに箪笥を積んで、春日部から日本橋まで往復約八十キロの距離を百貨店に納めに行っていました」(注3)。

 なるほど「血と汗で築いてきた」に嘘はない。というより、春日部から日本橋をリヤカーで行き来していたとなると、苦労話を通り越して、超人的な肉体の持ち主の話に思えてくる。しかも親子で。

■「情」より「理」のほうが今風のように思えたが

 対する娘・久美子はどうか。一橋大学から女性初の総合職として旧富士銀行に入行し、その後に父の会社に入ってきたエリートである。

 この対照的な父娘の対立騒動を描いた書物に、磯山友幸『「理」と「情」の狭間』(日経BP社 2016年)がある。自分がつくった会社なのに娘が追い出そうとしていると「情」で訴えた父と、会社は公器であるとし、上場企業としてのコーポレート・ガバナンスのあり方という「理」を問うた娘の、情と理だ。

 圧勝した娘は父親の販売戦略を古いものとして否定し、カジュアルな雰囲気の店作りを推し進める。「情」より「理」のほうが今風で、「理」のひとによる経営はうまくいきそうであるが、現実は売上を減らし続けて、ついには身売り話が浮上するにいたる。

■娘婿が継ぐと総資産利益率が高い、という研究

 大塚家具のような、一族が支配する「同族企業」と聞くと、ワンマンの当代にボンボン息子とバカ娘の宴のような会社を想像してしまうが、実際はどうか。京都産業大の准教授・沈政郁らによる同族企業の研究が有名で、1986年から2011年までの同族企業と非同族企業のROA(総資産利益率)や売上高成長率を比較。するとどちらも非同族企業が上回っていることを明らかにしている(注4)。

 またリーマンショックなどの危機的な局面でも、同族企業は雇用を維持する傾向にあるという(注5)。田中角栄のファミリービジネスを継いだ娘・田中真紀子の「人間には敵か、家族か、使用人の3種類しかいない」みたいな扱いをするのかと思いきや、である。

 では、跡目継承は誰にするのがいいのか。面白いことに娘婿が継いだ場合がもっともROAが高いと沈准教授は指摘し、「婿養子はいわば『新しい息子』を入れる仕組み」でバカ息子対策になるのだという(注4)。娘婿というと「マスオさん」(実際は妻の親と同居するだけで養子ではないのだが)で気弱で頭が上がらないイメージをもってしまうが、実業の世界では違った。代表例が軽自動車のスズキである。2・3・4代目が娘婿社長で、名物会長の鈴木修(4代目社長)も娘婿である。

■「理」の娘に、父は今どう映っているのか

 大塚家具のように娘が継ぐ会社はどうか。有名どころでホッピーの製造元の3代目・石渡美奈。「2代目は創業を支えた古参たちとのしがらみに縛られる。だが、3代目ならば、しがらみを振り切り、大ナタを振るうことができる」(注6)との期待を受け、古い慣習を断ち切り、今にあった商品開発で売上を伸ばす。あるいはダイヤ精機の二代目・諏訪貴子は主婦から社長となって会社を継ぎ、「町工場の星」と呼ばれ、テレビドラマにまでなっている。

 いっぽう大塚父娘はといえば、テレビドラマにならないかわりに、「リア王」さながらの悲劇を演じる。「知るに相違ない。恩義を知らぬ子を持つことが、毒蛇の牙よりも鋭く親の心をさいなむことを!」(安西徹雄訳)。そんなふうに恩着せがましいリア王のごとく、娘の不義にいらだちながらも、助けを求めてきてくれることを父は待っている。

「やっぱり創業者と継ぐ人とは違うね」(注1)と腐し、「大塚家具の株も全部売ってしまった」(注1)と未練もない素振りを見せるが、アドバイスしたい気まんまんである。「理」の久美子からしたら、その目には彼はどのように映るだろうか。父か、先代か、あるいは1株も持たないただのひとか。

(注1)朝日新聞2018年8月5日朝刊
(注2)週刊東洋経済編集部『大塚家具 父と娘の泥仕合』東洋経済新報社2015年
(注3)週刊文春2015年4月2日号
(注4)中沢康彦『あの同族企業はなぜすごい』日本経済新聞社2017年
(注5)週刊ダイヤモンド 2018年4月14日号
(注6)AERA 2014年6月2日号

(urbansea)

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