和室にベッドが基本です ホテルのような温泉宿が流行る理由

和室にベッドが基本です ホテルのような温泉宿が流行る理由

和室にベッドが基本です ホテルのような温泉宿が流行る理由の画像

 ホテル評論家として、ステイはもちろんグルメ、社会問題までも書き散らしているが、時々「温泉の評論はしないのですか?」と聞かれることがある。恐らく、温泉宿の快適さや食事のクオリティなどへの批評を期待されていると思われるが、肝心の温泉そのものについての知識は残念ながら乏しい。温泉ジャーナリストといった専門家の中には、泉質や効能といった化学的な領域まで詳しい方も多く、全国数多ある温泉を制覇するといったスゴイ方もおられる。

■「温泉が苦手」なホテル評論家

 もちろんホテル評論家とはいえ、温泉宿への宿泊経験も枚挙に暇がない。一方で誤解を恐れずに言うと、“温泉への苦手意識”がある。体質の問題か、温泉宿に宿泊した翌日体のダルさを感じることが多い。温泉の効能で、日頃ため込んだ疲れがドド〜っと出るのだろうか。

 何日間もかけてゆっくり滞在すれば楽になるのかもしれないが、あいにく温泉宿に連泊した経験はなく確証は得られていない。

 温泉宿独特の滞在環境が影響しているとも自己判断している。日常的に過ごす自宅やホテルは洋室がほとんどでソファとベッドの生活だが、温泉宿の和室では座卓に座布団、敷き布団という環境なので体が慣れないということもある。また、ホテルは完全個室が基本だが、温泉宿では仲居さんが客室に入ってきたり、夕食や朝食で部屋を空けている間に布団が上げ下ろしされている。この温泉宿特有ともいえるプライバシー性へ対しても、宿泊する我ながら気遣いをしていることに気付く。

■イマドキの温泉宿はベッドが基本

 反面、このような温泉宿の文化は、温泉情緒や旅情、おもてなしという側面からも考察されるべきであるが、これは別の機会に譲ることにしたい。話を戻して、温泉宿の快適さや食事の美味しさといった辺りがホテル評論家の視座としては自然であり、温泉宿の取材でもそうしたポイントに重点が置かれる。

 最近の取材で印象深いのは“温泉宿のホテル化”だ。温泉宿にしてベッドやソファを配した洋室が多くを占める施設をはじめ、和室にベッドやソファを置く宿も多い。そこまでではなくとも和室にローベッド(マットレス)はいまや温泉宿のマストアイテムとも言えるほど。こうした温泉宿のほとんどで仲居さんは見かけず、ベッドなので布団の上げ下ろしも必要ない。プライバシー感は高いといえる。

 温泉宿は温泉を主体にした宿泊施設とはいえ、最近では天然温泉をウリにするビジネスホテルもある。こうなるとホテルとの違いは何かと考えさせられる。例えば、温泉宿ではパブリックスペースに浴衣姿やスリッパで訪れるゲストが殆どという点は特徴。また、温泉宿の食事については、泊食分離というワードも聞かれるようになったが、やはり夕食がセットかつ最大の楽しみという点は、温泉宿とホテルの大きな違いなのかもしれない。お風呂上がりに気軽な格好でその土地毎、四季折々の料理を楽しめるのは、まさに温泉宿の魅力と言えるだろう。

 最近出向いた伊豆箱根エリアの宿で、ラグジュアリーからリーズナブルまで印象に残っているホテルライクな温泉宿を紹介したい。

■【ネストイン箱根】(箱根) ヴィラスイートは是非体験したい

 伝統ある温泉旅館「俵石閣」をモダンにリノベーションして誕生した箱根/仙石原の宿。広大な敷地に点在する4棟の客室棟では、ホテルライクな快適ステイが実現できる。一方、リブランドに際し新たに誕生した11棟のヴィラスイートへは是非ステイしたいもの。中でも露天風呂付きのヴィラはオススメだ。

 例えば“木枕(Komakura)”は、吹き抜け越しのハイサイドライトが印象的。バーカウンターに暖炉もある。苔むした岩々を眺めつつ白濁とした温泉露天風呂でまったりするのには極楽時間だ。麻のピロー・ケース、シーツが風呂上がりの身体にサラッと心地よい。夏の温泉宿が別荘になる、なんていうがこんなヴィラならまさに別荘気分。

 ディナーは俵石閣本館での会席料理がおすすめ。文化財に値する歴史的建造物はまるでタイムスリップしたかのよう。熟練職人による技巧の集積でもある瀟洒な数奇屋造りに身を置くと、和食は文化なのだと改めて感じる。

■【仙石原 ススキの原 一の湯】(箱根) 客室露天風呂付きにしてリーズナブル

 箱根でも屈指の観光スポット“ススキの原”に隣接する全38部屋の新しい宿。箱根で人気の一の湯グループの最新施設だ。一の湯グループといえば、リーズナブルにしてハイコスパなステイができることで知られているが、こちらは一の湯の中でもデラックスな宿。とはいえ宿のクオリティからするとリーズナブルであることは特筆すべき点だ。

 一の湯グループの宿では、露天風呂、展望風呂を配する客室が多いが、こちらでは全室露天風呂付きでプライベート感の高い滞在ができる。ローベットを2台設えたツインの和室が基本だ。カップルや夫婦に最適な客室ともいえるが、一部客室では布団を敷くことにより最大4名まで利用可能。エキストラベッドのような機能も和室なら布団でOKだ。

 館内には露天風呂が併設された大浴場がある。ヒノキの林に囲まれており森林浴気分で湯浴みできる。外輪山を望む豊かな自然に包まれての快適温泉ステイは何とも贅沢。夕食は豪華絢爛というわけではないが、季節により工夫を凝らしたメニューを提供。ゲストの要望をよく研究しており満足度は高い。

■【熱海 ふふ】(熱海) ラグジュアリー感満点の隠れ家

 熱海駅からほど近い立地にしてプライベート感の高い「熱海 ふふ」。全客室スイート仕様様々なタイプが揃うラグジュアリー空間だ。例えば“尚/ ねがう”は96.9m?の贅沢空間。リビングから続くオープンエアスペースには源泉掛け流し自家温泉の客室露天風呂が。寝湯や足湯も楽しめる構造。シャワールームにはミストサウナも設置されている。

 リビング・ダイニング・寝室とバリアフリー、ストレスフリーの導線が秀逸。気分に合わせて照明の雰囲気もセレクトできることや、寝室にライティングデスクを配している点も秀逸。滞在にメリハリをつけたいゲストに選択肢を与えるような、コンセプトを押しつけない工夫が至る所に。

 ディナーは落ち着いた雰囲気のダイニングで。日本料理会席の出汁の風味に宿の懐の深さを感じる。それは味と共におもてなしが体に染み入るひとときでもある。出汁の美味しい職人が手がける日本料理は間違いない。料理が目の前に現れる度に気分が高揚する宴だ。

■【風の薫】(伊東) オールインクルーシブの安心感

 伊東のシーサイドライン沿いに佇み外観が印象的な「風の薫」。全室露天風呂付きの贅沢な宿だ。驚くべきは気の利いた無料サービスのラッシュ。チェックイン時には、ラウンジでドリンクサービス(アルコールも含む)もあり、滞在中は珈琲などフリーで楽しめる。とはいえ、ここまでは他の宿でも見られるところ。

 ここからが風の薫の本領発揮。ディナーはソフトドリンクから各種アルコールまでおかわり自由。とりあえずのビールから、焼酎、日本酒にワイン、カクテルと料理に合わせて選り取り見取りだ。22時からは夜食ラーメンまで無料提供。ここでも夕食同様フリードリンク。

 ロビーにはエステフィッシュ、オープンデッキには足湯のサービスも。海辺ということで、車のカバーのレンタルなどニクイサービスもあり。客室には快適なベッドにソファ、マッサージチェアも装備。

 ホテルライクな人気温泉宿を紹介してきたが、いずれの宿もベッドが基本だ。こうした温泉宿の傾向は更に広がりつつある。一方、とある温泉宿の主人によると、老齢のゲストには和室が好まれ、手取り足取りお世話をしてくれる仲居さんの存在が喜ばれるが、最近の若いゲストはプライバシーに踏み込まれるのを嫌うとも話していた。温泉宿への苦手意識があったホテル評論家も、最近は好みのステイで温泉を満喫できる機会が増えている。

(瀧澤 信秋)

関連記事(外部サイト)