韓国にあって、日本にはない最新軍事テクノロジーの「国際開発力」

韓国にあって、日本にはない最新軍事テクノロジーの「国際開発力」

司会の部谷直亮氏

――最新の軍事テクノロジーは、名前は聞いたことがあっても、実際にその最先端で何が起きているのか、なかなかイメージしにくい部分があります。今回は、サイバー、ドローンといった分野にフォーカスを当てて、何が可能になっているのか専門家のみなさまにお聞きしたいと思います。

 個人的には、軍事技術の進歩は非常に過小評価されていると感じています。私が調べている3Dプリンタにしても、「プラスチック製品しか作れないんでしょ?」と言われます。もちろんそんなことはありません。ドローンやサイバーも実戦段階にはないと思われている。

 しかしながら、いまや民生技術は自衛隊や米軍が持っている兵器よりも発展しています。

■ドローンはスマートフォンの部品で作られた

南政樹 私はドローンの研究をしています。そもそも、ドローンっていう名称はイギリス軍の標的機につけた名前に由来しています。それから偵察機として発展してきた経緯があります。

 iPhoneが登場した時に、いくつもの機能を集積した電子部品を作らなきゃいけないのですが、そういった半導体製品が大量に作られていく過程で、中国の深?界隈で大量の部品が流通するようになった。そこから何ができるかというときに、一部の事業者が空を飛ぶ「おもちゃ」を作り始めたという経緯があります。

――ガンダムと量産型ガンダムみたいな関係なんですね。

 ドローンとスマートフォンは、使っているセンサーはほぼ同じです。加速度センサーとかそういったものが全部転用できます。たとえば、同じ部品でも求められる精度や品質からスマホはA級品、おもちゃのドローンはB級品というような棲み分けができるようになっています。

■サイバー戦争は20年前から変わらない

――林さんはいわゆるホワイトハッカーとして活動しているわけですが、サイバー戦の動向も近年変わっているのでしょうか。

林真吾 「サイバーの戦争」ってなかなか議論の整理が難しい問題です。サイバー戦とか、ネット戦、電子戦といった概念がごちゃごちゃになっていくんですね。

 実は意外かもしれませんが、サイバー空間はそんなに変わっていないんですよ。20年ぐらい前から存在する攻撃方法で対象を変えているに過ぎない。具体的にはメモリ破壊系の脆弱性やメールを送りつける攻撃がありますが、時代に合わせてちょっと作り変えているというだけで、その攻撃のテクノロジーや防ぎ方といった基本的な仕組みはあまり変わっていないですね。

――興味深いですね。20年前から基本的な手法が変わっていないのであれば、「サイバー攻撃」は常に追いかけっこ状態なんでしょうか?

 追いかけっこでもないです。100%防げる攻撃はたくさんありますし。むしろ、その「いたちごっこ感」をみんな感じているとすれば、もしかしたらその認識が問題なのかもしれないですね。

 例えば脆弱性の自動発見技術が出ているので、何かソフトウェアを入力するとその中で攻撃の起点となるような脆弱性を探し出して、そこを突いて未知の攻撃になる。そうやってアンチウイルスが対応できないような攻撃点を狙っていくような技術がもうあります。

■サイバー戦があるとすれば、攻撃よりもプロパガンダ

――「優れた技術は魔法と見分けがつかない」という言葉があります。まさに今のサイバー技術は魔法のような扱いをうけていますが、実はそうではなく、手の届く、現実の技術なんですね。それでは戦争におけるサイバー攻撃とはどのように捉えるべきなのでしょうか。

 サイバーはドローンの強制着陸やミサイルの発射を止めるとかというよりは、どちらかと言うとプロパガンダだとか、政府要人の秘密を暴いて事前に戦争を食い止めるだとか、そういう情報を上手く使う、情報優位にどうやって立つかという局面で戦争においては活躍していくのかなと思っています。

――純戦術的にではなく、戦略レベルで活用されるということですね。実際そういうことは起きているんでしょうか。ロシアが欧米の選挙介入などでやっているとか色んな話がありますが。

 起きているんですけど、嘘も多いんじゃないかと思っていて……。

伊藤弘太郎 サイバー攻撃をどこかの国がやっているという嘘ですか?

 そうです。あるマルウェアを解析したどなたかが、ロシア語のパスワード解読メッセージみたいなのを見つけたらしいんですね。で、ロシア語で出てきたから「これはロシア人のために作ったものだろう」という。でもそれは単純すぎますよね。

 また「中国っぽい」と思ってたどっていくと、日本のサーバーが踏み台になっていて、更に中国のサイバーを経由していただけだとか。

 だから発信源の特定が難しいですし、ライバル国を装って、あたかも向こうの情報収集活動に見せかけたり……。法を守るという前提に立つと、そういう行為を捕まえる術は今のところ、技術側には無理という状況になっています。要するに誰がやったかわからない。

■韓国はいかにして武器輸出国家になったか

――ここで韓国の安全保障政策がご専門の伊藤さん、いかがでしょうか。韓国はロボット兵器を北朝鮮との軍事境界線に投入していたり、3Dプリンタで兵器の維持整備やっていたり、最新テクノロジーの活用という点では自衛隊より進んでいる面がある、と感じています。

伊藤 韓国という国家は、我々と違って「国家の生存」に対する思いが強いわけです。それはやはり北と面していて休戦状態にあること、もう1つはアメリカにいつ見捨てられるか分からないという状況で、これまでの歴史の中で両国間には多くの葛藤がありました。独立後の韓国は、技術ゼロの状態からスタートして、最初はアメリカ製の武器、小銃を分解して、もう1回組み立てる。技術を盗めというところからスタートしたんです。

 日本の自動車産業と一緒ですね。

伊藤 日本は戦後、まだ産業と技術基盤が残っていました。韓国の場合は、アメリカが最新技術を与えたり、与えなかったりしたわけです。なぜかというと、与えすぎて強くなると北を攻めちゃう恐れがあったから。困った韓国は、核兵器を秘密裏に開発しちゃったり、弾道ミサイルを持ったりと色々やるわけですよ、あの手この手で。

 彼らは今、無人機に一番力を入れています。去年、ソウルの「国際航空宇宙・防衛産業展示会」というイベントに行ったところ、展示場に入ってすぐの一番目立つエリアはすべて無人機の展示なんですよ。

 それは韓国のメーカーですか?

伊藤 ほとんど韓国でしたね。ちなみにイスラエルとも共同開発をするそうです。

 ほとんど!

■韓国の兵器は実戦を経験している

――韓国のドローン技術はイスラエルから評価されるぐらい進んでいますね。もちろん、日本にもフジ・インバックさんや日本サーキットさん等、優秀な企業があります。ただ、国内的にも国外的にも知らしめていく場所がないですよね、ドローンもサイバーも。

 先日、南先生が「湘南UAVデモンストレーション」という産業用ドローンを屋外で飛ばす初の展示ショーを開催されましたが、こうした取り組みを増やしていくべきですよね。

伊藤 韓国はしたたかで、こうした場で商談や会議を行って、どんどん国際共同開発をしていって、それを共同で売り込むという新たな段階に進んでいます。しかも、軍事基地の中をいろんな国の軍人やビジネスマンが行き来をしていて、あちこちで商談をしているんです。

 なんでこれが日本でできないのかと。皆さん、ドローンの技術も、サイバーの技術もそうですけれども、なかなか日本だと攻撃的な武器にはアレルギーがある。このままでは我が国は取り残されるんじゃないだろうかと思い、あえて隣の国を見習うことも必要ではないかというのが私の問題提起です。

■韓国の武器輸出額は2006年から12倍以上に

 今、韓国の武器輸出額はどれくらいなんですか?

伊藤 2017年には31億9000万ドル(約3200億円)でした。韓国の武器輸出額は、2006年の2.5億ドルから12倍以上に急増しています。

 それはなぜなのでしょうか。

伊藤 少なからず実戦を経験しているからですね。K9自走砲は、まずトルコで売れて、ポーランドで売れて、フィンランド、インド、ノルウェー、そしてエストニアとの契約に成功しました。デンマークも導入を考えているそうです。

 どこもロシアの脅威を受けており、かつ限られた予算でなんとかしなければならない国々なんですね。そこへ韓国がスッと入ってくる。

 K9自走砲は、米軍由来の技術でかつ、2010年に韓国の延坪島という島が北朝鮮から砲撃をされたときには、反撃に使用された実績があります。さらに韓国は気候的に寒いので、「北欧の寒冷地でも使えますよ」とか……。細かいところでは、ノルウェーであれば「予算不足であれば、現在韓国陸軍が使用しているものを中古品として廉価で売りますよ」、ポーランドであれば「砲台はそちらの防衛産業で作ってもらって、こちらは機動部分だけで売りますよ」といった具合に営業が畳み掛けていく。

 日本のネットで検索すると、軍事マニアが「砲台は技術力がなくて売れなかったんだ、ハハハ」みたいな話になっているんですけれども、私からすると一部だけでも売れたってことに意味がある。つまり、売れるってことは向こうの軍や国防部、制服や背広の人たちとの関係が構築されて、やはり最終的に首脳同士で約束するんですよね。そこから軍事上の繋がり、外交上の繋がりに発展するからです。

――その一方で日本はまったく売れていない。中古品の装備を無料でプレゼントすることはありますが。

伊藤 その通りですね。日本が「施す」一方で、韓国は同じ国に対して、武器を売ります。向こうもお金を出して買うから、一生懸命習うし、関係をちゃんと構築しようと思うし、実際に購入した武器を使っているわけですね。だから我々としては、単に隣の芝が青いから真似をしようということではなく、やっぱり国際標準を見てどう生き残っていくかということを冷静に考えていかなければいけない。単に専守防衛ですとか、憲法改正が必要ですということではなくて、ちゃんと冷静に議論しないとどんどん世界のトレンドから取り残されてしまう。

■民生技術によって時代遅れと化した軍事技術

――今までのお話をまとめると、民生の技術革新のサイクルが軍事技術の開発スピードを上回っているのだと思います。

一同 そうですね。

――その典型例が陸上自衛隊で使用している広帯域多目的無線機(コータム)です。これ陸自内部では、「ポンコツだ」「使いにくい」「3kmしか離れていないのに無線がつながらない」と非常に評判が悪いんですね。ただ、コータムの開発開始は2007年。装備化されたのは2012年。要するに、当時と今のスマホの性能を比較すれば雲泥の差なわけです。隊員からすれば10年以上も前のスマホを操作することになるので、そりゃポンコツだと思いますよね。これは致し方のないことで、それだけ民間製品の開発実用サイクルが異常な速度になっているということです。

 こうした背景もあり、アメリカや中国ではむしろ一般的な技術を軍事転用するというのが流行っています。中国では「軍民融合」と言われています。

 このドローンは市販で、6万円くらいで誰でも買えます。こんなに小さいですが、重量400gもの積荷を運べます。非常に安定しているので、実際に見ていただきたいんですけれども。これぐらいで飛べて、時速50kmくらい出るんですよ。

一同 50km!

 これで50〜100mぐらいまで上昇すると「点」にしか見えないですし、羽音もほとんど聞こえないですね。結構静かに忍び寄ってくる感じで、ほんと盗撮するにはもってこいという感じです(一同笑い)。

伊藤 迎撃しにくいという話は本当ですね。ドローンはスマートフォンから生まれたとのことでしたが、技術としてはどう評価しますか?

■ドローンはソフトウェアで飛んでいる

 ドローンは、メカニカルな制御ではなく、ソフトウェアによる制御で飛んでいます。その制御も、フィードバック制御という非常にシンプルなものをベースにしています。実はそこには最適化の余地がまだまだあり、回路や機体、プロペラの空力特性の研究により、イスラエルで見てきた回転翼ドローンには90分ぐらい飛行できるものもありました。

 ドローンは、2012年から既に戦争に影響を与えています。IS(イスラム国)がアマゾンで買える民生品のドローンを使った形跡があります。先日も草刈エンジンで作った固定翼ドローンが、シリアにあるロシア軍基地を襲撃しました。

――あれはまさに65年ぶりに大国の軍隊が「空爆」を受けた事例でしたね。米空軍でも、シリアに展開した部隊が市販のドローンから空爆されたことに衝撃を受けています。

 民生品のドローンは、市販の誰でも入手可能な部品を組み合わせて作ったものです。機構が簡単なので誰でも扱うことができる。空飛ぶプラットフォームとしてこういったものが使えると、空の使い方が変わってきますよね。

■ドローンは「空の民主化」

――それを社会的にどのように位置づけますか?

 見るだけじゃなく、モノを運ぶとか、空から何かを狙うとか、空から監視をするとか、いろいろな使い方がなされています。私たちはこれを「空の民主化」と呼んでいます。

 今は虫と鳥と電波ぐらいしか飛んでいない頭上15〜150mの空間に、もう少し人の介入ができると、そこに新しいビジネスチャンスがあります。他方、プラットフォームができてしまえば悪用する人も出てくる。どういう対策が必要なのかという点も考えなきゃいけないですね。

――重要なご指摘だと思います。第一に、動物や電波しか使用していなかった15〜150mのニッチなようで広範な領域が新たな戦闘空間になってきている。まさにコロンブスの卵なんだと。

 第二には、まさに「空の民主化」ですよね。私は「鉄砲の再来」だととらえていますが、全般的に中世へ回帰しています。要するに、中世と近代の違いって、武力を国家が独占しているか否かであったはずです。それが、今や個人ですらドローンやサイバーによって、お手軽簡単に米軍を「空爆」できる。まさに「新しい中世」へと向かっていると思う次第です。

(司会・構成/部谷直亮)

座談会・新しい技術と戦争の将来(後編) に続く

伊藤 弘太郎(いとう・こうたろう)
 2001年中央大学総合政策学部卒業、2004年同大学大学院総合政策研究科博士前期課程修了、2017年同大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
 衆議院議員事務所、公益財団法人日本国際交流センター等での勤務を経て、2015年1月より内閣官房国家安全保障局にて、参事官補佐として韓国を中心とする東アジア地域の政策実務に携わった後、2017年7月よりキヤノングローバル戦略研究所研究員(現職)。2018年4月より淑徳大学コミュニティ政策学部にて兼任講師も務める。

林 真吾(はやし・しんご)
 株式会社サイバーディフェンス研究所CHO(最高ハッキング責任者)。90年代からサイバー空間に生息するエインシェント系ハッカー。

南 政樹(みなみ・まさき)

 慶應義塾大学政策・メディア研究科特任助教。
 慶應義塾大学でInternet of Things(IoT)とサイバーフィジカルシステム(CPS)の研究に従事。あらゆるものをデータ化し価値を創造するため技術研究に従事。ドローンは「地上1mmから150mまでの空間を守備範囲とするIoTデバイス」として捉え、当たり前の存在となる「ドローン前提社会」を標榜している。ドローンの新たなプラットフォームとしての可能性と課題を共有し解決策を研究する場として「ドローン社会共創コンソーシアム」を設立した。

?写真=山元茂樹/文藝春秋

(部谷 直亮)

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