「甲子園、公立高校は勝てない」は本当か? 2018年の金足農業と2007年の佐賀北の夢と現実

「甲子園、公立高校は勝てない」は本当か? 2018年の金足農業と2007年の佐賀北の夢と現実

秋田県大会から甲子園決勝まで「9人野球」で戦った ©文藝春秋

「夢」対「現実」――。

 この夏の甲子園の決勝は、そんな対決でもあった。

 金足農業の活躍は、現代においては、おとぎ話のようだった。全国で過疎化がもっとも進む秋田県内の、「秋田市金足追分」(秋田駅から約13キロ)にある学校に通学可能な圏内から、たまたま集まった9人の3年生だけで戦ってきた。付け加えれば、3年生はわずか10人しかおらず、そのうちの9人である。

■「選手、環境、練習時間」で制約がある金足農業

 監督がチーム強化のために欲しいものは3つだ。選手、練習環境、練習時間。制約のある公立高校はいずれの項目も十分に確保することが難しい。その公立高校の中でも、金足農は、人口減、雪国であること等を考えると、有利不利で言えば間違いなく不利の部類に入る。

 一方、そんな金足農と対戦することになった大阪桐蔭は、可能な範囲で、チーム強化のための条件をすべて満たしている高校だと言っていい。選手は西日本中心だがいずれも中学時代に全国レベルの実績を持つエリートばかり。専用球場を持ち、全寮制であるため、練習環境も練習時間も十分に確保できる。もちろん、そのいずれも労力の賜物以外の何物でもないのだが、労力をかけるにも限界のある学校からしたら、とかく羨望の対象となるのは致し方ないところだろう。

■2007年、佐賀北対広陵の「構図」

 地元出身者だけの公立高校と全国的な強豪私学という極端な「構図」で思い出すのは、2007年夏の決勝、佐賀北対広陵だ。下馬評では、広陵が圧倒的に有利だと言われていた。だが結果は、佐賀北が8回裏、「逆転満塁ホームラン」という奇跡を起こし、5−4で全国優勝を遂げた。

 佐賀北が優勝した翌08年夏の決勝に、監督の百ア敏克が解説で甲子園へやって来た。そして、感慨深げにこう語っていたものだ。

「去年、自分たちが、この場所にいたことが信じられませんねえ……」

■大阪桐蔭、日大三、東海大相模……公立校のつけ入る隙はない?

 私もまったく同じことを思った。その年の決勝は、大阪桐蔭が常葉菊川を17−0という大差で下した。大阪桐蔭の「1番・ショート」に浅村栄斗(西武)がいた時代である。とんでもない破壊力だった。

 仮に、その年、大阪桐蔭の相手が佐賀北だったとして、佐賀北は、どこまで渡り合うことができたのだろうか。そう思わずには、いられなかった。

 案外、いい勝負をしたかもしれないと思う一方で、さすがにこのチームが相手では「ミラクル」は起きようがなかったのではないかという気もした。

 思えば2008年夏、第90回の記念大会の夏から大阪桐蔭の時代が始まったのだ。以降、10年で、春夏合わせてじつに6度の全国制覇。振り返れば、毎年、「今年の大阪桐蔭は……」と言われるように、何らかの形で話題の中心にいた。

 08年夏以降、昨年までの優勝校を見れば見るほど、百アがこぼした「信じられませんねぇ……」という思いは強まった。大阪桐蔭(08年、12年、14年優勝)、日大三(11年優勝)、東海大相模(15年優勝)と、とてもではないが公立高校がつけ入る隙はないように思われた。

■佐賀北よりも脆弱に映った選手層

 今は、強豪私学全盛時代である。劣る選手層を工夫で補うには、公立と私学の戦力差はあまりにも開き過ぎてしまった。

 もはや第二の佐賀北は、現れないだろうと思っていた。ところが、あれから11年、金足農が現れた。

 失礼ながら、次で負けるだろう、次で負けるだろうと思いつつ、勝ち上がっていく様は、まさに佐賀北を彷彿とさせた。

 いや、まだ佐賀北の方が選手層は厚かった。投手陣は久保貴大と馬場将史の2人がいたし、代打の切り札、走塁のスペシャリストと、控え選手も巧みに起用していた。

 そこへいくと、金足農は、エースの吉田輝星の力量は突出していたものの、総合力という点では佐賀北以上に脆弱に映った。

 もし、金足農が勝ったら……と夢を見かけた。

 だが、結果をみて、やはり、これが現実なのだと思い知らされた。

 2−13。

■「ここ10年でベスト4にいった公立校は2校だけ」

 もちろん、決勝にたどり着くまでに吉田がここまで酷使されていなければというクエスチョンは残る。しかし、それでも結果は覆らなかっただろうというのが実感だ。ここまで点差は開かなかったかもしれないが、やはり10回戦って1回勝てるかどうかと言っていいほどの実力差はあった。

 ただ、「夢」対「現実」の対戦成績など、いつの世も、どの世界でも、その程度のものだろう。

 昨年、百アに再会した時に、こんな話をしていた。

「年々、公立が勝つのは難しいと思うようになりましたね。周りの公立高校の指導者も、そう言っています。夏の大会に限って言えば、ここ10年で、ベスト4以上いった公立高校は2校しかない(08年の浦添商、09年の県岐阜商)。うちも公立校でもできる、ということは示したと思いますけど、やはり簡単なことではない」

■「11年で2度の奇跡」をどう受け止めるか?

 ところが、この夏、金足農は9人だけで、しかも1回戦から登場し5勝を挙げて準優勝を果たした。優勝と準優勝には決して埋まらない溝はあるものの、佐賀北の優勝に限りなく近いミラクルだったと思う。

 もちろん、今年の金足農に関しては、選手層の薄い公立校が超高校級のエースを持った場合、そのエースにここまで負担を強いなければ勝ち上がれないのかという「引っかかり」は残った。どのチームも真似できることではないし、できるなら避けるべき戦い方だった。

 そうした問題点も含め、11年で2度、公立高校が奇跡を起こしたという事実をどう受け止めるか。個人差はあるだろうが、「公立校でもできる」ということを示したという意味においては、十分過ぎるデータになったと言えるのではないか。

 金足農監督の中泉一豊は、こう語っていたものだ。

「絶対に勝つんだって気持ちが大事。その熱意がないと」

 夢は破れた。だが、確かに夢に触れた夏だった。

(中村 計)

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