りゅうちぇる騒動で考える 医学的には「タトゥー」はこんなに危ない

りゅうちぇるきっかけにタトゥー論争勃発 肝炎、肝がん、MRIでのやけどなどリスクも

記事まとめ

  • りゅうちぇるが妻と愛息の名前を腕に彫ったと公表し、タトゥー論争が勃発
  • 「ヤクザの象徴」「海外では当たり前」などの意見があるが、医学上のリスクも
  • 肝炎ウイルスへの感染や、MRI検査でのやけどといった危険性があるそう

りゅうちぇる騒動で考える 医学的には「タトゥー」はこんなに危ない

りゅうちぇる騒動で考える 医学的には「タトゥー」はこんなに危ない

©iStock.com

 タトゥーの周辺が賑やかだ。

「恐怖感や威圧感を覚える」という保守的な声がある一方、「タトゥーを排除するなんて国際社会に背を向ける行為だ」という革新勢力の意見もある。

 何事も話し合いは大切だ。心行くまで議論してほしい。

 今回は、文化の面からタトゥーを論じるつもりはない。

 医学的な視点から、「タトゥーに伴うウイルス肝炎の危険性」に的を絞ったお話です。

りゅうちぇるの公表をきっかけにタトゥー論争

 今回タトゥーが話題になったのは、タレントのりゅうちぇる(22)が妻と愛息の名前を腕に彫ったと公表したことが発端。

 これをきっかけに、「タトゥーなんてヤクザの象徴だ」、「いや、海外では当たり前のファッションだ」、「プールや温泉で見たくない」、「公共の場で排除するほうが差別だ」と論争になったようだ。

 個人的には、自分がこの人生でタトゥーを入れることはないと思うが、入れたい人は入れればいいとも思う。入れたら入れたで生活の上で色々と制限がかかるのだろうが、それでも入れたいという人は、堂々と入れればいい。法律違反じゃないんだから。

 それより気になるのが、ウイルス肝炎のほうは大丈夫なのだろうか――という点だ。

 今回の議論の中では、なぜかこの問題に触れる人が少ない。でも、タトゥーはウイルス肝炎を考える上で見逃すことのできない感染源であることは事実なのだ。

■悪化すると肝硬変や肝がんを発症する危険性も

 そもそもウイルス肝炎とは、肝炎ウイルスに感染することで起きる肝炎のこと。A型からE型までの5つに分類されるが、日本で見られるのは主としてB型肝炎とC型肝炎だ。

 B型とC型(日本ではほとんど見つからないがD型も)に共通するのは、慢性化することがある、という点だ。

 B型やC型の肝炎ウイルスに感染すると、急性肝炎を経て慢性肝炎に移行する可能性がある。そして、そのまま悪化すると肝硬変や肝がんを発症する危険性が高まる。

「その途中で自然に治ってしまうこともありますが、肝がんになる確率で見ると、健常者を“1”としたときに、B型肝炎キャリアの人が肝がんになる確率は380倍、C型肝炎キャリアに至っては1000倍というハイリスクとなる。そして、ひとたび肝硬変になってしまうと、肝がんになるリスクは健常者の4700倍に跳ね上がります」

 と語るのは、元順天堂大学教授で現在は湘南東部総合病院院長、ウイルス肝炎研究財団理事長を務める市田隆文医師。

 肝炎ウイルスを甘く見るのは危険なのだ。

■感染経路として、最も多いのが「血液」

 ならば、これらの肝炎ウイルスは、どのようにして感染するのか。

 B型とC型肝炎の感染経路として、最も多いのが「血液」だ。C型肝炎は基本的にそのほとんどが血液感染。B型肝炎には、性交渉や、ウイルスを持つ母親から生まれることで感染する母子感染もある。ただ、母子感染に関しては、ウイルスのキャリアである女性が出産する際には、生まれてきた赤ちゃんにワクチンを投与することで発症を予防する策が講じられているので、少なくとも日本では、このルートからの感染発症はほぼ無くなっている。

 また、昭和後期の一時期、集団予防接種で注射器を使い回ししていたことがあり、ここで肝炎ウイルスに感染した人も少なくない。感染ルートが集団予防接種と特定され、国を相手に訴訟を起こすと解決金が下りることになっている。その手続き代行をする弁護士事務所のCMを思い出す人もいるだろう。

「昔は輸血で感染することが多かったが、今は日本赤十字社を通じて輸血する限り、ウイルスに感染した血液が輸血されることはありません。現状の日本で、新たにウイルス肝炎に感染するとすれば、性感染する一部のB型を除いて、覚せい剤の回し打ちか、衛生環境の悪いところで入れたタトゥーやピアスの穴開けと見られています」(市田医師)

 ここでいう「衛生環境の悪いところ」とは、客ごとに針や器具を変えることなくタトゥーやピアスの穴開けをする業者のこと。客が変わるたびに針を変えていれば感染する危険性はないはずだが、それをチェックする体制などない。ピアスの穴開けについては皮膚科などの医療機関でも対応するところがあるので、そうしたところで開ければまだ安心だが、さすがにタトゥーを入れてくれる医療機関はないだろう。彫り師の良心に頼るしかないのだ。

■せっかく減少していた肝炎ウイルスの患者数が……

 日本では、B型もC型も、肝炎ウイルスの感染者は減少傾向にある。

 C型肝炎は効果の高い薬が登場したことで患者数は減り続け、アメリカでは2035年にはC型肝炎は根絶する可能性もある――という予測もあるほどだ。

 一方のB型肝炎にも新薬が続々と登場し、こちらはウイルスこそ消せないものの、病勢を抑制することができるようにはなっているという。

 しかし、減っているとはいえ、現状でウイルスを持つ人は国内だけでB型が40万人以上、C型肝炎ウイルスのキャリアは150〜180万人と推測される。

 これまで多くの日本人が持っていたタトゥーに対するネガティブな印象は、ウイルス肝炎の感染拡大を抑止する効果も持っていたわけだが、「タトゥーいいじゃないか!」、「国際社会に門戸を開け!」といった声が沸き上がり、安易にタトゥーを入れるようになると、せっかく減少していた患者数が、再び増加に転じる危険性を孕んでいる。

 市田医師が付け加える。

「最近はだいぶ改善されているようですが、以前はタトゥーの染料に“鉄分”が使われていたことがありました。知らずにそのままMRI(磁気共鳴画像撮影装置)を撮るとやけどをする危険性があります。今でもタトゥーのある人がMRI検査をするときは、検査技師は慎重な対応を迫られるので、大きなストレスを背負い込むんです」

 肝炎、肝硬変、肝がん、そしてMRIでのやけど――。タトゥーに伴う医学上のリスクは少なくない。しかも、肝炎ウイルスに感染するということは、今度は自分自身が感染源になる可能性を持つ、ということでもあるのだ。

 そうしたことも少し念頭に置いて、「タトゥーどうあるべきか」の議論を進めてもらえれば、と思います。

(長田 昭二)

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