豊橋の“若き工学者”たちは、なぜ「役立たずロボット」を作り続けるのか?

豊橋の“若き工学者”たちは、なぜ「役立たずロボット」を作り続けるのか?

豊橋技術科学大学・岡田研究室(ICD-LAB)

モジモジしながらティッシュを配ろうとするロボット、ゴミを拾い集めようとするも、自らはゴミを拾えずにヨタヨタ歩きまわるだけのゴミ箱ロボット……。一見「役に立たない」ロボットを作り続けている豊橋技術科学大学・岡田研究室( ICD-LAB )を訪ねました。どうして不完全なロボットばかり作っているんですか?(全2回の1回目/ #2 へ続く)

■「物忘れ」してしまうロボット

――こんにちは。 こ、ん、に、ち、は。

研究室の柄戸くん(以下、柄戸) あ、いや、話しかけても答えてくれるロボットじゃないんです。

――あれ、そうなんですね。話しかけたくなっちゃった。

柄戸 まだ挨拶し返すプログラミングはしてないんですよ(笑)。これはTalking-Bones(トーキング・ボーンズ)といって、話す内容の大事なところを時々「物忘れ」してしまうロボットです。たとえば「むかしむかし、あるところに……」って桃太郎なんかの昔ばなしをしてくれるんですけれど、肝心なところで「えーと、なんだっけ」って言葉に詰まるんです。

――なんだっけ、と言われると思わず一緒に考えちゃいますね。

柄戸 まさに人に「手助け」してもらうのがTalking-Bonesの目指すところなんです。人の優しさや助けたいという気持ちをうまく引き出すロボットです。

岡田 「大きな川から、えーとなんだっけ?」って言葉に詰まると、子どもたちは夢中になって「桃!」ってみんなで語りに参加するんですよ(笑)。

――こちらはゴミ箱ロボット。ヨロヨロこっちに近づいて来た。この空き缶をポイッと。

柄戸 センサーやカメラで人に気づいて近づいてくるんですけど、ゴミを入れてあげるとちゃんとお辞儀するんです(笑)。

■もじもじしてるから無視できない

――これは先日、動画がバズってた「モジモジしながらティッシュを配ろうとするロボット」ですね。

柄戸 iBones(アイ・ボーンズ)っていいます。今日はブラックサンダーを配ってもらいましょう。

――もじもじしてる。無視できないですね、これは……。ありがとう。お辞儀してくれた。かわいい。

岡田 あの動画がネットでずいぶん注目されたのも、「どこかほっとけない」という気持ちを引き出したからかもしれませんね。

■バネをあえて入れているのには理由がある

――今まで紹介いただいたロボットはみんなヨロヨロ、ヨタヨタしていて、動きが不安というか、危なっかしいですよね。これはどうやって設計してるんですか?

柄戸 中にバネを入れてるんです。でも、普通ロボットを作るときにバネって使わないんですよ。まさに動きが不安定になって、ぎこちなくなるし、カメラの映像なんかもブレるから。それを、僕たちはあえて入れているんです。

――昔ばなしを語る、ゴミを拾い集める、ティッシュを配る、全部そのロボットの目的はあるわけですけど、あえて「目的が果たせないかもしれない」不安定要素を動きに入れていると。

岡田 それはさっき言った通り「助けたい、関与したい」って思わせる動きなんです。ゴミ箱ロボットだってヨロヨロしながら「ゴミを入れて」って感じで近づいて来たでしょう。こっちは「ほっとけないな」って、ゴミを放り込んであげる。私たちはこれを「弱さの力」って呼んでいるんですけど。

■人と機械のより良い関係って何だろう

――キーワードですね、弱さの力。そこでお伺いしたいのは、なぜこうした「しっかりしていないロボット」、もっというと一見「役に立たない」ロボットを作り続けているのか、ということなんです。

岡田 端的にいうと「ロボットを作ることが目的じゃなくて、むしろコミュニケーション研究の道具としてロボットを作っている」という感覚なんです。ここICD-LABの正式名称は「インタラクション&コミュニケーションデザインラボ」。つまり、人と機械のより良い関係って何だろうってことを研究しています。

――人と機械の関係というと、たとえば。

岡田 最近だとスマートスピーカー。昔からあるものだと自動販売機で「アリガトウゴザイマシタ」っていうやつがあるでしょう。あれ、言葉では「ありがとう」って言っているけど、あんまり気持ち伝わってこないですよね(笑)。まさに機械的、一本調子で。

――ATMで「お取り忘れにご注意ください!」って高速で言われるのも、ちょっとイラっとしますよね。

岡田 機械だから心があるわけないじゃないかって思えば、それはその通りなんですけど、これだけ「しゃべる」情報機器、情報家電が増えた時代ですから、人とモノのコミュニケーションデザインは社会の課題なんです。では、どういう関係が人をイラっとさせるのかというと、大きな原因として「一方的」っていうのがある。一方的っていうのは、こっちに主導権がないということ。機械が優位に立っちゃってるってことですね。

■その完璧さって、どうですか? 双方向ですか?

――その点、スマートスピーカーは一方的から「双方向」に関係が変わった機械ではありますよね。まさにインタラクティブな関係性に。

岡田 関係性のベクトルは変わりましたけど、それだけではいいコミュニケーションとは言えないと思うんです。スマートスピーカーは便利で、人間の言うことをよく聞いて、指示通りの仕事を完璧にこなしてくれるでしょう。何か質問すれば、とても正確な、過不足ない情報をこっちに提示してくれる。カーナビもそうですよね。しかしその完璧さって、どうですか? 双方向のコミュニケーションになっていると思います?

――なるほど……。完璧すぎて、こっちは何も言えないっていうか、「わかりましたー」って感じで終わっちゃいますね、話が。

岡田 正確な回答、明快な指示。道具の役目はしっかり果たしています。だけど、完璧さというのも「一方的」なんですよ。

■「うぐー」と言われて、人は何をしようと思うか

――目的が達成されるとシュンと静かになっちゃって、ちょっと哀しい感じさえしますよね。

岡田 その完璧さ、隙のなさってコミュニケーションにとっては壁になりうるし、目的しかないっていう切なさみたいなものにもつながりますよね。そういう機械ばっかりに囲まれて生活するのって、嫌じゃないですか。ではこの社会において、人と機械が共生するいい状態って何だろうって学生たちと考えていて、そのキーワードの一つが「弱さ」。一方的にならない、不完全な「隙」を作って、お互いが関与し合う関係性です。

――さっきのロボットたちはみんな、人が手助けしたくなる「弱さ」を醸し出していましたもんね。バネによるふらつきなんかにも、すっかりやられました。

岡田 このToufu(トウフ)ってロボットなんて、その最たるものなんじゃないかと思います。ちょっと話しかけてみますよ。「今日は寒いね」。

トウフ ヴーヴーヴー(カタカタカタとふるえる)。

岡田 もはや言葉といえない言葉を発するコミュニケーションロボットです。赤ちゃんが発する「うぐー」みたいな音、あれを「喃語(なんご)」と呼ぶんですが、それにちょっとした動きが加わったロボットです。私の「寒いね」って言葉に対して、なんかリアクションを起こしたでしょう。意味はわかんないんだけど、勝手にこっちは「寒いって言いたいのかな」なんて解釈してしまう。これも、ロボットが差し出す「弱さ」に対して、人が関与する一例です。

■委ねあって初めて成立するのがコミュニケーションなんです

――人と人との間には、完璧すぎて一方的になってしまうコミュニケーションってありますよね。

岡田 大人の社会では言い直し、言いよどみはダメで、流暢に過不足なく完成されたものが100%伝わるのをコミュニケーションだと思われてますからね。でも、本来のコミュニケーションって、お互いに委ねあって初めて成立するものだと思うんです。言葉だって、それ単体で意味が完結してるわけじゃありません。

「どうもご無沙汰してます」でも「お世話になります」でも「今よろしいですか」でも、とりあえず相手に話しかけてみる言葉ってありますよね。あれはまさに相手に委ねている言葉。言われた側は「ご無沙汰してます」に対して丁寧に意味づけをして「いつ以来ですかねえ」なんて返してきて話が転がり始めます。人が話す本来的な姿は、言葉を投げかけて身を委ねるところにあります。それは完璧とは逆の、不完全なままの行為なんですね。まさに研究室のロボットが備えている「弱さ」。一方的にならない「隙」です。

――コミュニケーション上手の人は、その弱さ加減がいい塩梅なんですか。

岡田 そうだと思います。でも、ちょっとあざとい人もいるでしょう(笑)。それはちょっと小賢しい印象に見えちゃうから注意が必要ですね。

■人間だって「基本的に弱い」

――お話を聞いていると、完全なものを作ったり、完璧に人間をサポートするもの、拡張するものを目指している工学や科学とは別の研究の世界という気がしてきます。人間そのものの研究といいますか。

岡田 その側面は大いにありますね。基本的に人間の身体というものは不完全で不完結。1人ではどんな行動も成り立たないんです。自分の顔でさえ、鏡がないと見られないし、歩くという単純な行為でさえ、地面に支えられているからこそ歩けるわけです。ちょっと難しく言うと、歩くとき人は地面を味方につけながら、歩くという行為を一緒に作っている、つまり地面を信頼し、自分を委ねているわけです。生態心理学的に言うと。

――ということは、人間は何かに委ねながら生きていくのが本来的な姿なんでしょうか。

岡田 私はそう思います。環境に委ねないと生きていけない、基本的に「弱い」存在なんです。だからさっきの100%完璧な話し方って、独りよがりで一方的で、聞いてるとたぶんどこか強がりが見えてくると思います。

■ロボットがシンプルなデザインなのは、どうして?

――そういえば、ここにあるロボットはみんな素朴というか、シンプルなデザインなのはどうしてなんですか?

岡田 これも先ほどの「半ば委ねてみる」とか「弱さ」という話とつながっているのですが、ロボットのデザインでも「一方的に表現しすぎない、隙を作る」ということがポイントだと思うんです。解釈の余地を与えるというか、相手にもその解釈に参加してもらうための余地を与えるというか。そうすると、表現する側とそれを解釈する側とが一緒になってオリジナルな意味を作り出せるんです。相手に半ば解釈を委ねつつ、その意味を支えてもらうという点では、どこか共通していると思います。

――ところで、そこにあるロボットは?

岡田 muu(む〜)と言います。大きな目を向けながら、子どもの声でたどたどしく話しかけてくるロボット。ちょっと言葉足らずで、こっちが助けてあげないと会話が成り立たないんですけど、高齢者の福祉施設に置いたところ、お年寄りに「貢献できた」という喜びを持ってもらえたようなんです。普段は一方的に介護される側が、む〜には合いの手を入れてあげることで貢献できたという。それが自らのケアにつながるところもあるそうです。弱さの力は、そんなところでも発揮されているんですよ。

 世の中は弱い存在に対して不寛容になってきている側面があると思うんですが、弱いからこそ力になる、誰かの助けになるということもある。「弱いロボット」は僕たちにいろんなことを教えてくれます。

#2 へ続く)

写真=佐藤亘/文藝春秋?

おかだ・みちお/豊橋技術科学大学 情報・知能工学系教授。1960年、福島県生まれ。87年、東北大学大学院工学研究科博士後期課程修了。NTT基礎研究所、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)などを経て、現職。著書に『 弱いロボット 』『 〈弱いロボット〉の思考 』など。

(「文春オンライン」編集部)

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