国土交通次官が初めて“踏み込んで”語った「どうするJR北海道」

国土交通次官が初めて“踏み込んで”語った「どうするJR北海道」

森昌文国土交通次官 1981年に建設省入省

相次ぐ大規模な自然災害に地方交通の疲弊、さらに老朽化するインフラなどまさしく“課題山積”の国土交通行政。この夏、新たに“事務方トップ”に就任した「技官」出身の森昌文次官に「一歩踏み込んだ」考えを伺いました。インタビュー第1回は「災害対策」、そして注目の「JR北海道問題」について――。(全2回の1回目)

■大規模災害「リスク・コミュニケーション」をどうするか

――最近では7月の西日本豪雨があったように、近年大規模な自然災害が立て続けに起こっています。国土計画や防災行政も所掌事務である国土交通省で、特に重要課題として取り組んでいることは何ですか。

 これまでは自然災害への対応として、公共インフラや河川・山林などの防災強化に力を入れてきました。ですが、これからの課題として重要だと思っているのは「リスク・コミュニケーション」をどうするかです。

――リスク・コミュニケーションとは何ですか?

 みなさんの身の回りに危険がどれだけ潜んでいるのか、どれだけ危険が差し迫っているのかをどうお伝えしていくのか、というものです。最近の災害報道では「数十年に一度」「過去最大級」という言葉がよく聞かれるようになりました。また規模だけではなく、これまで被害を受けたことがない場所にまで台風が到達する、集中豪雨が発生するなど、災害エリアの拡大も見られます。こうした状況で大きな課題となっているのは、みなさんに「備える」意識を持っていただくという、極めて基本的な、しかし重要なことなんです。

■住んでいる地域が「海抜何メートル」か知ってますか?

――国交省はハザードマップを公開していますね。( https://disaportal.gsi.go.jp/

 ただ、これからは公開する、情報を開示しているという態度だけではならないと考えています。リスク情報をどう知ってもらい、どう活用してもらうか、積極的にコミュニケーションしていかなければならないと思っています。実際、みなさんどうですか、ハザードマップのことは知っていても自宅から避難所までのルートはどうか、避難所は知っていても途中にどういう場所があるかなど、しっかり把握している人は意外と少ないんじゃないでしょうか。住んでいる地域が「海抜何メートル」か知っている人も少ないのでは。

――たしかに海抜を聞かれても答えられないですね。

 東京や大阪のような大都市には海抜0m以下の地帯がかなり多いんです。そこにさらに地下鉄が走って地下街もある。こうしたところで1時間あたり50mmの雨が降ったらどうなるか。足元20cmくらいの浸水被害があると、大の大人でもまともに動けなくなるんですよ。また、大きな河川が近くに流れていれば、いつ西日本豪雨のような被害が起きてもおかしくない。そういうことをみなさんに理解していただくことが、いよいよ大切になってきています。

■ハード面だけの防災行政だけではない時代に

――リスク・コミュニケーションを徹底する上での、現実的な課題は何でしょうか。

 それは情報格差ですね。ハザードマップは各自治体と協力してつくっていますが、おじいちゃんおばあちゃんがパソコンやスマホでそれを確認できるのかという問題もありますよね。防災情報についてプッシュ型のメール通知をやっていても、携帯電話を持っていない方もいる。

――情報というソフト面での防災行政に力を入れるということですが、逆に言いますとハード面での対策にはもう限界があるということですか。

 もちろんハード面の整備は重要ですし、中小河川にも簡易水位計を設置するなどの対策もしていきます。でも、今の災害の規模を見ると、それだけでは対応できません。西日本豪雨でも、近くに砂防ダムができたので大丈夫だと思っていたら被害にあったという方がいました。一番対策が進んでいると思われがちな東京でも、1時間50mm以上の雨が限界です。西日本豪雨のような1時間80mmとか100mmとかの大雨になれば、川はあふれるし下水道や地下の放水路も雨水で一杯になってしまいます。想定を遥かに超えるような被害が発生しうる今の状況での防災対策は、ハード面だけに頼るのではなくソフト面にも力を入れていく必要があります。

■インフラの老朽化、どうする?

――インフラの老朽化も気になるところです。イタリアのジェノバで橋が崩落したという事故もありました。日本は大丈夫なのか、と。2012年には笹子トンネル天井板落下事故も起きています。

 韓国やアメリカでも似たような事例はありますよね。日本でも前回の東京オリンピック時につくったものが50年、60年たってそろそろ危ないんじゃないかというのはあると思います。ただ、そこは日本らしい緻密な点検・修繕をして長持ちさせて使っていくのだろう、と思います。笹子トンネルの事故以降、全国のトンネルを5年に1度点検するように決めまして、そこでいろいろと課題が出てきたんです。財政的には修繕費用はどうするのか、人的な面ではすべての自治体に技術者がいるわけではないという問題もあります。効率的なインフラ整備をしていくためにはどうすればいいのかを議論しているところです。

――ドローンやAIなどの新しい技術をどう活かしていくのかもポイントになりそうですね。

 日本人の真面目さなんでしょうか、たとえばトンネルの打音検査を機械化するとなると、単にコンクリートを叩いたり、音を聞き分けることをロボットにさせるような技術をそのままトレースしたような機械が登場する(笑)。そうではなくて、もっと頭を柔軟にした技術を展開していきたいし、なるべくコストも抑えられる優れた技術を考えていかないと。国交省としてもそれをリードしていかないといけませんね。

■どうする、どうなる「JR北海道経営問題」

――さて現在、国交省の抱えている課題の中でも注目されているのが「JR北海道の経営問題」です。国交省は7月に、JR北海道に対して2年間400億円の支援をすると発表しました。次官はJR北海道の問題、率直にどうお考えですか。

 JR北海道が公共交通としてしっかり役割を果たしていることは間違いありません。ただ、それに対する交通需要が充分じゃないこともあって、非常に厳しい状況にあります。その中で、利用の少ないところでは、まずは地元の皆さんが中心となって利用促進をして頂くこと。そして、サポートとしてまずは、2年間国からお金も少し手当しましょうということで、打ち出させていただきました。――と、ここまでが国土交通省の公式見解です。で、少し私見を言わせていただければですね……。

――ぜひお願いします。

 この問題でいちばん大事なのは、公共交通って何なのかということだと思うんです。“公共”交通というからには、どこまでいってもプライベートではなくてパブリックなんですよ。でも、現状ではパブリックをどこまで支えていくのか、その視点での議論が充分されているとは言い難い。世界的に見れば、公共交通は国あるいは自治体がサポートして生き残らせていくものというのが当たり前。その点、日本ではどうしても採算が重視されます。海外の政策担当者に、こうした日本の実情を話すとみなさん不思議そうにします。「だってパブリックだろ?」って。

■採算重視の公共交通には日本ならではの成り立ちがあるのでは

――確かに日本では、国鉄は民営化されてJRも民間会社ですし、都市部の大手私鉄も含めて、公共交通は民間の力で運営されているのがすっかり当たり前になっていますね。公共サービスでありながら商売でもある側面を持っている。

 もともと、鉄道は地域の篤志家の方たちが私財を投じて建設し、それを統合して国鉄になったという経緯があります。また、国鉄の経営が悪化したときにも採算性が盛んに議論された。こうした日本ならではの交通体系の成り立ちが背景にあるのではないかと思います。採算性を考えて、成り立たないならどんどん廃止していくのが当たり前じゃないか、それが経済なのだからと。日本人の公共交通に対する捉え方ということでしょうか。

■道路に税金を使って鉄道には使わない。それはおかしいと思いますよ

――現状では一部を除いて鉄道にはほとんど公的資金が投入されていません。こうした状況を踏まえてか、高規格道路の整備などにはどんどん公費が使われるけれど、民営の鉄道には公費がなかなか投じられないのは不公平だという指摘もあります。どう思われますか?

 道路に税金を使って鉄道には使わない。それはおかしいと思いますよ。そもそも道路と鉄道、どっちを取るのかみたいな議論自体が違うんじゃないか。交通手段としても車と鉄道の二択じゃないでしょう。役割が違うんだから、棲み分けが成り立つはずなんです。実際にデータを取ると、高速道路の平均利用距離って50kmくらいなんですよね。さらに日常の通勤とかで考えると10kmとか20km程度。それよりは長い距離は鉄道が担っているし、500kmを超える長距離になると飛行機利用が増加する。それぞれの役割分担があるんです。

――でも、議論としてはすぐに道路vs.鉄道みたいになってしまう。

 確かにこれは世界中が悩んでいる問題なんです。お金が無尽蔵にあるわけじゃないですから、1両に数人しか乗っていない鉄道だったら意味がないという議論になってしまうのもわからなくはない。だけど鉄道は一度廃止したら復活できませんから。だから重要なインフラとしての公共交通機関を、地域がどう育てていくかを考えなきゃいけないと思います。

■「公共交通とはなんぞや」をいよいよ詰めなければ

――上下分離というのもその中ではひとつの選択肢ですよね。「下」の部分、つまり線路などの施設は国や自治体が税金によってしっかり維持して、「上」の部分の運行は民間がやっていくという。

 そういう意見もありますよね。実際に上下分離を採用しているケースもちらほら出てきていますし、JR北海道にしても「上」の部分は観光列車に特化するとか、あるいはJR北海道に代わる運営母体が使用することだって考えられます。ただ大きな趨勢ではまだないので、大々的な規模でできるかどうかという議論も必要です。ただ、大前提にあるのは「公共交通とはなんぞや」という議論ですから、いよいよこの問題を国として詰めなければならないのではと考えています。

――本来は公共のものとしてどう維持していくのかという視点が必要だということですね。

 これも踏み込んだ言い方をしますとね、もう少し政策の振り子、振り幅があってもいいと思うんです。例えばイギリスではサッチャー政権、メジャー政権のもとに進められた国有企業の民営化の中で鉄道の民営化を進めたけれど結局ダメで、また国営に戻した。日本ではそういう政策の行ったり来たりがないんです。もちろん国鉄の分割民営化は株も売っちゃっているし完全にもとに戻すのは難しい。国土交通省としての正式な見解としては、国鉄の民営化というのは正しいことですから、それに逆行するような政策は今のところはできません。でも、個人的にはもう少し行ったり来たりできる政策の柔軟性があってもいいんじゃないかな、とは思っています。社会が常に動いているのならば、社会を支える行政も柔軟な部分を持ち続けなければならないと考えています。

(後編は9月17日に公開予定です)

もり・まさふみ/1959年生まれ。奈良県出身。81年東京大学工学部土木工学科卒業、建設省入省。国土交通省道路局高速道路課長、企画課長、近畿地方整備局長を経て、道路局長、技監。2018年7月、事務次官に就任。

写真=橋本篤/文藝春秋

(鼠入 昌史)

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