「化石好きの自分が恥ずかしかった」子ども科学電話相談・恐竜先生の「恐竜少年時代」

「化石好きの自分が恥ずかしかった」子ども科学電話相談・恐竜先生の「恐竜少年時代」

小林快次(左)。アラスカ恐竜化石産地、アニアクチャックにて(本人提供)

 子どもたちのさまざまな質問に、各分野の専門家が「先生」として回答する「NHK夏休み子ども科学電話相談」。これまで「昆虫」「天文・宇宙」「心と体」「鳥」担当の4人の先生をインタビューしてきましたが、急遽モンゴル行きの飛行機に飛び乗る直前の「恐竜」の先生、北海道大学総合博物館准教授・小林快次先生にお話を伺うことができました。

 世界中を飛び回って調査する小林先生、一体どんな人?

■母が驚くくらい、化石にハマった子ども時代

―― 先生の子ども時代について教えてください。

小林 いまでは恐竜の化石がよく見つかることで知られる福井県の出身です。中学生の頃の理科クラブで先生に誘われて、アンモナイトの化石を発掘しに行ったのがきっかけで化石の発掘にハマっていました。

 山の中に入っていって、崖のそばに落ちている汚い石ころをハンマーでパリンと割るのですが、そこから1億5000万年前のアンモナイトがでてくる。想像力がおよばないような長い時間眠っていたものを発掘して、よみがえらせる感覚に魅了されたんだと思います。

 母が「15分以上机に座っていたことがないような子が」と驚くくらい、化石の発掘や、クリーニング(化石をきれいにする作業)に夢中でしたね。

■「化石好き」がちょっと恥ずかしくなった高校時代

―― その情熱は、その後もずっと続いたのでしょうか。

小林 いえ、高校生になって、周囲が他のことに関心を持つようになると同時に「化石が大好きというのもちょっと恥ずかしい」という気持ちが出てきて。

 それに、高校生にもなると、将来のことをぼんやりと考え始めるじゃないですか。当時は、ただ化石を集めるのが好きなだけだったので、それを仕事にするという発想はなかったんですよね。

―― どのような道に進みたいと考えていたのでしょう。

小林 化学の道に行きたいなというのは、ボーッと思ってたんです。数学や理科といった、答えに到達する方法が一つじゃない科目が好きで。仮説を立てて、それを検証していくのがすごく好きでした。逆に、英語や歴史のような暗記科目は好きじゃなかったです。

―― では、当時は恐竜の名前はどうやって覚えていたのですか?

小林 覚えるのが大の苦手だったんですよ。だから、当時好きだったのも、恐竜ではなく、あくまで化石。恐竜にあまり興味がなかったので、なおさら「化石を掘るのを仕事に」と考えづらかったのでしょうね。

■「恐竜少年の小林くん」と期待されていたが……

小林「一旦化石は横に置いておいて、将来のことを考えようかな」と思っていたのですが、高校に入ってからも中学生のときから知っていた博物館の方に「今度、恐竜の発掘があるんだけど来ないか」と誘われて、また化石に引き戻されるきっかけになっちゃって。発掘に来ている横浜国立大学の方々とも顔見知りになり、「恐竜少年の小林くん」として期待もしてくださっていたようで、3年生になると「うちに来たら?」と誘っていただきました。

 そうやって横浜国大に入学したのですが、なんせ流されるままに来た道なので、「これは本意ではない」という気持ちが抜けませんでした。そのうち、米国留学のお話をいただいたのですが、これも優柔不断に「行きます」と言ってしまい、テキサス州に1年留学することになりました。この1年が、とてもつらかった。

■「なんでここにいるのかな」自問自答した米国での1年間

―― 米国にはもともと興味があったんですか?

小林 文化にも興味がなかったし、英語も苦手だったし、研究もたいしてしたかったわけでもなかったので、「なんでここにいるのかな」「本当にやりたいことはなんだろう」と1年間ずっと自問自答していましたね。目的意識もなしに行ってしまったので……。でも、そうやって1年過ごした後、ふと恐竜図鑑をみたらときめいたんですよ。それで、「やっぱり恐竜の研究をしよう」と決心し直して、アメリカの大学に入り直したんです。

 そこからはもう、大の苦手だった丸暗記です。授業はすべて録音し、丸暗記。その結果、英語の会話にも不自由しなくなったし、飛び級で大学を首席卒業できました。

 ただ、大学院に進んで研究を始めたら、今度は考える力がまったく身についていなかったことがわかってしまったんです。

―― 首席卒業したのに、ですか?

小林 とにかく頭に情報を詰め込んでいたので、テストでは点数が取れたんですけど、その知識は辞書のようなものでしかなかったんですよね。なので、大学院に入った当初は研究がうまくいかず、挫折感を経験しました。でも、そこからまた試行錯誤して、自分の研究のスタイルを見つけることができたんです。

「挫折」という言葉こそ使いましたが、こういった時間は決して無駄ではなかったと思うんです。同じところで足踏みをしているようでも、実はその後の急成長の前段階にいるのかもしれない。当時の僕は非常に苦しんでいましたけれども、今振り返ってみれば、あれは「挫折」というよりも、立ち止まって考えるのに必要な時間だったのかなと思います。

■恐竜研究に必要なのは「ポジティブさ」

ーー 恐竜研究は特殊な仕事だと思いますが、この仕事を続けていく上で一番大事なことはなんですか?

小林 ポジティブでいることです。そして、ポジティブでいる秘訣は、あまり物事を深く考えないことです(笑)。たとえば、調査でしばらく歩いているときに「こんなに歩いたのにみつからないんじゃないか。これだけ探したのにないんじゃないか」と考えてもしょうがないので、とにかく前に進む。

 賢い人ほど考えすぎちゃったり、石橋を叩いたまま渡れない、という人が多いと思うんですけど、そういう意味ではバカになることって結構大事なんですよ。何事も楽観的に考えればやっていて楽しいし、何かしら前進しますし、それが必ず結果につながってきますよ。

■「恐竜バージョンの桃太郎」の質問に驚いた

――「NHK夏休み子ども科学電話相談」で質問を受けていて感じることはありますか。

小林 最近、質問のレベルがかなりあがってきていると思っています。知識量が多い子も、あまりない子も、自分の考えや、ある程度の答えを持って質問してきている。ある意味、僕が大学院生時代に手こずっていたことをすでに難なくこなしています(笑)。

 たとえば、「恐竜バージョンの『桃太郎』を創作したいのだが、キジの代わりになる植物食の翼竜はいるか」という質問ですが、単に自分の好きな恐竜を並べるのではなく、自分なりの基準を持って質問してきているわけですよね。恐竜の生態や性格、進化とはなにかまで考えて質問してきていたり、ドキッとする質問や、ハッとさせられる質問が最近すごく多いですね。

■鳥担当の川上先生とは「牽制しつつ」

―― 取材申し込みさせていただいた際には、アラスカにいらっしゃいましたね。今、どのような研究をされているのですか。

小林 僕の研究では、アラスカのような北極圏でも恐竜は生き延びられたことがわかっています。寒くて、暗くて、食べ物がない、そんな極限状況にも適応できた恐竜の、生命体としての優秀さを研究しているのがひとつあります。あとは、恐竜がどうやって鳥に進化していったか。

――「NHK夏休み子ども科学電話相談」で「鳥」担当の川上和人先生と共演された際の、「鳥は恐竜です」「いや、恐竜は鳥」の掛け合いは、リスナーの間で名物になりました。

小林 そうですね(笑)。ようは、今生きている動物を見ないと恐竜のことがわからないので、かなり鳥の研究が参考になるんです。なので、川上先生が持っている知識や経験は勉強になるし、先生とのお話は楽しいです。おたがいに牽制しつつ、刺激し合いながら議論しています。

■放送で漏らしそうになった「むかわ竜」の今後

――「NHK夏休み子ども科学電話相談」で質問者に「新情報はまだ?」と急かされた、北海道むかわ町の「むかわ竜」が先日公開されましたね。

小林 放送中にあやうく未発表情報を漏らしそうになってしまいましたが(笑)、近いうちに「むかわ竜」の全貌を皆さんに伝えたいなと思っています。

 ただ、私が今回「むかわ竜」を研究しても、それで終わりではないんです。今の子どもたちが学生や大人になる頃には、また新しい研究手法や研究分野が生まれて、新たなむかわ竜の研究が生まれると思っています。

―― 恐竜研究での新発見の余地は、これからもあるのでしょうか。

小林 まだまだありますよ。恐竜のことはむしろ「ほとんど分かっていない」というのが実態なんです。というのも、哺乳類や鳥類は6600万年前から地球上に存在しているんですけれども、今現在、鳥類はおよそ1万種類、哺乳類が5000種類いると言われています。対して、恐竜は1億7000万年間地球上に存在していたんだけれども、まだ1000種類しか見つかっていません。

 本来なら何十万種類の恐竜がいたと思うんですけれども、そう考えるとまだ99パーセント以上の恐竜が見つかっていない。だから、これから恐竜研究者を目指す子どもたちが新しい恐竜を発見することは当たり前のように可能です。

■恐竜学者になるにはどうすればいい?

―― 恐竜学者になるには、どうすればいいのでしょう。

小林 恐竜は総合科学なので、いろいろな分野のスキルが必要です。理科や算数は当然ですが、論文を書くので国語なんかも必要です。海外で調査をするにあたっては、現地の社会状況を知っているとコミュニケーションが取りやすくなるので、社会も必須ですよね。音楽だってコミュニケーションに役立ちます。すべての勉強が恐竜につながってくるので、がんばって無駄なことは一つもありません。

 他には、友だちをたくさんつくること。これは、恐竜研究にあたっては、一緒に研究する研究仲間をつくることが大事だからです。そして、恐竜を好きでい続けることが、恐竜学者に近づく鍵だと思います。

―― あらためて子どもたち、そして大人に伝えたいメッセージって、どんなものでしょう。

小林 挫折は成長の肥やしなんです。壁を乗り越えれば次の大きい成長につながるし、自分を知るいい機会にもなる。僕も、米国で悩んだ経験があって、今の自分がいます。やりたいことはやればいいし、失敗したって全然恥ずかしいことでもない。いろいろなチャレンジをしていってほしいなと思います。

(「文春オンライン」編集部)

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