総裁選にノーサイドなし「総裁になれなかったおじさん」たちの干されかた

総裁選にノーサイドなし「総裁になれなかったおじさん」たちの干されかた

世に言う「加藤の乱」 ©時事通信社

「加藤は熱いフライパンの上でネコ踊りさせておけばいい」。そのむかし、森内閣への不信任決議案に加藤紘一が同調する動きをみせた際に、橋本龍太郎が言い放った言葉である。世にいう「加藤の乱」(2000年)、半泣きの加藤に「大将なんだから、一人で突撃なんて駄目ですよ」と谷垣禎一が激する、あれだ。権力闘争慣れしていない加藤の未熟さもあって、老練な実力者・野中広務らに切り崩されていき、中途半端な結果に終わる。そうして加藤は政治生命を失った。

■鉄オタ議員としての面目を保った石破茂

 今回の総裁選は、安倍陣営にとってはさしずめ「石破は熱いフライパンの上でネコ踊りさせておけばいい」であっただろう。6月、出馬に意欲を示す石破に対して、「現職首相に対抗しようだなんて退陣要求に等しい」(注1)と安倍は奇っ怪なパンチラインで牽制。裏では、石破支持にまわった竹下派を切り崩して自主投票に持ち込んだり、街頭活動に誘われていた地方議員を恫喝したりと「石破潰し」に余念がない。

 対する石破は、「正直、公正」と小学校の教室に貼られていそうなスローガンで安倍に挑む。するとそんな安倍への当てつけを言うのは《「野党のようだ」と批判をされ、自らの陣営でも「個人攻撃は控えて」》(注2)とたしなめられて、腰砕けとなる。それでも地方に強いという自負や地方創生を謳うこともあってか、47都道府県別のビデオメッセージを制作し、これには政治学者で鉄道にも造詣が深い原武史が「彼が『乗り鉄』であることと大いに関係がある」(注3)と看破するツイートをし、また実際に地方票を集めて、鉄オタ議員としての面目を保つ。

■「安倍の次は安倍」の自民党で石破はどうなるのか

 総裁選は党の次の顔をアピールする「顔見世」興行でもあるが、今回は候補者ふたりと寂しく、恒例の東京での街頭合同演説も開かれなかった。

 安倍陣営にとっては、総裁選は盛り上がらないに越したことがない。「安倍の次は安倍」(二階俊博)とまで言われたが、安倍総裁の時代もこの3期目で終わりとなる。そこで「死に体」にならないためには、突出した次期総裁候補がいては困るのである。次を狙う者は、最大派閥の実力者である安倍と良好な関係でいようとするだろうし、あわよくば禅譲を期待する。まして、「反安倍」を標榜する者に力を持たれては……である。

 そうした総裁選の唯一の反逆者・石破はこの先、どうなるのか。

 総裁選に限らず、政争に敗れた者は勝者とその陣営に足蹴にされる。選挙と人事は背中合わせであり、信賞必罰が人事の鉄則である。ときに、「総裁選後はノーサイドで」などと期待する者がいるが、そんな甘い期待に冷水が浴びせられるのが政治の歴史だろう。

■「平成おじさん」に負けた梶山静六の冷遇

「平成おじさん」で記憶される向きのある小渕恵三は、「人柄の小渕」といわれた。敵を作らないことを信条にして頂点まで昇りつめた竹下登に師事しただけの人柄である。この小渕も、ひとたび政敵となった者には容赦がなかった。

 たとえば98年の総裁選で争った梶山静六を徹底的に冷遇する。田中・竹下派の同志として数々の修羅場をともに戦った間柄であろうとも、だ。佐野眞一『凡宰伝』によると、選挙後は一度電話をしただけであったという。それも「梶さん、中坊(公平)さんと親しいらしいから、今度、一緒にメシでも食おう」と。なんだメシを食う仲ではないかと思うところだが、小渕の真意は「お前に用はない、中坊さんを紹介してくれ」である。

 また現職総理として迎えた99年の総裁選では、小渕の無投票当選を阻もうと立候補してきた加藤紘一を徹底的に干して、冷や飯を食わせる。こうして非主流に堕ちた加藤は、森内閣の不人気に乗じて野党と手を組む「加藤の乱」を目論むが、これもまた……。

■総裁選「裏の掃除役」は誰なのだろうか?

 これら梶山や加藤潰しを「裏の掃除役」(注4)として影でやったのが野中である。そんなこんなで力をつけ「影の総理」と呼ばれるまでになるが、そんな野中も小泉政権時代の総裁選で、小泉への対抗馬として所属する派閥の藤井孝男を擁立し敗れる。するとあっさり引退を表明。いままで破滅に追い込む側であった野中には、敗者となった自分の行く末が見えたからであろうか。

 いま「掃除役」は誰がやっているのか。プチ鹿島のコラム 「総裁選戦線異状あり? 読売・産経が名指しした『ふぞろいな3人の“首相周辺”』」 を読むと、下村博文・西村康稔・萩生田光一が忠臣として各々頑張っているようだ。そういえば8月上旬の週刊文春にも「西村康稔官房副長官や萩生田光一幹事長代行らが竹下派議員に『冷遇されてもいいのか』などと電話をかけているそうです」(注5)とある。その西村もかつては総裁選に立候補した経験をもつ。いまでは総裁候補ではなく、「首相周辺」の人物となっているが、プチ鹿島は《あの3人は「首相周辺」だが本当の「お友達」ではないのだろう。いかに首相に気に入られるかという発想だけが源なのだろう。》と正鵠を射る。

 敗北すると悲惨な末路を迎えかねない総裁選だが、負けを繰り返しながら力をつけていったのが小泉純一郎である。派閥の長でもない小泉は、総裁選に出ては、「郵政民営化」「首相公選」を主張する。ヤクザが賭場で暴れて顔を売るように、最近は議場のヤジやSNSで悪目立ちして名を売る議員が多いが、小泉は総裁選を重ねながらイロモノから本命になっていったといえる。そうして三度目の挑戦で勝利することになる。

 今回が三度目の総裁選であった石破であるが、勝ち方にこだわった安倍に対して、石破の負け方はどうであったか。

「喜劇のピエロになるより、悲劇のヒーローになるべきだった」。「加藤の乱」が失敗に終わった翌日、テレビ番組で矢野絢也(元公明党委員長で政治評論家)は、ぐだぐだになった加藤をこう腐した(注6)。安倍やその陣営の目には、石破は「喜劇のピエロ」だったに違いないが、果たして世間の目には、何であったろうか。

(注1)日本経済新聞2018年9月11日朝刊
(注2)毎日新聞2018年9月9日朝刊
(注3) https://twitter.com/haratetchan/status/1035873097541251072
(注4)魚住昭『野中広務 差別と権力』講談社文庫
(注5)週刊文春2018.8.16-23 
(注6)山崎拓『YKK秘録』講談社+α文庫

(urbansea)

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