「お前の親父はヤクザだろ」高知東生も経験した“ヤクザの子供”に生まれたからこその“苦しみ”

「お前の親父はヤクザだろ」高知東生も経験した“ヤクザの子供”に生まれたからこその“苦しみ”

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 ヤクザの世界における「親子盃」は、親分と組員が疑似的な血縁関係を持ち、分かちがたい絆を結ぶことを目的にした重要な儀礼として広く知られている。とはいえ、関係性はあくまでも“疑似的”なもの。実の子供との扱いはまったく異なるものだろう。それではヤクザの親分は、実の子供と子分の扱いをどのように分け、振る舞っているのだろうか。

 ヤクザに関する著書を多数執筆する溝口敦氏、鈴木智彦氏両名による著書『 職業としてのヤクザ 』(小学館新書)を引用し、一般家庭とは違う、ヤクザの親子ならではの関係性、受難を紹介する。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

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■子供をヤクザにするかしないか

溝口 ヤクザは子供にはどう接しているのか。疑似血縁関係である子分とは何が違うのか。

 それは、やはり同一ではありません。子供は子供であって、子分は子分。いくら疑似血縁関係といえど、やはりそれは商売であって、現実には実の子のほうがかわいいに決まっている(笑)。

鈴木 たいてい子供は溺愛します。家族の愛を渇望していたという面も大きいんだと思います。ただ、しつけはずいぶん暴力的で、殴る蹴るは当たり前です。

溝口 だからこそ、その子供をヤクザにするか、それともヤクザから避けるかというのは、ヤクザにとっては大問題です。

 山一抗争のころに、一和会の幹事長だった佐々木道雄とともに一和会の幹部の家に行ったことがあるんですが、そこのせがれが出てきて、佐々木に向かって、「おじさん、僕に就職先を紹介してよ」と言った場面に遭遇したことがある。彼は大学を卒業するかしないかのときで、佐々木は「うーん」と考えていましたが。ああ、こういうところは普通の家庭と同じだなと、僕は思いました。それで確かに佐々木は企業に顔が広いから、そのせがれは無事に就職できたと思う。

■「お前の親父はヤクザだろ」

鈴木 ヤクザの子供が親をヤクザと認識するのは、けっこうな年齢になってからです。一種のカルチャーショックみたいです。例えば大人の身体には、絵が描いてあるのが当然だと思っている。学校に通うようになって、ようやく家の親は特別だと気づく。でも小学生の子供に、ヤクザとは何かをきちんと説明はできません。

 私の知っている親分の娘さんはずっと自分の父親を「サル山のボス」と認識していた。正しいですよね。周囲の人間関係がちゃんと見えている。でも、ヤクザが何であるか知ったのはずっと後です。

溝口 いずれわかるものですからね。近所のガキが、「おまえの親父はヤクザだろ」って言いますよ。情報発信元の子供は大人たちの噂話を小耳にはさんで、発信する。

 だからこそ、子供をヤクザにするかどうかという問題が生じてくる。三代目山口組組長の田岡一雄は、満という長男をヤクザにはしませんでした。ちゃんと慶應大学経済学部を出して、甲陽運輸という元は田岡が経営していた会社の社長に据えて、満をカタギに育てました。それから、三代目山口組若頭の山健(山本健一)の奥さんの山秀(山本秀子)さんは、息子をカタギの企業に勤めさせ、山健が亡くなったあと、自分の家に山健の者を出入りさせなかった。

鈴木 ヤクザと家庭をきちんと分けるのは、姐さんの仕事ですね。

溝口 しかしながら、稲川会会長だった稲川聖城は、自分のせがれ、裕紘をヤクザにし、稲川会の三代目を継がせた。そして、裕紘も、自分の息子をやっぱりヤクザにつけようとしましたが、反対する組幹部が多くてできなかった。このように、ヤクザの教育方針によって、子供をヤクザにするかしないかは決まります。

■最強のモンスター・ペアレンツ

鈴木 本来は厳しい生存競争が前提で、命を失う可能性がある危険な世界です。息子をヤクザにしたいと思うはずがない。実際、ヤクザが抗争に明け暮れている当時、雑誌のインタビューでは、子供が望めば自由にさせるが、自分は息子をヤクザにしたくないと断言する親分ばかりでした。そりゃそうだよなと思っていました。ただし近年のように、組織が巨大なシステムになって、抗争ができなくなり、平和共存路線が定着するようになると、親分という椅子に座っているだけで莫大な金が入ってくる。楽して儲かる仕事なら、血縁に禅譲したくなります。だから、稲川会の親分が、息子に稲川会を継がせたころ、山口組の直参でも、息子に組織を継がせるという例が増えました。

溝口 徳島の心腹会とか、一部いることはいる。

鈴木 でもたいてい、ヤクザの子供は関西で言うところのアホボンというやつです。なぜならヤクザは子供を甘やかすし、子供もヤクザの暴力を使おうとします。スーパーカーブームの際、ランボルギーニ・カウンタックというイタリアのスポーツ・カーが大人気となり、子供たちがカメラを持ってそういった車を追いかけた。ある親分の子供がカウンタックを欲しいと言い出したところ、父親である親分は実車を買い与えました。ヤクザはただでさえ、オリンピック級のサイコパス揃いです。最強のモンスター・ペアレンツですから、周囲もなかなかものが言えない。ワガママに育つというわけです。

溝口 確かに、世襲のヤクザでうまくいっているケースは、あまり知りません。

■昔は組と家族が一体だった

鈴木 本来は実力主義の世界だから、自分の本当の息子がかわいいと思っていても、対外的には、若い衆がいないと神輿は動かないんだから、子供より若い衆のほうが大事、若い衆こそ宝と公言する。

 だから、自分の跡目は若い衆から選びましょう、親分がヤクザとして稼いできたものは若い衆たちが縁の下にいたんだから、彼らに禅譲しましょうという建前がある。世襲は認めないという暗黙のルールがかつてはあったんです。

溝口 原則を言えばね。

鈴木 ただ、親分が絶対だから、世襲すると言えば通るケースもある。組織の中に親分を担ぐ世襲派が生まれ、力を持ち始めます。稲川会も世襲を推す熱海派が力を持っていたのですが、四代目をとったのは反世襲派でした。彼らはいざとなれば組織を割って戦う覚悟で跡目争いに臨んで、組織を手にしました。

溝口 昔は組と家族が一体化していたところも多かったから。

鈴木 すごくフレンドリーな組なんかだと、組員と家族が一緒になっていて、みんな仲良し、和気あいあいでやっているところもあります。本来、ヤクザは一家ですから、それが正しいんですよね。

■子供たちと草野球のチームを作っているヤクザも

溝口 田岡一雄の息子の満が子供のころ、先ほども名前が出た佐々木道雄がよく満とキャッチボールをして遊んでやったと言っていました。そういうふうに、田岡の坊ちゃんのお世話係という側面も、昔の子分たちにはあった。

鈴木 家と事務所が分かれてなかったですからね。昔は海水浴に行くからバスをチャーターし、みんな奥さんや子供連れて来いよとやっていた。いわば社員旅行です。最近は地域の条例で、海水浴場でも刺青は禁止になっているし、そもそもバスをチャーターできないうえ、ホテルにも泊まれない。

 昔は子供たちと草野球のチームを作ってるヤクザもいました。あるとき、地方大会に天皇陛下が来ることになったんです。地元の警察がヤクザのチームに自粛を要請した。チームの監督だった親分は戦時中、特攻隊に所属していました。「陛下のために命を捨ててもいいと思っていた我々が、危害を加えたりするものか!」と怒り狂いました。

 それと、以前は組員の家族やプライベートの相談も奥さんが入って仲介してというのもありました。婦人会のようなものです。最近はそんな関係性はなくなってきています。

■なぜ姐さんと呼ばれるのか

溝口 基本的には、ヤクザ社会には女はいないということになっているんです。だから飯炊きでも掃除でもなんでも、みんな男の末端組員がやるわけです。普通は奥さんがやることも、男どもがやる。基本は男だけの世界ということになっている。

鈴木 その象徴が、姐さんという呼称ですよね。組長は親父なのに、奥さんはおふくろさんじゃなく姐さんという一つ格下の呼び名になる。相撲なんかの親方と女将さんに比べても格下でしょう。これもヤクザ社会の男尊女卑です。

溝口 そういう解釈もできる。

鈴木 ヤクザらしい理由もあるんです。昔はお縄になると、一族郎党が処分されかねないので、女房に累が及ばないよう身内扱いしなかったと言われています。家族を巻き込まないために、徹底してヤクザ社会は女人禁制となった。実際、明治までは、自衛策として女房と籍を入れなかったそうです。今も暴排条例のせいで、戸籍上、ヤクザの夫と偽装離婚するケースが増えました。母子手当などがもらえないんです。

 でもやっぱり、奥さんの助けが欠かせません。内助の功という以上に、姐さんの器量は組織力に直結します。姐さんが若い衆を使用人のように使うと、まともなヤクザなら怒鳴りつけます。でもやっぱりできの悪い姐さんはいるんです。そんなところは、若い衆の心が離れてしまう。

■ヤクザの家族だと損しかない時代

溝口 けれど今は、ヤクザの家族は困りっぱなしでしょう。

鈴木 父親の職業にヤクザとは書けない。母親がパートに出たとしても、ヤクザとわかれば問題になります。刑務所に面会に行く際は、肉親が前提なのですが、内縁の妻にも同じ権利が与えられます。取材で姐さんに接する機会はあまりありませんが、時折、家族で東京ディズニーランドに遊びに来るので、車を出したりします。十分、ネタが拾える。

溝口 今やヤクザの家族だと、損しかないから。

鈴木 だから内縁が増える。もっとも、内縁関係だとヤクザにとっては愛人を奥さんと同格に扱えるというメリットもあるみたいです(笑)。

■ヤクザの子供だとなれない仕事

溝口 僕がこのまえ会った俳優の高知東生は、高知の中井組・中井啓一(三代目山口組舎弟)という親分の子供です。彼は、中井の子供として少年期を過ごしていますが、自分のお母さんは中井の愛人だったということも知っていた。

 そうすると、過保護の体質で、学校に高級車が乗りつけることもあるし、生活も豊かで、周りの子供たちも中井親分の子供として高知東生を扱い、先生すら遠慮することもあったという。そういう利益の部分もあっただろうけども、高知東生は不利益もこうむっているんです。やはり進学先とかを決めるのが難しかったらしい。実は高知の本当の父親は中井ではなく、徳島の有名ヤクザです。高知は長じて後、それを知ってさらに混乱したそうです。

鈴木 私立中学の受験とかもバレたら、やっぱりまずいでしょう。だから、最近は、ヤクザとして顔がばれたくない、有名になりたくないという若い衆も増えている。雑誌なんかの取材で写真を撮るときに、「顔は写りたくないです」と言う人もいます。それは主に家族や仕事のためで、昔は決してそんなことはなかった。逆に取材が来て雑誌に載るのだから、ヤクザじゃない友人たちも一緒に写真を撮って欲しいと言われた。

 就職にしたって、ヤクザの子供は警察官には絶対になれない。警察に聞けばそんなことはないと言うのかもしれませんが。

溝口 警察官でなくても、新聞記者になったって、警視庁記者クラブに詰めることになった場合、警視庁は所属する記者の身元調査をしますので、そうするとお断わりですとなるでしょう。

鈴木 それは実質、差別ですが、現実としてはある。

溝口 だから、ヤクザの子供は男女共通して水商売の人が多いんです。店を経営したりね。水商売はそういう身元調査は一切関係なく、誰でもなれますから。

鈴木 ヤクザの子供というだけで職業が限られるのはおかしな話です。差別以外の何ものでもない。

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絶縁されて「半グレ」の手伝いをする元ヤクザも…“ヤクザ”と“引退”の知られざるリアル へ続く

(溝口 敦,鈴木 智彦)

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