コロナ前のビジネスホテルの稼働率は60.8%で全国最下位 「奈良」はリニアで「京都・大阪」を越えられるか

コロナ前のビジネスホテルの稼働率は60.8%で全国最下位 「奈良」はリニアで「京都・大阪」を越えられるか

奈良・興福寺 ©?iStock.com

 京都・奈良、と並び称されるように、私たち日本人の多くが中学生や高校生のときの修学旅行などで一度は訪れる観光地が奈良だ。奈良には東大寺、唐招提寺、薬師寺など日本を代表する神社仏閣があり、五重塔や大仏は日本人の多くが一度は拝んでいるのではないだろうか。

■京都と奈良、観光業での格差

 ところが、この代表的な古都である奈良と京都は、観光業という意味では大きな差がある。たとえばホテルマーケットでみると、客室数は京都府が2万5720室(都道府県別12位)であるのに対して奈良は県全体で3860室、全都道府県中46位である(2017年)。

 ホテルの客室数が少ないだけではない。稼働率も低いのだ。コロナ前の2019年の県内ビジネスホテルの平均稼働率は60.8%。この数値は全国47都道府県中、なんと最下位だ。いっぽうの京都は80.1%で全国4位、お隣の大阪が79.8%同5位だから、奈良の数字の悪さが際立つ。

 私は以前、京都とともに奈良にあるホテルの運営を行っていたことがあり、2つの古都の間を頻繁に行き来した。京都から奈良に向かうJR奈良線を利用するのだが、奈良に到着するまでたっぷり1時間はかかった。車窓は京都の町並みを抜けると、延々と田園風景が続き、特に春先や晩秋などは本当にきれいな風景に見とれてしまい、奈良に到着するころには心はすっかり旅気分で仕事に集中できる状態ではなくなっていたものだ。

■宿泊は「そうだ、京都に帰ろう」

 急ぐ場合には近鉄特急を使えば、京都から30分強で到着するが、京都と奈良のこの中途半端な距離感は、奈良観光は「京都のおまけ」というイメージを醸成してしまう。一日を観光バスで巡るだけで、日帰りで京都に戻る。どうにも奈良に泊まる、という気分にはなれないのだ。

 ビジネス客でも、観光客でも旅の楽しみの一つが食事なのではないだろうか。ところが奈良に泊まるとなると、特にJRの奈良駅周辺にはほとんどお店がない。当時はコロナ禍でもなく、緊急事態宣言が発令されていたわけでもないのに、午後8時をすぎると多くの店がシャッターを閉じてしまい人影も疎らになる。おまけに奈良、と聞いて思い出す名物料理が全く思い浮かばない。奈良漬は有名だが、奈良漬だけでは料理としては心もとない。先斗町や祇園など華やかな京都の夜に比べて奈良は夜の楽しさもない。そうなると奈良でビジネスを終えた私の足は自然と

「そうだ、京都に帰ろう」

 になってしまうのだ。あまりに毎回、奈良に宿泊せずに京都に宿をとって帰ってしまったので、あるとき現地のホテルの支配人から

「牧野さん、たまにはお泊りになってくださいよ」

 と嫌味まで言われる始末だった。

■奈良の唐招提寺に出かけたのはよかったが…

 この京都と奈良の関係は観光においても同様だ。奈良は京都と違って神社仏閣のそれぞれの距離が結構ある。京都なら散歩がてらのんびり複数のお寺を観ることができるのだが、奈良は徒歩ではどうにもならない。自転車で廻るのが奈良の風にも触れられて楽しいのかもしれないが、天気や季節に影響されるし、高齢者にはやはり奈良はつらい観光地となってしまう。JRと近鉄以外にめぼしい交通手段がないこともネックとなっている。

 以前、奈良での仕事が思いのほか早く終了した私は、京都からの新幹線の発車時刻には十分余裕があったので、つい誰にも相談せずにホテルの下で待っていたタクシーに乗り、

「そうだ、唐招提寺に行こう」

 とつぶやいてみた。

■客待ちのタクシーの姿はなく

 修学旅行以来の唐招提寺に胸躍らせてタクシーを降りたのだが、うっかりそのままタクシーを帰してしまった。肝心の唐招提寺は、当時は「平成の大修理」で大きな蔽いに包まれて期待した姿を拝むことはできなかった。それでもせっかく来たのだからと30分ほど寺内を見学したのだが、程なくして私は帰りの足を全く失っている自分に気づくことになる。寺の前にはタクシーが一台も客待ちをしていなかったのだ。

 当時はもちろんネットもないのでタクシーを呼ぶ手段がない。平日の真昼間の奈良で足を失うと、こんなにも悲惨なものかと思った。田んぼに囲まれた道をとぼとぼ幹線道路の方に歩きながら、この調子では新幹線もアウト、東京での会合にも遅刻、と情けない気持ちが募り、通りがかりのタクシーが声を掛けてくれた時には運転手さんが神様に見えたくらいだった。

 交通の便などにおける立地上の不利や、神社仏閣の配置の不利などが一因となって奈良はどうしても京都観光の「ついで」、「滲みだし」需要しか取り込めてこなかったのが現状なのだ。

■近年、観光に目覚めた奈良の街

 そんな奈良を、先日久しぶりに訪ねる機会があった。街は私がホテル経営をしていた2000年代の初めとはうってかわって昨年初めまではインバウンド客で大変なにぎわいをみせていた。そんな背景からいくつかの有名ブランドホテルが奈良に進出し始めた様子をみようと訪ねたのだ。

 市の中心部、県営プールの跡地に森トラストが事業者となって昨年7月に高級外資系ホテル「JWマリオット・ホテル奈良」(158室)がオープンした。また、大仏で有名な東大寺の北側、旧奈良監獄跡地には星野リゾートが中心となってホテルや簡易宿所のほか、複合商業施設などを整備し、24年のオープンを目指すことも話題になっている。旧イトーヨーカ堂の跡地でも新しい観光型複合商業施設ミ・ナーラがオープン。街の様子は様変わりの様相をみせている。

■コロナ禍によって大阪・京都が沈み

 だが、せっかく観光に目覚めた奈良の街にもコロナ禍は襲い掛かっている。以前はインバウンド客でごった返していた三条通りや東向商店街も客は疎らで閑散としている。奈良公園の鹿も少なくなった観光客の鹿せんべいに不満げな表情をみせる。

 昨年の県内のビジネスホテル稼働率は大幅減となり、平均稼働率は32.7%までに落ち込んだ。ところがこの年、奈良は万年全国最下位の地位を抜け出し、全国46位と一つ順位を上げることに成功した。最下位はなんと大阪の32.5%。0.2%の差だが、前年は全国5位だった大阪がなんと最下位に転落したのだ。そして、どうやっても観光では勝つことができなかった京都が、奈良のすぐ上の45位(34.9%)に沈んだのだ。

 さて、皮肉なことにコロナ禍によって奈良は大阪、京都に肩を並べることができた。

 リニア中央新幹線の名古屋、大阪間のルートは、奈良を経由する案が有力だとされる。街のにぎわいを整備し、ネックであった交通の利便性が整うとき、古都・奈良が京都とは違った魅力を発信し、京都を凌駕することが現実になるのだろうか。

 あをによし 奈良の都は咲く花の にほふがごとく 今盛りなり

 万葉集で歌われた奈良の都の隆盛を待ちたい。

(牧野 知弘)

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