黒塗りか防弾車? ヤクザはなぜクルマのステータスにこだわるのか《流行はアメ車からベンツ、いまは…》

黒塗りか防弾車? ヤクザはなぜクルマのステータスにこだわるのか《流行はアメ車からベンツ、いまは…》

定例会のため、神戸山口組本部に到着した車両(2016年) ©?共同通信社

「暴力団幹部は防弾仕様の車に乗っている」というイメージがあるかもしれないが、それは一部の最高幹部だけ。通常は一般市民と同じ、高級車に乗ることになる。

 では、ヤクザはどんなクルマに乗っているのか。かつて一般社会では、トヨタ・クラウンに乗ることが「社会的な成功者の証し」というイメージがあり人気だった。車はステータスシンボルであることは暴力団社会も同様だ。

 そして、愛用される車にも流行がある。バブル景気が華やかなころは、ベンツの高級車が流行していたが、近年はさらに大きく変化しているという。(全3回の1回目)

■流行はアメ車からベンツへ

 昭和の時代からの業界を知る指定暴力団のベテラン幹部が語る。

「ヤクザの間では昔はアメ車が流行していた。リンカーン・コンチネンタルとかキャデラックに乗っていることがステータスだった。その後、昭和の終わりから平成に入りバブルの好景気になるころには人気の車はベンツになった。トヨタのセンチュリーやクラウンも人気があった」

 別の指定暴力団の古参幹部もアメ車に思い出があるという。

「最初はアメ車に乗っていたが、乗り心地は悪かった。その後はベンツに乗り換えた。新車で1000万円ぐらいだったか。(暴力団同士の交際である)義理事とかゴルフに出かけるという時は、若い衆に運転させた。プライベートな用事では自分でも運転したが、やはり国産の方が運転をしやすいし楽だ。ベンツに乗るのは見栄だな」

「いまは高級なベンツなどに乗っているヤクザは見かけない」と語るのは、暴力団犯罪を長年にわたり捜査してきたベテラン刑事だ。

「最近は背が高いワンボックスタイプばかりだ。特にトヨタのアルファードが人気。事情を聞くと、『まず乗り心地が良い。車高が高く室内が広いため、車内での着替えも楽だ』ということだった。自分が知っている幹部のワンボックスタイプの車のシートは総革張りで、豪華にグレードアップさせていた」

 一般社会でもセダン人気が陰り、車高が高く室内が広いワンボックスタイプの売れ行きが好調なのと、暴力団社会の人気の変遷も同様のようだ。

 それでも、「セダンタイプが好みというヤクザもいて、一部ではトヨタのレクサスに人気がある」と語る別の指定暴力団幹部もいる。暴力団社会では総じてトヨタ車の人気が高いようだ。

■ヤクザは自由に車を買えない

 ステータスシンボルとしての車は欠かせないアイテムとなっているが、現在、暴力団組員は自由に車を購入できない。暴力団排除条例が全国で整備された2011年10月以降、社会活動からの暴力団の本格的な締め出しが始まったためだ。

 自動車販売店が顧客に車を販売するにあたって、自ら定めた暴力団排除条項に基づく約款を交わすこととなっているのが通例だ。多くの場合、販売にあたって契約を交わす際に「反社会的勢力に属していますか」というチェック項目がある。もし暴力団組員が「反社ではない」と虚偽の申告をすると、私文書偽造や詐欺容疑などが適用され逮捕されることになる。

 車の購入で暴力団幹部の逮捕が相次ぐようになると、“裏道”から暴力団へ車を供給する悪質ディーラーが登場することになった。警察当局の捜査幹部が解説する。

「事件が相次ぐと相手側も新たな手口を考えるようになってきた。本人名義にすると事件となってしまうので、名義を変えて購入しヤクザの幹部に車を提供するディーラーも出てきた。こうした購入方法についてもかなり捜査した。しかし、次第に手口が巧妙になってきて追い切れていないことも多い」

■記者がヤクザに名義貸して…

 ヤクザと車をめぐっては、2016年12月、フジテレビの30代の元記者が車の購入をめぐり暴力団関係者に名義を貸していたことが発覚。大きな批判を浴びることとなった。

 元記者は問題発覚以前、警視庁記者クラブに所属し、暴力団事件の取材を担当。2013年4月ごろに取材で知り合った暴力団関係者から高級飲食店で20回ほどの接待を受けていた。

 フジテレビは当初、「当社記者の不適切な行動について、視聴者の皆様に心よりおわび申し上げます」とコメント。元記者を休職1カ月の懲戒処分としていたが、この問題は記者倫理が問われただけではなかった。

 年が明けた2017年3月、その元記者が別の男性が購入した乗用車を自身が使うと偽って運輸局に届けていたとして、警視庁が元記者と名義貸しを依頼した男性を電磁的公正証書原本不実記録・同供用容疑で書類送検し刑事事件に発展した。

 名義貸しを依頼した男性は山口組系暴力団と関係があり、車は暴力団組員も使用していたが、2人の関係は車の名義貸しだけではなかった。元記者が相手に約230万円を貸していたことも明らかになった。

 元記者は社内調査に対して、「越えてはいけない一線を越えた自分が甘かった」などと説明したという。元記者は略式起訴され、罰金30万円の略式命令が出されて幕引きとなった。暴力団関係者の男性は罰金40万円だった。

■名義貸しは「懲役20日」との揶揄も

 同様の事件はその後も摘発が相次いだ。

 2018年10月、山口組幹部が高級車の所有者を別人に偽ったとして兵庫県警に電磁的公正証書原本不実記録・同供用の疑いで逮捕された。名義は変更が繰り返されて最終的に逮捕された山口組幹部になっていたという。

 最近では、車検をめぐっても事件化されたケースがある。

 2021年2月、車の車検を死亡した元の所有者の名義で申請していた山口組系弘道会の最高幹部が、有印私文書偽造・同行使容疑で大阪府警に逮捕されている。

 しかし、こうした事件の多くは不起訴処分となり勾留期限の20日間を過ぎると釈放されることが散見される。

 それでも警察当局の幹部は、「このような事件について、『懲役20日』と揶揄する声が警察の内外にあることは承知しているが、逮捕して取り調べて情報収集することにも意義がある。最高幹部クラスだったら、逮捕して社会から隔離することだけでも暴力団組織への揺さぶり、弱体化も期待できる」と強調する。

 前出の昭和の時代を知る指定暴力団幹部が、最近の事情を語る。

「車を使っていないヤクザはいないのではないか。これまで逮捕されているのは各組織の大幹部たち。例えば山口組だけでも数千人いるので目が届くわけがなく、警察は全てを見切れていない。多くのヤクザが様々な形で車を手に入れている」

ステータスシンボルとなる車をめぐって、暴力団と警察当局との攻防が続いている。

「自分は反社だけどスマホを買えるのか?」暴力団幹部が事前に携帯販売店に問い合わせた理由 へ続く

(尾島 正洋/Webオリジナル(特集班))

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