内田也哉子と中野信子が答える“子育て”の疑問「“働く気がしない”という子どもと“相性”が悪くて苦しい…」

内田也哉子と中野信子が答える“子育て”の疑問「“働く気がしない”という子どもと“相性”が悪くて苦しい…」

©文藝春秋

 内田也哉子さんと中野信子さんの共著『 なんで家族を続けるの? 』(文春新書)の刊行を記念して、4月11日に行われたオンライントークイベント。ZoomウェビナーとYouTubeライブ中継( 現在、YouTubeにてアーカイブ動画を公開中 )を合わせて1800名超の視聴者を集めたトークの全貌を公開します。(全6回中の1回目。 #2 、 #3 、 #4 、 #5 、 #6 を読む)

(文:小峰敦子、撮影:山元茂樹/文藝春秋)

■初対談から1年4カ月の集大成

中野信子(以下中野) ご覧いただいている皆さん、ありがとうございます。文春新書『なんで家族を続けるの?』をお買い求めくださっている方も、書店で見かけた方も、ネットで見かけたという方もいらっしゃると思います。今日はその刊行記念ということで、内田也哉子さんと私、中野信子が2時間のトークをお送りいたします。よろしくお願いします。

内田也哉子(以下内田) 内田也哉子と申します、よろしくお願いいたします。緊張していますが、とても楽しみに参りました。2020年1月、今から1年4カ月前に初めて中野信子さんとお会いしたんです。2018年に母の樹木希林が亡くなり、遺品などを展示した「樹木希林展」が横浜のそごう美術館で開催されていたのと、ちょうど「週刊文春WOMAN」の創刊1周年と時期が重なったことで、横浜で「週刊文春WOMAN meets 樹木希林展」というトークイベントをやりました。創刊号から中野さんも私もこの雑誌にそれぞれの連載を持っていたということもありますが、対談するならぜひ中野さんと、という私のたっての願いが叶いました。

中野 もう、光栄でした。

内田 初対面でいきなり、600人の観客のみなさんの前でトークライブを。

中野 ほぼアドリブでした。

内田 それから四季を追うごとに、2人でレストランとかカフェとかで待ち合わせをして、編集の方の立会いなしで。

中野 対談を重ねてまいりまして、そのエッセンスがこの本になりました。

内田 「週刊文春WOMAN」の誌面に掲載されたものもあれば、この本のために対談したものもあって、その集大成として1冊になったわけなんです。今日はありがたいことに、事前に申し込みしてくださった方からたくさんの質問が集まりました。それをもとにお送りしますが、そもそもこの本自体が、私が一人心悩ませていたことを中野さんに吐露し、中野さんがたくさんの知識の中から、それはこうかもしれない、ああかもしれないという禅問答のような内容になっています(笑)。

中野 「作麼生(そもさん)」「説破(せっぱ)」みたいな(笑)。

■喋り方が似ている2人

内田 では早速、皆さんからのご質問にまいります。最初は40代女性から。

Q.【40代女性より】2人が本を出すきっかけは? お互いに似ているところとまったく違うところはどこですか?

内田 本を出すきっかけについては今、お話ししたとおりなんですが、お互いに似ているところとまったく違うところについては、中野さん、いかがでしょうか。

中野 也哉子さんと似ているかもしれないなんて思うことも恥ずかしい、おこがましい気もしますが、しばしば、喋り方が似ていますねって言われます。

内田 え、中野さんは私ほど遅くないと思うけど。

中野 いや、私もすごくゆっくり喋ると思う。言葉を大事にしようと思っているので、お話しするときは言葉を探すから、サーチタイムがかかるんですよ。そのタイミングが、たぶん似ている。言葉を大事にしたい気持ちが似ていると思います。でも、也哉子さんの言葉のチョイスのほうが、私は好きだけどね。

内田 こんな頭脳明晰な方と、言葉を探すスピードはおそらくまったく違いますよ(笑)。そんなふうに言っていただけてありがたいと思いますけど。では、違うところは?

■同い年なのに出来栄えが違うんだなって(笑)

中野 違うところを挙げるとしたら、“育ち”かな。先日、『人生最高レストラン』(TBS系バラエティ番組)に出演されていた本木雅弘さんが、也哉子さんはすごく若い頃から堂々としていたっていうお話をされていましたよね。物事に動じない、いろいろな状況にあっても右往左往せずに、自分がここにいるってことを信じられる感じというのは、やっぱり也哉子さんの肝になるところ、一番の魅力だと思っています。私はといえば、40代になってようやく自分はこうかな、という感じが分かってきたところなので。

内田 それは私がとろくて問題処理が遅いから、黙って座って考えているだけなのに、ふてぶてしく偉そうに見えているだけなんです(笑)。私は、私と中野さんは同い年(同学年)なのに、こんなに出来栄えが違うんだなって思っているんです(笑)。

中野 出来栄え?

内田 2人でお話を深めていくうちに分かったことが、やっぱりそれぞれ、いろんな困難を小さい頃から経験してきて、中野さんも幸か不幸か「みんな人間は一人だ」っていうことを早くに知ってしまった。それで、自分がどう生きたいのかということで、中野さんの場合は「学ぶ」ことで、辛かったことも含めて自分の糧にしていった。それってすごい才能で、どう自分の人生を面白く、楽しませるか。中野さんの場合は「学び」を深めていかれた結果、さまざまな知識を身につけて、それを本などでアウトプットもされているんだけど、私がすごくかっこいいなって思うところは、いろんな負のことを人のせいにしない。それよりも、せっかく生まれたんだから、自分の興味にどんどん邁進していって、その結果、多趣味でもあるし、でもそうかと思うとすごく深く一つの事を掘り下げているし。逆境の乗り越え方としては、なかなか真似できないんです。

中野 すごくいいふうに言ってもらって恐縮です。人のせいにしないっていうのは、確かに美しいように聞こえますけど、実は、人のせいにするのはコスパが悪いんですよ。

内田 (笑)大好き、その話の方向性。

中野 人のせいにすると、その人を変えない限り私の状況も変わらないわけですよ。人を変えるより、自分を変えたほうが早い。自分のせいにするのが問題解決への近道なんですよね。人のせいにするっていうのはコスパが悪いので、あんまりよくない“解”だと気付いたんですよ。

■見方を変えるとレモンも甘い

内田 まさに、私の母がそういう考え方でした。私が人との関係で悩んだり問題を抱えていたりしたとき、「人を変えることはできないから、結局、自分がそこをどう変えていくかでしょ」って言われた。私は「そう言うけど、でも…」ってぐずぐず言っていただけなんですけど。中野さんは早くに、あ、そうか、自分を変えたほうがいいんだと、捉え方を変えていく才能がすごいですよね。

中野 根が面倒くさがりなんでしょうね。見方を変えるとレモンも甘いみたいなことになって。

内田 シュール(笑)! レモンが甘い!

中野 何かそういうことをやっているうちに、大人になってしまった気もします。

内田 それは決して、気を逸らそうというのではなく、オーガニックなかたちで、中野さんは純粋に好きなものを見つけるのがとても上手だと思う。

中野 楽しまないと損だと思っているところがありますね。何かいろいろなものにスタックされて悩んじゃう時期も、もちろんないではなかったんですけれども、悩んじゃう時期が後々の糧になるんだったら、それを私はいいと思う。でも、悩む時期がそのまま腐って崩れ落ちていくようなものなんだったら、それは面白く過ごしたほうが得なんじゃないかな、という気がするの。

■お互いに尊敬し合ってます

内田 いつ頃、そう気が付いたんですか?

中野 けっこう遅い、30歳ぐらいかな。

内田 30歳ぐらいというと、この本にも書かれているように、中野さんは大学や大学院での勉強を終えて、フランスでポスドク(博士研究員)も終わって、バーンアウトしてしまった。それが32〜33歳ですよね。そのとき、あ、私はあと50年もあるって。

中野 50年以上余っちゃったって思った(笑)。

内田 「余っちゃった」という表現がすごく面白い(笑)。ものの見方が、360度あらゆる角度から見たり、あるいは俯瞰して見たりする。私なんかが一個の悩みに囚われてギューッと固まっちゃっているところを、スッと何か菩薩のように。

中野 (笑)そんなことない、そんなことない。

内田 脳科学という道(どう)を使って、中野さんはいろんな人の心をほぐしていったり、解決のヒントを示していったりできる人なんだなって思っています。

中野 いや、もう恐縮です。

内田 いきなり褒め殺しをしたいわけじゃないんだけど、本当にそうなの。なので、違うところだらけなんですが、とても親近感もある。

中野 お互いに尊敬し合っている、という感じです。

内田 ありがとうございます。では2つ目の質問です。

Q.【50代女性より】家族のあり方を考えています。私自身、子どもと相性が合いません。下の子(20)とは問題はなく、どうして上の子(23)とは……と考えると毎日しんどいです。よくよく考えてみると、思考の型というか考え方の基盤が違っていると気が付きました。親といえども自分の考えばかり押し付けてはいけない、と思います。上の子は「誰かに依存して生きていれば楽で、働く気がしない、何もしないことが安全」という考え方。「個人の否定に繋がることはダメ」といった現代の風潮が、親にそのことについて何も言えなくさせ、苦しめています。

?

 質問ですが、根本的に違う性格の家族を、どのように受け止め、自身のなかで消化していかれたのか。もしそうなら、どのような心がけとか、心持ちだったのか、お聞かせいただければありがたいです。

内田 人生相談になっちゃいましたね。

中野 なっちゃいましたね。これは、也哉子さんはどう思いますか?

内田 自分の子どもとどうしても通じ合えないって、切実だと思うんですね。私もたまたま質問者の方と同じくらいの23歳の長男、21歳の長女、それに11歳の次男という3人の子どもがいるんです。同じ親から生まれているのに、一人ひとり、まったく違うんです。そして相性というのもすごくあって、この子とはすんなり話が通じ合えるのに、この子とは通じ合えないっていうことがあります。ただ私も23年、子育てしてみて思うのは、当たり前だけど親子といえども別個の人間だと思えれば、その違いを愛でることができるというか、面白がることができるのではないかということですね。

■固定観念がザーッと崩れていく

中野 相性、ありますよね。親も聖人君子ではないので、この子とは相性が合うけど、この子はうまが合わないとか、どうしてもありますよね。それを後ろめたく思う親御さんがいる一方で、それを当然だと思っている人もいる。例えば、長男だけ可愛がるという人がいます。社会状況とか地域性とか時代性とかありますから、私はそれをどうこう言うつもりもまったくないんです。

 このことについては、ご自分の経験とか、あとは社会的な観点から回答される人が多いと思うので、私は生物学的な観点からお話ししたいと思います。もしも自分とまったく同じ考えで同じように物事を捉える子孫が必要なのであれば、私たちはそもそも有性生殖をすべきではないんですよ。

内田 私、いきなり頭ガツンと殴られて(笑)今までの固定観念がザーッと、崩れていく思いです。そのとおりですね。

■日本で生きるうえでは賢い戦略

中野 私たちは遺伝子的に自分と遠い相手のほうが魅力的に感じるような仕組みを持っている。だからわざわざ自分と遠い相手の遺伝子を半分ずつ混ぜてつくった子どもに、自分と同じことを求めるとは何事だ、と思いませんか。

内田 なるほど。ただ、この質問者の方は、上のお子さんが働く気がない、何もしないことが安全、誰かに依存して生きていけば楽っていうふうに考えていることに悩んでいるようですね。確かに、社会の中では稼いで生きていかなければいけない、一人の人間としてそれは当たり前のことだということはあるにしても、中野さんのマクロな視点からは、こういう上のお子さんのように考える人がいるっていうことについては、どう思いますか? 

中野 「誰かに依存して生きていれば楽で、働く気がしない、何もしないことが安全」と考えるのは、ややだらしない人格のようではあるんですけれど、実は、日本で生きるうえでの最適戦略かもしれないですよ。日本の歴史をよくよく見てみると、誰かに依存しないで独立している人のほうがわりを食っている。働く気はそんな積極的にはないけれどしょうがないから義務の分だけ働きます、という人のほうがオーバーワークにならずに生き延びているように思います。

 何もしないことのほうが安全というのは、本当にそのとおりです。はみ出したら村八分になるという国ですから、これは日本で生きるうえでは賢い戦略だという言い分に一理あるんですよ。しかも、日本人の遺伝的な傾向を見てみると、新しいことにチャレンジしない遺伝子とか、皆と同じでないと不安な遺伝子とか、たとえ間違ったルールであっても皆が従っているから従いますという遺伝子があるんですが、それが多いのですよ。

内田 こういう人がいて当たり前なんですね。というか、むしろ自然な思考?

中野 むしろ自然だと思う。

内田 では中野さんがもし親だったら、こういう成人しているけども自立したくないっていうお子さんをどう思いますか。

中野 「私はこういうふうにして生きてきたのに、お前は何でそうなんだ」と、すごいケンカすると思うけど、子どもが20歳を過ぎたら、「あなたの生き方はそういうふうにすると決めたんだね。では、これからはお母ちゃんは口を出さないけど、援助もしない」と言いますね。

内田 ああ、援助は切る。でも、「子ども部屋にはそのまま住んでいていい」と言いますか。それとも、「光熱費や食費は入れなさい」とか言いますか。

中野 「家は出ていきなさい」って言うと思います。

■子どもとは、なるべく距離をとる

内田 なるほどね。私はこの質問した方の気持ちがすごく分かるんです。私の3人の子どものうち2人はもう成人して、社会人と大学生なんですけど、それでも目に見える範囲にいると気になってしまって、余計な一言を言ってしまうんですね。親子のいい距離感がどのぐらいなのか、難しい。

 私は自分の経験不足もあって、特に最初の子には過干渉になってしまった。長男を産んだのはまだ21歳のときで、今思えば、子どもが子どもを産んじゃったみたいな状況で、子どもたちには申し訳ないなと思うんです。おむつを替えなきゃいけない時から始まって、本当に上手に離れていくことが大切だと思うんですけど、そばにいると、20歳になっても23歳になっても、まだ子どもだ、子どもだって思ってしまうのかな。

中野 側にいると、そうなるのもしかたないと思います。

内田 だから、私たちは早めに子どもを留学させて、物理的に距離をつくったんです。それが誰にでも当てはまるとは思わないけれども、一応ひとりで暮らしてもいい年齢だったら、なるべく距離をとるというのはどうでしょう。私の場合はそうしたことがよかったんです。

中野 私も距離はとるべきだと思うんですね。視聴者の方から、母親との距離のとり方についての質問がありますね。

【続きを読む】内田也哉子「『もう少し樹木希林と距離をおいたら?』とたくさん言われた」 中野信子と考える“普通”の家族とは

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Googleフォーム からの投稿も可能です。
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※優秀作品は各種SNS、ウェブサイト、その他メディアや広告などで、Twitterアカウントとともにご紹介することがあります。また、その他の応募作品についてもTogetterでまとめたり、ご紹介させていただくことがあります。ご了承のうえご応募ください。

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内田也哉子
1976年東京都生まれ。樹木希林、内田裕也の一人娘として生まれ、19歳で本木雅弘と結婚する。エッセイ、翻訳、作詞、ナレーションのほか音楽ユニットsighboatでも活動。著書に『会見記』、『BROOCH』(ともにリトルモア)、樹木希林との共著『9月1日 母からのバトン』、翻訳絵本に『ピン! あなたの こころの つたえかた』(ともにポプラ社)、『こぐまとブランケット 愛されたおもちゃのものがたり』(早川書房)、『ママン 世界中の母のきもち』(パイ インターナショナル)などがある。

中野信子
1975年東京都生まれ。脳科学者。東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。医学博士。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『サイコパス』、『不倫』、ヤマザキマリとの共著『パンデミックの文明論』(すべて文春新書)、『ペルソナ』、熊澤弘との共著『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)などがある。

内田也哉子「『もう少し樹木希林と距離をおいたら?』とたくさん言われた」 中野信子と考える“普通”の家族とは へ続く

(内田 也哉子,中野 信子/週刊文春WOMAN)

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