「これまではヤクザになるか、捕まるかしかなかった」川崎から巣立った人気ラッパーが明かした「中1男子殺害事件」

「これまではヤクザになるか、捕まるかしかなかった」川崎から巣立った人気ラッパーが明かした「中1男子殺害事件」

川崎区の工場 ©細倉真弓

「あの河川敷はリンチをやるときの定番の場所」川崎中1男子殺害 現場を歩いて見た“ディストピア”の現実 から続く

 工業都市・川崎。2015年2月20日、川崎区の多摩川河川敷で、当時17歳〜18歳だった3人の少年が、中学1年の少年Xをカッターナイフで43回切りつけて殺害するという事件が起きた。過酷な住環境の中をヤクザが闊歩し、貧困が連鎖するこの街では、陰惨な中1殺害事件のほかにも、ドヤ街での火災、ヘイト・デモといった暗い事件が続く。その一方で、この街からは熱狂を呼ぶスターも巣立っている。

 ここは地獄か、夢の叶う街か――。負の連鎖を断ち切ろうとする人々の声に耳を傾け、日本の未来の縮図とも言える都市の姿を活写して話題の『 ルポ川崎 』(磯部涼著)から、第1話「ディストピア・川崎サウスサイド」を紹介する(全2回の2回目/ 前編 を読む)

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■“ディズマランド”のような川崎区

 それにしても、地元の不良たちに話を聞いていると、川崎――というか南部に位置する“川崎区”が、まるで、覆面アーティストのバンクシーがつくった“ディズマランド”のように思えてくるというものだ。朽ち果てたシンデレラ城や、横転したカボチャの馬車が並び、壁に「Life isn't always a fairytale(人生はおとぎ話ではない)」と書かれた、ディストピア版ディズニーランド=“Dismal【陰気な】+Land【土地】”は、しかし、現実を反映したものだと評価されている。

 もしくは、メディアがいうところの“川崎国”もまた、日本が抱える問題を凝縮した姿であり、日本の未来の姿であるといえるのかもしれない。同区は外国人住民が多いことでも知られるが、中1殺害事件では主犯格の少年がフィリピン系日本人だったことから、ネットにおいてレイシズムの餌食になってしまった。簡易宿泊所火災事件では、ほとんどの宿泊者が生活保護を受給する老人だったことや、彼らが避難後も簡易宿泊所に戻りたいと希望したことが驚きをもって報じられた。

 そして、そんな地元について話す若者たちは、どこか高揚しているようにさえ思えた。酔客でごった返す駅前の繁華街。「食事をおごるから中1殺害事件について聞かせてほしい」と、あるカップルに声をかけると、彼らはしゃぶしゃぶをリクエストし、片割れの女性は皿に綺麗に並べられた肉を箸でぐちゃぐちゃとかき寄せながら笑った。

「事件の直後はオジさんみたいな人がいっぱいいたから、美味しいものたくさん食べられたよ。でも、なんで今さら、取材してるの?」

■事件をイベントみたいに楽しむ

 坊主頭を金髪に染めた男性も言う。

「前に記者の人が、『こんなに事件を楽しんでる地域は初めてだ』って言ってた。川崎って都会のように見えるかもしれないけど、それは駅前だけで、奥に行くと何もない。やることっていえば、公園に溜まるぐらい。退屈だから、事件をイベントみたいに考えてたヤツも多いと思う」

「あと、人のつながりが狭いから、何かあると情報がLINEであっという間に回るよね。『知ってる?』『まじか!』って。あの事件のときも、『犯人、こいつでしょ』ってすぐに写真が送られてきた」

 女性は整えられた爪がピンク色に光る指先でiPhoneの画面を操作すると、1枚の写真を見せた。そこには、彫りの深い顔立ちで笑う少年が写っていた。

「私、こいつのお姉ちゃんと友達なんですよ。だから、速攻で『噂、回ってるけど?』ってLINEで聞いたら、『いや、あいつ、その日は家にいたよ』って返信があって。でも、お姉ちゃんは六本木に通っちゃってるんで、夜中、家にいるはずない。『絶対、嘘でしょ!』みたいな。ウケるよね」

「オレは、毎朝、事件が起こったところをランニングで通るんですけど、献花の場所はどんな面白いものを置くか、大喜利みたいになってましたよ。コンドームとか。あと、ごそごそしてる人がいるからなんだろうと思ったら、ホームレスがお菓子を根こそぎ袋に詰めてて」

 男性はそう話すと、真剣な顔で肉を追加していいかと聞いた。

■都会の荒野に芽吹いた才能

 一方で、そのような都会の荒野から、新しい生命が芽吹くように登場した才能もある。“BAD HOP”だ。

〈 I'm a Kawasaki South Side Wild Boy Kawasaki South Side Bad Boy 火の粉振り払っていくBoy カマ目つぶったBitch Come Boy 赤く染まる目が映すBAD HOP ERA 逃げ道なんてのねぇな 日々汚れてくぜ手が ガキの頃からそうさ血の付いたカネでメシを食う 「あの子はヤクザの倅、遊んじゃ駄目」と友達の親が言う カエルの子はカエル Ha? 鳶が鷹を産む 腹をくくったガキが目を赤く染め暗闇を歩く ほら居場所を出ればダリい クズどもから白い目を浴びる イバラで血だらけの足で歩く真っ赤に染まる街 東大より高い川崎Streetの偏差値 授業料もビッチじゃ計り知れねぇ見れば誰もがめまい起こすぜ Bow 14の誕生日は単独房で過ごし 外に出れば戻ってくゴロツキの集う裏路地 隣に目ギラつかせた仲間がいた BAD HOP ERA 発祥地は川中島

――BAD HOP「Stay」G-K.I.Dのパートより〉

■にじみ出る不良っぽさと、背景となる過酷な生い立ち

「巷を騒がせている凄惨な事件は、確かに地元・川崎で起きたことです。BAD HOPとはまったくの無関係ですが、新しい『Stay』という曲でも、自分たちがまだ川崎の最悪な環境のどん底にいたときのことを歌いました。そんな場所で、今はヒップホップに可能性を見いだして活動しています」

 川崎区で1995年に生まれたラッパーを中心に構成されているグループ=BAD HOPは、中1殺害事件についての噂が飛び交う真っ直中の2015年3月5日、ツイッター・アカウントにそんな文章を投稿した。当時、インターネットでは、逮捕された3人の背後に黒幕がいるのではないかと面白半分で探る者たちによって、地元が同じだというだけで無関係な若者たちのプライバシーが晒されていた。だからこそ、川崎では名の通った不良だったBAD HOPは、事件とのつながりを否定したわけだが、すでに彼らはそのような地元のしがらみを抜け、上の段階へ進もうとしていた。

 BAD HOPは、2WINことT-PablowとYZERRという双子の兄弟をリーダーとして、Tiji Jojo、Benjazzy、Yellow Pato、Bark、G-K.I.D、Vingo、AKDOW、DJ KENTAというメンバーから成っている(15年当時)。その名前が知られるようになったきっかけはテレビ番組の企画で、10代のラッパーたちがフリースタイル・バトルを繰り広げる「高校生RAP選手権」にて、T-Pablowが第1回大会(12年7月放送)と第4回大会(13年10月放送)の、YZERRが第5回大会(14年4月放送)の優勝を獲得したこと。また、彼らの人気の要因は、ルックスの良さとラップの上手さもさることながら、にじみ出る不良っぽさと、背景となる過酷な生い立ちにあるといっていいだろう。そういったキャラクターにこそ、若者がリアリティを感じる時代なのだ。大人たちはまだ知らないかもしれないが、2人は少年少女の世界ではすでにセレブリティである。

■2WINが川崎を変えた

 この夏、T-PablowとYZERRが地元の祭りに顔を出すと、歓声が上がり、一斉にiPhoneが向けられた。握手を求めて近づいてくる中には、中1殺害事件の被害者と同じ年の男子もいて、彼は2WINにあこがれてラップを始めたと話したという。インターネットのニュースで、件の被害者を同級生たちがフリースタイルで追悼する映像が出回ったが、もはや、川崎の子どもたちの間ではラップをすることは自然なこととなっている。そして、その流れをつくったのは、ほかでもない2WINである。

 Barkは言う。

「オレの弟も中学生なんですけど、ラップをやってるヤツは多いみたい。目標は、やっぱり、『高校生RAP選手権』。2WINが川崎を変えたんですよね。昔は、夜、家をこっそり抜け出して悪さをしてたけど、今は公園に集まってフリースタイルやるっていう」

■ひどい環境から抜け出す手段としてラッパーという選択肢をつくれた

 2WINも感慨深そうに頷く。

「オレらと同世代とか下の世代とかでやんちゃなヤツは、もともと、オレらの名前は知ってたと思うんですよ。そのへんはオレらが仕切ってたんで。逆に言うと、そいつらはオレらがどんな状況にいたかも知ってる。だからこそ、ここまで来たっていうことが本当にすごいとわかるはずだし、それができるラップっていう表現が魅力的に見えたと思う」

「川崎のこのひどい環境から抜け出す手段は、これまで、ヤクザになるか、職人になるか、捕まるかしかなかった。そこにもうひとつ、ラッパーになるっていう選択肢をつくれたかな」

 しかし、T-Pablowの表情は次の瞬間には曇り、苦闘はいまだに終わっていないことが窺えた。

「妬むヤツもいますけどね。『あいつら、上にこき使われてたのに偉そうになって』みたいな」

■不良だったら殺さない

 一方、地元の祭りに2WINと共に足を運んだBAD HOPのメンバーのTiji Jojoは、群衆の中で目に留まった顔にハッとした。それは、前述した中1殺害事件の主犯格・少年Aの姉で、彼女はJojoの中学時代のガールフレンドだった。また、少年Aは2WINやJojoと同じ中学校出身で、ひと学年下に当たる。

「弟に関してはほとんど付き合いはなかったけど、変わってるヤツという印象でした」

「マンガでいうところの、電柱から顔を出してこっちの様子をうかがうキャラみたいな。不良にあこがれがあるけど、輪には入ってこられない」

「同い年にも不良がいるけど、そいつらには太刀打ちができないから、もっと下の子を引き連れるっていう」

「事件のときも、暴力に慣れてないから、止めどころがわからなかったんだと思う」

「不良だったら殺さないよな」

「不良だったら殴られたこともあるし殴ったこともあるから、どこまでやったらまずいかわかる」

「あれは川崎の不良が起こした事件ではなくて、そこからはみだした子が起こした事件ですね」

 あるいは、容疑者たちが、BAD HOPや彼らにあこがれる少年たちのようにラップを始めていれば、結果は違ったのかもしれない。川崎の不良少年は、目隠しをしてタイトロープを渡っているようなものだ。なんとかゴールまで行き着いたBAD HOPは、続く少年たちに手を差し伸べる。しかし、目隠しを取った彼らには、その背後に広がる荒んだ光景がはっきりと見えるのだった。

【つづきを読む】

https://www.premiumcyzo.com/modules/member/2017/12/post_6468/

(磯部 涼/Webオリジナル(特集班))

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