動悸、めまい、疲労感…実はあなたも? 渡辺徹さんも診断された「大動脈弁狭窄症」特徴的なその症状

動悸、めまい、疲労感…実はあなたも? 渡辺徹さんも診断された「大動脈弁狭窄症」特徴的なその症状

俳優の渡辺徹を襲った大動脈弁狭窄症とは ©iStock.com

 俳優の渡辺徹(59)が6月に予定していた舞台の降板を発表した。理由は、大動脈弁狭窄症の治療のため――。

 長く糖尿病を基礎疾患として持つ渡辺。2012年には虚血性心疾患と診断され、カテーテル治療(血管内に細い器具を挿入して狭窄部を内側から膨らませ、ステントという金網を留置して再狭窄を防ぐ治療法)を受けている。また、2016年からは糖尿病性腎不全による人工透析を続けてきたという。

 そんな渡辺を襲った大動脈弁狭窄症とは、いったいどんな病気なのか。

■大動脈弁狭窄症はどんな病気?

 この病気を理解するには、心臓の仕組みを理解する必要がある。

 心臓に4つの“部屋”があるのはご存じの通り。右心房、右心室、左心房、左心室の4区画だ。

 全身から静脈を通って心臓に流れ込んできた血液は、まず右心房に入り、次に右心室を通ると一旦心臓を出て肺に送られる。肺で酸素を与えられた血液は再び心臓に送られてきて、左心房、左心室を経て心臓を出ると、大動脈を通って全身へと送られていく。

 それぞれの部屋の出口には“弁”が設けられている。この弁によって血液は先には進めても戻れない「一方通行のドア」の役割を果たしているのだ。

 弁にはそれぞれ名前が付いている。右心房の出口が「三尖弁」、右心室の出口が「肺動脈弁」、左心房の出口が「僧帽弁」、そして左心室の出口にあるのが「大動脈弁」だ。今回渡辺を襲った病気は、心臓を出て行く血液が最後に通る大動脈弁が機能不全に陥る病気だ。

■大動脈弁は負荷が大きく「傷みやすい」

「心臓の弁が傷んで逆流するようになったり、開閉しづらくなることで、心臓に過度の負担がかかっている状態を総称して『心臓弁膜症』と呼びますが、その中で最も多いのが大動脈弁の狭窄です。大動脈弁は左心室から全身に血液を送り出す“最も力のかかるところ”にある弁なので、他の弁よりも負荷が大きい。なのに、構造はデリケートなので傷みやすいのです」

 と語るのは、大森赤十字病院(東京都大田区)心臓血管外科部長の田鎖治医師。

 大動脈弁に限らず、心臓弁膜症が進むと血液が停滞したり逆流したりして、全身に必要な量の血液を送ることができなくなる。この状態を「心不全」とよび、命に関わる危険な状況を招くことになる。早急かつ的確な治療が必要だ。

■特徴的なその症状

 大動脈弁狭窄症の症状としては、他の弁膜症と同じように「疲れやすい」「疲れがとれない」「階段や坂道を登った時に息切れがする」などがあるが、進行すると狭心症と同じような「胸痛」が出たり、時には「失神」することもあるという。

「大動脈弁狭窄症は他の弁膜症より症状が出始めてからの進行が早く、胸痛が出ると5年以内、失神が起きると3年以内、心不全が起き始めると2年以内に適切な治療を受けないと、半数の人が亡くなってしまう――という報告があります」(田鎖医師、以下同)

 渡辺は過去に虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症などの総称)で血管内治療を受けている。その時まさに「強い疲労」を経験していたことを当時のインタビューで答えている。経験者だけに今回は迅速に対応が取れたのかもしれない。

■治療法は大きく二つ

 大動脈弁狭窄症には、大きく二つの治療法がある。外科的手術と血管内治療だ。

 外科的手術とはその名の通り、胸を切開して直接心臓にアプローチする治療法。狭窄を起こしている弁を人工弁に取り換えることになる。

「一般的には胸の中央をタテに20センチほど切開して手術しますが、近年は数センチの小さな穴をあけて行う“MICS(低侵襲心臓手術)”という術式を導入する施設もあります」

■導入が進む血管内治療

 一方の血管内治療は、かつて渡辺自身も受けている。足の付け根(鼠径部)や腕から血管内にカテーテルを挿入して処置する。狭心症などの場合は狭窄部を膨らませてステントを留置するが、弁膜症は壊れた弁の個所に人工弁を内側から装着する。

「小さく折りたたんだ人工弁をカテーテルで血管内から大動脈弁の場所まで持っていきます。傷んだ弁の内側から人工弁を開くことで、元の弁は圧し潰されて、新しい弁に置き換わる仕組み。人工弁は装着した瞬間から機能して、滞留していた血流が再開します」

 この血管内治療を「TAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)」とよび、近年導入が進んでいる。

■人工弁には生体弁と機械弁の二種類

 ただ、それぞれの治療には一長一短がある――と田鎖医師は指摘する。

「TAVIは手術と違って胸を切開することがないので、低侵襲治療(体へのダメージの小さな治療)として、おもに高齢の患者に広まっています。ただ新しい治療法なので、現状では治療から10年以上の成績が少なく、特に若い人に使用した場合の長期成績に不安が残ります。またTAVIで使える人工弁は生体弁に限られる、という問題もあります」

 ここで出てきた「生体弁」とは人工弁の一種。手術にしても血管内治療にしても、傷んだ弁を人工的に作った弁に取り換える、という点は同じだ。そして、ここで使われる人工弁には、熱分解炭素材で作られた「機械弁」と、ウシやブタの生体組織を材料にして作られた「生体弁」の二種類があるのだ。

 血管内に異物を挿入すると、その異物を中心に血液が凝固し始める。そのままでは血栓症を引き起こすので、それを防ぐためにワーファリンという血栓症予防薬を服用することになる。ただ、ワーファリンの服用期間は弁のタイプによって異なる。生体弁は2〜3カ月の服用で終わるのに対して、機械弁は生涯にわたっての服用が必要となるのだ。

■若い人には手術、高齢なら血管内治療が一般的

 ワーファリンは弱すぎると血栓予防の効果が薄まり、強すぎると出血時に血が止まりにくくなってしまう。そのため長期間にわたって服用する人は定期的に血液検査を行って、適度な濃度を維持する必要がある。

 弁の耐久性もタイプによって異なる。機械弁がほぼ半永久的とされているのに対して、生体弁は10年目あたりから劣化が始まるとされている。

「こうしたことから現在の治療ガイドラインでは、大動脈弁に関しては65歳以上の患者にはワーファリンの服用期間が短い生体弁を、60歳未満の患者には耐久性の高い機械弁を推奨しています」

 ちなみに、手術か、それとも血管内治療か――についても、一定の選択基準が設けられている。

「治療効果が長く持続するという点では手術が、侵襲度の低さの点では血管内治療が有利です。そうしたことを考慮して、70代以下の人は手術、80歳以上には血管内治療、という棲み分けが一般的です」

■本人は異変に気づきづらい

 以上のことから、渡辺のような「還暦近く」の患者が受ける治療を考えるとどうなるのか。

「59歳という年齢であれば、外科手術で機械弁を使うのがオーソドックスな考え方です。ただ、俳優という職業上の理由から審美性を重視するのであれば、MICS手術も選択肢になる可能性はありますが、渡辺さんの年齢から見て、血管内治療が選択肢にあがることはありません」

 過去に虚血性心疾患を患い、糖尿病で人工透析も続けている渡辺は、心臓病のハイリスク群。今回も心臓弁膜症だけでなく2012年に治療を受けた冠動脈に問題が見つかる可能性もある。

「その場合は人工弁に置き換える手術と同時に、冠動脈バイパス手術を行います。心臓弁膜症も狭心症も、動脈硬化によって起きる病気。糖尿病や透析治療を受けている人にとっては珍しいことではありません」

 いつも笑顔で冗談を連発する渡辺が、重篤な病気と闘っていることにあらためて驚きを禁じ得ないが、誰の身に起きても不思議ではない。糖尿病や慢性腎不全の人はもちろんだが、先に挙げた胸痛などの症状を持つ人も十分に気を付ける必要がある。

 症状が常態化していると、あえて病気を疑わなかったり、高齢者の場合は「年齢のせい」と考えてしまうことも少なくない。ただ、家族や周囲の人が異変に気づくこともあるので、そんな時には受診を勧めてほしい。

■こんな症状、ありませんか?

 もう一度心臓弁膜症の特徴的な症状を記しておく。

・動悸
・息切れ、息苦しさ
・胸の痛み(労作時だけの痛みも)
・疲労感、倦怠感
・手足の浮腫み
・めまい
・不整脈

 以上の症状がある人は、一度医療機関(循環器内科、一般内科、総合内科)を受診して、必要に応じて精密検査を受けることをお勧めします。

(長田 昭二)

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