「留置場でヤクザと友達に」ブタ泥棒疑惑での別件逮捕から釈放…ベトナム人“群馬の兄貴”独占インタビュー

ベトナム人不法滞在者の「兄貴ハウス」で「北関東の家畜窃盗事件」主犯格を取材

記事まとめ

  • ベトナム人不法滞在者たちの男女十数人が集まり住む、通称「兄貴ハウス」を訪問した
  • 「北関東家畜窃盗事件」の主犯格とされた"群馬の兄貴"ことレ・ティ・トゥンさんを取材
  • 「留置場で日本のヤクザと友達になった」という兄貴は事実上の別件逮捕で3カ月超勾留

「留置場でヤクザと友達に」ブタ泥棒疑惑での別件逮捕から釈放…ベトナム人“群馬の兄貴”独占インタビュー

「留置場でヤクザと友達に」ブタ泥棒疑惑での別件逮捕から釈放…ベトナム人“群馬の兄貴”独占インタビュー

兄貴ハウス(通称アニハ)で取材に応じる“群馬の兄貴”ことレ・ティ・トゥン。指輪とズボンの独特のセンスは相変わらずだ。(筆者撮影)

 2021年4月5日、私と通訳のTは大量のコメとビールとタバコを抱え、タクシーに乗って群馬県の農道を進んでいた。行き先は これまでの記事 でも紹介した新田上中町の2棟の貸家、ベトナム不法滞在者たちの男女十数人が集まり住む、通称「兄貴ハウス」である。

 相変わらず、家の外には洗濯済みのジャージが乱雑に干されていた。ベトナム人の技能実習生や不法滞在者はジャージとパーカーの着用率が異常に高いのだ。鍵の掛かっていない玄関の引き戸を開けると、安普請の古い木造家屋のカビ臭とベトナム料理の臭いと多数の人間の体臭が入り混じった独特の異臭が鼻に飛び込んでくる。

■「北関東家畜窃盗事件」の主犯格とされた男

 私たちも慣れたものである。挨拶を大声で呼ばわり、返事の声が聞こえたので家にずかずか上がる。すると居間に、屋内なのにネズミ色のコートを着ているスキンヘッドの小柄な中年男が1人で座っていた。この家に暮らす他の不法滞在者たちよりも年かさである。

「シンチャオ。あなたが、“群馬の兄貴”(Anh C? Gunma)ですか?」

「そうだ」

 昨年秋に日本中の耳目を集めた北関東の大規模家畜窃盗事件──。その主犯格とみなされた“群馬の兄貴”ことレ・ティ・トゥン(以下「兄貴」)は、そう言ってうなずいた。両足にリアルな豹の足がプリントされた布のズボンは、海外のチンピラか大阪のおばちゃんぐらいしか着ていないと思える独特のファッションセンスだ。

■兄貴とヤクザとサングラス

 兄貴は2011年から日本で暮らしているらしいが、日本語がほとんど話せない。机の上にあるナイフを手に取り、「まあ食え」と身振りで示しながら柿とオレンジの皮を剥きはじめた。いずれもスーパーのプラスチックパックに入っているので、店で購入したものだろう。

「留置場で日本のヤクザと友達になった。そいつは3000万円を盗んだって言っていたが。写真もあるぞ」

 柿をつまみながら紫煙をくゆらせる。しばらく話していると、なぜか兄貴は自分の荷物を開いて数葉の写真を取り出した。沖縄のビーチで入れ墨をさらしながらくつろいでいる日本人のヤクザの写真である。

 事実上の別件逮捕(後述)が繰り返されたことで、兄貴は3ヶ月以上のブタ箱暮らしを余儀なくされたのだが、「お勤め明け」にもかかわらず更生した様子はない。言動にはそれなりに「悪そう」な雰囲気がある。

 ただ、彼の言動には鷹揚さも感じられた。取材前はもうすこし貧相な人物像をイメージしていたが、本人の様子を見ていると、近隣一帯の不良ベトナム人のリーダー格にふさわしいオーラもある。

「このサングラスは逮捕されたときに警察に押収されたが、釈放されたときに返してもらえた。群馬県警の取り調べは、特に殴られたりはしなかったが、やってないことまで疑われたのは腹が立つな。こんちくしょうめ」

 そう毒づく兄貴を前に、私の取材ははじまった──。

■4回の別件逮捕と迷宮入り

 2020年秋に日本じゅうを騒がせた、北関東における家畜の大量窃盗事件は、実は現在に至るまで真相が解明されていない。

 同年10月26日、群馬県警は事件と関係があると踏んで、兄貴ハウスに暮らすベトナム人の不法滞在者(正確には大部分がすでに入管に出頭済みだったコロナ帰国困難者)の男女13人を入管法違反容疑などで逮捕。さらに隣接する埼玉県警によるものも含めて、昨年10月以降に家畜窃盗がらみとみられる摘発を受けたベトナム人は20人以上におよんだ。

 だが、大規模な逮捕作戦が展開されたにもかかわらず、最後まで窃盗容疑での立件はなされなかった。なかでも主犯格とみられた“群馬の兄貴”ことレ容疑者は、入管法違反(不法残留、偽造在留カード所持)、道交法違反(無免許運転)、さらに同胞の在日ベトナム人に対する逮捕監禁など、勾留期限が切れるたびに事実上の別件逮捕を繰り返された。

 しかし、彼は合計4回の個々の逮捕容疑はすべて認めたいっぽう、家畜窃盗についてだけは否認した。別件逮捕の容疑はいずれも微罪であり、多くは立件されず、彼は4ヶ月あまり後に釈放された。泰山鳴動して兄貴1人の容疑も固まらず、群馬県警の失態とみたほうがよい。

 さておき、釈放された兄貴に連絡を取ってみたところ、あっさりと取材に応じてもらえた。そこで私たちは久しぶりに新田上中町の貸家を訪ねたのだった。

■俺はシロだよ。やるわけないだろ?

 以下は一問一答形式で紹介していこう。

──事実上の別件逮捕が4回も繰り返されるのは、被疑者が日本人であれば社会問題になってもおかしくありません。正確な釈放日時は?

兄貴:釈放は3月3日だ。群馬県警の取り調べでは、暴力や暴言なんかは受けてない。ただ、気持ちのいい態度で接してもらったってわけでは決してないね。

──念のため聞きます。本来の捜査理由だったと思われる家畜窃盗事件は、兄貴は本当に“シロ”ですか?

兄貴:シロだよ。やるわけないだろ? 警察に疑われたが、あれは間違った逮捕だった。俺たちは本庄(埼玉県本庄市)の食肉解体場で肉を買ったんだが、その数日後に捕まったんだよ。だが、血抜きされた豚を買ったときの伝票は残っているわけで、肉は盗品じゃないんだ。仲間の誕生日なんかがあって、肉を多めに買っていただけだ。

──本庄市の食肉解体場に併設されている肉屋ですね。私たちも昨年11月の時点で裏取り取材しています。確かにあの肉屋は、一般のスーパーなんかでは売っていない部位も売ってくれますし、ベトナム人やブラジル人など外国人の御用達みたいです。在日ベトナム寺院の大恩寺にも近い。

兄貴:ああ。しかし、店で買った牛のテールだとかも警察に押収されたぞ。ちくしょうめ。

■やったなら白状している

──別件逮捕された個々の件については容疑を認めていますよね。

兄貴:ああ。まず無免許運転と、不法滞在と……偽造の在留カード所持。俺が持っているカード1枚と、店(当時、経営していたベトナムカラオケ店)にあったカード1枚がそれぞれ捜査で見つかったんだ。どっちも偽造のカードだ。勾留中はどんどん自分の罪が増えていって、頭がおかしくなりそうだったぜ。

──日本にすくなくとも1.5万人以上はいるベトナム人の不法滞在者は、大部分の人が、無免許運転と偽造在留カード所持をやっていますからね。警察がその気になれば誰でも兄貴と同じ目に遭います。ただ、兄貴の場合はほかに、在日ベトナム人の拉致容疑での逮捕もありますね。

兄貴:ああ。あれは人に頼まれた。在日ベトナム人の不法滞在者の若い女だ。

──この拉致の件は容疑を認めたのに立件されず釈放されましたが、どういう事情だったんです?

兄貴:まあ、借金を取り立ててくれってな……。

──これらの容疑は認めたけれど、豚の窃盗はやってない?

兄貴:豚だけじゃなく、ヤギだのニワトリだの牛だのの窃盗も疑われた。取り調べでは、泥棒が農場の子牛を担いで盗んでいく(監視カメラの)映像を見せられて、「心当たりがあるか」なんて尋ねられたが、何も知らないと言った。

──結局、家畜を誰が盗んだかは不明のままですね。ベトナム人だとは思われますが、確証はない。

兄貴:俺は警察の連中にはっきり言ってやったよ? もしも自分がやったことならば、俺は誓って何でも白状してやる。俺の処遇も(日本の官憲が)好きなようにすればいい。だが、本当にやっていないことは認めるわけにはいかねえってな。

■「日本で逮捕され拷問された」と家族が勘違い

──私が最初に取材をおこなった昨年11月時点で、太田市付近のベトナム人たちに聞き込んでいると、当時すでに「兄貴冤罪説」を主張する人が多かったのを思い出します。あなたが警察に疑われた理由は何だったと思いますか?

兄貴:よくわからない。だが、俺がよくFacebookに30〜40人で宴会をやる写真をアップしていたり、ハンドルネームで「群馬の兄貴」なんて名乗っていたものだから、このへんの(ベトナム人の)ボスだと思われたんじゃないか。実際、取り調べではいつもその話を聞かれたよ。くそったれ。

──逮捕後、日本のメディアで大きく報じられていたのは知っていますか?

兄貴:俺は留置場にいるんだから知るわけねえよ。それがわかったのは釈放されてからだ。SNSを見て知って、腹が立ったよ。名誉毀損じゃないか。日本側の報道内容が翻訳されて、在日ベトナム人のSNSグループでも興味本位に取り上げられていて、困った。いろいろな噂が流れていた。

──母国の家族は事情を知っていますか?

兄貴:噂はベトナムにも伝わったらしく、故郷の家族が近所の人間から「お宅の旦那さんはなぜ豚を盗んだんですか」なんて尋ねられたみたいだ。一族の評判まで落ちてしまった。ベトナムでは、日本で逮捕されれば拷問を受けると思われているから、家族はいっそう心配だったらしい。

■TBSが「取材の見返りに助けてくれる」

──日本の新聞やテレビは警察発表をそのまま流す仕組みなので、警察が間違った発表をしてもそのまま報じてしまうんですよね。その後、もちろん謝罪なんかはされていないでしょう?

兄貴:ああ。俺は無免許運転や在留カードの問題で逮捕されているだけなのに、豚泥棒扱いされたのはたまったものじゃない。だが、最近になってTBSとかいう日本のテレビ局がこの家に来た。俺を取材させてくれと言って。

──応じたんですか?

兄貴:まだ撮影していないが、名声を取り戻すための撮影だ。俺は今回の逮捕について名誉毀損の裁判を起こしたいと思っているんだが、TBSの人間が手伝ってくれると言った。それなら、取材を受けるのも悪くないと思うな。

──兄貴としては「オレを見てくれ!」というわけですね。弁護士はどう探すんですか?

兄貴:TBSの人間がいろいろ手伝ってくれるんだ。

──ところで、兄貴は30代後半の割に身体を鍛えている印象ですよね。ボディビルとかやってますか。

兄貴:サッカーぐらいだ。それでも最近は下腹が出てきてしまったよ。

■海千山千の兄貴と冤罪

 事実上の冤罪の被害者とはいえ、兄貴は海千山千の……もっと率直に書けば「怪しげな」人物ではあった。

 彼は自分の利益になること(=自分と家畜窃盗事件は無関係とする主張)はどんどん話すいっぽう、本人の過去について尋ねると不機嫌になったり、結果的には立件されなかったが容疑を認めた拉致事件の詳細はボヤかしたりと、のらりくらりと取材に応じていた。

 TBSが取材に応じる返礼として兄貴の裁判を手伝うという話も、実現するかは不明である。そもそも天下のTBSが、フリーランス(私)が現地に通い詰めて開拓したネタを、取材対象への便宜供与をエサに横からかっさらうような行儀の悪い振る舞いをするわけがなかろう。たぶんオウム幹部にビデオを見せたりもしていないと思う。

 さておき、北関東の家畜窃盗事件の真相については、拙著『 「低度」外国人材 』(KADOKAWA)でも推論を書いている。かいつまんで言えば、兄貴はおそらくこの事件とは深い関係がなく、そもそも一連の家畜窃盗が組織犯罪であるかも怪しい。だが、在日ベトナム人の技能実習生や不法滞在者が多数関係していることは確実だというのが私の見立てである。

 外見と名前のインパクトがありすぎる“群馬の兄貴”の逮捕劇を大々的に報じた日本側の報道が、翻訳されて在日ベトナム人のコミュニティにも大きく流れたためか、昨年末以降に北関東の家畜窃盗は激減したという。兄貴については事実上の誤認逮捕とはいえ、ひとまず犯罪の抑止効果だけはあったのだ。もっとも、あまりスマートな方法ではなかったことも確かである。

(安田 峰俊)

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