「5000万円ぐらいかかっている」“平成の政商”水谷功が実力派演歌歌手にプレゼントを贈り続けた“深い理由”

「5000万円ぐらいかかっている」“平成の政商”水谷功が実力派演歌歌手にプレゼントを贈り続けた“深い理由”

亀井静香氏 ©文藝春秋

関空建設工事で起きた生々しすぎる“官製談合” 1兆円超の工費を司った元官僚による異様な要求の実態とは から続く

 一般には知られていない中堅ゼネコンの社長にもかかわらず、永田町では知らぬ者のいない有名人だった男が、2020年12月17日に帰らぬ人となった。その男の名前は水谷功。小沢一郎事務所の腹心に次々と有罪判決が下された「陸山会事件」をはじめ、数々の“政治とカネ”問題の中心にいた平成の政商だ。

 彼はいったいどのようにして、それほどまでの地位を築き上げたのか。ノンフィクション作家、森功氏の著書『 泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴 』(文春文庫)より、芸能界でも幅を利かせていた男の知られざる正体に迫る。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

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■芸能人、実力政治家、暴力団幹部から贈られた花束

 宮重大根のふとしく立てし宮柱は、ふろふきの熱田の神のみそなわす、七里のわたし浪ゆたかにして、来往の渡船難なく桑名につきたる悦びのあまり……

 泉鏡花が「歌行燈」で描いた三重県桑名の揖斐川沿いの旅籠風景である。船津屋という桑名随一の老舗料亭が、小説のモデルといわれる。その名門、船津屋で水谷功の還暦祝いが開かれた。2005年3月5日のことである。

「えーっ、本来なら、いの一番にオヤジが駆けつけなければならないところですが、申し訳ありません。井上と申します。水谷会長、還暦おめでとうございます」

 3階の大広間に集まった招待客を前にそう挨拶したのが、井上正幸だった。亀井静香の政策秘書である。秘書がオヤジと呼ぶ亀井はこの年、小泉純一郎政権の郵政民営化に反対して自民党を飛び出し、国民新党を旗揚げした。規制改革の流れを止める守旧派の頭目だと非難されても、いっこうに意に介さない。政界に地殻変動が起きるなか、キーマンとして騒乱の渦中に身をおいてきた亀井は多忙を極めていた。

 そんな多忙のなかにあってなお、政策秘書を桑名に派遣するほど、水谷功とは縁が深い。ごく親しい政治家の1人とされる。

 水谷建設の会長だった水谷功の還暦パーティを収録したDVDが手元にある。平成の政商と称されるようになり、絶頂期に開かれた祝いの宴だ。水谷は東北地方でダム工事や原発事業に乗り出し、北朝鮮にまで行動範囲を広げようとしていた。そんな時期だけに、DVDにおさめられている光景は、いかにも華やかだ。

 恐らくこの日の船津屋は、貸切だったのだろう。玄関から廊下、階段、大広間……。ムービーカメラが、料亭の隅々までを舐めるように映し出す。そこには、色鮮やかな祝いの花がびっしりと並んだ。宴に寄せられた花だけを見ても、豪華絢爛である。

 梓みちよ、白竜、小川知子といった芸能人からはじまり、実力政治家の名前もある。かと思えば、関東と関西の二大広域暴力団幹部から贈呈された大きな胡蝶蘭までカメラがとらえている。政界で目を引くのが、「衆議院議員 安倍晋三」という札のついた蘭だ。カメラがそれをアップで撮っていた。

■平成の政商「絶頂期」の還暦祝い

 船津屋で開かれた還暦祝いは、水谷建設が会社として催したというより、水谷功のプライベートな祝いという色合いが強い。来賓や祝いの花を見ても、水谷建設の取引先は意外に少ない。個人的な交友関係を中心に開かれた酒宴といったほうが適切だろう。中央政界から亀井事務所の井上や古賀誠の元秘書たちが駆けつけ、その宴を盛りあげている。ひとしきり来賓の挨拶が終わったあと、水谷建設元社長の川村尚がマイクを握った。小沢一郎の秘書たちに裏金を渡した張本人と報じられてきた人物である。川村が笑顔で挨拶する。

「3日前の朝、水谷会長から電話がありました。『おい、川村、俺、最近、朝立ちがないんやけど、これって異常かな』っていうふうな電話でございました。『わしもバイアグラのお世話にならなあかんな』という。60歳になっても、それくらい元気があるんです」

 還暦祝いで水谷は、川村のことを常務と呼んだ。川村は03年11月に常務から社長に就任しているから、このときすでに1年半近く社長の椅子に座っている。だが、そういう意識さえなかったのだろう。水谷建設における川村は、水谷功の傀儡に過ぎない。ずっと水谷功の太鼓持ちのような存在だった。還暦祝いでも、水谷建設の社長としてのスピーチというより、宴の主役である水谷を登場させるためだけにマイクを握ったかのような印象を受ける。

 その川村による紹介の後、水谷自身が登場した。船津屋の女将から花束を受け取り、長男をそばに立たせて頭をかきながらスピーチする。

「先ほどは常務(の川村)のボケたような挨拶でしたので、この会の趣旨をもう一度説明します。みなさま方にお集まりいただきましたけど、ここへは、私の身内が1人もおらんのです。ただ長男坊主だけが来とるんです。私にはいろいろありますもんですからね。長男坊主がここへ来るから、あとの身内は誰も呼べないわけです。そういうことで、会の趣旨を十分に説明しろ、と常務に言っとったんですが、やはり、どことなく足らん常務でですね、まあ、こんなところでご勘弁願います」

■「ニューイサオミズタニで出直せ」

 船津屋で開いた水谷の還暦パーティには、もう一つの狙いがあった。長男の御披露目だ。水谷功は本妻とのあいだに娘がいるが、息子はいない。愛人に産ませた長男を跡取りとして考えていたようだ。還暦祝いの場にその息子を呼び、水谷建設における経営の後継指名をした。

「ある人から、『水谷さん、還暦を盛大にやらなダメや』と言われました。『なんで?』と聞きましたら、『あなたは今まで悪いことばかりしとる。還暦のお祝いで生まれ変わってニューイサオミズタニになって出直せ』と言われ、この会を催しました。まあ、私の性格で、還暦を迎えてすぐにできるかわかりません。みなさま方に今日までご支援いただいた恩返しを少しでもして、そして私の後を長男坊主が立派に継いでやってくれることを、願っておるわけでございます。私同様足りない息子でございますが、一つよろしくお願いしたいなと思います。何年後かには、『水谷功さんも変わったな』と言われ、この長男坊主が、私の後を継いでくれることを願っておるわけでございます」

■宴を盛りあげた松原のぶえ

 DVDは、人気演歌歌手の松原のぶえを映し出す。宴のゲスト出演だ。「演歌みち」という持ち歌を熱唱する。松原が歌っている最中、水谷が衣装替えをして再び登場した。

 なんと真っ赤なカウボーイ衣装をまとい、着ぐるみの馬にまたがった長男を引き連れている。馬はわざわざフジテレビの大道具から拝借したのだという。真っ赤なカウボーイ衣装は、この日のために35万円もかけて新調したそうだ。

 そして、このあたりから還暦祝いが最高潮に達していく。

「その衣装は誰のデザインや?」

 そうヤジが飛ぶと、水谷が答える。

「(衣装は)のぶえオフィスのマネージャーがデザインしたもんです」

 大広間にハッピー・バースデイ・トゥ・ユーの合唱が響く。そのあと、水谷の隣の長男が短く挨拶した。

「おめでとうございます。これからもがんばってください。よろしくお願いします」

 続いて、松原のぶえがコメントする。

「会長がこんなにも、真っ赤な衣装をうまく着こなせるとは思っていませんでして、びっくりしました。世の中広し、と言えども、これだけ真っ赤を着こなせるのは、会長と郵便ポストくらいかなぁと思っています」

 さすがステージ慣れしているだけあって、ユーモアたっぷりだ。広間の座敷に笑い声がこだまする。松原のぶえは、美空ひばりの「真赤な太陽」をもじった替え歌「真赤な還暦」で、挨拶を締めくくった。

■贈る着物は福島県知事の実家製

 ひところの松原のぶえは、水谷建設のお抱え歌手のように、宴席があるたびにお呼びがかかっていた。その際、身につける衣装は、たいてい水谷功からのプレゼントだ。一世一代の還暦祝いパーティのときも、もちろんそうだった。

 派手好みの水谷功は芸能人のタニマチとして、タレントの面倒を見てきた。ただし、松原のぶえへのプレゼントには、別の意味もある。松原とも親しい水谷建設関係者が、プレゼントの舞台裏を打ち明ける。

「水谷会長は、松原のぶえに何着も着物をプレゼントしています。事件で騒がれたころ、それが一着あたり1億円などと言われましたが、実際は1着400万円から500万円くらいだと思います。それでも全部合わせると、5000万円ぐらいかかっているでしょうね。すべて前福島県知事の実家が経営していた郡山三東スーツのグループでつくっていました」

 事件とは、06年7月、前福島県知事の汚職がらみで水谷が摘発された法人税法違反(脱税)である。東京地検特捜部は、ダム工事の受注を狙った水谷建設が、前知事の実弟が経営する郡山三東スーツの所有地を相場より高値で購入したとして知事たちを摘発した。検察側が描いた元知事、佐藤栄佐久の収賄容疑における賄賂が、その土地購入取引だ。

 だが、起訴後の公判では、土地購入の価格と相場との「差額が不明だ」と認定されてしまう。土地の購入価格が相場と変わらない可能性も否定できない、とされ、一審の東京地裁判決で、前知事は執行猶予判決を勝ち取る。2010年の厚労省の女性元局長の無罪事件ほどではないにしろ、これも検察の大きな汚点に数えられている。

 しかし水谷側に下心がなかったかといえば、決してそうではない。実のところ、水谷建設による知事側への便宜供与は、土地取引だけではなかった。松原のぶえへの着物のプレゼントもその一つである。

■プレゼントのカラクリ

「着物を何着も買ったのは、知事サイドに近づくためです。そこで水谷会長は、02年から05年にかけ、知事の弟や夫人が経営していた郡山三東スーツグループの品物を買うようになりました。松原のぶえの着物だけではありません。水谷建設に出入りする関係者のスーツやコート、土木作業着から地下足袋にいたるまで、あそこでつくっていました。水谷会長のうまいところは、それらを出入りの取引業者に買わせることです」

 松原と親しかった先の水谷建設関係者が、プレゼントのカラクリを明かす。

「月の最終土曜日になると、福島県内にある水谷建設の支社に会長が出向き、そこへ下請けや孫請け業者を集めて会議を開いていました。その日に必ず郡山三東スーツの担当者を呼んでおく。そうして会議が終わると、会議室の隣で衣類の展示会をやらせるのです。お前のところはコートを買えとか、ユニフォームを買えとか、会長が指図する。だから品物がどんどん売れる。業者の人たちは大変でしたね」

 取引業者が洋服や着物を買うだけだから、賄賂には当たらない。よく考えたものだ。つまるところ還暦祝いに招かれた松原のぶえは、そのおこぼれに与っていたことになる。芸能人のなかでも、ことのほか水谷功が気に入っていた。

【前編を読む】 関空建設工事で起きた生々しすぎる“官製談合” 1兆円超の工費を司った元官僚による異様な要求の実態とは

(森 功/文春文庫)

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