不倫相手と“露天風呂付き部屋”に泊まる常連も…旅館の女将が明かす「ヤバい客」へのおもてなし――2020 BEST5

不倫相手と“露天風呂付き部屋”に泊まる常連も…旅館の女将が明かす「ヤバい客」へのおもてなし――2020 BEST5

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2020年(1月〜12月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。ライフ部門の第3位は、こちら!(初公開日 2020年12月8日)。

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 緊急事態宣言下での休業や閉館、さらにはGo Toトラベルキャンペーンの実施など、2020年は宿泊業に大きな注目が集まる1年だった。ステイホーム中に「コロナが落ち着いたら、ゆっくり温泉にでも行きたい……」と思った人も多いはず。そうした温泉旅館に欠かせないのが、日本の「おもてなし文化」を支える“女将”たちの存在だ。

 長年温泉旅館を取材し続けてきた山崎まゆみ氏による『 女将は見た 温泉旅館の表と裏 』(文春文庫)は、そんな女将たちの知られざる日常と“本音”に迫った1冊。同書の中から、5人のベテラン女将たちが“旅館の裏側”を明かした「匿名座談会」の一部を抜粋して公開する。

A:中部地方の温泉旅館に嫁いだ50代女将。

B:関東の温泉旅館の跡取り娘として育った40代女将。

C:関東の温泉旅館を営む50代女将。

D:東北の温泉旅館に嫁いだ40代女将。

E:関東の老舗旅館に嫁いだ40代女将。

■困ったお客様は「いますね〜」

――毎日たくさんのお客様を迎えていますが、困ったお客様はいますか?

一同:いますね〜(笑)。

C:お客様から「お風呂から出て来たら、脱衣所に置いておいたお財布を持っていかれた」と言われました。「すごい高価なものなの」と半べそかいて、「私の後に大浴場へ人が来たはず。顔を見ればわかるから」と、ご自身がチェックアウトする際に「見張るので、玄関にいる」と言い張られて、もう大騒ぎでした。もちろん、お断りしましたので、ものすごくお怒りになってお帰りになったんです。でも、帰宅されてから電話がありまして、「うちにありました」と、さらりと言われました。

A:(笑)。でも電話してきて下さるだけいいじゃない。

C:お客様同士で喧嘩することもあります。消防士の方の宴席だったんですが、殴り合いになって怪我をされて、もう血だらけ。そうした場合は、私たち宿の者は関わらずに、すぐに警察を呼びます。

 喧嘩でもうひとつ。男女でお泊まりのお客様が、深夜にもめたんです。女性が男性に殴られてしまって、「警察を呼んで!」とおっしゃるので、その通りにしたんです。そうしたら翌朝、男性に「警察なんて呼びやがって」と怒られてしまいまして。女性はお帰りの際に「タクシー代を貸してほしい」と言われましたけど、それはお貸ししませんでした。

■早朝に警察がやって来て……

A:以前はお客様同士の喧嘩がたくさんありましたが、最近のお客様はおとなしくなりましたよね。

 警察と言えば、早朝に警察の方がいらっしゃって「この人が泊まっていますよね」と、女性の写真を見せられました。うちは宿ですから、お客様のことを言っていいかどうか分からなくて。まずは事情を聞くと、どうやらその女性は駆け落ちしていて、ご主人から奥様の、まぁその女性ですよね、捜索願いが出されているんだそうです。

 警察の方から「旅館の敷地を出るまでは何もしないので、ここにいていいですか」と、ロビーの隅で待機したいと言われまして。じっとコーヒーを飲んで待っていました。車はパトカーではなくて、普通車でしたね。そのお客様が精算を終えて、外に出て行ってから、警察が追いかけるように宿から出て行きました。その先は見ていませんが。でも、どうしてうちの旅館に来ていたのが分かるのかしらね......。

――やはり、宿には男女のもつれもあるのでしょうか。

B:うちはあまりないんですよね。客室数の多い大型旅館で、団体客を受け入れていますので。

■「いつもありがとうございます」とは言わない理由

――大型旅館より、隠れ家系の宿のほうが、ということでしょうか。

A:うちはお客様の半分くらいがお忍びのご旅行なんです。そしてリピーターさんが多い。今回は奥様と、今回は彼女と、というお客様も少なくない。私は、客室へご挨拶にはうかがわず、宴席の入口に控えているんです。お食事の際にご不便をかけていないかを確認しなくてはいけないので、ご挨拶は食事中に行くんですね。その時は、お客様が何か言ってくれるまでは「いつもありがとうございます」とは決して言わないんです。何度も来ているお客様でも、「初めて来たけどいい宿だね〜」と言われることもあるんですね。その時は、素知らぬ顔で「ありがとうございます」と対応するんです。

D:うちもですよ。スタッフに「いつもは」という言葉は決して使わないことを徹底しています。?

C:奥さんと来た時は安い部屋なのに、愛人と来た時は露天風呂付きの高い部屋ってお客様がいますね〜(笑)。うっかりした風にして、言っちゃおうかしらと思うこともあります。男性って、そうなんですね(笑)。?

一同:あるある(笑)。

A:うちは女の子もありますね。いつも一緒に来る男性が違うという女の子が。

一同:(大きく頷く)

D:お客様がご事情をもし話して下さるのなら、私はそのお客様とは信頼関係があると思います。「今日は家内」、「今日は彼女だよ」と言っていただけるなら、こちらもきちんと対応いたしますから。

■“顧客リスト”には何が書かれている?

A:うちは懐石料理が売りです。お客様も楽しみにして下さいますので、お食事は全て変えるんです。ですから、お客様の食のお好みやアレルギーがあるかどうかは、こちらで全て記録しています。

 ある時、男性のお客様で、前に連れて来られた彼女が「生ものがダメ」という記録がありましたので、同じ女性だと思ってしまって、お連れの女性のお客様にお肉をお出ししたことがあります。そしたらそのお客様が「え、どうして?」と言うんです。

 係の者がびっくりして報告してきたので、私が行って「お刺身は苦手ではなかったですか?」と聞くと、「私、お刺身大好きです」と言われましたので、内心で「アッ」と思いながら、すかさず「申し訳ございません。不慣れな係の者でして、お隣の宴席と間違えてしまったようです。下げさせていただき、新しいものをご用意いたします」と対処しました。こうした場合は「不慣れ」で通しますね。

一同:さすが!(笑)

D:顧客リストも、分けて書いておかなくちゃだわよね。?

A:女性は、髪型がよく変わるじゃないですか。だから丸顔とか四角とか、鼻が高いとか、色が白いとか、そうしたお客様の特徴を全て書いてパソコンに入れておきます。ご夫婦なのか彼女彼氏なのかも書いておきます。もし私がいない時でも、スタッフも見られるようにしておきます。うちはフロントスタッフの子でお客様の顔を一度見たら忘れない子がいて、その子に聞いて、「大丈夫です」と、確認してもらうこともありますね(笑)。でも、どんなに注意しても、間違いってあるんですよね......。

■「主人は誰と来たんですか」

――本妻と愛人で、トラブルになったことはありますか?

A:奥様が乗り込んでくることはありますね。?

C:奥様が家でうちの領収書を見つけたと電話がかかってきたこともありましたね。

「主人は誰と来たんですか」と奥さんに聞かれましたが、「それは言えません」と答えたら、「男ですか、女ですか」とさらに追及されて。「これは、お宅の領収書ですよ。お宅は不倫している二人を泊めるような宿ですか?」と責められても、ね......。どうお使いになるかは、私どもでは......。

B:うちは外線から電話が入っても、折り返しの連絡を承ることは不可にしています。これはスタッフに徹底しています。

■お礼状がアダになることも……

A:私はお礼状を出すんです。でもそれがアダになることもあって......。

 ある日、奥様から電話があって、「お礼状をいただきましたけれど、宅の主人は泊まっていないと思います」と。ご主人を信じていらっしゃるんですね。ですから、私が「本当に失礼なことをお聞きいたしますが、地位とか名誉があるご主人様ではございませんか」と言うと、奥様は「はい」とおっしゃるんです。

 そこで「たくさんの方と名刺交換されているんですね。お客様の中には、有名な方の名刺を使い、泊まられていく方もいます。わたくしどもは『本名ですか』とは聞けませんので、お礼状を出してしまいました」と。そうしたら、奥様はものすごくお喜びになって。それからご夫婦の旅行の思い出を話してくださって、電話を切る時は「今度、泊まってみたいわ〜」と。

――その有名人の名刺を使うという話は、その場で思いついたんですか?

A:そう、とっさに思いつきました(笑)。もちろん、私はうろたえていましたよ。でも電話ですので、こちらの様子は伝わらないですよね。その奥様、電話口で最初はものすごく怒っている風だったんですが、だんだん声のトーンが落ち着いていくのが分かるんです。ここはまだまだ喋らせてからこちらの言い分を言おうとか、そのタイミングは女将をやっているなら、みんな分かっていますよね。変な時に言葉を挟むと、激高されるから(笑)。?

B:宿帳に本名で書かなければいいんですけどね。?

A:だから電話を切ってからすぐに、それ以降はお部屋に置くアンケートに「お礼状を出していいか」という質問項目を作りました。ほとんどの方が「不要」に印を付けますね。

(山崎 まゆみ/文春文庫)

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