「ドヤの一室に切り刻んだ死体を置いとった」大阪・西成の手配師が語った“地獄のような飯場”

「ドヤの一室に切り刻んだ死体を置いとった」大阪・西成の手配師が語った“地獄のような飯場”

老朽化に伴う建て替えのため2019年4月に閉鎖された「あいりんセンター」 ©?花田庚彦

“人が最後に流れ着く街”と称される大阪・西成で暮らす人々は、普段どんな生活をしているのか――。西成の街を徹底取材し、労務者に仕事を斡旋する手配師、非合法薬物を売りさばいた元売人、簡易宿泊所“ドヤ”の管理人、元ヤクザの組長、さらには元シャブ中の男性までインタビューしたフリーライター・花田庚彦氏の著書『 西成で生きる この街に生きる14人の素顔 』(彩図社)が版を重ねている。

 西成の人々の素顔と本音に迫った本作から、一部を抜粋して転載する。(全3回の1回目/ #2 、 #3 を読む)

◆◆◆

■西成で仕事を斡旋する「手配師」の実態とは?

 大阪・西成の朝は早い。

 夜が明ける前から仕事を斡旋する人間、仕事を求める人間たちは取り壊されることが決まってはいるが、未だに西成のシンボルとなっているあいりんセンター周辺に集まる。

 そこではいい条件を求める労働者と、いかに安く人を使うことができるかの手配師が集まり、品定めならず人定めをしているのだ。

 一歩間違えると地獄のような飯場へ行ってしまうという駆け引きが、夜明け前から行われている。

 太陽が昇ったころには、仕事を斡旋された労働者は現場に行くバスやバンに乗り、運がいい人間は支給された弁当を食べることが許されているのだ。

 今回は“いい手配師”と“悪い手配師”の両方に接触することができたので、それぞれの立場からの仕事や人に対する考えを語ってもらった。

 まずは、いい手配師からだ。

■「手数料を抜きたくなかった」

――名前を教えてください。

「上村です」

 仕事を探している西成の労働者に、上村さんを知らない人はいないであろう。外見的な特徴と誠意のある人間性で、現場に仕事を斡旋している人物だ。

――いま人夫出しをされていると紹介を受けたのですが、何人くらい労働者を抱えているのでしょうか。

「ぼくが抱えているのは15人くらいですよ。そんなに抱えても実質面倒見切れないので」

――車いすに乗ってセンターの方に行くんですか。

「基本ぼくはやる気無かったんですよ。元々現場出とった職人なんですよ。脳梗塞で倒れて入院している間も元請けから職人を紹介してくれ、と電話かかってきて。それが積もり積もってこうなったんですよ」

 話の通り、上村さんは車いすに乗っている。

 その姿は西成の取材中に何度も見かけた。

 実際に身体障害者手帳を持っているが、それでも現場から要請があり、労働者を斡旋しているというのは、現場との信頼関係がキチンと築けている証拠であろう。

 当然手配師というのは金銭を抜かないと商売にならない。それは繁華街の街頭に立っているスカウトと同じである。

 その質問を正直にぶつけた。

――ひとりどれくらい抜いているんですか?

「ぼくは最初抜いてなかったんですよ。抜くってどういうことって。ぼくを頼ってきている人とか、真面目な労働者の人たちからお金を取る行為が理解できていなかったですね。だけどぼくも日雇いやっていたときに抜かれて嫌な思いをしていたのを思い出したりしてね。だからぼくは働いてないんやからいいですわ、言うてたんですけどね」

 上村さんは元々日雇いの労働者であった。自分の経験が影響して、今も労働者のことを第一に考えているのがよく分かるエピソードでもある。

――抜かないでしばらく手配師を続けていたんですか?

「しばらく続けましたね、ぼくは貯蓄もあるし、身体が見ての通り動けへんから多少行政からの補助もあるしやね、それを続けていたら見かねた元請けが少しくらい抜けって言い出して。ほかの手配師の立場もあるから1人1000円でも2000円でもいいから引いてくれ、言われましたね」

 元請けが請け負う大きい現場には、多くの労働者が集まる。ひとつの建築現場で、何十人も西成から手配師に連れられて集まってくる場合もあるだろう。

 休憩時間などで、当然自身の日当などの世間話をすることもあるだろう。

 そこで上村さんが抜いていないという待遇をほかの手配師から派遣されている労働者が聞くと、勤労意欲が無くなるからであろうか。

 しかし、人の口に戸は立てられない。

 上村さんが苦労しなくても人が集まるのには、ほかにも理由があるのだろうか。

■「あくどい人夫出しもいる。帰って来れない飯場に人間出したり」

――ということは上村さんが人夫出しをして1日で1、2万円くらいの稼ぎですか。人夫出しを始めてどれくらいですか?

「身体を慣らしながらやっているから、もう1年くらいになるかな」

――仕事は順調ですか?

「コロナでだいぶ工事も減ったし」

――脳梗塞だから身体に麻痺があって実際歩けないわけですよね。

「身体障害者手帳1級ですね」

 と、上村さんは自身の車いすの脇にあるポケットから手帳を取り出して見せる。

――人夫出しすることで気にしていることはありますか?

「元請けはぼくのことを信用して、仕事を出しているわけですから。もちろん現場で粗相がないように時間前に行ってミーティングをしたり、はじめに引き継ぎはしとかなあかん。元請けも信用しているけど、連れて行った人間もぼくのことを信用してるから裏切っちゃ絶対にあかん思ってます。あくどい人夫出しっているじゃないですか、西成って。

 帰って来れない飯場に人間出したり。ホンマに詐欺師のような人夫出しが仰山立ってますからね、ホンマに」

 帰って来れない飯場というのには説明が必要であろう。

 一例を挙げると、山奥の現場に連れて行き、工事が終わるまで人との面会はおろか、山の下の街までも下りられないような嘘みたいな現場である。

 一時期に比べてそのような現場は少なくなったが、未だに西成の人夫出しはこのような現場に人を斡旋しているのだ。

――そういったあくどい人間の見分け方ってありますか? 車に貼ってある条件と違うというのは。

「ぼくは経験したことないから分からんね。文句を言っても山の中に放り出されるし、気づいたときには遅いんとちゃいますかね」

■「ええまあ。指名手配の隠れ場所ですからね」

 ここで話題を変えて、西成で多く囁かれている都市伝説に話を向けた。

――都市伝説ですけど、ダムに工事で死んだ人間が埋められるとかいうじゃないですか。あれって実話ですか?

「実話かどうかは分からないけど、1人は実際に知っているよ。山奥の飯場で使い物にならんようになったら埋めてしまうという。まあそこはその事件が発覚してパクられたけどね。それ以外でもあるんちゃうかな。この地域で住民登録している人間は、ホンマ行政は生活保護を受けている人間しかカウントしとらんやろ。だから人が消えたって“あ、飛んだんや”くらいしか思わへんからな」

 この地域の住民はほとんどが独身だ。所帯を持っているのは市営アパートや山王周辺のアパートなどに住んでいるほんの一握りの人間だけであろう。

 また、身分証がなくてもドヤに長期宿泊も可能であり、よほど密接な関係をドヤの管理人や近隣住民と築いていなければ、いきなりいなくなっても捜索願を出されることは100パーセントないと言い切れる街である。

――実際にそういう話はあるんですね。普段から聞く世界ですか?

「ええまあ。指名手配の隠れ場所ですからね、未だにあいつはここに隠れているのかと思われる人間仰山いますよ」

――市橋達也受刑者などそうでしたね。まだ指名手配犯などいますか?

「顔とかいじったらわからんしね。体型と髪形変えたりしたら近い人間でもホンマに分からへんわ」

――警察から指名手配犯がいるか捜査協力してくれと頼まれたことはないですか?

「それはないね、言われたとしても分からへん言うやろうな。街の仲間のことは言いたくないしな」

 筆者は過去に西成へ取材で訪れた際、“人が何をやってもそれには構うな”と色々な人間に注意されたことがある。

 つまり誰が何をやっても無関心でいろ、という意味であろう。さすがに目の前で人が殺されかけていたり、殺されていたら通報するだろうが、幸いにもそのような物騒な場面には未だに出くわしていないのはラッキーなのであろうか。

――それでは西成という街は、まだ犯罪者が潜伏できる街ですか。

「十分潜伏はできる街やろ。いくら警察が指名手配書を持って歩いていても無駄やな。たとえ隣にその顔の奴が住んどってもぼくは無視しますね。関わり合いたくないし。人を売りたくないから。

 あ、思い出したわ。事件といえば、前にこんな事件がぼくの周りでは過去にあったわ。素泊まりできるドヤの一室に切り刻んだ死体を置いとったことはあった。それは何でわかったかというと、長期でそのドヤを借りとったんやけど本人が帰ってくる様子がなかったんや。家主がおかしいと思って警察に行ったらわかった。犯人は捕まったと思うで。それもよう知らんけどな」

 人情の街大阪と言えども、この街の風景は一風変わっている。

 隣の人をあえて無関心にするのは、過去を詮索しない、してはいけないというこの街独特のルールがあるからではないだろうか。

■「西成の人間は使いやすいんやろうな」

――これからも人夫出しを続けていこうと思いますか。身体障害者手帳の1級を持っているとおっしゃっていましたが、障害年金は月いくらもらえるんでしょう。

「3万円かな。それに皆さんのご厚意で人夫出しをして多少儲けさせてもらっているので、生活費は十分ですわ。別に遊ぶこともあらへんし。ギャンブルはやらんしね」

――いまどれくらい人夫出しの業者はいますか?

「朝方歩いとったら分かるやろうけど、数え切れないほどおるわ。それほどこの西成の人間は使いやすいんやろうな。人がいなくなったらすぐに代わりはおるからな」

――いまコロナで仕事は少ないですか?

「人は余っているでしょうね。いま大きい飯場が仰山あるけど、その半分は休ませとる状態やからね。半分休ませたら、次の日は前日に行かなかった人間を送り出す感じやな、今は」

――雨でもないのに休みだったら本当に働いている人間は大変ですね。

「彼らも働かんと1日寝とっても寮費で3000円は取られるやろ。これに飯が付いたら500円取られる。そこは取られへん良心的な飯場もあるけど、そんなのはホンマに少ない。それで雨の日以外でも休んどったら金も貯まらへんし、飯場追い出されるわ、終いには。そんなことさせたくないから交代で行かせとんのや」

――若い人は人気がありますか?

「そりゃ若いと無理きくしな、身体も。忙しい時期やったら夜勤やってそのまま昼間働いたり、通しでできるやろ。そんな体力があって若い人間はそもそも西成来なくても仕事なんか腐るほどあるやろ。不況や言うても仕事選ばなきゃ若いときは何でもある、そやろ?」

 上村さんは自身の身体が不自由という以前にいい人なのだ。

 話を聞いて、その人当たりの良さで人間味が伝わってくる。

 そのような手配師だけだと、この街で働く労働者も幸せなのだが、それとは正反対な手配師が存在しているのも事実だ。

 ある人間から、その手配師は紹介された。

■“どんな飯場でも連れて行く”手配師の告白

――初めまして。手配師の世界について色々と教えて貰いたいのですが。

「大内(仮名)言います。この手配師の世界では10年以上やっていますから、何でも聞いてください。もちろん答えたくないこともあるから、そこは勘弁してな」

 このように、相手を品定めするような、駆け引きのような会話で取材は始まった。人から紹介された大内さんの売り文句は“どんな飯場でも連れて行く”という物騒なものだった。

――大内さんはどこかの建設会社とか斡旋する会社の社員ですか?

「ワシはフリーな立場で手配師をしています。1つの会社にとらわれたくないというのが一番の理由やけどな」

 大内さんの評判は前もって数人の手配師から聞いていた。

 前は会社勤めをしながら、朝に西成へ来て人を工事現場に斡旋し、そのままやりっぱなしという悪評判だ。

 噂が回り、会社はあいりんセンターでの正規の仕事の斡旋を切られて、周辺の路上だけでの募集になったという。

――今、大内さんは何人くらい労働者を派遣していますか?

「10人以上やろ、その中には泊りで現場作業しとる人間もおるし。常時10人は使っとるのと違うかな、ワシは長年この仕事やっとるから、コロナが流行ろうと、不景気になろうと仕事がまったく減らへんしな」

 先ほど取材した上村さんはコロナで仕事が減ったと語った。

 しかし、一方の大内さんは仕事は減ってないと豪語した。

 果たしてその言葉のどちらが真実なのであろうか。現場に行ったことのない筆者には分からないが、新型コロナウイルスの流行で現場がフルに稼働しているとは到底思えないのが正直な感想だ。

――大内さんは車に貼り紙をして募集しているんですか?

「ワシは車ではやっとらんよ。センターに仕事を探しに来る奴おるやろ。まだ何も道具も持っていない人間や仕事にあぶれた人間。そんなのに声を掛けて募集しとる車に乗せるんや」

 この場所に来たことがある人間であれば、手配師がいる朝方に来ると車に貼り紙が貼ってあるのを見た記憶があるのではないだろうか。

 例えば「土工1万円・寮3000円」とかの大まかな説明文だ。

 この土工というのは、工事の中でも一番下っ端の何でもやらされる仕事だ。

 寮は1泊3000円という意味で、これは仕事がなくても引かれる地味に懐に響く金額である。

 今回のような新型コロナウイルスや長雨が続いたときにはかなりのダメージを喰らうのだ。

■手数料は1日「ひとり2、3000円」

――大内さんはひとりいくらくらい抜いているのですか?

「ワシはそうやな、派遣した現場にもよるけど、ひとり2、3000円やろ。それは本人の日当に関係なくな、そいつらの日当には直接響くことはあらへん。簡単にいえば手数料、斡旋料やな」

――毎日そのくらいの額がひとり頭入ってくるんですか?

「だから派遣した現場による言うてるやろ」

 派遣した現場による、と大内さんは話す。

 また、それは派遣された労働者の日当に響かないとも言っている。

 会社から派遣されていなく、フリーで手配師をしている大内さんの稼ぎは、言い換えれば借金漬けにされて売られている人が商品だということになる。大内さんに派遣された労働者は、初めから借金を背負って働かされているのであろう。

 それが事実なら人身売買と同じであり、明らかに法に違反していることに間違いはない。

 そこを大内さんに確かめた。

――大内さんは労働者を売っているという解釈でいいのですか?

「売っているという言い方はおかしいやないけ。例えば現場の道具を持ってない人間おるやろ。西成に初めて仕事を探しに来たような人間はみんなそうや。それを店で作業着やらいろいろ揃えなきゃあかん。現場でも買うこと出来るけど、それはホンマに高いんや。それをワシが善意で買ってやっとる。それは借金や。当たり前やろ」

――いや、それは仕事で使う道具のことで、私が聞いたのは労働者を売っているのではないかということです。

「それは売ってない、そんなの人身売買やんけ」

 大内さんは否定したが、周囲から聞いた話では大内さんは労働者を売って対価を得ていた。

 それはひとり1日2、3000円で1ヶ月という契約での金額だが、まとまれば大きい金額であろう。安く見積もって2000円として、1ヶ月25日計算でも5万円という金額になる。大内さんが10人派遣しているのが事実なら、50万円という金額が毎月入ってくる計算になるのだ。

 それを毎日あいりんセンターに来て、労働者を見つけるのではなく、寮に入れる人間だけを探して遠い現場に派遣していたのだ。

 当然仕事を辞めたい人間はいるであろう。

 人身売買や強制労働は当然法律で禁止されており、これを破ると重い処罰があるが、大内さんはそれを強い口調で断固否定した。

■「原発も人を仰山送ったな、日当がいいからすぐ集まる」

――今までどんな現場に労働者を派遣しましたか?

「原発も孫請けで人を仰山送ったな、あれは日当がいいから人が集まるんや。それこそ募集したらすぐに人が集まりよる」

 どんな現場でも派遣するという周囲の評判のひとつに原発の仕事があるのであろうか。

 日当が高いという評判だった東日本大震災の原発事故の作業員。果たして大内さんはいくらで派遣していたのであろうか。

――原発は日当がいいと聞いたことがありますが、いくらくらいだったのですか?

「日当は1万2000円やね、寮費も掛かるやろ。原発やから寮費はワシが出しとったな。遠方だから交通費なんかも掛かる」

 あの当時の原発は、誰しもができれば行きたくないと思っていたために、高い賃金を払って雇っていた。きっと元請けはその倍以上の高い値段で請け負ったに違いない。大内さんは元請けから遠い立場なのは想像できるが、それでも大きく抜いたのであろう。ワシが寮費を払った、と大内さんは言い放ったが、当然それを払っても痛くも痒くもなかったからであろう。

■あいりんセンターの周囲には今も立っている

 大内さんの人夫出しの仕組みは分かった。

 初めに借金を労働者に背負わせた上で、人を派遣しているのだ。上村さんとの大きな違いは、派遣された労働者を守るのではなく、いかにして労働者から搾取するかを考えている点だ。

 もちろん上村さんも人を派遣して金銭を抜いている人夫出しだ。しかし仕事に対する情熱や誠意を考えれば、それは当然の対価であろう。

 毎日抜いているか、まとめて抜いているかの違いもあるが、労働者の気分では毎日気持ち良く安全な現場に派遣されたほうがいいだろう。

 上村さんが初めに語った“あくどい人夫出し”というのは大内さんのような形態を取っている人であろう。

 そのような人夫出しはあいりんセンターの周囲には今も立っている。

 また、大内さんのような人夫出しが普通の姿と言えるのが西成の姿である。

( #2 に続く)

「“シャブと注射器”が焼き芋の屋台で売られていた」24時間覚醒剤が買えた街・西成“元売人の告白” へ続く

(花田 庚彦/Webオリジナル(特集班))

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