「ゲームは1日1時間まで」「ゲームは目が悪くなる」に根拠はない? 専門家が語る“ゲーム”と“健康”の決定的な誤解

「ゲームは1日1時間まで」「ゲームは目が悪くなる」に根拠はない? 専門家が語る“ゲーム”と“健康”の決定的な誤解

©iStock.com

麻布→東大のエリートが大学院を中退してプロゲーマーになった理由とは…ときどが明かす“思い詰め続けた日々” から続く

 ゲームの利用時間を制限する異例の条例が香川県で施行されて1年。教育委員会による調査では、「長時間利用は減った一方、依存傾向の割合が増加した」という結果が出た。果たしてゲームの使用を制限する条例に期待通りの効果はあったのか。そもそも、条例に科学的な根拠はあったのだろうか。

 ここでは、ウェルプレイド・ライゼストに所属し、プロゲーマーとして活躍するすいのこ氏の著書『 eスポーツ選手はなぜ勉強ができるのかトッププロゲーマーの「賢くなる力」 』(小学館新書)の一部を抜粋。医師へのインタビューを通じて見えてきた、“ゲーム”と“健康”にまつわる通説の誤解について紹介する。(全2回の2回目/ 前編を読む )

※取材は2020年7月時点

◆◆◆

■香川県「ゲーム条例」の根拠って何だ?

 ゲームを通じた経験で多くを学び、人生を豊かにしてきたトッププロたちの話をここまで紹介してきた。一方で、「ゲームをプレイする危険性」も、たびたび指摘されている。

 話題になっているのが、2020年3月に香川県議会で可決された「ネット・ゲーム依存症対策条例」だ。これは、18歳未満のゲームプレイ時間について、その保護者に、

「平日は1日60分、休日は90分まで」

 というルールを守らせる努力義務を課す内容で、個人がゲームをプレイする時間の目安を規定した、全国初の条例だ。4月1日から施行されたことは新聞やテレビで取り上げられた。

 そう規定する理由として、条例本文にはおおまかに以下のふたつが挙げられている。

(1)プレイ時間が長くなるほど、勉強時間が確保できず成績が下がったり、睡眠障害、視力障害など健康面に悪影響が出たりする

(2)特にオンラインゲームは依存性が高く、薬物依存のような状態に陥ることがある

 条例に違反しても罰則はないが、SNSではゲーマーのみならず多くの人からブーイングが起こり、広く拡散された。

 そもそも「条例で規制するたぐいの問題か?」という疑問がある。私が子供の頃、(厳格に守ってはいなかったものの)親からゲームのプレイ時間について厳しく注意されてきたことはすでに述べた通りだが、家庭のルールは、それぞれの家族が自分たちで考えて決めるものと考えるのが自然だ。

 鳩山由紀夫元首相は、条例案が可決された翌日、Twitterでこう呟いた。

「我が家もかつてゲーム好きの息子に1時間までと約束させたことがあるが、基本は家庭で決めることだ」

 1985年頃から「ゲームは1日1時間!」というフレーズとともに当時の子供に親しまれていた、元ハドソンの宣伝マン「高橋名人」こと高橋利幸さんも、自身のブログでこんな意見を述べていた。

「私としてはマナーやルールとしていうべきであって、国や県が条例などの法律で縛るまでのことではないかなと思っています。同時に、もし条例などにする場合は、子供からビデオゲームを取り上げることになるのですから、その他に遊べる場所などを用意しなければダメだと思います」

■必要なのは科学的根拠

 別の論点もある。「60分」の根拠は何なのか、というものだ。

 香川県高松市に住む高校3年生男子が、「1日に数時間オンラインゲームを楽しんでいるが、それが原因で不登校になったことはない。自分以上のゲーマーには勉強が得意な人だっている」と主張。県を相手取り同条例の違憲訴訟を高松地裁に起こす予定だ。

 ここまで述べてきたように、ゲームによって人生が豊かになったと考えている私自身、この条例は「ゲーム=悪」という結論ありきでスタートしたものに思えてならない。一方で、選挙で選ばれた県議会議員たちが条例案を可決したという事実を重く受け止めなくてはならない。

 必要なのは、科学的根拠に基づいた冷静な議論だと思う。「ゲームのどのようなところに、ハマりすぎる危険があるのか」「ゲームとどう付き合えば、楽しく健康的にプレイできるのか」─そうした問いに、最新の医学はどこまで答えられるのか。当然、かつては“常識”だったことが、のちの研究や検証で“間違い”だと判明していることもある。

 この章では、「ゲームが人体に与える影響」について、さまざまな疑問を専門家である医師に聞いていく。

■なぜ「ゲームは1日1時間」なのか?

 香川県は、なぜ「60分=1時間」以上はダメと決めたのか。

 その根拠とするのは、香川県教委などが県内の小中学生を対象に勉強時間と学力の関係を調べた「アンケート」であり、1時間以上プレイすると子供の脳のはたらきが低下するといったことを明らかにする医学的な根拠は示されていない。ちなみに、前述のように高橋名人が「ゲームは1日1時間」を世に広めたわけだが、そのことについて彼はブログ内で「その時に閃いた言い回しで、全く根拠はありません」としている。

 どこから「60分」という数字が生まれたのか─香川県に問い合わせると、

「複数の調査を参考に、家庭でのルールづくりの目安として規定した」(香川県議会事務局政務調査課)

 との回答。明確な線引きの根拠があるわけではないらしい。

 では、専門家はこの条例の内容をどうみるのか。脳の機能に詳しい神奈川歯科大学附属病院高齢者総合内科の眞鍋雄太教授に聞いた。

■『時間を区切る』ことは大切

「少なくとも私が知る限り、『60分』という数字を分岐点とすることに医学的な根拠はありません。目安には違いないでしょう。『ゲームにハマりすぎて生活が壊れてしまう人がいる』というのはまぎれもない事実ですが、最新の医学で『ゲーム依存が起きる原因』について、全てが解明されているわけではありません。分かっていることとしては、『ゲーム依存の陥りやすさは人それぞれ』ということと、『発達障害など特定の疾患を抱える人はゲーム依存になりやすい可能性がある』ということくらいです。

『60分』に根拠がない一方で、私は『時間を区切る』ということ自体には賛成です。脳の構造上、人間は時間で区切られないと、楽しいことから離れられなくなり、没頭してしまいます。そうなると睡眠が削られます。睡眠を取らないと、記憶力が低下したり、認知症やうつ病などのリスクが増え、心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなったりする。子供についていえば、成長ホルモンが出にくくなってしまい、低身長になるなど成長を妨げてしまいます。きちんと時間を区切ってゲームを遊んでいるのなら、杓子定規に『60分まで』と決める必要はないと思っています」

■「ゲームで目が悪くなる」は本当か?

 ゲームに夢中になってテレビ画面に釘付けになっていると、

「そんなにゲームばかりやっていたら目が悪くなるから、やめなさい!」

 と親から注意された経験はないだろうか。私はある。

 子供の頃は、そんな親の言葉になんとなく説得力を感じていたが、大人になった今、あらためて疑問として沸き上がってくる。

「ゲームをやると本当に目が悪くなるのだろうか?」

 目が悪くなる、にはそもそも近視や乱視などさまざまな原因があるが、ここでは「近視」に絞って話を進めたい。

 視力回復方法や老眼などについての著書がある、眼科専門医の平松類医師(二本松眼科病院)によると、近視とは「目のなかにある、カメラでいうところのレンズ(水晶体)とフィルム(網膜)の距離が離れてしまうことにより、近いところにピントが合いやすくなっている状態」だという。

「諸説ありますが、ひらたくいうと『近いところを見る癖が付いた』ということです。生まれてから成長していく過程で、近くばかり見ていると、生活スタイルに合わせて目が順応していく。『狩猟民族の人は視力が高い』という話を聞いたことがあるかもしれませんが、これは遠くを見る機会が多いため、それに合わせた目になっているということです」

■たった10pの差が大きい

“近くをたくさん見たから近視になる”という理屈なら、ゲームの画面から離れてプレイすれば視力の低下は避けられるということなのか。

「その通りです。昔、『テレビを見ると目が悪くなるよ』といわれていたのは、当時のテレビは近づかないと見えないサイズだったから。テレビが大きくなったのだから、普通に見ていれば十分な距離は取れていると思います。長時間見ても、距離を取れていれば視力への影響はそれほどないでしょう」

 ただ、現実問題として子供の近視は増えている。2019年8月、慶応大学医学部のグループが発表した研究結果によると、都内に住む小学生689人のうち約77%が、中学生では727人のうち約95%が近視だった。平松医師が続ける。

「子供たちが、手元を見る機会が増えたことが原因だと思われます。昔は外に出て遊んだり、本を読んでいたりしたのがテレビになり、テレビがパソコンやスマホに変わってきて、近視が進んだのでしょう。読書か、スマホかでは微妙な違いがある。一般論でいえば、本は30pくらいの距離で読んでいます。でも、スマホや携帯ゲームだと20pくらいになる。たった10pと思うかもしれませんが、この差が大きい」

 テレビが大きくなった一方で、スマホアプリのゲームも増えた。ただし、スマホには動画再生など、ゲーム以外にさまざまな用途がある。そうした状況を踏まえれば、「ゲームで目が悪くなる」という言い方は少し乱暴なのかもしれない。

■目の負担を減らすために休憩を

 また、ゲームをプレイする人の悩みとして切っても切り離せないのが「目の疲れ」だ。

「目が疲れる原因は、ゲームに集中することで瞬きの回数が減るから。瞬きをすることで涙を分泌して乾燥を防いだり、目を休めたりしています。何もしていない時は1分間に30回瞬きをしていますが、読書などでは12〜15回、モニターを見ていると7〜8回程度まで回数が低下するといわれています」

 どうすれば、少しでも目の負担を減らすことができるのか。

「瞬きの回数が減ってしまうことはゲームをプレイしている以上避けられないので、定期的に休憩を入れることが大事です。目安としては、60〜90分に1回程度が良いでしょう。

 目が乾くことも疲れ目の原因なので、加湿器などで湿度を高く保つことも重要です。ホコリや花粉が目に入るとそれがダメージになるので、空気清浄機を置くのも効果的。目薬をこまめに差すのもいいですが、成分が劣化するため開封後1カ月以上経ったものは使用しないよう注意してください」

 前述のように、テレビやモニターから距離を取ることも重要だ。

「きちんと距離を取るためには、30pの長さに切ったひもなど分かりやすいもので指標を作るのが良いでしょう」

 なんと、ときどの「マーダーメジャー(*1)」は理に適っていたのだ。

*1?格闘プロゲーマーのときど氏が、大会の対戦前に自身とモニターとの距離を測るルーティン

■「目が疲れやすいゲーム機」「疲れにくいゲーム機」はあるのか?

 テレビやディスプレイを使う、プレイステーションなどの据え置き機、携帯ゲーム機、スマホなど……さまざまなデバイスでゲームをプレイできる。

 平松医師によれば、「ゲーム機によって、目にかかる負担は変わる」という。

「画面の大きさによって変わる距離だけでなく、『見る角度』『輝度(明るさ)』も重要です。角度や明るさによっては、ドライアイ(乾き目)や視力低下の原因になるといわれています。

 軽視されがちなのが『見る角度』。これは、画面の位置が固定されている据え置き機で生じやすい問題です。人間の目というのは、水平から少し下を見ている時が最も負担が少ない。目安としては、『水平に視線を向けたところから15度下に画面の上端がある』というのが良いでしょう。見上げる角度になっても、これ以上見下ろしてもいけません。特に見上げる角度だと、目を見開かないといけないので、目が疲れやすく、乾きやすくなります」

■悪影響が懸念されるのはゲームだけではない

 ゲームが人生を豊かにする。そう説明しても、「脳に悪影響だ」「目が悪くなる」と批判を受けることがある。その批判は、完全な間違いではないものの、100%正しいわけでもない。専門家の医師に聞いて、あらためてそれがよく分かった。どんなものでも依存性は生じうるし、仕事や遊び、さらには勉強にまでパソコンやタブレット、スマホが使われる機会が増えている以上、目に悪影響が懸念されるのはゲームだけのはずがない。

 世の中には、ゲーム以外にもさまざまなスポーツや趣味があり、それぞれが学びや気付き、他者との交流など、人生に彩りを与えてくれる。ただ、怪我や依存、人間関係のこじれなど、リスクがゼロであるものなど存在しない。ゲームもそれと同様に捉えていいはずだ。

 リスクを正しく認識したうえで、楽しめばいい。「賢くなる力」を備えたトッププロゲーマーの半生から見えてきた「ゲームを通じた気付きや学び、成長の素晴らしさ」は、香川県の条例をはじめとする単純で乱暴な“ゲーム批判”によって否定されるものではない。

【前編を読む】麻布→東大のエリートが大学院を中退してプロゲーマーになった理由とは…ときどが明かす“思い詰め続けた日々”

(すいのこ)

関連記事(外部サイト)