出会いは「売春婦」と「買春客」という関係で…池袋駅西口で体を売る女性(39)が明かす“街娼の恋愛事情”

出会いは「売春婦」と「買春客」という関係で…池袋駅西口で体を売る女性(39)が明かす“街娼の恋愛事情”

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 2020年4月7日、東京都に緊急事態宣言が発令された。あれから1年以上が経つが、新型コロナウイルスの感染状況はいまだ深刻なままだ。健康被害はもちろん、経済に与えた損失もはかり知れない。なかでも性風俗業界で働く女性に与えた打撃は深刻だ。

 ここでは、ノンフィクション作家の中村淳彦氏が、コロナ禍のなかアダルトビジネスに従事し続ける女性たちに直接取材を行い、彼女たちの生の声をまとめた著書『 新型コロナと貧困女子 』(宝島社新書)の一部を抜粋。池袋駅西口で街娼をしながら生計を立てる女性のエピソードを紹介する。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

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■池袋駅西口にある街娼スポット

「立ちんぼ? 北口にいるのは中国人と台湾人、日本人はずっと前から西口駅前って決まってるんだよ」

 美香さんは挨拶もしないうちに、やや乱暴にそう吐き捨てた。彼女は20代から15年間以上、池袋駅西口に立つ街娼だ。池袋駅西口には街娼スポットが2カ所あり、彼女はそのどちらかにいつもいる。

 池袋駅西口前で待ち合わせていた。美香さんは巨漢なのですぐにわかる。目が合った。挨拶するわけでなく、自然と「その場所」に足が向かっていく。

 街娼は違法行為なので女性たちは一般社会とは隔絶されている。長年、その世界で生きる美香さんとは、顔をあわせて挨拶し、主旨を説明して協力してもらうというような一般的な取材者と取材対象者のような感じにはならない。まず大前提として、筆者が“書籍執筆のために取材している”という社会的行為そのものに、彼女はまったく興味がない。

 街娼というと夜や暗闇をイメージするが、池袋の街娼は陽の当たる場所で昼間に活動する。筆者は池袋を日常的に通行するので、「その場所」を何十回、何百回と見たことがあるが、強烈に陽当たりのいい場所でイメージは海水浴場に近い。

 10時から16時が主な活動時間だ。池袋の街娼たちは夜や深夜まで客を待つことはない。午前中、彼女たちはそれぞれが暮らす場所から街娼スポットに“出勤”する。アパートで暮らす単身女性もいれば、ホームレスやネットカフェ難民もいる。そして、午前中のうちに顔なじみの暴力団員が集金にやってくる。彼女たちは黙って暴力団員に1000円札を1枚渡す。

 いわゆるショバ代と呼ばれる“みかじめ料”で、1000円は池袋駅西口で一日、客をとるための料金だ。街娼専業の常連、副業の非常連を合わせて池袋には数人〜十数人の日本人街娼がいる。彼女らは全員、ここで客をとるときはショバ代を支払っている。

 ここで美香さんの外見、風貌を伝えておこう。ものすごく太っている。おそらく体重は120キロを超えているだろう。今日は前面にキャラクターがプリントされたマタニティー用のシャツを着ている。そして、手づくり風の布マスクを顎にかけている。巨乳だ。大きな胸は垂れているのか、お腹のあたりが膨らんでいる。ひと目でブラジャーをしていないことがわかる。そして、歯がない。しゃべりながら見える範囲の歯は、1本もない。歯がなくても滑舌が悪いことはなく、言葉は普通に聞きとることができる。昭和56年生まれ、39歳だという。

 実は美香さんと会うのは2度目で以前にも話したことはあるが、街娼という職業柄なのだろうか、家庭や仕事、雇用など社会全般への興味がいっさいなかった。恋愛だけには若干興味があるようにみえたが、一般社会への興味がないためか“女性の性”を売っているという意識、自分の商品価値を上げるみたいな意識はまったくない。歯がなくても下着をつけていなくても、なにも気にしていない様子だった。

■39歳の“大型アイドル”

「池袋はすごくいいところ。本当にいい。ヤクザはうるさくないし、仲間はたくさんだし、毎日楽しいし」

 美香さんは歯がない唇を開けて、今日初めて笑った。すぐに池袋駅西口近くにある街娼スポットに到着する。男性と女性が大勢いる。男性はボロボロの布をまとったホームレス風、発泡酒を片手に大きな声でしゃべる泥酔者、高齢者。多くの生活用品を自転車にくくりつけて移動するホームレスもいた。

 そして、その集団の中に女性もいる。極端に太った体躯の大きな女性、髪の毛を長年洗っていないと思しき老婆、歯がない中年女性など、男性も女性も「一般的」といえるような人はまったく見当たらない。

 美香さんが到着すると、彼女の名前を叫びながらわらわらと複数の男性たちが群がってくる。酔っている男性が多く、なにか宴会のような雰囲気だ。筆者は少し離れた場所から彼らを見ていたが、大声で語りまくり、時に絶叫し、笑顔まみれで楽しそうだ。完全に3密状態であり、新型コロナ感染や不要不急の外出自粛要請みたいなことは、まったく気にしていない様子だ。

 この宴会のような集いは池袋駅西口のとある場所で、晴天時には毎日行われている。筆者が1週間ほど前にここを通ったときには、彼らの横で豊島区役所職員が拡声器でステイホームや不要不急の外出自粛を呼びかけていた。職員は汗まみれになって叫び続けていたが、彼らは誰一人として気に留めていなかった。

 15分くらい経っただろうか。美香さんに群がる高齢男性の一人が笑顔で叫びながら、彼女のノーブラの巨乳を揉みだした。お腹のあたりの巨乳がブラブラと揺れる。流れに任せて別の高齢男性がもう片方を揉みだして、もはやフィーバー状態である。美香さんはこのセクハラ、痴漢行為を気にする様子もなく、何事もなかったかのように笑っている。

 男性たちの年齢は55〜75歳くらいだろうか。宴を繰り広げるのは午前中から夕方まで。一般的な社会人であれば労働時間である。彼らの属性は無職、日雇い労働者、ホームレス、生活保護受給者、独居老人など。

 生活保護者や独居老人は主に豊島区、板橋区、北区、そして東武東上線や京浜東北線沿いの埼玉県在住で、そこから池袋駅西口に集まってくるようだ。午前中から顔見知りと談笑し、酒盛りしながら盛り上がり、気が向いたらすぐ隣にいる街娼を“買う”こともある。

 一方、女性の年齢は45〜65歳くらいか。30代は美香さんだけだろう。年齢が若いことで男性たちに一番人気のようだ。彼女がこのスポットに現れると、男性たちがすぐにわらわらと集まってきて彼女を取り囲む。そして盛り上がる。彼女はアイドル的な存在であり、太っていても、歯がなくても、まわりの評価は高い。彼女にとって居心地がよく、そのため街娼をずっと続けているのだろう。

 午前中から酒盛りする人々は、異様な雰囲気を醸しだしている。少なくとも「普通」ではなく、貧困層みたいなイメージはひと目でわかる。そのスポットは繁華街、大通りに面していて、一般通行人もメチャメチャ多い場所である。貧困が可視化されているのだ。美香さんを筆頭に常時数人いる街娼たちは、ただその場にいる仲間うちだけではなく、通行する誰かしらからも声をかけられる。そして、価格交渉してホテルや公衆トイレなどに移動して売春をする。

 街娼から男性に声をかけることはない。買いたい男性が寄ってきて、街娼は価格を伝えて応じるだけだ。営業や営業努力みたいなことは基本的に必要なく、日々、宴をしながら遊び半分やノリでお客をとり、肉体関係を通じて相手からお金を渡されている。そのお金で生きていけるようだった。

 男性たちも街娼も、社会的な常識や世間の目、他人との競争、自分をよく見せたい自意識などから解放されている。池袋駅西口にいる男性や街娼は不幸どころか、とても幸せそうに見えた。

■新型コロナで売春価格を1万円に値上げ

 筆者はある人物を通じて美香さんを紹介され、彼女は興味がないので事情がよくわからないまま筆者を相手にしている。同行した池袋の街娼スポットでは、乳揉みまくりのパリピ的な宴が続いていた。彼らは楽しそうだったが、社会や社会的な人物は受けつけないという閉鎖性も感じられる。

 美香さんはいま1万円で売春している。新型コロナで池袋の人通りが減り、その影響で売春の売り上げは半減した。新型コロナ前までは売春価格は5000円から受けつけていたが、客が半減したため5000円で売ることはやめたと言う。彼女の客はリピーターなので苦情はほとんどなく、売り上げは微減程度らしい。

「彼氏? 前はいたよ。何カ月か前までは2人いた。双子のヤクザね。あとストリートミュージシャンの駿君(仮名)ね。駿君はお話しするだけ」

 以前に会ったとき、こんなことを話していた。5000円を彼女に渡し、喫茶店に連れだした。営業自粛要請で池袋の中心地では、ほとんどの店舗が閉まっているか、テイクアウトだけの営業だった。たまたま通りがかった喫茶店が営業していた。ほぼ満席という状態だった。現状の生活を聞きたかったが、筆者は会話のフックになんとなく「彼氏とはどうなったの?」と振ってしまった。すぐにおかしな話になった。

■“彼氏”“元彼”と呼ぶ、セックスフレンドみたいな関係の男性

 売春、双子のヤクザ、カツアゲとひどい単語が飛び出す。美香さんには相手が“なにを、どうして、どんな理由で聞きたいのか”みたいなニュアンスは通用しない。街娼としてずっとチヤホヤされて好き放題に生きているので、話したいことしか話さないというタイプだった。「最初、元彼が双子って知らなかったのね。辰治(仮名)と竜二(仮名)っていうんだけど、見た目はいかにもヤクザ。年齢はよくわからないけど、アタシと同じくらいの年齢なんじゃないの。パンチパーマでジャージ着て、サングラス、クネクネ歩くみたいな。最初は辰治が売春の客で、そのときはいまと同じでホテル別1万円でやった。で、セックスして俺の女になれって口説かれた。セックスもうまかったし、まあ、いいかって。辰治は武闘派のすごくバカで、しのぎはずっとカツアゲみたいなことをしている」

 元彼についての質問に前のめりに答えるので、そこから始めることにした。

 辰治との出会いは、売春婦と買春客という関係。池袋駅西口のあの場所で声をかけられている。客としてセックスしたが、発射後に口説かれて恋愛関係になった。なので、辰治はその後お金を払うことはなかった。それから辰治は夕方以降に街娼スポットに頻繁に来るようになり、週2〜3回の頻度で肉体関係をもつようになった。

 美香さんは辰治を“彼氏”“元彼”と言うが、セックスフレンドみたいな関係のようだ。社会と隔絶したところで生きているので、美香さんの言葉の使い方や意味のニュアンスは一般人のそれとは少し違う。リモートワーク中と思しき隣のサラリーマンには、すべて聞こえている。しかし、池袋ではそんな珍しい話ではない。サラリーマンは、あまり気にしていなかった。

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駅前で20年以上体を売り続けた女性(53)が語るコロナ禍のリアル 常連客の高齢者は「行かない!死にたくない!」 へ続く

(中村 淳彦)

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