“若い女性記者を飼いならし、敵対する記者を完全把握” すべて計算ずくで指名する小池百合子流の“メディア・コントロール術”

“若い女性記者を飼いならし、敵対する記者を完全把握” すべて計算ずくで指名する小池百合子流の“メディア・コントロール術”

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 毎週金曜、午後2時から行われる東京都知事の定例記者会見。落ち着いた様子の小池百合子都知事とは裏腹に、会見開始5分前まで加筆訂正等が行われる現場は、まさにドタバタ劇。

 そんな会見の舞台裏を描いたのが、東京都庁に30年以上勤め、知事のスピーチライター、人事課長を務めた元幹部・澤章氏による『 ハダカの東京都庁 』(文藝春秋)である。同書から一部を抜粋し、定例記者会見の驚くべき裏側を紹介する。

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■会見打ち切りの不思議

 知事の定例記者会見は原則週1回、第一本庁舎6階の会見場で行われる。小池知事は毎週金曜午後2時スタートを旨としている。ネット中継を通じて誰もがリアルタイムで視聴できる。

 会見の主役はもちろん知事だが、主催はあくまで都庁記者クラブと呼ばれる大手メディア各社で構成する団体である。クラブの歴史は古く、都庁が有楽町にあった時代から営々と続いている。新聞社を中心とする「有楽クラブ」とテレビ局などで構成される「鍛冶橋クラブ」が合併したものである。

 以前は、このクラブに所属していなければ会見に参加できなかった。今ではフリーのジャーナリストも含めて自由化され、近年では、ネット系の新興メディアが存在感を増している。

 ネットメディアは小池知事のお気に入りである。既存のメディアは知事に批判的なところが多い。それを嫌って、あえてネットメディアにすり寄ったのだ。ネットメディアも存在感を増したいがゆえに、権力者におもねる態度を隠そうとしない。両者の利害が一致したというわけである。

 定例記者会見に話を戻す。主催者の意向とは関係なく、会見は往々にして知事の都合で一方的に打ち切られる。「それじゃあ、次が最後の質問で……」と記者席を制し、返答が済むと知事はそそくさとドアのほうに向かう。記者席から「まだ、質問が残っていますよ」「〇〇についてどう考えますか?」と声が飛ぶが、知事は振り向くこともなく記者の問いかけを無視していなくなる。

 会見の開始時刻は知事サイドの都合で遅延、変更されるのにもかかわらず、終了時刻だけは予め知事サイドに決定権があることになっている。おかしな話である。会見後のスケジュールの関係はあるにしても、毎回とはいわないが、記者からの質問が尽きるまで対応するのが知事の務めなのではないか。他の自治体ではそうしている知事もいる。

 会見では稀にだが、特定の記者と知事がムキになって言い争う場面があるが、知事は何も、目の前の記者を相手に質疑応答を行っているわけではない。記者の後ろにいる、メディアを視聴する都民・国民に向かって話しかけているはずだ。それを忘れて、記者の質問を無視したりはぐらかしたり、あるいは、こそこそと逃げるように会見場を去る知事に、都民への誠意を感じることはできない。

 小池知事の愛想笑いとドヤ顔、それに不愉快そうな表情をご覧になりたければ、毎週金曜の定例会見をお勧めする。

■謎のペーパーとメディア・コントロール

 会見場で小池知事が懇意の記者しか指名しないことは業界筋ならずとも有名な話である。会見が始まると、担当職員から知事にこっそり手書きのペーパーが手渡される。そこには記者席のどこに、どの社の誰が座っているかが記されている。

 知事はこのペーパーを手元に置き、自分が贔屓(ひいき)にする記者を指名する。知事は首を左右に振って次に指名する記者を探し、ランダムに当てているように見えるが、そんなことはない。誰がどこの記者なのかを把握した上で、完全に計算ずくで指名しているのである。

 だから、批判的な記事を書く記者は最初からマークされ、たとえ手を挙げても質問する機会を与えられることはほとんどない。いつまで経っても指されないので「もう質問するのは諦めました」と心情を私に吐露してくれた全国紙の記者もいたくらいである。逆に、昵懇(じっこん)の記者は毎回のように質問を許され、そのたびに知事から微笑みを返される。その差は歴然である。

 小池知事1期目の初期、知事がまず取り組んだのは若い女性記者の懐柔だった。メディア各社は駆け出しの記者を都庁に配置することが多い。ちょうどいい練習の場なのだろう。その中で女性記者も目立つ。知事は機会を見つけて不慣れな女性記者たちに声をかけ味方に引き入れた。報道番組のMCあがりの知事にとっては朝飯前。自らが女性であることを武器に女性の味方を演出する典型例である。

 知事に気に入られたと勘違いした彼女たちは、会見の場で「休みの日は何をして過ごすか」とか「きょうの服の色は……」とか枝葉末節(しようまっせつ)の質問をして記者仲間の失笑を買っていた。その一方で、前述した通り、自分にとって不利な記者に対しては、徹底的に排除の姿勢で臨んでくる。これが小池流のメディア操作術である。

 さすがメディアの扱いに長けた知事だと喝采を送っている場合ではない。小池知事のメディア懐柔とイメージ操作は、事の本質をベールで覆い隠し、都民の知る権利を気づかないうちに侵害しているのである。

■会見前の打ち合わせが知事最大の関心事

 さて、会見の冒頭は知事からの情報提供タイムだ。質疑の時間はこれが終わってからになる。実はこの会見冒頭の発表ネタを仕込むのが、事業を所管する各局にとって一苦労なのである。

 コロナ禍にあっては都からの発表案件もコロナ対策に限られる傾向にあるが、平時においては何か良いネタはないかと、知事サイドから矢の催促を受ける。毎週必ずメディアの気を引かなければ満足しないのが、小池知事だからである。

 目立つネタ、取り上げてもらえそうなネタが、毎週出てくるはずもない。それでも、乾いた雑巾を絞るように、各局はどうでもいいイベント情報をかき集めては、知事サイドに差し出す。どれだけの時間と労力が費やされたのかを知事本人は知るよしもない。

 ある局の広報担当者がこう表現していた。「毎週のように、知事に持たせる花束を作らされてばかりいる。毎回、違う種類の花でなければ気に入ってもらえないから大変だ。こんな仕事、もううんざり」と。こんな調子だから、せっかく用意された花束は大抵が安物の造花である。

 毎回、小脇にファイルを抱えて会見場に入ってくる小池知事だが、直前までドタバタ劇が繰り広げられていることはあまり知られていない。

 小池都政下、知事への説明で最も重要視されているのは、現下の重要案件でも予算案件でもない。会見のための打ち合わせである。会見での質問に窮することなく、弁舌爽やかに答えられるかどうかが、小池知事最大の関心事に他ならない。そして、会見を乗り切るための強力なツールが、直前まで手を加えられる想定問答集、すなわち、あのファイルなのである。

■数日前から始まる打ち合わせ

 想定問答の打ち合わせは会見の数日前から始まる。一発OKという場合は稀である。何度も練り直しをさせられる。想定問答には、テーマごとに各局から上がってくるものと知事サイドから指示するもの、さらに知事サイドが直接作成するものの3種類がある。特に、旬の話題や政治ネタは会見直前まで確定しない。

 午後1時55分、会見開始まで残り5分を切るまで、知事執務室の中では想定問答の資料に加筆訂正等が行われる。小池知事の言語感覚は鋭い。その場で想定問答のペーパーに鉛筆でさらっと、修正のフレーズを書き入れることもしばしばである。現役時代、私は何度も目撃しているが、敵ながら(?)天晴れと思ったことを覚えている。

 小池知事の自分の発する言葉へのこだわりは並大抵ではない。しかし、それは都民のことを考えてではない。言質を取られないように、言葉尻を捕まえられないように、細心の注意を払っているに過ぎないのだ。こうして自ら手を加えた付箋付きのファイルを抱え、神妙な面持ちで会見場に登場するのである。

 6階会見場は知事定例会見で利用されるだけではない。新規事業や計画の発表時に担当者が説明会場として使用したり、外部の方が会見を開く場合(例えば、知事選への立候補表明や訴訟提起の発表など)もある。

 都の役人が最も恐れるのは、公金横領といった職員の重大な不祥事に関して、メディアに説明・謝罪する場として利用する時である。矢面に立つのは不祥事を起こした本人ではない。所属する局の幹部職員である。局長、所管部長、所管課長、人事担当課長といったフルキャストの責任者が並ぶこともある。

 このお馴染みの謝罪会見、民間では専門家などを交えて事前準備を綿密に行う場合もあると聞くが、都庁の場合はほぼぶっつけ本番である。そもそも個々の管理職にとって一生に一度あるかないかの経験だ。都庁内で謝罪会見のノウハウが蓄積・継承されているはずもない。だから、毎回、初心者集団によるしどろもどろの会見にならざるを得ない。

■謝罪会見のお辞儀(じぎ)の静止時間と角度

 幸か不幸か私は、30数年間の役人人生で3回ほど経験してしまった。初めての謝罪会見はある事業局の不祥事を説明・謝罪する場で、私自身は人事課長として同席を求められたに過ぎず、気軽な気持ちで臨んだ。元上司でもあったある局長が冒頭の謝罪のお辞儀を開始した後、ちょっとした珍事が起こった。

 お辞儀で下げた頭を上げるタイミングをそろえるため、横目で局長を見ていた私は驚いた。この局長、いつまで経っても頭を上げないのだ。こうなりゃ私も意地でも頭を上げないぞと思った。15秒、まだだ。30秒、まだ上げない。会見場の雰囲気がざわつき始めたのがわかった。結局、1分近くは頭を下げていたと思う。誠意を表すにも限度というものがある。過ぎたるは及ばざるがごとしとは正にこのことである。

 お辞儀の静止時間とともに重要なのがその角度、そして複数で頭を下げる際にはどうシンクロさせるかである。

 お手本となる事例が2016年9月30日に起こった。小池知事が初当選し築地市場の移転が延期された直後、豊洲市場の地下にあるべき盛り土がなく、謎の空間の存在が明らかになった。急きょ中央卸売市場次長に命じられた私が取りまとめた「自己検証報告書」の発表の日だった。

 報告書の発表とはいえ、事実上の謝罪会見だった。担当の副知事、市場長そして私の3人が深々と頭を下げる写真が、翌日の新聞各紙を飾った。今見ても美しいお辞儀と言わざるを得ない。事前の打ち合わせが功を奏した。中央の副知事のタイミングに残りの2人が合わせると決めていたのだ。都庁の後輩の皆さんには是非、今後の参考にしていただきたいものである。

■メディアとはギブ・アンド・テイク

 メディアとの付き合いは職層が課長、部長と上がるにつれて増えてくる。局長級ともなれば、記者との個人的なつながりもいくつかできてくる。その時、記者との距離感をどう保つかは難しい問題である。つかず離れずの姿勢をキープする人もいれば、夜の部を交えて敢えてズブズブの関係を築く人もいる。中には、若い女性記者との関係を重視する局長も……。

 記者と役人の関係はギブ・アンド・テイク、情報の貸し借りの世界である。ある時は意図的に情報を流し、ある時はその見返りに手心を加えてもらう。そうした駆け引きの中で記者は特ダネを狙ってくるのである。

 昔の副知事には腹の据わった人物もいたもので、自宅を訪れた新聞記者を招き入れ、酒と食事を共にしてそのまま自宅に泊まらせた挙句、翌日、公用車で都庁に一緒に出勤したというのだ。こんな芸当ができるのも、副知事が都庁の情報をすべてコントロールし、知事に代わってメディア対応を任されていた時代だからである。

 だが、これは過去の話だ。現状のように、知事サイドが厳格な情報統制を敷き、情報漏洩の犯人探しに躍起になっているようでは、副知事の腹芸の出番はもはやない。小池知事の口癖の一つが「ワンボイスで!」である。裏を返せば、自分と違う意見や自分の知らない情報がメディアに流れてしまうことに、神経をとがらせている証左である。ワンボイス・イコール言論統制とまでは言わないが、どこかの国の独裁者が好みそうな言葉である。

■夜討ち朝駆け

 それはさておき、市場移転問題にかかわっていた時期、こんなことがあった。当時の私は様々な記者との情報交換を時時刻刻、行っていた。ある晩、ひとりの新聞記者が私の自宅の呼び鈴を鳴らした。時刻はすでに午後8時を回っていた。私はまだ帰宅していなかった。

「どちら様ですか」と妻がインターホン越しに尋ねた。すると、「夜分にすみません。〇〇新聞ですが……」と答えが返ってきた。モニターを見ると、むさくるしい男が立っている。妻はこう返した。「え? あ、うち、新聞は間に合ってますから。△△新聞、取ってますから」

 そのあと、どんなやり取りがあったのかは知らないが、その記者からメールをもらった私が帰宅すると、玄関で記者と妻が楽しげに立ち話をしていた。わざわざお越しいただかなくても、と私が言うと、記者は苦笑いしながら、いえね、もっとザックバランにお話を聞きたいと思いまして、と分かったようで分からない理屈を口にした。

 夜討ち朝駆けは日常的だった。記者の方々も人の懐に飛び込む術を十分に把握していたのである。

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「ちょっと薄給すぎやしないか」コロナ支出により「給与カットが再び現実のものに…」東京都庁職員のリアルな“給与事情” へ続く

(澤 章/ノンフィクション出版)

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