【暴走事故はなぜ繰り返されるのか?】なぜNHKは元TOKIO山口達也を「元メンバー」と呼ぶのか?《酒気帯び運転で略式起訴・罰金35万円》

【暴走事故はなぜ繰り返されるのか?】なぜNHKは元TOKIO山口達也を「元メンバー」と呼ぶのか?《酒気帯び運転で略式起訴・罰金35万円》

山口達也は否認し、自宅に「ガサ入れ」という異例の事態に発展 ©文藝春秋/共同通信社

 6月28日午後、千葉県八街市で下校途中の小学生の列にトラックが突っ込み、児童5人がはねられた。2人が死亡し、1人が意識不明の重体、2人が重傷。過失運転傷害の疑いで逮捕されたのはトラック運転手・梅澤洋容疑者(60)。梅澤容疑者からは基準値を超えるアルコールが検出されたという。

 くしくも1週間前の21日には、東京・池袋の暴走事故の裁判で、遺族の松永拓也さん(34)が初めて被告人への直接質問を行ったことが大きく報じられたばかりだ。「今も無罪を主張しますか」と問われ、“暴走事故”を起こした旧通産省幹部の飯塚幸三被告(90)はこう答えた。

「心苦しいと思っておりますが、私の記憶では(ブレーキとアクセルの)踏み間違いはしておらず、過失はないものと思っております」

 愛する家族を奪われただけでなく、事故を起こした被告の無罪主張を聞かされる遺族の心痛は察するに余り有る。

 平和な日常を突然奪う“暴走事故”は、なぜ繰り返されるのか。近年、「文春オンライン」特集班が“暴走事故”について報じた複数の記事を再公開する。(初出2020年12月1日、肩書き、年齢等は当時のまま)。

 道交法違反(酒気帯び運転)罪で東京区検に略式起訴され、東京簡裁が罰金35万円の略式命令を出した元TOKIOの山口達也(48)の事件は一段落を迎えたが、それと同時にメディアにちょっとした異変も見られた。山口の呼称が媒体によって微妙に違うのだ。「容疑者」呼称のままのメディアもあれば、「さん」づけ、果ては「元メンバー」という曰く付きの呼称を採用したメディアもある。(原稿の性質上、敬称略します)

 逮捕・釈放された9月とは打って変わって静かな扱いだった。11月18日、「略式起訴」のニュースが短い枠で淡々と報じられた。

 翌19日、山口本人の謝罪文も発表。アルコール依存症に悩んでいたことも認めた。

 だが、肝心の本人の呼び方はばらけた。

 NHKはじめテレビ、ほとんどの全国紙、スポーツ紙は「山口達也元メンバー」とする一方、読売新聞は「山口達也容疑者」と逮捕時の呼称のまま、共同通信は「山口達也さん」、とさん付けで報じた。

 こと呼称に関しては横並びが多いメディアがここまで多彩な表現をするのも珍しい。特に「元メンバー」なる呼称は普段使われることはなく、違和感があるが、由来は「新しい地図」の稲垣吾郎がSMAP在籍時に逮捕されたときに遡る。

■「メンバー」呼称の誕生

 稲垣が逮捕されたのは2001年8月のこと。駐車禁止場所に駐車中、警察官の呼びかけを振り切って発進したことから道交法違反と公務執行妨害の疑いで逮捕された。2日後に釈放されたとき、テレビ上、稲垣容疑者は稲垣メンバーに変わった。

「芸能事務所への忖度ではないか」と話題にもなったが、厳密に言えば忖度でも何でもない。メディアの呼称の基本原則に沿っているといえば沿っているからだ。

 一般に販売されている共同通信社の記者ハンドブックにも、基本的に、逮捕時は容疑者呼称、釈放時は肩書き呼称、と定められている。例えばどこかの会社のA社長が逮捕されれば「A容疑者」、釈放されれば転じて「A社長」となる。

 だが、稲垣のような芸能人に肩書きはなく、「メンバー」という肩書きが編み出されたのが実情のようだ。

 そうであれば、逆に釈放後の呼称は元メンバーで統一されてもよさそうなものだが、そうもいかない背景には「容疑者」呼称の歴史がある。

■冤罪防ぐため誕生した「容疑者」呼称

 そもそも、「容疑者」というのはメディアが編み出した用語。警察では逮捕された人物は本来、「被疑者」であり、付け加えれば、起訴された人物は司法手続き上、「被告人」であって「被告」ではない。被告もメディア用語なのだ。

 容疑者が使われるようになったのは1980年代だ。死刑囚の再審無罪が相次いだ時代でもある。それまで逮捕された被疑者についてメディアは呼び捨てだったのを、あくまで無罪の可能性もある人物として、むしろ犯人視を避けるため、表現を和らげるため、用い始めた。NHKが嚆矢とされる。

 週刊文春の「疑惑の銃弾」報道も転機のひとつ。妻への保険金支払いをめぐる「ロス疑惑」は警察が動く前の調査報道でもあったが、犯人視する報道が過熱。三浦和義(故人)に対し、NHKは容疑者呼称を使い始めていた。

 決定打とされるのは、女性殺人事件の容疑者として逮捕され、メディアに呼び捨てで「犯罪のプロ」呼ばわりされた小野悦男をめぐる報道だった。

 60〜70年代にかけて若い女性が強姦されて殺害される事件が相次ぎ、首都圏女性連続殺人事件と呼ばれた。その事件の一つとされた松戸OL殺人事件で逮捕された小野に対し、メディアは他の殺人事件に対しても犯人視報道を続けたが、証拠が足りず、86年に判決が下ったのは松戸の事件についてだけで、弁護士などから猛烈な批判を受けた。

 89年、各社は相次いで容疑者呼称に踏み切った。平成に改元されたこの年は死刑囚の再審無罪、東京都足立区の女子高生コンクリート詰め殺人事件、連続幼女誘拐殺人事件での宮ア勤の逮捕などが相次ぎ、過剰報道への批判が続いた年でもあった。

 小野は結局、自白強要なども問題視され91年には高裁で無罪判決。冤罪のヒーローとなった。

 ちなみに小野の名前が再びクローズアップされるのは96年。別の殺人事件で逮捕された。その時、逮捕の決め手となったのは遺体から検出されたDNA。自白偏重から物的証拠重視の捜査の流れを一人で体現することになった。当時、小野に容疑者呼称が用いられたのはいうまでもない。

■さらなる転機 池袋暴走事故の「上級国民」騒動

 読売新聞が「容疑者」呼称を通したのも、この呼称が人権への配慮から始まったことを考慮したものだろう。警察当局の扱いでは、強制捜査であれ任意捜査であれ、「被疑者」であることに変わりはない。

 容疑者呼称の継続にさらに影響したとみられるのが、2019年の池袋暴走事故だ。自転車に乗っていた母親と幼い子供が亡くなったこの悲惨な事故で、車を運転していた飯塚幸三は高齢・体調不良のため逮捕されなかっただけで、肩書き呼称とされるのに違和感が生じ、ネット上では「上級国民」扱いなどと話題が沸騰。多くのメディアは容疑者呼称に踏み切った。

 当初は呼び捨て表現を和らげるために使われた「容疑者」呼称。稲垣吾郎の事件では逆に表現が強すぎるとされて一部メディアで「メンバー」に差し替えられたが、池袋事故では逆に任意捜査でも「容疑者」が使われるようになり、より幅の広い表現になり始めたともいえる。

 今度、山口達也がメディアに登場するときは、どんな肩書きになるのか。社長、代表、現メンバー……。前向きな呼称であることを願うばかりだ。

(末家 覚三/Webオリジナル(特集班))

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