家1軒に5400本もの尿入りペットボトルがあることも…「つらい」「気が狂う」ゴミ屋敷清掃員が目にした“悲惨な現場”

家1軒に5400本もの尿入りペットボトルがあることも…「つらい」「気が狂う」ゴミ屋敷清掃員が目にした“悲惨な現場”

撮影=笹井恵里子

 うずたかく積み上がったゴミ山に登り、虫が湧いている箇所に手を突っ込み、放置された排泄物を片付けて……。「きつい」「汚い」「危険」な要素が含まれている労働を称す「3K」のなかでも、とりわけ厳しいゴミ屋敷清掃の仕事。

 なぜゴミ屋敷は生まれ、その状態のまま放置してしまうのだろうか。ジャーナリストの笹井恵里子氏は作業員の一人として片付けを手伝い、その取材をまとめた 『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ) を上梓した。ここでは同書の一部を抜粋。ゴミ屋敷清掃現場の実態を紹介する。

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■家族それぞれがゴミ山を

 家族と一緒に暮らしていても、「不和」が原因でゴミ屋敷になることもある。

 再び8月の暑い夏の日、神奈川県の高級住宅街の一角にある戸建て内を片付ける仕事が始まった。10人弱の男性スタッフで取りかかり、5日間行う。私は初日の作業に加わらせてもらった。

「作業服のボタンは上までしっかり締めてください。服の中に虫やダニが入ってきます。マスクも二重にして鼻からあごまで覆うこと。帽子や手袋も着用してくださいね」

 先輩作業員から注意を受けて慌てて身なりを整える。

「目をつぶって!」

 今度は石見さん(編集部注:生前・遺品整理会社「あんしんネット」の事業部長)が私に声をかける。防護服の上から全身くまなく虫除けスプレーをかけられた。

 作業1日目である本日は、2トントラックが満タンになるまでゴミを搬出して、家の中の動線を確保することが目標。

 しかし玄関を開けると、いきなり高さ190センチ程度のゴミ山があって中に入れない。ひとまず全員で玄関まわりのゴミ山を搬出しようということになった。何層にも積み重なったゴミはカチコチに固まっていて、一人がクワでゴミをかきだし、それを皆がいつもの引っ越しに使うサイズの段ボールに投げこんでいく。バッサーン、ズッドーンと鈍い音がする。滝のように汗が流れ出るが、強烈に汚れた手ではぬぐうこともできず目にしみた。

 ゴミの内容を見ていると、家主がいなくなったのはつい最近だが、ここはもうずっと前から時が止まっていたのがわかる。

■「余計な感情を入れてはダメ」

 およそ20年前の「週刊新潮」や「週刊朝日」、地下鉄サリン事件を起こす前のオウム真理教が載った新聞など、ゴミ山下方の内容物は1995年近辺が多い。つまり25年前から少しずつゴミが積まれていったのだろう。

「よっぽど地元愛が強いんだなー」

 アルバイトの作業員が横浜FCの応援グッズを見て口にする。そうなのだ。タオルや旗、人形、パンフレットなど多岐にわたる応援グッズが大量に出てくる。一度も開封されていない、梱包されたままの新品応援グッズもある。可愛らしい「くまのプーさん」のぬいぐるみを廃棄用の段ボールに投げこむ時、胸が痛んだ。新品の人形の上に、汚れたゴミをどんどん積んでいくのはどうしても抵抗がある。

  せめて段ボールの一番上に積もうと箱の外に出しておくと、石見さんがめざとく「これは何?」とぬいぐるみの存在に気づいた。理由を話すと、「余計な感情を入れてはダメ」と諭され、段ボールにぬいぐるみを投げこまれてしまった。物に感情を入れると、作業後に自分が苦しく、重くなってしまうという。

■ゴミシェルター

 今回のゴミは、その種類が多岐にわたっていて“家族の存在”を思い起こさせる。

 この家族は、複雑な家庭環境だったそうだ。家主であるA男さんは結婚して、二人の息子をもうけた。一人は養子になって他家へ行き、もう一人の子供と妻との三人で生活を送るものの、妻が病死。その後、A男さんはおよそ30年前にB子さんと再婚をした。しかしまもなくA男さんが亡くなる。A男さんの息子と、血のつながらないB子さんが残されたわけだ。ちょうどこの頃からゴミがたまり始めたようだ、と石見さんは分析する。

「ゴミの内容から1階がB子さん、2階が息子エリアと、生活圏が完全に二つに分かれている。仲が悪かったことがうかがえます。家庭内不和により“家”という共同体意識がなくなったのでしょう。私はゴミシェルターと呼びますが、他(家族)を寄せ付けず、それぞれがゴミ山で自分を守っているように見えます」

 自分を守るゴミシェルター。本人にとってそのシェルターは一つの作品であり、自分が作り上げた作品を守っていきたい、さらに強固な物に仕上げたいという心理が働いているように思える、と石見さんが補足する。

 居住者にとってゴミが自分を守ってくれる唯一のアイテムということかもしれない。

 しかし、高齢となったB子さんはゴミ屋敷の生活にたまりかねたのか、ここ数年の間に家から逃げ出し、遺産として譲り受けた自身の実家に戻った。だが、そこもゴミ屋敷に。近隣からの苦情で発覚し、B子さんは施設へ入所となった。そしてその時点で息子の姿は元の家になかったという。

■“親子”でゴミ屋敷化が増加

 実は現在も息子の行方はわからない。今回の整理(清掃)依頼は、A男さんの親戚からである。家を取り壊す場合でも、中に物(ゴミ)がある状態では解体作業ができないためだ。

 血縁関係のない二人でゴミ屋敷を築き、その二人が離れたあとも、それぞれの場所でゴミ屋敷が形成されるのが私は不思議でならなかったが、石見さんは「よくあること」と繰り返す。

「ゴミ屋敷のゴミレベルに慣れると、場所を移動してもまた同じようになる。我々にとって厄介な案件は、このように“親子”でゴミ屋敷化するパターンです。今、増えてきているんですよ。子供といっても40代から50代くらいのため行政が介入しづらい。大抵は高齢の親の財産を食いつぶしながら生活していて、再建が容易ではありません」

 ここまで進行すると、家族の誰かが死ぬか、体調を崩すかしなければ終止符を打てないという。

■大量に発見された“ションペット”

 ところで今回の2階の息子エリアからは、あとから茶色のペットボトルが大量に発見された。中身は尿だ。重度のゴミ屋敷だとトイレが使えなくなるため、居住者はペットボトルで用を足すようになる。作業員の間で“ションペット”と呼ばれる。

「ゴミ屋敷が日常化してしまうと、トイレはペットボトルという感覚になるんでしょう」と、石見さんは言う。

「家の中に1本見つかれば、普通は100本以上出てきます。私はゴミ屋敷を“戦地”のようなものだと捉え、戦略を練って突撃する気持ちで作業(掃除)に臨んでいます。

 ションペットもある種、爆弾。かつてはこの烏龍茶が入っているような茶色のペットボトルを発見しても何かわからず、時にはうっかり踏んでしまって周囲に漏れてしまったり、破裂したりして大変な目に遭いました。今はペットボトルを見たら疑います」

 ションペットを見つけたら、漏れないように専用のハードな衣装ケースに収容して、会社(あんしんネット)まで持ち帰る。そして1本ずつ中身の尿をトイレに流さなければならない。

■「つらい」「気が狂う」

「ゴミ屋敷の現場で尿を捨てると、臭気でご近所の迷惑になってしまいますから、会社に戻ってから流すしかないんです。1階のトイレで流していると、2階まで臭気があがってきます。これまでの最高記録は1軒に5400本のションペットがありました。もちろんすべてフタを開けて、中身をトイレに捨てました。防毒ガスマスクを着用してやりましたよ」

 この尿をトイレでひたすら流す作業については、誰もが「つらい」「気が狂う」と言う。時には吐いてしまう作業員もいると聞いた。ションペットの処理作業に慣れはなく、長年の経験を積む石見さんでさえも「これをやる時は一切の思考を停止させて、ほぼ無心で動いている」と話す。

「正常な感覚で臨むと、頭がおかしくなるかもしれません。みんな本音はやりたくないですし、それをやらせるほうもまた覚悟がいります」

 ちなみにこの作業をアルバイトが行う時は、通常の時給に“20%程度の上増し”がされる。あるアルバイト作業員が怒ったように言う。

「社会的にきちんとしている人ほど、部屋にションペットがあったりするんですよ。お茶の先生、学校の先生、医療関係者とか。人前できちんとしすぎているから、家の中がイカれちゃうんじゃないんですか。靴箱にションペットがずらりと並んでいたこともありました。そんな現場では、よく社員さんから指導される“依頼人の心に寄り添う”なんて絶対無理ですね」

■ゴミ屋敷にしてしまう人は『感情労働』が多い

 社会的にきちんとしている人の部屋に、ションペットがある。私が現場で驚いたことの一つである。

 これについて早稲田大学の石田光規教授は「ゴミ屋敷にしてしまう人は、『感情労働』が多いといわれている」と指摘する。感情労働とは、相手(顧客や患者)の精神を特別な状態に導くため、本来の感情を抑圧して業務の遂行を求められる労働のことだ。

「業務の対象が“人”であるため、感情を自分で作りあげるのです。医療従事者や先生と呼ばれる職種が代表的で、人と接する時に一定の役割を要求されます。そちらでがんばりすぎて消耗しきってしまい、家の中まで気が回らないという面はあるでしょう」

 肉体労働や頭脳を使った仕事をして疲れたら休息するように、感情労働の人も、「人」に疲れたら一人になりたいと思うにちがいない。しかしその結果、家の中の「物」を動かす力が残らなくなる。その人をサポートする力が求められる。

(笹井 恵里子)

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