「もうええわ!」大阪カラオケパブ女性オーナー刺殺 容疑者がキレた“身勝手すぎる理由”――2021上半期BEST5

「もうええわ!」大阪カラオケパブ女性オーナー刺殺 容疑者がキレた“身勝手すぎる理由”――2021上半期BEST5

亡くなった稲田真優子さん 友人提供

2021年上半期(1月〜6月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。事件部門の第2位は、こちら!(初公開日 2021年6月22日)。

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「ヒロシという男を知っていますか」

 天満駅から徒歩30秒のところにあるカラオケバー「ラブリッシュ」でマネジャーを務めるりほさん(24)が大阪府警捜査一課の刑事とそんなやりとりを交わしたのは、6月14日の15時頃だった。

 この日、普段は出勤の直前まで眠っているりほさんは昼過ぎに友人からの電話で起こされ、天満で殺人事件が起こっていたことを知った。続いて、別の店のオーナーからの電話で、その事件の被害者が稲田真優子さん(25)である可能性を告げられた。寝ぼけていたりほさんの頭が真っ白になる。

 とはいえ被害者が特定されたわけではない。一縷の望みにかけて稲田さんの無事を祈った。りほさん自身の安否を心配するLINEも数多く届いていたが、とても返信する気にはならなかった。

 だが、しばらくすると殺害現場が稲田さんがオーナーとして今年1月にオープンしたカラオケパブ「ごまちゃん」で、被害者が稲田さん本人であることが判明した。ラブリッシュは稲田さんが16年5月から昨年7月まで「まゆ」という源氏名でアルバイトをしていた店であり、りほさんが入店した4年前、新人指導を担当したのが稲田さんだった。以来、稲田さんはりほさんを妹のように可愛がり、りほさんも姉のように慕っていた。

■後輩に対しても常に敬語だった

「まゆさんは、お客様にも、そして私たちにも常に敬語で接していました。私が『敬語で話すのはやめてくださいよー』と言うと、『りほさんが敬語をやめない限りやめません』と。礼儀正しく、本当に可愛らしい女性で、人気がありました。私は11月が誕生日で、まゆさんは12月。誕生日月の売り上げを競いましょうと話していたんですが、とてもかないませんでした」

 以下、稲田さんのことは「まゆさん」、もしくは私を含めた常連客に親しまれた愛称の「まゆ太郎」と表記する。

 事件の直後から、まゆさんの前職場である「ラブリッシュ」周辺には多くの報道陣が集まった。だが男性オーナーからの指示もあり、りほさんはすべての取材を断り、店でも積極的に語ろうとはしなかった。そんな彼女が、私の取材にだけ応じるのは、私がまゆさんと2年来の友人であることを彼女も知っていたからだ。

■「警察に協力したってや」

 まゆさんが遺体で発見された14日の夕方、りほさんのもとに連絡がつかなかったオーナーから連絡が入った。

「ヒロシって男を知ってるか? 普段、あんまり店にはおれへん俺にはお客様のことはわからないから、警察に協力したってや」

 りほさんはそう依頼された。やがてやってきた警察車両に乗り込んで質問を受けた。刑事がまず口にしたのが冒頭の言葉だった。

「まゆさんに関わりのある“ヒロシさん”と聞いて思い当たるのは1人しかいなかった。そこで私がスマホに保存していたヒロシさんの写真を警察の方に見せると、『そいつそいつ』と。その後、免許証の写真を見せられたあと、今度はどこかの駅の改札を通るヒロシさんと、どこかの建物に入っていくヒロシさんの画像を出してきました。私は『この人はヒロシさんで間違いありません』と証言しました」

 他の男を疑っている様子はなかった。知人男性らが無残な姿のまゆさんを発見し、110番通報してからわずか4時間ほどで府警は容疑者を宮本浩志容疑者に絞り込んでいたことがわかる。

■警察に見せられた2枚の画像

 4年ほど前から「ラブリッシュ」を訪れていたという宮本容疑者は、まゆさんがラブリッシュを退店して今年1月にカラオケパブ「ごまちゃん」をオープンさせてからも、時折ふらっと「ラブリッシュ」にもやってきていた。その際は必ずまゆさんと仲の良かったりほさんが接客にあたっていた。つまりりほさんは、まゆさんと宮本容疑者を誰よりも知る近しい人物だ。

「その日もう一度警察から連絡があって、『やっぱり今日中に調書を作りたい』と言われました。私は用事を急いで済ませ、20時過ぎに警察の方に迎えに来てもらって、大阪府警の本庁に向かいました。そこで改めて見せられたのは、『ごまちゃん』の入ったビルの防犯カメラの画像です」

 時刻が表示された画像は2枚あった。19時過ぎにビルに宮本容疑者が入っていく姿と、22時頃にビルを出て行く姿。宮本容疑者はいつものスーツ姿で、3ウェイのバッグをリュックサックにして背負っていた。警察は、犯行時の宮本容疑者の服装を発表していない。宮本容疑者はまゆさんともうひとりのスタッフに見送られたあと、スタッフが帰るまでビル内に潜み、帰ったタイミングを見計らって強行に及んだとされる。殺害後は、まゆさんが導入していた店内の監視カメラを外し、SDカードを抜き取って立ち去ったと見られている。

■「常連の方で、ただひとり連絡がなかったのが…」

 スーツに平たい3ウェイバッグ。私の記憶にある宮本容疑者の出で立ちもそれだ。私は宮本容疑者をたびたび、ラブリッシュで見かけていた。いつも早い時間にひとりでやってきて、キーの外れた高い声で、アニメやアイドルグループ・嵐の曲を、ひとりで連続して歌っていた。

 こうしたカラオケのできるバーやスナックなどで、他の客が曲を入れなくても、ひとりが独占して歌い続けるのはマナー違反だろう。まして、歌が下手なら余計に耳障りだ。

「事件後、お客様から心配の連絡が私のスマホにも200件以上ありました。常連の方で、ただひとり連絡がなかったのがヒロシさんでした」

「ラブリッシュ」で働いていた女性スタッフは、宮本容疑者がまゆさんに向ける視線に一方的な好意が含まれることに気付いていた。

「見た目は普通のサラリーマン。こういうお店には少し不似合いな印象を受けていました。そういう人がお店にやってきては『これ、まゆに』とお土産を渡していた。店内で口説くようなことはさすがになかったけど『好きなんやな』とはみんなが思っていました。ただ、そういう男性はヒロシさんだけだったかというと、そうじゃない。とにかく、まゆさんのファンは多かったです」

 スタッフの中で話題になっていたのは、宮本容疑者が持ってきていたお土産の“中身”だ。

「まゆさんは甘いものが苦手だったんです」

 常連客だった私も一度だけ、山形から大阪に向かった際、お土産でさくらんぼを使った洋菓子を持って行ったことがある。一口食べながら「実は甘いものが得意ではなく……」と恐縮されたことを覚えている。そして、「みなさんにお配りしてもいいですか」と、常連客に配ってあげていた。

「そんなまゆさんに、ヒロシさんはショートケーキ、チョコレート、クッキーなど、甘いお菓子ばかり買ってきていました。まゆさんに『甘いものは苦手だと伝えたらどうですか』というと、『言ったんですけど、甘いものを好きになって欲しいから持ってくるんだ』って……」

■左手の薬指には指輪が

 店内での宮本容疑者は、もの静かにいいちこの薄い水割りを飲み続け、他の客と積極的にからもうとはしなかった。無論、それはカラオケを歌っていない時間だけだ。

「昔は週に1回ぐらい。1時間だけ飲んで、さっと帰って行くことが多かった。頻繁に通うようになったのは、コロナが流行りだしてからだと思います。緊急事態宣言とかで、お客様ガクッとが減ったじゃないですか。そうした時期にお店に来ると、人気のまゆさんと長い時間、話すことができるんです。その頃から来店の頻度がどんどん増え、滞在時間も延びていきました」

 逮捕前に有力な容疑者としてメディアの間で出回っていた宮本浩志容疑者の写真には、左手の薬指に指輪がはめられていた。一方的に思いを寄せて凶行に及んだとされる犯人が、妻帯者だったことが明らかになれば、この事件の見方は大きく変わっていく――そんな気がしていた。

■事件の前日、30分間マイクを離さなかった

 りほさんが話す。

「ヒロシさんは結婚していることを店で隠していませんでしたね。確か、娘さんがふたりいるはずです。会社から天満が近いので平日に来ることが多かったんですが、たまに土日にいらっしゃった時は『家族には天満で用事があると話して家を出て来た』と話していました」

 宮本容疑者が最後に「ラブリッシュ」を訪れたのはいつか。そう訊ねると、りほさんは衝撃の事実を口にした。

「実は、事件の前日(6月10日)、ヒロシさんはラブリッシュにも来ていたんです」

 その日も、接客にあたったのはりほさんだった。

「オープンの19時にお店に来て、1時間ぴったりの20時に帰って行かれました。30分はいつもと変わらないような話をしていました。私が『最近は飲んでいたんですか?』と聞くと、『奥さんとワインを飲むよ』と。奥様がお酒が好きなことは以前から聞いていました。そして、残りの30分は『歌いたい』といって、ずっとカラオケのマイクを離しませんでしたね。当然『ごまちゃん』にも通っていたと思うんですけど、その日は定休日の木曜日で、しかも緊急事態宣言中の『ごまちゃん』はカラオケを中止していたから、ヒロシさんも歌いたかったんだと思います」

 退店後、お礼のやりとりを幾度か交わし、最後に宮本容疑者がスタンプを送ってきたのは翌11日の7時、つまりまゆさんが殺害された当日だったことになる。

■目当ての女性と話せず激昂

 りほさんは時期は覚えていないと断ったうえで、まゆさんと宮本容疑者との間に小さな“トラブル”があったことを話してくれた。

「一度まゆさん目当てのお客様が5〜6組集中したことがあって。特定のお客様ばかり接客するわけにはいかないので、なかなかヒロシさんにつけなかったんです。しびれを切らしたヒロシさんが『もうええわ!』と急に怒り出し、まだ時間が残っているのに会計を済ませて帰ってしまって……」

 このエピソードを聞いて、私ははたと思い出した。私もこの日、ラブリッシュを訪れていたのだ。左側の席に座っていた男性客が、突然立ち上がって帰って行くのを目撃していた。ラブリッシュはガールズバーのような形態をとったカラオケバーで、必ずしもお目当ての女性が接客にあたってくれる店ではない。それなのに目当ての女性=まゆさんと話せないからと激昂して帰って行く。

 大人気ないな、と思ったものだ。こんなことは人気者ならよくあることだ。好意を寄せるのであれば、恥も外聞もなく、なぜわざわざ嫌われるような衝動的な行動に出るのか。ただ、私がラブリッシュに足を運んで間もない時期で、おそらく2年前ぐらいだったから、その男性客の顔を失念していた。宮本容疑者の存在が脳裏に焼き付いたのは、そのずっとあとであり、宮本容疑者が来店する頻度が増えていた時期に重なる。

■「まゆがどこで何をしているのか…」

 まゆさんが「ラブリッシュ」を退店する昨年7月頃、まゆさんと宮本容疑者の間で何かしらトラブルが起き、「もうお店に来ないでください」と一度は伝えていたと「ごまちゃん」のスタッフが証言している。りほさんが首をかしげながら、こう話す。

「私はその件について何もしらないんです。ただ、まゆさんがやめてから、ごまちゃんのオープン準備に入るまでの2カ月だけ別な地域のお店で働いていた時期がある。その頃、ラブリッシュにやってきたヒロシさんが『まゆがどこで何をしているのか、聞いても教えてくれないんだ』と話していたことは覚えています」

 一度は関係が切れていたまゆさんと宮本容疑者に、再び接触するきっかけがあったとするなら、「ごまちゃん」のオープンだろう。

 かつては週に一度、仕事終わりにラブリッシュに通うだけだった宮本容疑者は、店の看板娘だった30歳以上も年下のまゆさんに強い好意を寄せた。店で働く女性や常連客の目を気にすることなく、まゆさんに対する執着と、まゆさんが接客する常連客に対する強い嫉妬心をあからさまに表出した。カラオケのマイクを独占し続けるかのごとく、毎日のように彼女のもとへと通い続け、いつしか独占欲を増幅させていった。

 その先に待っていたのは――。

「まゆ太郎」として多くの常連客に愛された稲田真優子さんの殺害事件が発覚して以来、私のもとにはいくつかのメディアからコメントを求められたが、文責の伴わない依頼はすべて断った。誰にも優しく「自分の店をオープンする」という夢に懸命だった彼女の素顔を伝え、生きた証の一端を伝えることが、直接彼女を知る私の使命のように感じていた。それは果たせただろうか。

 宮本容疑者は逮捕から4日が経った現在も容疑を否認し続けている。

(柳川 悠二/Webオリジナル(特集班))

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