「5分間も動画を見るのはしんどいじゃないですか」30秒で道がわかる時代へ…シンプル発想の“駅案内サービス”がすごいらしい

「5分間も動画を見るのはしんどいじゃないですか」30秒で道がわかる時代へ…シンプル発想の“駅案内サービス”がすごいらしい

日本が誇る巨大ターミナル「大阪」は複雑で迷子になりやすい

巨大地下街、混在する駅名、オカルト怪談…“超難度ダンジョン駅”「大阪」には何がある? から続く

 延々と大阪・梅田駅をさまよい歩き、心底疲れ果てたのである。

 こちらはさまよい歩くことそのものが目的だったので自業自得だ。だからいいのだが、これほどに複雑だと、初めてやってきた人は自力で歩こうとすればほぼ間違いなく迷う。仮にスムーズに目的地にたどり着けたとしても、それは運がよかっただけだろう。まあとにかく、大阪・梅田駅は複雑なのだ。

 こういう攻略に手間取る難解ターミナル、なんとかならないものなんですかね……。

 などと愚痴をこぼしていたら、JR西日本の広報氏が言う。「あるんですよ。いま、開発しているんです。複雑なターミナルもわかりやすく道案内してくれる技術を」??。

■「一度撮影した異なる場所ならどんな経路でも…」

 ほう。もし本当にそんなものがあればありがたい。ただ、まさか「駅のあちこちにマップを掲示して」とかそんなものじゃないですよね……。

「いえいえ。実際に目的地まで歩いている様子を動画で撮影し、それを早回しで見せてくれる技術です。『ミラプス・ガイド』といいまして、単なる道案内動画とは異なり、一度撮影したことのある場所ならば、どんな経路でも道案内動画を生成してくれる、そういうものなんですよ」

 ……と言われても、申し訳ないけれどいまひとつピンとこなかった。それじゃあYouTubeなどに上がっている道案内動画やGoogleマップのストリートビューなどとどこがどう違うのだろうか。もっと詳しく教えてください……。

■よくある道案内と何が違うの?

 そんなわけで、担当者に詳しく話を聞くことにした。対応してくれたのはJR西日本創造本部の柳一登さん、そして実際に技術開発を担う株式会社ブイテック研究所の政岡昭仁さんだ。「ミラプス・ガイド」そのものについては政岡さんが直接の担当というわけで、まずはどんなものなのか、教えてもらうことにした。

「道案内動画といっても出発地点から目的地までの動画を歩いて撮影するようなものはよくありますよね。商業施設や宿泊施設などでも、駅からの道のりを動画で撮影してHPに載せていたり。でも、それでは違う場所から来る人は使えないですし、目的地が違う場合もダメ。どんなところでも案内できるわけではないんです」(政岡さん)

 おっしゃるとおり、よく見かけますよね。たとえばクリニックなどでも駅からどう歩けば良いかを動画で解説してくれているヤツ。それはそれで便利なのだが、ちょっと動画が冗長だったり、途中で寄り道をしたらもう役に立たなくなったりするから微妙なところだ。

「そこで、我々の開発した技術では、事前にすべての道を歩いて360度の動画を撮影しておいて、その素材を合成することで使う人がほしいルートの動画を生成することができるようになっているんです。

 例えば駅だったら、改札から周囲の施設までにある道をすべて撮影しておけば、どんなルートであっても新たな動画がどんどん生成できる。将来的には、スマホのアプリを使って今いる場所から予約をしたお店までの道案内動画を生成したりすることもできるようになっていきます」(政岡さん)

 つまり、A地点からB地点までの案内動画が必要なとき、これまでならば実際にA地点からB地点まで歩いて動画を撮影していた。だが、それではC地点からB地点に向かうときには意味がない。そこで、「ミラプス・ガイド」ではA・B・Cの各地点を含む一帯のすべての道を歩いて動画を撮影、その素材を組み合わせることで、A地点からB地点、C地点からB地点などどのようなルートの道案内動画も作り出すことができるというわけだ。

 さらに、A・B・C地点だけでなく新たにD地点という目的地が必要になった場合も、事前撮影エリア内に含まれていれば新たな撮影は不要だ。もし撮影エリア外だったとしても、すべて撮影し直すことはなく、D地点までのルートだけを撮影すればOK。と、最初こそ手間はかかるが、一度撮影してしまえばあとは自由自在というシステムなのである。

■「5分間も動画を見るのはしんどいじゃないですか」

「なので、たとえば交差点までまっすぐ歩き、右に曲がると同じ場所だけど違う時間に撮影した動画が続く、という感じになりますね。なので通行人の人数などが違ったりはしますが、それほど違和感なく合成することができています。

 また、『ミラプス・ガイド』では早回し、5分の道のりを30秒ほどで見せるようにしているんです。実際に5分間も動画を見るのはしんどいじゃないですか。逆に途中をカットするようなこともしていません。なので、早回しにして、“一度行ったことがある”という体験を動画上でしてもらうイメージですね。これを見ておくだけでも、かくだんに迷いにくくなると思います」(政岡さん)

 と、こうして説明されてみると意外とシンプルな発想である。やっていることは簡単で、(1)事前にすべての道を歩いて素材を撮影→(2)ユーザーが求めるルートに合わせて素材を合成して動画を生成、だけである。

■避けられない課題もあって…

「ただ、それでも技術的にはクリアしないといけない課題はあったんです。大きいものとして、手ぶれの補正。どうしても人が歩いて撮影するので手ぶれは避けられない。さらにそれを合成するわけですからね。そこでその手ぶれをうまく補正する必要があった。

 また、これは今後の課題でもあるのですが、今のところはエンジニアがソフトウェア上で自動生成した動画を補正しています。それをリアルタイムで高い精度で自動生成できるようになるのが理想ですね」(政岡さん)

 現段階でもある程度の精度で自動生成は可能だという。ソフトウェアが素材動画における交差点などの特徴を捉え、同じ特徴を持つ別動画とつなぎ合わせればいいのだ。だが、似たような特徴の交差点だったり、店舗がないただの通路のような場所は難しい。

「あとは昼と夜を切り替えられるようにできるようにも考えています。合成動画なので、やれることはたくさんある。一時的に使用できないエレベーターがあったらそこを通らないようにするとか、途中にあるお店が変わったらとりあえず画像を上に載せて処理をすることもできます。更新するには店が映る範囲だけ撮影し直せばいいので、最初にいちど歩き回っておけば、その後の手間はだいぶ軽減できますね」(政岡さん)

■ちなみに撮影は…

 ちなみに、撮影はごく一般的な360度カメラをリュックサックに固定して、スタッフがただただ歩くだけだという。それでも1本の道を往復撮影しなければならず(そうしないとムーンウォーク動画ができてしまう)、さらに歩道が両脇にある道ならばどちらも歩く必要がある。500m四方でも、実際に歩く距離は30kmくらいになるのだとか……。なかなか大変そうな作業だが、特別な技術は不要なので体力さえあれば誰でも撮影ができる、というわけだ。

■「ターミナル駅の道案内は長年の課題なんです」

 で、この「ミラプス・ガイド」、なんとなく便利そうだということはわかったが、そもそも“事前に撮影”がマスト。どのような場所で実用化していくのだろうか。

「じつは、すでに京都駅や新大阪駅などで実証実験をしているんです。京都駅では駅ビルや駅の周辺を撮影して、合成した動画をホームページなどで公開しています。また、駅員の道案内などにも使えるようにするなど、実際の現場で使ってもらって今後の課題などを洗い出しているところですね」

 こう話してくれたのはJR西日本創造本部の柳さん。ブイテック研究所とともに「ミラプス・ガイド」の開発や実用化に取り組んでいる担当者だ。

「実際、ターミナル駅などでの道案内は鉄道事業者としては長年の課題なんです。これまでは看板誘導や駅員による直接のご案内など、いわばアナログで対応してきました。それをデジタルに変えていく、ということでこの技術に着目しました」(柳さん)

 ターミナル駅で道に迷ったら、筆者のようにさまよい歩いてみて記事にしよう、などという人でもなければとにかくそのあたりにいる駅員などに尋ねるはずだ。ただ、たとえば「阪急の梅田駅まで」などという定番の質問ならまだしも、「ホワイティうめだの○○という店」などとなると人によっては知っているけれど人によってはわからない、ということになりかねない。あそこまで複雑で、それも駅の敷地外のこと。駅員ならすべて把握していて当然……とは口が裂けても言えません。

■口頭だけで案内しようとしてみると…

 今までの“アナログ”の案内方法ではどうしても限界があった。それを解決してくれるのが、動画で道案内をしてくれる「ミラプス・ガイド」。

「新大阪や京都での実証実験では、駅員がタブレットを使ってご案内をするときなどに使用しました。とくに大きな課題、使いにくいところがあるといった話は上がっていないのですが、これからもユーザーからのフィードバックをどれだけ集められるか。そして駅はもちろん駅の外、街の中など幅広いところで活用できるようになれば、よりキメの細かい道案内アプリ、ということで大きな可能性があるのではないかと考えています」(柳さん)

 筆者はなぜかよく道を尋ねられる機会が多いのだが、確かに口頭だけで案内するのはかなり難しい。まっすぐ行って2本目の交差点を左に曲がってファミマの前、くらいなら良いのだが、だいたい人に道を尋ねる場合はもっとややこしいことが多いのだ。特にターミナル駅ともなると、階段を登ったり降りたりを繰り返すこともあり、言葉での説明は一筋縄ではいかない。

「ですから、究極的には人が、弊社でしたら駅員が目的地まで一緒に付き添うのがベストです。ただそれは現実的ではありません。それにかなり近づけることができるのが、動画による道案内、今回の『ミラプス・ガイド』だと思っています」(柳さん)

「最終的にはアプリやweb上でユーザーが検索するだけで自動で目的地までの動画が生成されて見てもらえるようにできたらいいと思っています。ターミナルや市街地はもちろん、観光地などでも使っていただけるような、道案内ツールになると思います」(政岡さん)

■30秒で道がわかる時代へ

 ちなみに、大阪駅のようなターミナル駅では単にJR西日本だけが「ミラプス・ガイド」を使います!と宣言したところで役に立たない。というのも、ターミナルの複雑さは一事業者だけでなく複数の鉄道事業者や商業施設などが入り組んでいるが故だからだ。こうした事業者間の垣根を越えてゆくことも、これからは必要になってくるだろう。

 いずれにしても、もう少し早くこの「ミラプス・ガイド」が実用化されてアプリになっていれば、大阪・梅田駅であんなにさまよう必要もなかったに違いない。いま、自分がどこにいても目的地を入力すればそこまでの動画が自動生成されて、30秒程度の早回しで見せてくれる……。シンプルな発想かもしれないが、これが“ダンジョン攻略”の決め手になるかもしれない。

写真=鼠入昌史

(鼠入 昌史)

関連記事(外部サイト)