密漁に手を染めるのは暴力団だけではなく…「これだけは言えない」と海保職員が隠す“新兵器”とは

密漁に手を染めるのは暴力団だけではなく…「これだけは言えない」と海保職員が隠す“新兵器”とは

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《70年ぶりの抜本改革も…》改正漁業法施行で「暴力団のシノギ」としての「密漁」はどのように変わったのか から続く

「高級魚を食べると暴力団が儲かる」という食品業界最大のタブーに迫るべく、ジャーナリストの鈴木智彦氏は足かけ5年に及ぶ取材を敢行。暴力団の巨大な資金源となっている密漁ビジネスの実態を暴いたルポは単行本として出版され、密漁が社会問題として認知されるきっかけとなった。

 ここでは、同書の文庫版『 暴力団の巨大な資金源となっている「密漁ビジネス」の実態 』(小学館)から、文庫化にあたって鈴木智彦氏が書き下ろした新章の一部を抜粋。新たに明らかになった密漁のリアルを紹介する。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

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■還付金の額でわかる密漁品の売り上げ

 密漁は真っ当な商行為を偽装して利益を上げる。末端の密漁団たちが懲役上等と腹をくくっても、表の住民たちに同じ芸当はできない。3000万円の罰金だって、店を畳んで完全撤退しない限り逃げられない。改正漁業法は表の企業に対して、ボディブローのように効いている。

 令和3年4月26日、乾燥ナマコの加工を手がける三宮フーズ(本社神戸)の経営者が改正漁業法で新設された流通の罪で起訴された。起訴状にあるのは同年2月に110万円で買い取った390キロで、密漁ナマコを売っていた山口組系暴力団員も逮捕されている。どこまで立件できるのか分からぬが、警察は三宮フーズが長期にわたって密漁ナマコを買い取っていたと判断しているだろう。

 密漁団の関係者はこう説明する。

「約半年前の12月頃、ナマコを海外に輸出してる業者に税務署が入った。密漁品は表で売りさばくから、どれだけ売ったかははっきり帳簿に残ってるのさ。それに輸出をすれば、消費税の還付金がある。売り上げの10%還元されるから、けっこうな額になってね。みんなそれをもらってた。

 だから輸出してた業者がどれだけ売っていたかは、還付金の額を見ればはっきり出てる。改正漁業法の施行後は、採捕が禁止だから浜買いができず、すべてのナマコは漁協組合を経由する建前だ。業者だってセリにかけられ、高値で売られるナマコも買ってはいた。でも数字が合わない。2トンしか正規で買ってないのに、5トン売ってたら差し引き3トンは密漁だからね。

 密漁ナマコを買うときは、帳簿に付けないから消費税も払わない。なのに還付金をもらってるのは詐欺になると税務署に脅された。最終的に税務署は『修正申告に応じて、その分、税金を納めてくれれば問題ない』と取り引きを持ちかけたらしい。みんな焦って応じたんだ」

■海保のドローンという新兵器

 ところが三宮フーズは、金額があまりにも莫大だったため逮捕され、取調べでも否認しているという。どこまでもシラを切り続けないと会社が持たない。とはいえ、おそらく有罪は避けられず、いずれにしても会社は危機的状況だ。

「たぶん証拠は挙がってる。乾燥ナマコの輸出をしてるのは外国人も多い。三宮フーズの経営者も韓国の人で、込み入った日本語での商談ができないから、密漁団との間に、仲介の日本人ブローカーが入ってたんだよ。犯罪は間に人が入れば入るほど情報が漏れるし、海保はドローン持ってるからさ」

 ドローンという新兵器は、これまでのヘリコプターに比べて圧倒的な小型で、海辺では波の音にかき消され、飛行音がほぼしない。暗視カメラやサーモグラフィーを用いれば、ゴムボートに乗った密漁団の動きや、車の中の様子さえ、手に取るように分かるのだという。

 海保の職員に当てると、「これだけは言えない」と頑なに証言を拒む。かなり高性能な機器を揃えているのかもしれない。裁判がどうなるか分からぬが、初犯のため執行猶予が付いても、提出される証拠によっては、高額な罰金になる可能性はある。

■密漁で儲けるのは暴力団だけではない

 暴力団は、彼らを取り締まる暴力団対策法をいくら改正しても音を上げなかったが、その周辺者である一般人は、暴力団排除条例ですぐにバンザイした。犯罪者はどれだけ踏みつけても立ち上がってくるが、たった一度の社会的制裁で銀行取引が停止し、立ち行かなくなる企業は立場が弱い。密漁犯罪も同じ図式が浮かび上がった。かといって、密漁がすぐになくなるとは考えにくい。今後は輸出も裏取引が一般的になるはずで、密漁事犯が巧妙化すれば、いたちごっこになる。

 元来、密漁は暴力団だけが儲けているのではない。漁業全体のインチキからすれば、暴力団が関与する不正など微々たるものだろう。

 考えてみれば、海は無法者の王国といえる。海洋に浮かぶ船は、実質、その一隻一隻が独立国家といっていい。建前上、彼らも法に統治されているが、周囲には海しかない。警察官もおらず、監視カメラも存在せず、スマホを構える通人もいない。

 急病になっても医者さえいない。死に至る重病でも、船長と船員がすべてを行うしかない。そうした極限状態で、法が意味を持つはずがない。船という独立国家では、人間の集団が原始に戻る。そこでは腕っ節の強さ、言い変えれば暴力だけが国家の法だ。

■海の上の無法者たちから目を逸らすな

 だから海洋国家である日本は、ならず者国家に囲まれているようなものである。銃器、違法ドラッグ、密入国者も海からやってくる。日本の海の上でも犯罪が常態化していると考えるべきだ。暴力団は躊躇なく叩ける悪人なので、彼らを取り締まれば一件落着のように錯覚してしまい、思考停止になりやすい。

 ナマコとアワビは「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」(水産流通適正化法)で取引履歴の伝達・記録義務を課すと決定しているが、シラスウナギに関しては養鰻業者が頑強にトレーサビリティの義務化に反対している。なぜ日本シラスウナギ取扱者協議会理事長が断固反対するのか、我々はしっかりと考え、漁業の行く末を見守る必要がある。

 無法者の王国は強大である。決して目を逸らしてはならない。

【前編を読む】《70年ぶりの抜本改革も…》改正漁業法施行で「暴力団のシノギ」としての「密漁」はどのように変わったのか

(鈴木 智彦)

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