“道交法”は理不尽なのか…「横断歩道で歩行者に譲られたから発進」は違法!? 警察による取り締まりの“本当の狙い”とは

“道交法”は理不尽なのか…「横断歩道で歩行者に譲られたから発進」は違法!? 警察による取り締まりの“本当の狙い”とは

©iStock.com

 現実の交通状況にあって、道路交通法はしばしば軽視されることがある。その最たるものは「横断歩道」に関するルールだろう。

 道交法上、信号機のない横断歩道に歩行者がいる場合には、車は必ず一時停止しなければならない。ところが現実の路上において、これを遵守しているドライバーは「少数派」だ。実際に、2020年にJAFの行った調査によれば、この状況で一時停止したドライバーはわずか21.3%。2016年にはなんと7.6%に過ぎなかった。

「一時停止率」向上の背景には、警察による取り締まりの強化がある。横断歩行者等妨害等違反の取り締まり件数は、2016年の「11万1142件」から2020年には「29万532件」と、2.5倍以上に伸びているのだ。

 横断歩道上の事故は、車側が一方的に危害を加える形となり、悲惨な結果を招きやすい。それゆえに、「横断歩道の一時不停止」に対する取り締まり強化は要請されてしかるべきものだろう。

■「歩行者に譲られたのに、進んだら切符を切られた」

 一方で、横断歩道における警察の取り締まりが「行き過ぎ」と見なされるケースもあるようだ。SNSなどには、「横断歩道で歩行者から譲られて進んだら、切符を切られた」という趣旨の投稿も見られ、理不尽とも思える取り締まりに反感の声が集まっている。

 横断歩道は「歩行者優先」とはいえ、譲られて進むことを「違反」とされては確かに納得がいかないだろう。これでは歩行者側が「道を譲ること」そのものが、「違反を誘発するトラップ」となりかねない。

 そもそも、「横断歩道で歩行者に譲られて進む」という行為は、なぜ取り締まりの対象になるのか。

 信号などが設置されていない横断歩道におけるドライバーの義務は、道交法の第38条に定められている。

〈 車両等は……横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない〉

■警視庁の見解は?

「横断歩道で歩行者側から譲られた際、ドライバーはどうすればいいか」について警視庁に問い合わせたところ、「いついかなるときでも取り締まりの対象とならないようにするには、歩行者が渡るまで待つしかない」といった趣旨の回答が返ってきた。

 もちろん、現場の状況はさまざまである。横断歩道の付近で話し込んでいる人たちや、譲る意思を示している歩行者を、「横断しようとする歩行者」と見なすかどうかは、時々の状況によって異なるというのが、担当者の弁だった。

 警察側の視点からすると、法律を運用するうえで、解釈を一律に定めてしまうリスクもあるだろう。

「歩行者に譲られていれば、横断歩道を通過してよい」と公認してしまえば、「譲る意思をめぐる誤解」が事故の原因となることもあるかもしれない。

■弁護士の見解は

 見方によっては杓子定規とも思える警視庁の見解は、法解釈として妥当なのだろうか。横断歩道におけるドライバーの義務について弁護士に尋ねてみた。

「まず前提として、道交法の第38条は歩行者の優先権を定めるものですが、条文として『かなり強い』規定だと言えます。

 法律の条文には『原則』のほかに『例外』が定められているものも多いですよね。たとえば、クラクションは原則として『警笛鳴らせ』の標識がある箇所でしか鳴らしてはいけませんが、例外として『危険を防止するためやむを得ないときは、この限りでない』という但し書きがあります。

 このように、例外規定は法律の運用に幅を持たせるものですが、 第38条 にはそれがなく、歩行者側に絶対的な優先権を与える書き方になっています」

 現実のドライバーが持っている認識は「歩行者がいれば止まる」程度のものかもしれないが、法律の文面からは「横断歩道は基本的に止まるもの」という前提が読み取れる。

■「譲っている歩行者」は「横断しようとする歩行者」なのか?

 とはいえそもそも、車に進路を譲っている歩行者は「横断しようとする歩行者」にあたるのだろうか。

「『横断しようとする歩行者』の定義が争点となった裁判は少ないですが、一つの判例として、横断歩道上で立ち止まり、車の様子を窺っている歩行者も『横断しようとする歩行者』と判断されたケースがあります。横断歩道の側端や近辺で立ち止まっている場合であっても、『横断しようとする歩行者』と判断される可能性は高いと考えられます」(同前)

 しかし、「横断歩道上で足を止めた歩行者」と、「譲る意思を示している歩行者」とは違うように思える。

「歩行者が譲っている状況をめぐる判例はないので確定的ではありませんが、『行くのをやめた』と『譲っている』というのを厳密に区別するのは困難でしょう。譲っていたとしても、その後に横断しようとしているわけですし、その意味で『横断しようとする』歩行者であるという点はゆるぎないと考えられます。

 また、実際上、『譲っていたけど、車が止まったから、やっぱり進み出す』といった可能性もゼロではありません。『譲っている歩行者は横断しようとする歩行者にはあたらない』という解釈は通らないと考えられます」(同前)

 ドライバー側は歩行者のジェスチャーにかかわらず、常にその歩行者が「横断しようとしている」と想定しなければならない、というのが法律に則した考え方となるわけである。

■「譲られて進むのは適法」と解釈する余地もあるが……

 とはいえ、「横断歩道で歩行者から譲られて進む」というのは、ドライバーの感覚的には「当たり前」の行為である。

「解釈の余地があるとすれば、条文の『通行を妨げないようにしなければならない』という箇所かもしれません。『通行を妨げる』というのは、通常の速度で歩いている歩行者を減速させたり、立ち止まらせたりすることを言います。歩行者が譲る意思を明示して止まっているのだから、そもそも『通行』していないし、当然『通行』を妨げてもいない、という解釈ですね。

 しかし、これはあくまで解釈の可能性レベルの話です。仮に裁判になったとして、車側がきちんと一時停止していたことが明白であり、かつ、譲る意思について歩行者側の証言があれば、争う余地はあるかな、という程度の私見です。条文と判例から見れば、『歩行者がいれば絶対に渡り切るまで動くな』ということになってしまうかと思います」(同前)

 やはり法律上は、横断歩道では歩行者に譲られても先に進んではならない、という解釈が妥当であるようだ。

「もちろん、この条文が現実と乖離してしまうケースもあると思います。たとえば、ひっきりなしに歩行者が来るような横断歩道では、法律の文言をそのまま守っていれば進めなくなってしまいますし。ですが、これは法律の欠陥というよりも、横断歩道に信号を設置するかどうかなど交通整理等の現実的な措置の問題になるのかな、と思います」(同前)

■「交通の流れ」が優先されることはないのか

「譲ってきた歩行者をいちいち先に行かせていたのでは、後ろが詰まってしまう」という声もあるだろう。真っ当な話ではあるのだが、一人のドライバーの判断で「法律と異なる動き」をすることは、たとえ「円滑な流れ」が目的であったとしても、法的には認められないようだ。

「交通の『流れ』というのはもちろん重要です。しかし一方で、道路交通法には『流れ』という概念は一切存在していません。法律上は、『自動車の交通の流れをスムーズにするため』といって、条文を逸脱した運転をすることは全く許されていないわけです。

 そもそも、道交法の目的に『交通の円滑を図ること』というポイントがありますが、自動車に限らず、歩行者や自転車などによる『交通の円滑』も含む概念と考えられます(道交法10〜15条では『歩行者』の義務が定められています)。その意味で、自動車ではなく、歩行者を優先した『円滑な交通』のために、横断歩道の手前での減速および停止義務などが定められた道交法38条が存在すると解釈するべきでしょう。

 また、『円滑な交通』を保つための例外的な行動を許されている主体は、『警察』しか想定されていません(道交法75条の3など)。繰り返しになりますが、市民が『円滑な交通を維持する措置』として、法規を逸脱することはできないんですね。いうなれば、道交法を順守することこそが『円滑な交通』に資する措置というべきでしょう」(同前)

■パッシングで道を譲るのはOK?

 ところで、横断歩道の例に限らず、「通行を優先される側が譲る」というケースでは、譲られた側は「道交法と異なる形」で通行することになる。たとえば、狭い道路から優先道路に入る際に優先道路側から譲ってもらうケースや、右折待ちをしていて対向の直進車からパッシングなどで先に行くよう促されるケースが考えられる。

 法律の文言上は、これらのケースと横断歩道のケースとを比べてみても、ドライバーの義務に大きな違いはないように思える。

 横断歩道の歩行者に対する義務は、「その通行を妨げないようにしなければならない」という書き方で規定されている。一方、優先道路を通行する車に対しては「進行妨害をしてはならない」、右折時の対向車に対しても「進行妨害をしてはならない」という文言であり、明確な差を見出すことは難しい。

〈道路交通法38条

 横断歩行者等妨害等違反:横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない

?

道路交通法36条

 優先道路通行車妨害等違反:交差道路が優先道路であるとき、又はその通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、当該交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない

?

道路交通法37条

 交差点優先車妨害違反:交差点で右折する場合において、当該交差点において直進し、又は左折しようとする車両等があるときは、当該車両等の進行妨害をしてはならない〉

 これだけ見ると、歩行者に譲られて進むことが「通行を妨げる」ことになるのであれば、優先道路側の車から譲られて進むことが「進行妨害」と見なされてもおかしくはなさそうだ。

 言い換えれば、歩行者に譲られて進むことを「違法」とすることは、道路状況に応じて行われるさまざまな「譲り合い」を「違法」とすることと同義なのではないか、ということである。

■「車対車」と「車対歩行者」の扱いは異なる

 しかし、横断歩道における譲り合いと、優先道路や右折時など車同士の譲り合いとでは、取り締まりの基準に違いがあるのだ。

「文言は似ているなのになぜ」と考えてしまうが、現実の交通事情をふまえた場合の差異として、警視庁担当者は「免許の有無による認識の違い」を挙げていた。車両同士であれば、道交法の理解度についてある程度共有されていることが想定され、パッシングなどによる「ドライバー間のコミュニケーション」も成り立ちやすい。

 一方で、歩行者には当然子どもや免許を持っていない者も含まれるのであり、「互いがどう動くか」が不明瞭なケースも多くなる。それゆえに、「リスクの大きな歩行者側を最大限優先する」ことが、法律の運用において強く意識されるということらしい。

■「歩行者優先」を浸透させるには、厳しい取り締まりも止むなし?

 警察官によっても、法律の理解度や解釈はさまざまだ。「どのケースにどの条項が適用されるか」を機械的に判定することは不可能であり、取り締まりの基準には一定のブレが生じるだろう。あるいはその「ブレ」を利用して、恣意的な取り締まりを行う警察官もいるのかもしれない。

 昨年には北海道警察の警部補が、対象車両の速度を不適正な方法で測定し、速度違反をねつ造したとして逮捕された。この警部補による不正な取り締まりは47回にもわたり、「常習的に違反をでっち上げる警察の存在」を市民に疑わせる結果となっている。

 一方で、「警察の取り締まりに不適切なケースがある」という事実は、当然ながら「道交法を守らなくてもよい」という帰結をもたらすものではない。

 今回取り上げた「横断歩道では歩行者優先」というルールは、交通弱者たる歩行者の安全を確保するうえで、捨て置くことのできない大原則である。これが当たり前のように無視されている現状を鑑みれば、ドライバーが「譲られても進まない」という意識を抱くくらいに取り締まりを強化することにも、妥当性を認めることができるのではないだろうか。

(鹿間 羊市)

関連記事(外部サイト)