「盗撮さえしなければ本当にいい人なんです」妊娠中に夫が逮捕された妻が明かす“辛すぎる胸の内”

「盗撮さえしなければ本当にいい人なんです」妊娠中に夫が逮捕された妻が明かす“辛すぎる胸の内”

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加害者男性が明かす“私が盗撮に耽溺した理由”…「通勤時もプライベートも盗撮できるチャンスがあればやる」 から続く

 精神保健福祉士・社会福祉士としてさまざまな依存症治療に取り組む斉藤章佳氏によると、盗撮を行う人は、どこにでもいるような普通の男性が多く、彼らのなかには結婚している人もいれば、普段は家事や子育てにも積極的に参加している良き夫、父親も数多いという。

 自身の夫が「盗撮」に手を染めてしまった……。そのとき、妻はいったいどんな思いを抱くのだろうか。ここでは斉藤氏の著書『 盗撮をやめられない男たち 』(扶桑社)の一部を抜粋し、加害者家族の苦しみを紹介する。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

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■「盗撮さえしなければいい人なのに」

 夫が盗撮などの性犯罪加害者になった妻の苦しみは、父親や母親のそれとは大きく異なります。

 ある日突然、夫が性犯罪で逮捕された妻たちの胸には、「まさかこの人が」という思いが去来します。しかし、だからといって即座に離婚するか、というとそうでもありません。そもそも「妻の会」で、参加者の女性の大半は夫との婚姻関係を継続しています。

 参加者の女性の多くが「夫は盗撮さえしなければ本当にいい人なんです」と口にします普段は真面目に働く従順な労働者。家事も子育ても積極的にこなすイクメン男性。彼女たちにとって夫は盗撮加害者にならなければ、非の打ちどころのない存在なのです。

 また、子どもが小さい場合は特に「子どもにとっては、いいパパ。それを私の一存で子どもたちから奪って良いのだろうか」という葛藤に悩まされます。そのため「逮捕、即離婚」とはならないケースが非常に多いのです。

■「夫の性欲は妻が受け止めるべき」という男尊女卑的な価値観

 盗撮加害者の初診時の同伴者は、521人のうち3割以上が妻です。妻が夫を治療につなげようと必死に調べて、「なんとかして盗撮をやめてもらいたい」とクリニックを訪れるのです。

 しかし「性犯罪者の妻」という立場は、世間からさまざまな批判や疑念を向けられます。もっとも多いのが「妻としてケアが行き届いてなかったんじゃないか」という視点です。これは夫の両親や、時には実の親からも向けられます。実際に、義理の母親から「あなたがしっかり管理していないから、(うちの息子は)そういう事件を起こすんじゃないの」と責められて、ひどく傷ついた参加者もいました。

 さらに警察の取り調べでは、加害者の妻も事情聴取されることがありますが、その際に警察官から夫婦生活の有無まで聞かれることがあります。そこでは「セックスレスによって夫が問題行動に走ったのでは?」という、「性欲原因論」に基づく誤ったストーリーが仕立て上げられているのです。

 そもそも日本人カップルの半数がセックスレスといわれる現代、夫婦生活がないのは珍しいことではありません。セックスレスと盗撮に因果関係を見いだそうとする議論は荒唐無稽です。日本社会には、前提として「夫の性欲は妻が受け止めるべき」という男尊女卑的な価値観がいまだにはびこっています。このような男性の性的欲動に甘い社会なのです。

■「男の性欲に甘い社会」作家のアルテイシアさんとの対談で

 以前、『ウートピ』というウェブメディアで、作家のアルテイシアさんと対談をしました。以下にその一部を引用します。

〈斉藤 (前略)「男の性欲に甘い社会」、その縮図とも言える現場に立ち会ったことが何度もあります。痴漢加害者の裁判で、被告人の妻が情状証人として法廷に立っていて、ある検察官が妻に、事件当初の夫婦の性生活について尋ねる場面があったんです。事件とはあまり関係のないこととして、裁判官も弁護人も質問を止めると思ったんです。でも実際には誰も止めることなく、妻は「夫婦生活はありませんでした」と答えざるを得なかった。

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アルテイシア (中略)「男には制御できない性欲があるんだから、女はそれを満足させなければいけない」という思考ですよね。

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斉藤 この質問には「夫の性欲を妻が受け入れなかったことが原因で、夫は痴漢に及んだのではないか」というバイアスが掛かっているんです。おそらく質問した検察官も無自覚だったと思います。だけどそんな仮説はまったくの無根拠ですし、セックスレスが影響して性犯罪が起こるなら、今の日本はそこらじゅうで性犯罪が起こっていますよ。

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(ウートピ「『夫の痴漢は妻の責任』? 男性の性欲に甘い社会【アルテイシア×斉藤章佳】」より)〉

 アルテイシアさんは、「男の性欲は女がケアすべき」という価値観が刷り込まれたこの社会を、漫画家の瀧波ユカリさんの言葉を借りて「ちんちんよしよし社会」と呼んでいます。なんとも言い得て妙だと感じると同時に、首がちぎれるほどうなずきました。

■妻の妊娠と夫の性犯罪は無関係

 話を戻すと、加害者の妻たちは被害者と同じ女性であることから、夫の犯した行動への怒りや、「なぜ盗撮なんてするのだろう?」と夫の行動が理解できない苦悩も、参加者からよく聞かれることです。夫が逮捕されたばかりのときは、妻も「盗撮=性欲のはけ口」と考えていることが多いので、「浮気や風俗だったらまだよかったのに!」と口にする人が少なくありません。

 また妻の会には、妊娠中の女性もよく参加しています。つまり夫が妻の妊娠中に事件を起こしたというわけです。妻にとって、これから一緒に家族を築いていこうとする矢先に夫が性犯罪で逮捕されるというストレスは、すさまじいものです。なかには、一人目の妊娠中に夫が事件を起こし、クリニックで再発防止プログラムを受講したものの、二人目を妊娠中に再犯してしまった……という悲惨なケースもありました。このときも、妻は「妊娠中に夫の性欲を受け止めなかったから、盗撮に走ったんだ」という社会からの視線に苦しみました。

 妻の妊娠と夫の性犯罪には何の関係もありません。そもそも性犯罪を性欲の問題に矮小化して、「男の性欲はコントロールできないから仕方がない」という話にすり替えるのが間違いなのは、何度も繰り返してきたとおりです。そのことでもっとも得をするのは、盗撮加害者本人であり、盗撮に限らず性犯罪をなかったことにするこの社会なのです。

■加害者の妻が苦しむトリプルバインド

 理解しがたい夫の行動に対する驚きと失望、「性欲原因論」による「妻としての責任」という二次被害、子どもにとっての良きパパを奪えないという葛藤、同性・同年代の被害者が受けた苦痛……妻たちはこうしたトリプルバインドに苦しめられます。

 トリプルバインドとは、矛盾した複数の命令を受け取りながらも、その矛盾を指摘できないままどちらにも応答しなければならない状態を指します。自分がまったく関与しないところで夫が起こした事件で、妻は二重にも三重にも苦しみ、その苦悩を誰とも共有できない孤独な状態に陥ります。そして、言うまでもなく彼女たちが安心して相談できる場はほとんどありません。

 夫の突然の逮捕を受けて、動揺した彼女たちが数少ない事情を知っている義理の両親に相談したとしても、先述したように「妻としてのケア不足」を指摘されたり、「たかが盗撮でしょ。写真を撮っただけじゃない」と軽視されることもあります。「つらかったね」「あなたのせいじゃない」と話をちゃんと聞いて受け止めてもらえた、というエピソードはほとんど聞きません。これが現状です。

 そんな生き地獄ともいえる状況下では、抑うつ状態や不眠、食欲不振など心身の不調を訴えたり、人間関係が制限されたり、外出できなくなる、仕事を続けられなくなるなど社会生活に支障をきたす人もいます。ひどい場合はオーバードーズやリストカットなどの自傷行為に及ぶケースもあります。

■夫が事件を起こした日のトラウマ、フラッシュバック、不安…

 また「うちの夫がそんなことをするはずがない!」という困惑の次にやってくるのが怒りです。盗撮加害者は20代から30代が多く、その妻も年齢が近いことがほとんど。同年代の友人たちが仕事でキャリアを積んだり、旅行に行ったり、楽しそうに子育てしたりする様子を傍目に、「なんで私だけこんな思いをしないといけないんだろう」という夫への怒りがこみ上げるのは想像に難くありません。

 妻にとっては、夫が事件を起こした日から時間が止まっています。少しでも夫の帰りが遅いと「また問題を起こしてないか」と不安になりますし、テレビで性犯罪のニュースを耳にするとフラッシュバックが起こるなど、朝起きてから夜寝るまで不安な毎日を送っています。特に家族が恐れているのが、知らない番号から電話がかかってくることです。警察や弁護士から、妻の携帯電話にいきなり「夫が逮捕された」と報告されたことがトラウマになっているのです。また、午前中の早い時間帯に鳴るインターホンもトラウマになります。夫が逮捕されたときの、警察がいきなりやってきて子どもと自分の目の前で手錠をかけて連行した……といったシーンがしっかり記憶されているからです。

 一方で加害者本人は、時間とともに事件の記憶が薄れていきます。「加害者は早期に加害者記憶を忘却する」といわれる所似です。この加害当事者と家族の温度差も、妻たちを追い詰めていきます。

 こうした状況で妻は夫とともにクリニックを受診し、「盗撮という性的逸脱行動の背景には性嗜好障害、つまり性依存症という病気がある」 「適切な治療を受ければ、再発防止ができる」と説明を受け、光明を見いだします。ただ、その説明は非常に慎重に行わなければいけません。「病気だから罪を犯しても仕方がない」ということではないですし、被害者にとっては病気であろうがなかろうが、傷つけられたことに変わりはありません。どんな理由があっても性犯罪は許されません。しかし、加害者家族にとっては、自分が再生するための道が少しだけ見える瞬間でもあるのです。

■加害者の更生・回復において家族の存在は大きな力

「平成27年版 犯罪白書」では、執行猶予者の性犯罪再犯率を見ると、犯行時の婚姻状態別に再犯率が調査されており、「未婚」(14.2%)は、「既婚」(7.1%)の2倍の再犯率であることがわかります(下図参照)。

 当クリニックでも、配偶者がいる加害者のほうが、未婚者に比べて治療継続率が高いことは、過去のプログラム実績からも明らかです。

 もちろんそれぞれの家族がさまざまな事情を抱えているので、事件がきっかけで離婚したり、別居することはやむを得ません。子どもを育てていくうえで、安全・安心な環境を選ぶために離婚することも大いにありうるでしょう。また、子どもが学校でいじめられるリスクを回避するために、転校や離婚をしてあえて子どもを妻の名字に変更するケースもあります。

 このように、加害者の更生・回復において家族の存在はとても大きな力になります。再発を防ぎ、新たな被害者を生まないためにも、加害者家族への支援の必要性が多くの人に広まることを願ってやみません。

【前編を読む】加害者男性が明かす“私が盗撮に耽溺した理由”…「通勤時もプライベートも盗撮できるチャンスがあればやる」

(斉藤 章佳)

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