「あそこはポンコツ箱ですから」摘発続く“闇カジノ”…元オーナーが語る「超ハイリスク超ハイリターン」のリアル

「あそこはポンコツ箱ですから」摘発続く“闇カジノ”…元オーナーが語る「超ハイリスク超ハイリターン」のリアル

©iStock.com

 昼過ぎの渋谷区道玄坂。風俗街やラブホテルが立ち並ぶ、この猥雑で古い街角はコロナ禍もあり閑散としていた。待ち合わせ人、漆原康之氏(仮名)は古めかしいビルの入り口でこちらを出迎えてくれた。

「ここの上が闇カジノになっているんですよ」

 彼は静かにビルの上を指さした。

 漆原氏は長らく夜の街を棲家としてきた元闇カジノのオーナーである。10代から業界に入り、ヤクザや半グレという裏社会、ヒルズ族・芸能人などの表社会で活躍する人間たちの裏の顔を見つめてきた。

 裏社会に通じカジノ知識も豊富なことから“闇カジノのプリンス”という仇名を持つ。優男風の外見とソフトな語り口は、確かに裏社会の人間とは思わせないスマートさを感じさせる。

 彼はつい最近まで「闇カジノ」経営を行っていた。現在は裏家業からは足を洗いネットビジネスなどを本業としている。
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「もとからギャンブル好きだったので長年闇カジノを経営していた、というのもありましたが、年々、警察の取り締まりが厳しくなったこともありリスクが高すぎるので廃業することにしました。いまは、趣味でアミューズメントポーカー(換金できない合法ポーカー)を楽しむくらいでしょうか。ポーカーは弱いけど、いろんな人と楽しめるからハマっていますね」(漆原氏)

■「あそこの闇カジノはポンコツ箱ですから」

 漆原氏は「六本木の事件ですか? あそこの闇カジノはポンコツ箱ですから」とサラリという。ポンコツ箱とはイカサマを行う闇カジノのことを指す業界の隠語である。

 六本木の事件とは、今年6月、東京・六本木ヒルズで営業していた闇カジノ店が摘発されたこと。警視庁組織犯罪対策4課は、賭博開帳図利の疑いで店長の男を逮捕、同ほう助容疑でディーラーなどを担当していた従業員の男5人を現行犯逮捕したのだ。摘発された店長は「賭博目的ではなく、カジノスクールを開いていた」などと供述しているという。

「カジノスクールの実態はなく、警視庁組織犯罪対策4課は摘発逃れの方便だと見ているようです。従業員の一部は容疑を認めており、賭博容疑で逮捕された客も『金を賭けていた』と供述しているようです。六本木という土地柄、顧客には有名人もいたのではないかという噂が駆け巡りました」(全国紙社会部記者)

 近年、闇カジノという言葉が世間を騒がせる機会が多くなった。一つの理由はオリンピック開催を睨み、警視庁による街の浄化作戦が行われ闇カジノ摘発が相次いだからだろう。

 筆者はパチンコもしないし、麻雀もしない。ギャンブルを趣味とはしていないばかりか、どちらかと言えば興味も薄いほうかもしれない。しかしながら闇カジノを巡るニュースには強い関心があった。人はなぜギャンブルに狂い堕ちるのか。そして闇カジノの店内では何が行われているのか――。

 筆者と漆原氏が出会ったのは5年ほど前のことだった。当時、彼の経営する闇カジノには有名俳優やスポーツ選手が群がるように通いつめていた。闇カジノを経営することも、客として闇カジノでギャンブルを行うことも、言わずと知れた犯罪である。犯罪だと分かっていてもなぜ人は惹かれるのか。有名人をひきつける闇カジノの魅力とは何なのか? 当時、解決しえなかった疑問を改めて晴らしたいと筆者は考えた。

「闇カジノという犯罪の実態を知りたい」と漆原氏に相談したところ、「面白そうですね。取材を受けてもいいですよ」と快諾を得た。ニュースやスキャンダルで浮かんでは消える闇カジノという名前、だがそこで何が行われていたのかについてはなかなか伝わってこない。当連載では漆原氏証言をもとに知られざる闇カジノの実態により深く迫るつもりだ。

■博打は「不景気な時ほど儲かる」

「少し歩きましょうか?」

 そう漆原氏は語ると道玄坂の坂道を歩き始めた。

 客引き、風俗嬢などがせわしなく行きかう姿が見える。

「お兄さん! ギャンブルどうですか。闇スロ、インカジあるよ」

 石畳の路地を筆者がウロウロしながら遅れて歩いていると、初老の客引きが小さな声で囁きかけてきた。歌舞伎町や渋谷などの繁華街ではお馴染みの光景である。一般的な客は、こうした客引きの誘いから闇カジノという世界に足を踏み入れることが多い、という。

 喫茶店に取材の場所を移した。漆原氏は闇カジノが廃れない理由をこう語った。

「博打って不景気な時ほど儲かるんですよ。しかもいまは緊急事態宣言で抑圧、抑制をしているので多くの人はストレスを溜め込んでいる。『飲む、打つ、買う』と言いますけど、昔からいう人間のストレス解消はこの3つだった。飲むは飲酒、買うはオンナ、打つはギャンブルですよね。ストレス解消と、いまコロナでカネを使う場所がないということも闇カジノに人が集まる理由になってますよね」

 不景気でも金を持っている人間は持っている。六本木ヒルズの闇カジノがコロナ禍のなかで摘発されたのも、その一象徴なのかもしれない。

■大きく2つある“違法カジノ店”

 闇カジノには大きく分けて2つの種類がある。

 バカラ台やルーレット台、闇スロット台などを設置し、ディーラーや黒服が客を接遇するリアルギャンブルを提供する店と、店舗にパソコンを並べただけで客はパソコンに向かいオンラインギャンブルを楽しむ店の2種類である。前者を一般的には「闇カジノ」と呼び、後者は「インカジ(インターネットカジノ)」という名前で夜の街では知られている。呼称こそ違うが、どちらも“違法カジノ店”であることに変わりはない。

「両店とも広義の意味では『闇カジノ』という括りに入るのですが、じつは罪状が違う。バカラ台等を設置したカジノ店に対しては賭博開帳図利罪(5年以下の懲役刑)が適用される。これは罪状が重く、場合によっては一発で実刑もある。一方でインカジは常習賭博(3年以下の懲役刑)で少し罪が軽い。摘発されても執行猶予がつくことが多い。超ハイリスク超ハイリターンなのが闇カジノで、インカジは薄利多売で稼ぐというイメージです。闇カジノには『超』がつく。逮捕覚悟でビジネスをしなければいけないのだから『超』ハイリスクだといえるのです」(漆原氏)

■身分証を提示し誓約書に記入…その内容は「闇カジノの基本ルールです」

 客引きに連れられて客が闇カジノを訪れた場合、まず要求されるのが身分証の提示と誓約書への記入である。店側は客の品定めをここで行うのである。じつは客の様子は隠しカメラで映像も抑えられている。

 漆原氏がブルーの分厚いファイルを取り出しテーブルに置いた。誓約書をファイルしたものだった。つまり極秘の顧客リストである。それを今回は特別に公開してくれるのだという。分厚いファイルには数百名にも及ぶ書類が丁寧に綴られていた。

 まず誓約書の内容を見てみよう。謳われている項目は10項目にも及ぶ。なかでも興味深いのが「立ち見、立張り、またはベットの相乗り、口張り、キャッチボールなどの行為を一切禁止させて頂いております」という一文だろう。

 立ち見、立張り、またはベットの相乗り、口張りといった行為は、カジノ内をフラフラしながら、勝てそうと思ったテーブルや客につき飛び込みで賭ける行為だ。フラフラしながら突然ギャンブルに参加するのでテーブルの雰囲気が悪くなることが多く、他の客が負けた場合は客同士のトラブルにもなりやすいので禁じているのだという。

 一方でキャッチボールをは客同士がグルになって両賭けする行為。二人で組んで両賭けすれば、どちらかが勝ち、どちらかが負けるのでトータルでは負けることはないという計算のもとに行われる。入店した客には店から10万円分のサービスチップが提供される。サービスチップはそのままでは換金できない。そこで客はキャッチボールを行い遊び、サービスチップをロンダリングして普通のチップにして換金しようとするのだ。

「一回だけドーンと張って逃げる客や、キャッチボールをする客は基本的に出禁です。まずは腰を据えて遊んでください、というのが闇カジノの基本ルールです」と漆原は語る。

 つまり闇カジノ店と客は騙し騙されの関係にあることを文面は示唆していた。

■「バカラとスロット両方やる」「熱くなると$200〜300張る」

 ファイルをよく眺めていると、裏面に顧客の特徴についてメモ書きが残されていることに気が付いた。

 例えば、といった具合である。

 闇カジノでは酒、タバコ、飲食などが無料で提供される。「クールブースト」「アイコスメンソール」などは客の嗜好を記録したもの。そしてギャンブルの好みなども「バカラとスロット両方やる」、「熱くなると$200〜300張る」という形でメモされている。

 顧客の詳細について記したそれを見ると、映画などで見た賭場の豪快なイメージとは実際は違うことを感じる。アングラ社会で揉まれながら闇カジノは裏ビジネスとして先鋭化して行った様子が垣間見えた。

 気になったのは、メモ書きに残された「小者」という文字だった。読み方は「コモノ」ではなく「コシャ」だという。これは客層を示す隠語なのだという。

 では、闇カジノに集うのはどのような人間なのか。次回はギャンブルに熱を上げる人たちのタイプについて解説を加えていきたい。

「大人のディズニーランドだと思え」“闇カジノ”顧客リストに記された生々しすぎる“客のステータス” へ続く

(赤石 晋一郎)

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