《小学生にも増加》“だてマスク依存症”の実態「『自分は繊細だと思っている人』はコロナ収束後もマスクを手放せない」

【新型コロナウイルス】収束後もマスクを手放せなくなる“だてマスク依存症”を懸念

記事まとめ

  • 新型コロナウイルスが収束した後も、一定数の人がマスクを手放せなくなるという
  • “だてマスク依存症”で、新型インフルエンザが流行した時も注目された
  • マスクをつけているのが居心地よくなり、自宅内でもマスクをはずさない人もいるそう

《小学生にも増加》“だてマスク依存症”の実態「『自分は繊細だと思っている人』はコロナ収束後もマスクを手放せない」

《小学生にも増加》“だてマスク依存症”の実態「『自分は繊細だと思っている人』はコロナ収束後もマスクを手放せない」

※写真はイメージです ©iStock.com

 コロナ禍2年目の現在、感染者数は依然として増え続け、マスク装着が日常化している。実は、それに伴って心配な“依存症”があるのだという。

「それは“だてマスク依存症”です。いまはマスクをすることが当然の世の中なので問題ありませんが、コロナが収束し、マスクをしなくてもいい日々が到来したとき、果たしてみんながみんなマスクを手放せるのか……。おそらく、一定数の人がだてマスク依存症になると思います」

 こう語るのは、2011年に新書『[だてマスク]依存症』を上梓した、株式会社kikiwell代表取締役の菊本裕三さんだ。菊本さんは電話話し相手サービス「聞き上手倶楽部」を主宰し、これまで14000件にものぼる相談に耳を傾けてきた。

「だてマスク依存症とは、風邪でも花粉症でもなく、防寒の必要もないのに、常にマスクをしている状態のことです。私は有料の電話カウンセリングサービスを2006年に始めたのですが、相談者の中に“日常的にマスクをつけている”という人が2010年頃から増えてきたのです。その原因を探ったのが、この本です」

■なぜ「だてマスク依存症」になるのか

 アルコール依存症や薬物依存症などはよく知られる病名だが、“だてマスク依存症”はこの本のタイトルとして考案された言葉で、病名ではない。

 では、「マスク依存」という言葉はいつ頃生まれたのだろうか。Googleトレンドで検索すると、初出は2008年12月となっている。そしてこの翌年、新型インフルエンザが世界的に大流行した。

「2009年の秋ごろから、新型インフルエンザ予防のために、マスクをつける人が急増しました。すると2010年の後半ごろから、首都圏を中心に日常的にマスクをつけている若者が現れ、やがて大人にも広がり、雑誌などで社会現象として注目されました。

■自宅内でもマスクをはずさない人も

 だてマスク依存者の話を聞いていると、彼らは初め、新型インフルや風邪、花粉症、防寒のためにマスクを使っていたのです。ところがある日、『マスクって使える!』と、本来の用途とは違う役割に気づく。そして、常時マスクをつけているのが居心地よくなり、はずさなくなるのです」

 だてマスク依存者の中には、自宅内でもマスクをはずさない人もいるという。

「彼らがマスクをはずすのは、基本的に一人になったときだけ。食事中もマスクを耳にかけたまま、口の部分だけずらして食べる、今でいう“マスク会食”の先駆者もいました。食事以外ではずすのは入浴、睡眠時くらいで、他人と会う場所ではマスク必須。自宅で家族といるときもマスクを欠かせない、というケースもあります」

 本来はマスクをつけなくてもいい場所でも、なぜはずせなくなるのだろうか。

■マスクがはずせなくなる本当の理由

 菊本さんはだてマスク依存者の相談を聞くうちに、マスクと自分の安心感が結び付いたときに手放せなくなるケースが多いことに気づいた。

「だてマスク依存者たちにマスクをはずさない理由について聞き取り調査をしたところ、回答の多くは『外に出たくないから』、『表情を読まれたくないから』というものでした。そこに焦点を当てて話を聞くうちに、マスクは《心理的な壁》となるのではないか、という仮説にたどり着きました」

 だてマスク依存者にとって、マスクをつけることによるメリットは実に大きいのだという。

「マスクをつけると、鼻からあごまで隠れます。口元は表情がとても出やすいパーツですが、マスクが1枚あれば、自分の気持ちや表情、唇の動きを他者に読まれずにすみ、自己発信を抑制できます。

 さらにマスクには、ダメージを防御、軽減する役割もあります。ダメージとは、他者からの叱責や罵詈雑言、注目などです。不愉快に感じる言葉や態度も、マスクが自分の《心理的な壁》となるため、安心感が得られるのです。

 マスクがあればこちらの本心を悟られない、また周囲からのダメージも減らせるとなれば、自分を守るアイテムのひとつとして、365日マスクをするようになります」

■実はコロナ前に「だてマスク依存者」は減っていた?

 さて、世間でだてマスク依存者が注目されてから10年。コロナ禍の現在、さまざまなところで“マスク依存が増えつつある”という話が聞こえてくる。

 たとえば、医師専用コミュニティサイト「MedPeer」が昨年12月に医師会員を対象とした調査では、「今注意すべき新現代病」としてマスク依存症が2位にランクインし、『マスクがないと落ちつかない人の増加が目立つ』(一般内科・30代)という声を紹介している。

 化粧品会社・福美人が今年6月に全国の20〜30代男女に行った調査では、「外出時のマスク着用」について、35.8%が『つけていないときの方が違和感があるくらい慣れた』と答えている。

 また、筆者の子供が通うある公立小学校の養護教諭は、こうした実感について語っていた。

「顔の半分を隠しておくことで安心感が生まれるのか、マスクを手放せなくなっている子供たちが見受けられるようになってきました。これまでにもマスク依存の子はときどきいたのですが、昨年のコロナ禍から、はずしてもいい場所でもマスクをはずさない子が増えたように感じます」

 コロナ前と現在で、だてマスク依存者はどう変わったのか。菊本さんは次のように分析する。

「意外かもしれませんが、私はこれまでのだてマスク依存者は、コロナ禍の少し前から減ってきたように思っています。

 というのは、私が本を上梓した2011年頃、だてマスク依存者は一般社会では“変人”、“精神的に弱い奴”という扱いでした。ところがその後の10年で、『自分と違う人の事情も理解しよう』という空気が、世間に少しずつ醸成されてきました。これは、鬱やADHD、社交不安、HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン:非常に敏感で繊細な気質の人)などを公表する人が増えたことと関係すると考えています。周囲の人々がだてマスク依存者に対して、以前よりやさしくなったのです。

 そこで、対人恐怖気味だっただてマスク依存者の不安が減り、マスクをはずせるようになった、という例が複数ありました」

■「ノーマスク時代」におびえる人たち

 では、コロナ禍で新たに浮かんできたマスク依存者は、どのような人々なのだろうか。

「指摘されている新規マスク依存者は、大多数が“ウイルスの恐怖感から逃れたい”人たちでしょう。これはコロナ禍の先行きが見えない現状では当然の心理で、コロナ禍が収まれば自然と減るはずです。

 一方で、マスク依存とまではいえなくても、『コロナが収まったあと、“ノーマスク”になるのが怖い』という人が、一定数出てくるように思います。だてマスク依存者は外出する際、鍵をかけるのと同じように、当然の習慣としてマスクをつけて家を出ます。それがコロナ禍で、マスクは国民全体の外出習慣となり、全世代が“マスクで得られる安心感”を知ってしまった。特に女性にとっては、マスクをつけると『メイクをしなくてもいいから楽』という付加価値も生むため、ノーマスクへの抵抗感は大きいかもしれません」

■当てはまる? だてマスク依存症の “予備軍チェック”

 実際にノーマスク時代の到来を恐れる人の声を紹介しよう。中部地方在住の40代女性・Aさんはこう話す。

「口元には個性が出るので、自分の口元を見られるのも、他人の口元を見たりクチャクチャ音を聞くのも嫌です。本当はマスクの上にサングラスもしたいくらいの気分。コロナ禍でマスクが奇異でなくなりホッとしているのが実情です」

 ノーマスクを怖がる人は、だてマスク依存症の “予備軍”といってもいいだろう。菊本さんは「だてマスク依存症になりやすい人」として、以下の項目を挙げる。

・社会恐怖や場面緘黙(かんもく・家などでは普通に話せるのに、学校や職場など、特定の場所では話せなくなってしまう症状)があるなど、自己開示が苦手な人

・個性を求められるのが辛く、周りに埋没したい人

・自分に劣等感や、根拠のない罪悪感を抱えている人

・周囲と関わることを面倒に感じる人

・自分はセンシティブな人間だと思っている人

「私は特に、『自分はセンシティブだと思っている人』という項目に注目しています」と菊本さんは話す。

■「繊細枠」として特別扱いされたい人たち

「センシティブを自認するのは、実際のだてマスク依存者によく見られる傾向です。彼らの心の奥には『自分は弱者で、本当はスペシャルに扱われるべき存在なのだ』という思いがあり、だれかにそれを伝えたいのです。だから、私のようなカウンセリングに電話をかけてきます。

 センシティブというのは特性ですから、見た目だけでは他者に伝わりません。ところが常にマスクをしていると、『この人は病気かもしれない』『なにか事情があるのだろう』など、周囲の気遣いや同情を簡単に得られる。これは、理解や承認がほしい人たちにとっては、とても甘美で、麻薬のような快感なのです。

 コロナ禍の現在は、だてマスクを見分けられません。しかし、コロナ禍を超えても一部、マスクをし続ける人たちが残るでしょう。その時ようやく、だてマスク依存者の新しい姿があぶりだされるかもしれません」

■マスクに依存し続けてもいい?

 だてマスク依存症にはもちろんデメリットもある。代表的なのが「表情が見えないので、コミュニケーション不全を起こしがち」、「非常識、頑固な人に見える」というものだ。だてマスク依存症は治す努力をすべきものだろうか。菊本さんは首を横に振る。

「治さなくてもよいと思います。だてマスクという《心理的な壁》をつくることで、その人が外出や他者との会話などできることが増えるなら、むしろメリットのほうを評価すべきでしょう。また世間も、コロナ禍によって“いつもマスクをつけている人”を受け入れやすくなったはずです」

 コロナ禍でマスクの種類は多様化した。以前は白の不織布ばかりだったが、さまざまな色や柄が登場し、“マスク生活を楽しもう”という雰囲気さえある。

 マスクをつける人が一般的になり、ネックレスなどと同様のアクセサリーになれば、だてマスクという言葉自体がなくなる可能性もある。そうなったとき、人々は新たな“だて”を探し当てるのかもしれない。

(前島 環夏/Webオリジナル(特集班))

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