「いまも競艇に八百長は存在する」 一流レーサー逮捕に隠された驚愕の“ボートレース界 八百長のリアル”

「いまも競艇に八百長は存在する」 一流レーサー逮捕に隠された驚愕の“ボートレース界 八百長のリアル”

コロナ禍においてもネット投票の急伸で2020年度は対前年比35.7%増、年間2兆円以上の売上を記録したボートレース界

 自身が出走するレースでわざと着順を落とし、高額配当を演出。そのレースの舟券を親戚経由で購入する――。ボートレース界でそんな手法の「八百長事件」が起きていたことが、昨年1月各紙で報じられた。ボートレース界“史上最大の不祥事”とも言えるこの事件は、各所に大きな衝撃を与えた。

 事件の中心人物として逮捕されたのは、全盛期には年間2500万円ほどの賞金を稼いでいた一流選手。だが、彼が捕まったことで、ボートレース界の“闇”がすべて晴れたわけではなかった。事件後の取材で分かった、競艇界の“八百長のリアル”とは――?(全3回の1回目/ #2 、 #3 を読む)

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■有力若手・西川昌希選手(31)が八百長で実刑判決

<A(選手の実名)から連絡あって徳山か津で飛ぶか足らなかったら二回するんで50貸して貰えないですか?って 戸田の成績悪すぎで月末の支払いがやばいらしい>

?

<Aで仕事に成るんか?>

?

<どやろなー B(Aとは別の選手名)とたいして変わらん感じやとは思うけどな 徳山と津しかまだ斡旋が入ってないのが寒いな>

 この生々しいやりとりは、名古屋地検特捜部に逮捕された元競艇選手と、同じく逮捕された共犯者の男性の間において交わされたLINEの記録である。徳山、津、戸田はすべてレース場を意味する。

 2020年1月、競艇(現在の正式な呼称は「ボートレース」だが本稿では「競艇」と記す)史上最大の不祥事が明るみに出た。最高グレードのレースであるSGにも出場していた有力若手選手の西川昌希(31)による八百長事件である。

 西川は2016年以降、出走レースにおいて故意に着順を落とす不正を繰り返していた。西川とは親戚関係にあった元弘道会組員の増川遵(54)が、西川を除外した舟券を購入するという手法で、約3年半の間に得た利益は5億円以上にのぼる。

 2人は2020年1月、モーターボート競走法違反の疑いで逮捕され、増川は執行猶予付きの有罪判決(懲役3年、執行猶予5年)が確定。また西川は懲役3年の実刑判決が確定し、現在受刑者となっている。

■競走会は「たった1人の身勝手な、心無い元選手の行為により…」

 競艇の競技運営を担う総本山である「一般財団法人日本モーターボート競走会」(競走会)は西川が逮捕された翌月の2020年2月19日、「不正行為に関する再発防止策」という趣旨の記者会見を開き、次のように説明した。

「しかしながら、このたびの、たった1人の身勝手な、心無い元選手の行為により、お客さまや関係者を裏切る事態を招いてしまったことは残念でなりません。名古屋地方検察庁の厳しい捜査においては、本件は元選手1名とその親族による不正行為であり、業界が関与する組織的な不正行為ではありませんでした」

 事件に関与した選手はあくまで西川1人であるということを強調した内容だ。だが、一審判決が言い渡された直後の2020年11月、西川は犯行の全貌を告白した手記『 競艇と暴力団 』(宝島社)を上梓し、こう述べている。

〈<ただ、この本に書いていない重要なことがひとつだけある。「いまもボート界に八百長は存在する」という事実だ。> ?

?

<レースで不正をしている選手は、全体からすればごくわずかだ。ほとんどの選手はクリーンで、八百長とは無縁のはずだ。しかし、不正に関与していたのは俺だけではなかった。これは厳然たる事実だ。>

?

<検察や競走会は、今回の事件を「前代未聞の犯行」という。そんなことはない。表沙汰になったのは初めてかもしれないが、決定的な証拠がなかったというだけで、水面下では常に不正はあったし、いまもある。検察はともかく、競走会はそのことをよく知っているはずだ。>〉

 この西川の主張に対し、競走会はいまのところ黙殺を決め込んでいる。

■他にも八百長選手はいたのか?

 確かに西川が逮捕された事件、競走会が言うところの「本件」は「業界が関与する組織的な不正行為」でなかったかもしれない。しかし「本件」以外に、不正を働いていた選手は全くいなかったのか。この点について、競走会は明確に説明していない。

 西川は「他の選手を売ることはできない」とし、裁判や手記でも不正選手の実名を明かさなかった。しかし「(競走会が)証言の信用性をめぐって全面的に争うのであれば、俺は自分の知る他の選手の不正を語ることになるだろう」(『競艇と暴力団』)とも述べている。

 結局、「他にも八百長選手はいた」とする西川の主張は真実か。それともまったくの虚偽だったということなのか――。これはぜひともはっきりさせておかなければならない問題である。

 結論を先に言おう。

 競走会は、ファンに説明、公表すべき重大な事実を隠している。西川が指摘した「隠蔽体質」は、何ら変わっていない。

■司法取引に応じた共犯者・増川遵

 ここに、数百枚に及ぶ資料がある。西川事件において、共犯者の増川遵が名古屋地検特捜部の取り調べに対して語った供述調書(検面調書)だ。

 この事件で西川は、シナリオ通りの供述を強要する検事に反発し一切調書を取らせなかった。一方、増川はすべてを語ることで量刑の軽減を狙う、ある種の司法取引戦術を取った。本来であれば西川と増川が同罪であるべき事件だったが、増川は実刑判決を逃れ、西川は懲役3年という「大差」がついたのは、検察に対する協力姿勢の度合いが考慮されたと見て間違いないだろう。

 増川の検面調書の内容は裁判における事実認定の土台となっており、一般に警察が取り調べた調書よりも、検事が取り調べた調書のほうが証拠価値が高いとされることを考えると、その内容には十分な真実相当性がある。さらに注目すべきは調書を補足するLINEのトーク履歴だ。これは今回の犯罪を裏付ける最大の証拠であり、やりとりは動かぬ事実である。

■私物のスマホを堂々と持ち込んでいた西川

 競艇選手は他の公営競技の選手同様、レースの開催中、宿舎に通信機器を持ち込むことを禁じられている。しかし、西川は私物のスマホを堂々と持ち込み(当時、検査体制は形骸化していた)、連日のようにLINEで増川とやりとりをしていた。2人は八百長を「仕事」と呼び、有利な1号艇のとき、3連単の舟券に絡まない4着以下に沈む八百長方式を「ブッ飛び」と命名していた。

 競艇の番組表(レースのプログラム)は、基本的に前日の午後に発表される。西川は翌日の番組表が発表された後、選手の実力やコース取り、エンジン機力などを考慮しつつ「仕事」ができるかどうか、できるとしたらどのようなレース展開を演出するのがもっとも効率よく利益を得られるか、宿舎の内部からLINEで詳細に増川に指示、提案していた。

 情報を受けた増川は、オッズが不自然に歪まないようにレース直前まで資金配分を計算し、ネットで舟券を購入していた。 そのLINEのやりとりのなかには、看過できない重大な内容が多数、含まれていた。

 ?冒頭に紹介した内容はその一例だが、他にも西川が告白した「不正に手を染めていた選手がいる」という主張を裏付けるトーク履歴が頻出している。まずは、その事例を紹介していきたい。なお、LINEは原文ママ、選手の実名や特定に直接つながる情報は伏せ、絵文字等は省略することにする。

■同世代の中堅選手Cと協力して八百長を……

〇ケース1 「先にくれたら2回する」と持ち掛けた中堅選手C

 西川は九州地区のレース場で開催されたシリーズに出走し、最終日の翌日、関係の深い同世代選手Cと飲みにいったという。

<結局、今日もCと飲んどるんやけど後いくらくれるかによって1でやるって笑 値段言ってないで倍くれるなら1と俺と一緒になったら飛ぶとか言うとる やりそうやな!>(西川)

?

<倍て、先に渡した50にあと50って事か?>(増川)

?

<うん 先くれたら二回するって言うとる。とりあえず聞いてみるって言うたけど>

?

<二回は俺と一緒やった時な!>

?

<今回みたいに一緒にならん可能性もあるけど>(西川)

?

<1人でもインなら1回は、やるんか>(増川)

?

<インはやるって 値段言うてなかったで倍くれたら俺と一緒になったらその時もいいよって!>(西川)

?

<ほな今から50振り込んだらエエんか>(増川)

?

<OK それなら今渡す 〇×(筆者注:レース場名)の前泊また作戦会議って言うて一緒に泊まるで一応その時紙書かす?>(西川)

 西川は、私生活上の変化で金銭が必要になっていたCから「報酬を倍にするなら八百長をしてもいい」と持ち掛けられ、すでに渡していた50万円に加え、さらに50万円を渡すかどうか、増川に相談している。

「1」「イン」とは有利な1号艇が回ってきた場合を指す。競艇では最も内側からスタートできる確率が高い1号艇が本命になるケースが多いため、不正をする場合は1号艇のときにあえて着外に沈み、高配当を狙う戦略が基本となる。

 また「俺と一緒やった時」とは、同じレースに西川とCが出走(競艇は6艇によって着順が争われる)する場合を指す。単独の八百長は自信ないが、西川との連携八百長なら、リスクも罪悪感も半減するというところだろうか。

■不正に同意したのは、Cの他に少なくとも5名

 その後、Cが本当に不正をしたかどうか、それを直接示すやりとりは確認できない。検察が調書に添付したこのトーク履歴は、あくまで西川自身の不正の証拠であり、他の選手の不正についてやりとりされた部分はLINE履歴から摘出されていないのである。

 ただし、西川が不正を持ちかけ同意を得た可能性のある選手は、Cの他に少なくとも5名おり、証拠資料のLINEに実名で登場する。そのなかには、艇界最高グレードのレースである「SG」の常連選手2名も含まれる。

 西川は、口座を管理している増川から分け前(利益の5割)以上のカネを引っ張るため、しばしば「八百長の対価として前金を渡す」として、実際には不正を約束していない選手の名前を出し、増川に現金を要求していた。このことは、西川の手記にも書かれている。

 従って、名前が出てくる選手がすべて不正をしていたと断定することはできない。だが、Cをはじめとする選手が全員「シロ」だという証拠はない。なかには極めて不正の疑いが濃い選手もいる。( #2 へ続く)

4万円分の舟券が500万円以上に…自分たち以外の八百長選手を狙う「ハイエナ作戦」とは? へ続く

(欠端 大林/Webオリジナル(特集班))

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