《家族間殺人》「俺がちゃんと教育するから」交際相手の実家に寄生して家族を洗脳…一家が“邪魔者の排除”に至ったワケ

《家族間殺人》「俺がちゃんと教育するから」交際相手の実家に寄生して家族を洗脳…一家が“邪魔者の排除”に至ったワケ

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 家族の悩みは他人に相談しにくく、押さえ込んだ感情がいつ爆発するかわからない。それを証明するかのように、日本での殺人事件の約半数は家族間で発生している。

 加害者家族の支援団体「 World Open Heart 」で理事長を務める阿部恭子氏は、自身がこれまでに支援を行ってきた加害者家族のうち、家族間で行われた殺人の実態を著書『 家族間殺人 』(幻冬舎新書)にまとめた。ここでは同書の一部を抜粋し、長女と長女の交際相手が次男を殺害してしまった事件のあらましを紹介する。(全2回の1回目/ 後編を読む )

◆◆◆

■田舎の大きな一軒家に、交際相手を連れて帰省した長女

 村山家は、事件が起きるまでごく平凡な家庭だった。田舎の大きな一軒家で敏子さん(仮名・60代)の夫の両親と二世帯で暮らしていた。子どもは長男と、長女の真奈美(仮名・20歳)、そして次男の翼(仮名・16歳)で、兄弟仲のよい家族だった。兄は学校では人気者だった。気が弱くていじめられっ子の翼を、気の強い真奈美がいつも守ってあげていた。

 思春期に差し掛かると、真奈美は学校生活がうまくいかず、不登校になった。真奈美は勉強もスポーツもよくできる兄に劣等感を抱くようになった。常に比較されているように感じ、親との仲も悪くなり、高校を中退し都市部に出てアルバイト生活をするようになった。

 ある日、真奈美は彼氏を連れて帰省してきた。その男性が今回の事件の主犯格である工藤健一(仮名・30歳)であり、真奈美より十歳年上だった。健一の父親は会社を経営しており、健一は会社役員という肩書きだった。真奈美が勤務していた飲食店の常連客で、著名人にも知り合いが多いとよく話していた。真奈美は、自分の知らない世界にいる健一に魅力を感じ、結婚を前提とした交際を始めたということだった。敏子は、健一が仕事をしている様子がないことがひっかかったが、真奈美から信頼している相手だと言われ、ふたりの交際に異を唱えることができなかった。真奈美の父親は、健一を歓迎した。父親は、真奈美が都会で夜の仕事をしていることが嫌だった。仕事を辞めて家庭に入るという健一の提案に、胸をなで下ろしていた。翼も「二人目の兄ができた」と健一に懐いており、喜んでいた。健一はすぐに、村山家に入り浸るようになった。

■引き裂かれた家族

「いいな、こんな広い屋敷を自由にできたら」

 健一は、真奈美にいつもそう言っていた。健一の目的は、村山家の支配だった。「社長の息子」は?であり、定職に就いた経験はなく、正体は女性に寄生して生きていた男だったのだ。

 村山家を取り仕切っているのは敏子だった。夫の両親の世話をし、三人の子どもを育ててきた。家計もすべて敏子が管理しており、敏子がいなければ、村山家は回らないのだ。父親も子どもたちも健一を信じたが、敏子だけは思い通りにできなかった。

「やっぱり、お母さんは男の子が三人欲しかったんだって。真奈美のことだけは、どうしてもかわいいと思えないって悩んでたよ」

 健一は、そう真奈美に?を吹き込んだ。真奈美は酷く傷ついた。母親とうまくいかなくなったのは、そういう理由だったのだと思い込んだ。

「あたし、やっぱり望まれない子だったんだね……」

 涙ぐむ真奈美を健一は抱きしめた。

「お前は俺が一生、大切にするから。あんな奴、母親と思うな」

■「ショック受けると思うけど、大丈夫?」と前置きして

 健一は、兄と父とよく晩酌をしていた。

 ある日、健一は大事な話があると言って、真奈美と翼を呼び出した。

「昨晩もお父さんとお兄さんと飲んでてね、お父さんが言ってたことがどうしてもひっかかって……」

 いつになく神妙な面持ちの健一を、真奈美は急かした。

「何だって?」

「でも、知らないほうが……」

「話して、隠し事はなしって約束でしょ」

「ショック受けると思うけど、大丈夫?」真奈美は頷いた。

「翼は?」

「翼も知りたいよね?」

 真奈美がそう言うと、翼も頷いた。

「お父さんには絶対言うなって口止めされたんだけど、真奈美も翼も、お父さんの子どもじゃないんだ」

 あまりのショックに、真奈美と翼はその場にへたり込んだ。もちろん、真っ赤な?である。

「私たちは誰の子どもなの?」

「若い頃のお母さんは浮気癖があって、相手は行きずりの男だったみたいだよ」

「私と翼の父親も違うの?」

「そう」

「そんな……」

「お母さんに言うなよ。お父さんに口止めされてるんだから」

 真奈美は怒りが込み上げていた。

■家族をあおって敏子さんを孤立させ

「翼、行こう」

 真奈美は翼の手を引いて、台所にいる母親のもとへ向かった。

「ふざけんな!クソババア出ていけ!」

 真奈美は敏子に向かって暴言を吐きながら、食器を投げつけた。翼も真奈美と同じように敏子を攻撃した。

「絶対許せない!」

 真奈美と翼は、毎日のように敏子に暴力を振るい、暴言を吐くようになった。

 健一は、父と兄にも真奈美と翼は父の子ではないかもしれないという疑惑を植えつけた。

 真奈美と翼がなぜ急にそんな態度を取るのか、身に覚えのない敏子は戸惑った。健一が何か吹き込んでいるに違いなかったが、家族は誰も健一を疑わず、敏子は家の中で徐々に孤立を深めていった。健一は父親に、自分と出会う前の真奈美は風俗店で働き、アダルトビデオにも出演したと?をついた。そして、「自分が話をつければ動画が流出しないよう200万で買い取ることができる」などと言っては、父親から大金を騙し取っていた。世間知らずの父親は健一の話を信じ、真奈美のような娘と結婚してくれるのは健一だけだと健一を頼るようになっていた。

 次第に村山家の家計は逼迫し、父親ひとりの給料で生活していくのは難しくなっていた。敏子が何度訴えても夫は聞く耳を持たず、長女と次男からの暴力と、夫や長男からの無視に耐えられなくなった敏子は、家を出ていくしかなかった。

■暴力の始まり

 邪魔者を追い出した健一は、さらに一家の支配を進めていく。村山家に寝泊まりするようになり、遊ぶ金欲しさに翼を働かせるようになった。

 冬が近づいてきた頃、翼が台所で洗い物をしようとすると、

「お湯は使うな!お前が使っていいのは水だけだ、いいな!」

 真奈美は、健一が翼を怒鳴りつけているのを見てしまった。

「あのな、悪いことしたんだから謝れよ」

「ごめんなさい」

 翼が謝ると、

「なんだそれ?そんな謝り方あるかよ、お前何様だよ」

 翼は、床に座り土下座をした。

「ごめんなさい……」

「は? 申し訳ございませんだろ?」

「申し訳、ございません」

「聞こえねえよ!」

 健一は、土下座をしている翼の胸を思い切り蹴った。

 苦しそうにしている翼に、健一は台所にあった洗剤を飲むように言い、嫌がる翼は、顔を殴られ続けていた。そして、一気に洗剤を飲み干すと、口から泡を吹いて、その場に倒れた。

 健一は、口から泡を吹いている翼を見て笑い転げていた。

■「あいつの父親はヤクザなんだ。ちゃんと教育してやんないと」

 凍り付いた表情で見ていた真奈美を、健一は寝室に連れて行った。

「これからは、俺がちゃんと翼を教育するから。あいつの父親はヤクザなんだ。ちゃんと教育してやんないと、いつかあいつもヤクザになって家族を攻撃するからな」

 真奈美は衝撃を受けた。裏社会に詳しい健一の話なら間違いないはずだ。翼の父親はヤクザ……。真奈美はそれ以来、翼が健一から暴力を受けているところを見ても、どこかで仕方がないと思い込むようになっていった。

 翼は、どれほど寒い日であってもお湯を使うことは許されず、風呂でも水を使わされていた。健一の虐待に父親や兄は全く気がついていなかった。

 よく健一は、「翼と訓練をしてる」と言って、翼が傷だらけで帰って来ることがあった。健一は怒り出すと止まらないところがあり、真奈美は恐怖を覚えることもあったが、家族は信用できず、頼れる人は唯一、健一だけだった。

 広い屋敷の中で、翼は完全に奴隷だった。昼間は外で働かされ、夜は健一と真奈美の世話をさせられるのだ。疲れて帰ってきているにもかかわらず、ふたりの食事が済むまでは食事を摂ることが許されなかった。食事はいつも残飯で、見る見るうちにやせ細っていった。

 ある時、翼が洗面所にいると、

「おまえもたもたすんなよ。髪なんかとかして生意気だ」

 と言って、健一はバリカンで翼の髪の毛を刈ってしまった。

 こうした行為を目の当たりにすることによって、真奈美は暴力が自分に向くことを怖れ、健一への服従をさらに強めていった。

 これまで真奈美が翼に暴力を振るったことはなく、仲が悪かったわけではない。健一が加える暴行に、「やめて」と言ったことはあったが、助けを呼んだり体を張って止める勇気はなかった。

■被害者と加害者の別れ道

 幼い頃、仕草が女の子のような翼は、学校で友達にからかわれ、いじめられることもあった。

「やられたらやり返さなくちゃダメでしょ」

 気の強い真奈美は、いつもそう諭していた。

「僕、それができないんだよね」

「もし、殺されそうになったらどうするの?」

「殺されても、殺すのは絶対無理だね」

「えー、何もしないで殺されてもいいの?」

「よくはないけど、殺すよりはマシかな」

「翼は被害者の道、あたしは加害者の道を行くよ」

 翼は笑っていた。その言葉が現実になってしまった。

■殴られながら「それだけは勘弁してください」と謝り続け、力尽き

 健一はその日、やけに機嫌が悪く、翼は蹴られたり叩かれたりしていた。健一は、敷地の奥に住んでいる祖父母の存在が邪魔になっているようだった。

 健一は翼に、家族全員の財布からお金を盗ってくるよう命じたり、通帳の残高を調べさせたりしていた。祖父母は健一に優しかったが、父や兄と比べると自宅にいる時間が長いので、翼の変化にも気がつき始めているようだった。

「いい加減にしろおまえ、何でできないんだよ!」

 健一は激高して翼を殴り続けた。

「もういいじゃない。あんまり騒ぐと、お父さん起きちゃうよ」

「うるさい!あっち行ってろよ」

 健一は、そう言って真奈美を追い出した。

「それだけは勘弁してください」翼は謝り続けていた。

 そして翌朝、自宅の前で倒れている翼を兄が発見したときには、すでに手遅れだった。

 おそらく健一は、祖父母の殺害を翼に要求していたのではないかと思われる。翼に、そんなことができるはずもなかった。我慢し続けてきた暴力からようやく逃げようとしたところで、力尽きてしまったのだ。

■家族全員が容疑者

 自宅で人が亡くなった場合、疑われるのはまず同居人であり、全員が容疑者として取り調べを受けた。家族全員の携帯電話が没収され、互いに連絡を取り合うことができなくなった。最も疑われていたのは真奈美で、第一発見者の兄も連日厳しい聴取を受けていた。

 すべて正直に答えているが、「やっていない」「知らない」と言うと、警察官に「?つくな!」と大声で怒鳴られ、机を叩かれた。

 このとき真奈美は、他の家族も翼の死に関係しているのではないかと考えていた。父親は、翼と血が?がっていないのだから、亡くなったとしても何も感じないのではないか。兄も心のどこかで翼の存在を疎ましく思っていたのかもしれない。裁判が結審するまで家族との面会は禁止されており、家族全員で自分を陥れたのかもしれないと思うようになっていた。

■健一が必ず助けに来てくれると信じていたが……

 裁判で健一は、真奈美が積極的に翼を虐待していたと主張していたが、それも健一の策略なのではないかと考えた。健一が早く解放されれば、必ず助けに来てくれると信じていたのだ。

 刑務所に収監された真奈美は、この先、家族と会うつもりはなかった。どこの刑務所に収監されたのか、家族であっても知る権利はなく、手紙を出さなければわからない。ところが、敏子さんと父親は真奈美を捜し、面会に行った。そして徐々に真奈美は、健一に騙されていた事実に気がついていった。

「弟を助けられなかったことは、とても後悔しています。あのとき翼が犠牲にならなければ、他の家族も殺され、私も無期懲役や死刑になっていたかもしれません。そう考えれば、刑務所生活も仕方のないことだったと思うようになりました」

 出所した真奈美は、母親の敏子さんと一緒に介護の仕事をするようになった。

【続きを読む】《乳児死体遺棄》娘の妊娠に気づかない加害者家族の意外な“共通点”とは 「まさか、娘があんなことをしたなんて…」

《乳児死体遺棄》娘の妊娠に気づかない加害者家族の意外な“共通点”とは 「まさか、娘があんなことをしたなんて…」 へ続く

(阿部 恭子)

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