「私は学校も許せません」男性コーチにわいせつ行為を受けた野球部員の保護者が怒った異例の“授業料催促”《大阪偕星学園高校》

「私は学校も許せません」男性コーチにわいせつ行為を受けた野球部員の保護者が怒った異例の“授業料催促”《大阪偕星学園高校》

大阪偕星学園高校

「自分の中で暴走が始まった」部員への強制性交等罪で逮捕された大阪偕星学園高校野球部のコーチが、面会で語った驚きの言葉 から続く

 大阪偕星学園が保護者からの連絡を受け、水落雄基(31)のわいせつ行為を把握したのは2021年1月15日だった。水落の告白などによって14名の被害者がいることが明らかになったが、学校から被害者の保護者に連絡が届いたのは、およそ2週間後の1月28日だった。

 被害者のひとりであるD君の母親は学校の対応におおいに不満があるという。

「最初は担任の先生から電話が入ったんですが、『学校の顧問弁護士からの聞き取りがあるので、学校に来て欲しい』といきなり言われました。謝罪も説明もない状態で、何が起きたのか、息子が被害者なのか加害者なのかもわからなかった。『なんのことですか?』と確認すると『野球部で重大なことが起きました。息子さんが性的な事件の被害者として名前が挙がっています』と。私は誰に相談すればいいのかわからず、別の被害者であるB君のお母さんに連絡を入れたのです」

 そのB君の母親は、学校が事件を把握した1月15日に息子のB君から電話をもらっていた。

「電話口の息子は泣いていて、『強引に触られていた』と告白しました。息子は興奮状態で、また水落がいなくなったことで寮の中も混乱しているのか、電話の向こうがやけに騒がしかったのが印象に残っています。寮からすぐ自宅に戻らせることも考えましたが、まずは学校からの連絡を待つことにしました。それなのに一向に連絡がない。私に連絡がきたのも、Dさんと同じ2週間後(1月28日)。あまりにも対応が遅すぎます」

 その間、学校は第三者委員会を立ち上げ、14名の聞き取り調査に向けて弁護士が準備を進めていたという。

■「親にはっきり言えないような被害の話を…」

 A君、B君、C君、D君の4家族は聞き取り調査に子どもだけを参加させることを拒否し、弁護士や両親を伴って調査に応じた。

「親にはっきり言えないような被害の話を、初めて会った弁護士の方にすることが子どもにとってどれだけストレスとなるか学校は考えたのでしょうか」(B君の母親)

 加えて保護者たちは、学校に対して被害者家族だけを集めた説明会の開催を求めた。だが被害者家族すべてを集めた説明会は開かれず、弁護士を立てていた4家族だけが2月16日に学校に呼ばれることになった。

「弁護士さんから経緯の説明を受け、初めて学校から謝罪の言葉がありました。事件の発覚から1カ月以上経ってからです。学校の弁護士は水落が犯行に及んだ理由を、山本監督からのパワハラでストレスを溜め込んでいたと説明し、『水落も被害者なんです』と言いました。それに同情する保護者もいたようですが……」(C君の母親)

 そして4家族だけへの説明の2日後、2月18日に野球部全体の保護者説明会が開催された。C君の母親が続ける。

「被害に遭っていない生徒の保護者もいるところで、弁護士さんはセクハラの内容を説明していったんです。被害者からすれば耳を覆いたくなるような話まで、ですよ。あまりに無神経で、被害者感情を逆撫でする行為で、学校側の誠意が感じられませんでした。そんな状態で『意見があるならおっしゃってください』と言われたって、被害者家族が声を挙げることなんてできるはずがありません」

■「被害者ひとりにつき10万円しか払えない」

 2度目の保護者会が開催されたのは、1カ月後の3月23日。前日に水落が懲戒解雇となり、山本監督の依願退職も決まっていた。しかしこの時も全生徒の保護者が対象だったため、まず事件をきっちり処理したいと考える被害者家族と、少しでも早く野球部の活動を正常に戻してほしいと考える被害を受けていない家族との意識のギャップを生んでしまった。

「自分の子供が事件に関わっていない保護者としては、野球部の活動がどうなるかが気になるのは仕方ないですよね。説明会も事件の対応より野球部の今後の話ばかりで、被害を受けた家族はみんな釈然としない表情でした」(D君の母親)

 水落が去り、監督も交替した4月の時点で、被害者家族は水落の教員免許剥奪を訴えていたものの、警察に被害届を提出するつもりはなかったという。

「当初は被害届を出さず、民事裁判で問題を解決できたらと考えていました。いわゆる賠償金も、私たちはどれほどの金額が適当かわからないので弁護士さんにお任せしていたんです。すると4月頃になって『被害者が14人もいるので、被害者ひとりにつき10万円しか払えない』という連絡が水落側から届いた。金額の大小は気にしないつもりでしたが、あまりにもバカにしていると感じました。『0がひとつ少ない』と抗議する被害者の親もいました。その後20万円と提示されましたが、示談に応じる気持ちはとうになくなっていました」(D君の母親)

■「私は水落同様、学校も許せません」

 さらに追い打ちをかけるように、水落から最も卑劣な被害を受けていたA君の父親は学校から驚きの連絡を受けた。A君は事件発覚後から学校に通えない日々が続いていたが、2年生に上がるタイミングで授業料の催促を受けたという。

「新年度の1回目の授業料をお支払いいただけますか」

 大阪偕星学園では年間の授業料を3回にわけて納める形式だが、A君は学校に通えなくなり、転校も視野に入れていた。A君の父親は怒気まじりにこう話した。

「担任は野球部の部長でもあったので、事情もわかっているはず。それなのに授業料を催促してくるのかと驚きました。しかも『お支払いできません』と伝えたら、『水落から賠償金が入ったらそれで支払ってください』というんです。まるで、早く水落と和解しろといわんばかりの物言いに怒りを感じました。私は水落同様、学校も許せません」

 改めて、学校に問い合わせると、教頭は事実と認めてこう説明した。

「転学をするにしても、納付期限が過ぎている授業料は納めていただく決まりになっているんです。不幸なことに、水落のわいせつ行為によってPTSDになられたわけですから、水落の賠償金から授業料に充当するのは適当だと思いますし、お支払いいただくのも水落から賠償金が支払われるまでお待ちします。学校としては、むしろ被害者に寄り添った判断だというふうに考えています」

 事件発覚後、大阪偕星学園は硬式野球部に携わっていた関係者をそっくり入れ替えた。山本監督は辞任し、岡山の倉敷高校に移った。部長や寮監らは役職を外れ、外部コーチとも契約を更新しなかった。

 新監督には第三者委員会にも参加していた野球部のOBが就任し、コーチは新たに採用。乱れていた寮の風紀を取り戻すべく、食事を一新し、窃盗を防ぐために鍵付きの個人ロッカーを設置するなど、改革にも取りかかった。

 しかし、体制変更を学校が公にしたのは今年4月で、入学した新1年生に対しては入学式まで伝えていなかったという。山本監督のもとで甲子園を目指そうと大阪偕星学園に進学した生徒と保護者は驚きとともに学校に不信感を抱き、8人の生徒が入学式後に山本監督が就任した倉敷高校へ転学した。

「監督の依願退職を受理したのが3月ですから、どうしても遅くなってしまった。報告が遅れたことはこちらに非がありますが、監督が代わったことで転学された方の入学金や授業料、入部にあたってそろえなければならない道具の費用など、すべてお返ししました。むしろ、学校も被害者なんです」(教頭)

 転学した新入生には手厚く対処する一方で、水落から最も酷いわいせつ行為を受けたA君家族には授業料の催促をする。こうした対応の違いにより、いっそうA君の父親らは怒りを覚えている。

■新体制になってからも野球部長が謹慎処分に

 また10月8日には、大阪偕星学園の野球部長が「報告遅れ」によって7月27日から1カ月の謹慎処分を受けていたことも日本学生野球協会の発表で明らかになった。教頭によると、4月に就任した新監督による「パワハラに関する報告遅れ」だという。新体制となったからといって野球部の運営が正常に戻ったとは言い難い状態だ。

 4家族は今後、学校を相手に民事裁判を起こす可能性もあるという。

「学校にも、水落の使用者責任はあるはずなのに、事件発覚後しばらく謝罪すらありませんでした。保護者説明会にしても被害者家族を蚊帳の外に置くような対応で、まるで事件は『水落が勝手に犯したこと』と他人事のようだった。誠意が感じられない対応が続けば、学校を訴えるしかなくなってしまいます」

 2021年の夏の大阪大会で、大阪偕星学園は初戦敗退。多くの被害者がいた現2年生が主体となる新チームは、秋の大阪大会で2勝を飾ったものの3回戦で敗れた。

 そして10月2日には保護者もグラウンドに呼ばれ、来年1月からPL学園出身で、阪神のプロ野球選手だった岩田徹氏が新監督に就任することが報告された。岩田氏は学校の惨状と野球部の現状を把握した上で、監督就任の依頼を引き受けたのだろうか??。

 大阪偕星学園はいまだ、混乱の最中にある。

(柳川 悠二/Webオリジナル(特集班))

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