「すでに“オジサンたちのモノ”になりつつある…」急拡大する日本のフェムテックに“足りない視点”

「すでに“オジサンたちのモノ”になりつつある…」急拡大する日本のフェムテックに“足りない視点”

北原みのりさん。女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表を務める

「フェムテック」とは「Female+Technology」を掛け合わせた言葉で、女性の健康をテクノロジーでサポートするソフトウェアや医療、プロダクトやサービスを示す経済用語だ。2016年、「Clue」という月経周期を記録するアプリを開発したデンマーク人女性Ida Tinが名付けた。

■フェムテック市場への参入が急増

 フェムテックが含むものは幅広い。生理用品、出産後の骨盤底筋を鍛えるグッズ、定期的な授乳のためのアプリ、性的健康を促進するプレジャーグッズといったものから、生殖医療までもがマーケットの一端を担っている。

 これまでなかったわけではないが、「フェムテック」と名付けられることで、市場としての価値が可視化された。男性投資家や経営者には「見えなかった」分野でもあり、まるで新しく「発見」されたかのように、2020年あたりから「乗り遅れるな!」とばかりに参入を急ぐ日本企業が増加している。

 国際的なブームの背景にある要因は、女性経営者と女性技術者の台頭だろう。あらゆるサービスや技術開発、医療の現場で“健康な”男性の身体が“人間”の基準にされてきた歴史は長い。月経や更年期に関して、女性のQOLをテクノロジーによって高めていこうという視点がそもそも欠けていたのだ。

 そういうなか、ジェンダー平等を促進させてきたヨーロッパの国々を中心に、女性たちが当事者としてスタートアップさせてきたのが、フェムテックの原点だ。

 近年、#MeToo運動など女性の人権意識の高まりを背景に、セクシュアルヘルスに関心を持つ女性が急増していることも、フェムテック市場の拡大につながっている。

 私は女性向けのバイブレーターや生理用品の輸入販売の会社を1996年に立ち上げ、約四半世紀経営してきた。2019年には大阪の百貨店に、2021年には原宿の商業施設に店舗を構えるまでに成長させることができたが、25年前には全く考えられなかった未来を生きている。

■伊勢丹新宿店でバイブレータを販売

 例えば、数年前まで百貨店では生理用品を売り場に置くことはタブーとされていた。ところが今、都心部の百貨店はセクシュアルヘルスに関する商材を積極的に販売している。2021年3月には伊勢丹新宿店で初めてバイブレーターが売られ、大きな話題を呼んだ。

 ブームの中心を担うのは、女性バイヤーや女性経営者だ。彼女たちと話していると、「フェムテック」は単なる経済用語ではなく、女性たちが当事者としてマーケットを構築し、広げていく流れだと実感する。女性を大きくエンパワーしているのだ。

 さてフェムテックは今後、日本においてどのように発展していくのだろう。私が少し懸念しているのは、日本社会では既に、「オジサンたちのモノ」になりつつあることだ。2020年には自民党議員たちが「フェムテック振興議員連盟」をつくった。

 議連を立ち上げた野田聖子氏が経済誌のインタビューに答えて「(女性のためという)きれいごとではない。経済としてフェムテックに関わりたい」と話していたが、低迷する日本経済の起爆剤としてフェムテックは経済界、政界からも期待されているようだ。

 とはいえ、そこには女性たちが始めたスモールビジネスを守る視点はなく、女性=「消費者」としてしか見えていないと感じる。

 現在、「フェムテック検定」を行う法人や、フェムテックの権威然とした医療関係者等の法人などが次々に設立されている。

 日本から国際市場に広がる開発はゼロに等しく、具体的な商品やサービスもまだ発展途上段階にもかかわらず、フェムテックというマーケットの枠組みを規定し、既得権益をうむための組織作りが行われているのが現状だ。日本はフェムテックでもまた、ガラパゴス化の道を歩んでしまうのかもしれない。

 女性の身体に対する共感やリアルな視点が欠けているためか、フェムテック議連は「吸水ショーツ」を医薬部外品にしようと提言した。

 吸水ショーツは経血を吸収する下着としてフェムテックを象徴する商品と言われている。繊維テクノロジーの進化によって布だけで、ナプキン数枚分の吸収が可能になった。今や女性の生理ライフを大きく変える夢の商品として急成長している。

 そこで多くのメーカーがぶちあたるのが、日本における生理用品の規制だ。

 日本は生理ナプキンに他の国ではみられない厳しい規制をかけている。

 使い捨てナプキンは「医薬部外品」に指定され、育毛剤と同じく“効能はうたえるが、医薬品ではない”という扱いで、製造・管理過程が行政に取り締まられる。結果、海外メーカーにはよりハードルが高く、既存の国内大手しか参入できなくなり、日本の生理用品の選択肢が狭められてきた。

 生理用品への法規制は60年前に作られた。当時、決定の場に女性はいたのだろうか。厚生労働省に確認したが、生理用品が医薬部外品にされた議論の経緯は、今はもう分からないという。

■日本のフェムテックに足りない「視点」

 ちなみに、生理用品と全く同じ機能を持つ使い捨てオムツは「雑品」として、業界団体の自主衛生基準に基づいて流通している。雑品のため、生理用品よりも価格が抑えられる。

 なぜナプキンがオムツよりも危険視されているのか、私は全く理解できないが、現在、フェムテック議連が進めているのは、この古い法律に、最先端の繊維テクノロジーをあてはめることだ。

 長い間日本社会では、生理のない人たちがつくった法律、制度、ビジネスのなかに、女性の身体がむりやり押し込められてきた。女性の身体の尊厳が欠けたまま、ビジネス最優先で走るだけでは、結局女性を搾取することにしかならないだろう。

 フェムテックという国際的な流れを日本において矮小化せず、実態のあるマーケットとして成長させるためにも、真のジェンダー平等を求める公平な視点が、私たちには必要だ。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した 『文藝春秋オピニオン 2022年の論点100』 (11月8日発売)に掲載されます。

(北原 みのり)

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