生きたまま何度も自分の車で轢かれ…「福岡保険金殺人」容疑者の印象を大きく変えた“放火事件”

生きたまま何度も自分の車で轢かれ…「福岡保険金殺人」容疑者の印象を大きく変えた“放火事件”

西村さんが働いていた松成容疑者の会社

「あれ、いま車の下に人が轢かれとったばいな」

 男性は毎朝、最寄りの商店に車で煙草を買いに行くのが日課だった。だがこの日は一瞬、見慣れた外の風景に、強烈な違和感が混ざり込む。今年4月2日、午前6時45分のことだ。

◆ ◆ ◆

■背中に前輪が乗った状態

「気になったんで引き返したら、白髪の男の人が、背中に前輪が乗った状態で白い軽自動車の下敷きになっとった」(発見者の男性)

 福岡県うきは市、国道210号沿いにある廃業したうどん店の駐車場。南に100メートルも進めば大分県日田市に入る県境付近だ。

 半年後の10月6日。その日田市で保険代理店と運送会社の代表を務める松成英一郎容疑者(54)が、福岡県警に殺人容疑で逮捕された。被害者は松成の運送会社に勤務する西村一敏さん(当時64)だった。

 2人は大分県の国東半島沖に浮かぶ離島・姫島村の出身。松成は実母の弟である叔父の西村さんを、残虐な方法で殺めていたのだ。

「前日の夜、会社で電話番をしていた際に松成に呼び出された被害者は、生きたまま何度も自分の車で轢かれていた。車の不具合の確認中の事故に見せかけた犯行だった」(捜査関係者)

 西村さんには生命保険と自動車保険を合わせ、4000万円近くの死亡保障がかかっていた。死後、うち約1500万円の保険金が松成に支払われている。

■松成容疑者の印象を大きく変える“放火事件”

 ガッシリとした体躯、スキンヘッドにメタルフレームの眼鏡、薄い眉、整えた口髭……。逮捕後、ニュースに映し出された松成の風貌は異彩を放った。

「昔はシュッとしていたんですよ。不良でもなかったし。むしろ気の小さい男でした」(小中高の同級生)

 故郷の島を離れた松成は約20年前、日田市に保険代理業の会社を設立。プライベートでは3児の父として、子供のイベントにも積極的に参加した。若い頃はソフトボール市代表の常連で、幾度も県大会に出場した主軸打者でもあった。

 ところが――。歳月を経たある日、松成の印象を大きく変える“放火事件”が起きるのだ。

■自宅が家事になり…犯人はいまだ捕まらず

 2014年2月の夜。車庫から上がった炎が、松成の自宅を焼き尽くした。妻と離婚し、1人暮らしをしていた松成が、外出中の出来事だった。

「車に火を付けられた」

 松成は悔しそうに周囲にそう説明したという。警察も自然発火はあり得ないと断定したが、“犯人”はいまだ捕まっていない。

「木造2階建ての古い家が燃えて、3階建ての自宅兼オフィスに建て替えました。それ以降、松成さんの見た目が派手になって。高級車を乗り回し、いい時計をしていましたよ。プロの保険屋だから、相当なお金が入ったんだろうと噂になっていた」(近所の住民)

 その頃、松成と家族ぐるみの付き合いがあった経営者の男性が吐露する。

「見た目の割には繊細で気遣いのできる男でした。出火したのは、私が安く譲ったレクサス。保険資料は一式、事前に持ち出されていて無事だったらしく、火事の一件は、今も釈然としない思いがあります」

 この男性は火事の後、家を失った松成を、しばらく自宅に住まわせていた。

■マンションのローンなどで数千万円の借金が

「私の財布が二度なくなるなど、不審なことが何度かあって。誰かが長男夫婦の部屋に出入りしていた形跡もあった。松成はうちの娘との結婚を望んだが、反対した。その後も土地絡みのトラブルがあり、完全に縁を切りました」(同前)

 事件に至るまで、傍目には金に窮した様子がなかったという松成。だが、その懐事情は逼迫していた。

「松成には一昨年、博多に買ったマンションのローンなどで数千万円の借金があった。問題はギャンブル癖。長年、競艇に入れ込み、一度に十数万円を突っ込むような破滅的な賭け方をしていた」(前出・捜査関係者)

 西村さんは数年前に失業するまで姫島に住み、漁業に従事した気の優しい人だった。かつて「カズにいちゃん」と呼んで慕った叔父の命を金に変えた松成は、容疑を否認しているという。

「(西村さんには)そりゃもう申し訳ない……」

 今も故郷に暮らす松成の父は、そう言って力なく頭を垂れるだけだった。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2021年10月21日号)

関連記事(外部サイト)