《世界最大の覚醒剤市場》「7割はヤクザルート。残りの3割は、なあ、分かるか?」日本に覚醒剤を広めた男の“禁断の証言”

《世界最大の覚醒剤市場》「7割はヤクザルート。残りの3割は、なあ、分かるか?」日本に覚醒剤を広めた男の“禁断の証言”

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大統領夫人と製造した“シャブ”を日本へ密輸した黒幕…石原裕次郎のクラスメイトだった男による「覚醒剤輸入作戦」の実態 から続く

 眠気を除去し、集中力を高めるという理由で日本軍に重宝された「ヒロポン」の中毒者が、終戦直後の混乱した社会情勢のなか多く生まれたことに端を発した日本の覚醒剤史。これまで決して公に語られてこなかった現在に至るまでの歴史、そして知られざる流通ルートとは。

 ここでは、ノンフィクションライターとして精力的に活動する高木瑞穂氏による『 覚醒剤アンダーグラウンド 』(彩図社)の一部を抜粋。「シャブをこの国に広めたのは俺だよ」と自称する男、和久井氏の証言を紹介する。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

◆◆◆

■日本が世界最大の覚醒剤マーケット

 未だ第三次覚醒剤禍が続く日本が世界最大の覚醒剤マーケットであることは、間違いない。既に記したように、国内の製造が困難なこと、そして自国の相場より高値で取引されることなどから諸外国から良質なシャブが集まって来る。

 捜査関係者が補足する。

「ただし、アメリカ含め諸外国でも使用者が増えている。貿易なので、密輸団は高く買ってくれる国に売る。それでも結果、日本が一番高い」

 年々、摘発件数は増えているとはいえ、その勢いは未だ衰えてはいない。シャブの相場が劇的に変動していないことからすれば、厳しさを増す捜査機関の網を掻い潜り、密輸団によりどこからか、人知れず我が国の地を踏んでいることになる。

 90年代以降の関東のシャブ市場は、九州の有力組織が卸元になり、野原(編集部注:和久井が関東の三人衆の一人として名前を挙げるヤクザ)の手により拡大したことは既に記した。なぜ多くの組織が覚醒剤を扱っていたにも関わらず、後から割って入った野原のルートが主流になったのか。

 和久井によれば、シナモノが安定供給できたからだ。絶えず供給できる組織でないと市場は取れないのである。和久井が言う。

「他の組織でも当時、単発なら入れられたよ。でもそれじゃあダメ。市場を牛耳り相場を決められないからね」

 なぜ安定供給できたのか。

「製造から密輸、販売までワンストップでできるからだ。実際、九州の有力組織はタイに自前の製造工場を持っている。他のフィリピンルート、北朝鮮、中国、ロシアルートは製造が政府機関と結びついている。ひいては国際情勢により供給が不安定になるからだ。

 密輸の方法は、漁船でタイから出港し、フィリピンで寄港、台湾で寄港、石垣島で寄港、そして沖縄本島で降ろす。このルートはまだ壊滅的な打撃は受けてない。いまも細々とだが続いている。

 また、なぜ迂回するかといえば、漁船のため燃料の問題があるからだ。大型客船なんかで運んだら一発でバレちゃう。積荷を検査されたら一巻の終わりだ。だから海産物の輸入のように漁船を乗り継いで密輸する。

 フィリピンまでは同じ漁船。でも一回、台湾で乗り継ぐ。タイの漁船がなぜ日本に来たのか。明らかに不自然だからな。が、台湾とは海産物の受け渡しを頻繁にしているのでゴマカシがきく。そして瀬取りなどしてヤクザの息のかかった日本の漁船に積み替え、陸に上げる。これが唯一、安定的にいまでも続いている密輸ルートだ」

 松本(編集部注:独自に覚醒剤のタイルートを開拓していたヤクザ組織の幹部男性)は、タイに組織の自前の製造工場があることを否定していた。その真偽については分からないが、とにかく、他国に、政府機関と無関係の工場を持つことで安定供給できるわけだ。

■米軍ルート

 かつて和久井は僕にこう質問したことがあった。

「いま日本に入って来ているシナモノ(覚醒剤、大麻、コカインなどの麻薬)は、7割がヤクザルート。残りの3割はどこからか、なあ、分かるか?」

 答えに窮していると、和久井は勿体ぶらずに言った。

「米軍。つまり在日米軍基地からの横流しだ。それも北朝鮮などから組織的にね。 

 もちろんそれだけじゃない。在日米軍では、毎月、米兵に本国から仕送りができる。一人当たり10キロの積荷が認められている。検査もなく飛行機で直接、基地に運べる。このなかにシャブやコカイン、マリファナを忍ばせ、それをヤクザが買い取っているんだ」

 米軍ルート。北朝鮮と米軍基地には直行便があり、横田基地などを通じて、密輸ではなく堂々と“輸入”されているという。

 その都市伝説めいた発言に僕は、その場はひとまず押し黙るしかなかった。ありえない。繰り返すが自分を大きく見せたい裏社会の住人が取材者に対してリップサービスをするなど、よくあるものだ。

 ところが、こともあろうに和久井は、大真面目にこう続けたのである。

「ウソだと思うなら調べてみたらいい」

 調べると、少ないながらも北朝鮮と横田基地を結ぶ直行便があることを示す記述や画像が散見された。

「横田の米軍からの横流しとの触れ込みの大麻を売人から買ったことがある」

 一連の記事を読み、地元の先輩の言葉がよみがえった。普段は自分で栽培した大麻を楽しんでいるこの先輩は、ものの一吸いでブッ飛んだといい、たとえオランダやカナダなど“本場”から密輸されたものでもコンテナに入れて船で時間をかけて運ぶと熱で品質が落ちるところ、確かに空輸されたと思しきほどモノは良かったという。

 よもや、よもやだ。でも、ありえない話ではないのでは。大麻があるならそう、このルートで日本に覚醒剤が入ってきているとしても。

 この疑問を前出の元税関幹部の男にぶつけると、

「噂レベルでも聞いたことがありません。しかし横田に入る荷物を検査する権限などありません。横田基地などは日本国内にあってもカリフォルニア州です。海外と海外で起こっていることで、つまり治外法権。捕虜交換規定などにあたる明確な犯罪がないと監視することはできないでしょう。確かに盲点かもしれませんね、言われてみれば」

 という見解だった。

 一介のヤクザの発言ならいざ知らず、日本の覚醒剤史を熟知する和久井の証言だ。さらに国家の中枢に身を置くキャリア官僚でもある元税関幹部が、治外法権であり盲点と言うなら、調べてみる価値はある。

■裏取り

 改めて可能性を感じた僕は、それでも半信半疑のまま、この話の裏取りに走った。

 明くる日、ある可能性を信じ、また松本を訪ねて米軍ルートについて訊いたところ、彼は「実は前にも話そうと思っていたけど、信じてもらえないかと思って」と前置きした後、堰を切るかのごとく早口で捲し立てた。

「取締りが厳しくなったいま、確実なルートは一つだけ。日本政府がやってるルートしかないでしょう、米軍基地。これしかないんですって。自分たちが密輸を企てても、瀬取りだなんだと出たとこ勝負にならざるを得ない。年間1トン、2トンと挙げられている。なのに、なぜか覚醒剤は日本からなくならない。だから何度も言うけど、大きな荷物が安定して入るのはこの米軍ルートしかない」

 僕は米軍ルートを氷解したい、ひいてはシャブがなくならない理由を突き止めたいと懇願した。彼は当初、「こんなの書けるの?」と眉間に皺を寄せて難色を示した。だが、熱意が通じたのか、表情は徐々に軟化して僕に訴えた。

「知る限りでは、中国や北朝鮮から直行便がある横田基地。これは間違いない。あとは沖縄。こうした米軍基地に飛行機等で持ってこないと絶対に無理です。いくら摘発してもシャブがなくならないのは、このルートが秘密裏に機能しているから。つまり経験上、日本政府が絡んでいるとしか思えないんだ」

 日本政府が絡み、横田基地に中国や北朝鮮の覚醒剤が直接入ってくる。聞くだに荒唐無稽とも思える話である。松本はこう推測した。

「日本に入ったシャブをどこの組織が捌いているかまでは教えられない。まあ、政府と懇意にしている組織だ。

 横田から外国人ブローカーでワンクッション、政府関連組織でツークッション、そしてスリークッション目で我々の元に届く。そこから先はブツの量でどれほど人が入るかが変わる。例えば俺が10キロを1キロずつ卸したとすれば、今度は1キロから100グラムになる。そして100グラムから10グラムになる。最終的には10グラムから1グラムに。そして最後は売人から個人の使用者へ。

 この手口じゃないと絶対に無理。GPSで瀬取りも無理。税関も無理。他にどうやって安定して入れられるんですか」

 しかし、状況証拠による彼の推理だけでは、米軍ルートを事実として受け止めることなど到底できない。なにせ和久井の見立てでは全体の3割だ。米軍が組織立ってそんなに大量の麻薬を密輸するものだろうか。せいぜい米兵が小遣い稼ぎをしているぐらいのものではないのか。

 松本の推理には、さらに重要なポイントが隠されていた。彼には事実を捜し当てようとした過去があった。

「去年にも一度、『シャブが60キロ入った』との知らせがヤクザ仲間からあり、各組織が買い付けに走った。でも、通常ならどこの組織の誰が密輸したかが分かるところ、調べても調べても名前が出てこない。となれば、残るはもう米軍しかないから」

 僕は言った。

「松本さん、その自信はどこから来るんでしょうか」

「あのね、一回、横田基地に『取りに来て』と言われたことがあったの。でも危ないと思って行かなかった。裏切られたらアウトでしょう」

 単なる当てずっぽうでもなければ、都市伝説の類でもないのだ。

「横田基地と繋がりのある、古くから知っている宝石屋の社長がいた。その社長から、あるときこう誘われた。

『横田基地行く? 商品(覚醒剤)が着くから。他の組織も入札しているみたいだけど、だいたい30コ(キロ)くらいは取れると思うよ』

 でも、俺はワナかもしれないと思って断ったの」

■米軍基地-北朝鮮ルートで一級品が持ち込まれる

 前出の元税関幹部の男が証言するように、松本は、米軍基地と北朝鮮との間で直行便が往来していることなどは知っている。

「なぜ直行便があるの? 横田だけじゃない。沖縄だってある。その社長は、宝石など貴金属の取引で横田基地の人間と繋がりがあったことも事実。だから確実にこのルートはあるんだよ」

「軍兵士が私物に混ぜて本国から持ち込むレベルの話ではない?」

「違うよ。北朝鮮は自国の工場で造れるんだよ。だから大量にできる。

 もちろん品質も一級品。北朝鮮産のシャブは結晶一つがこぶし大の塊なんだから。見たことないでしょ?

 俺らが見るのは、そんな磨く前のダイヤモンドの原石のような塊ばかりだ。小さくて足の親指くらい。色? ガラスみたいに透明な結晶が良いってイメージでしょ。でも逆に良くない。むしろ真っ白くて硬い水晶のようなシナモノが最高級品だ。そして俺らは、その塊を細かく砕いて市場に出していた。

 北朝鮮は工場で、機械で製造している。俺はヤツらに『“味の素”を作る機械がシャブに応用できる。だから中古でいいから仕入れられないか?』と言われたことがある。

 聞けば、それがシャブの製造に『一番適している』と。原料を入れれば、“味の素”と同じくスイッチ一つで結晶体になって出て来るそうだ。簡単に良質のシャブができるんだって、何も手を加えずにね。

 20年前、俺は若い衆に何回も北朝鮮へ取りに行かせたから事情は良く知っている。当時はね、中国から送り(郵送)もできたから。もちろん腹に巻いても大丈夫だった。郵送で空き部屋に送る? いやいや、そんなことしないよ。愛人とか、ちゃんと人が住んでる知り合いの家に送る。もちろん中身はテキトーに言う。『友達のロレックスのコピーが届くから開けないで』と言えば、普通は開けないから」

【前編を読む】大統領夫人と製造した“シャブ”を日本へ密輸した黒幕…石原裕次郎のクラスメイトだった男による「覚醒剤輸入作戦」の実態

(高木 瑞穂)

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