《山梨県北杜市「震災いじめ」》「助成金たっぷりもらったんだろ…」我が子が陰湿いじめの標的となった理由

《山梨県北杜市「震災いじめ」》「助成金たっぷりもらったんだろ…」我が子が陰湿いじめの標的となった理由

陰湿な「震災いじめ」の実態

《山梨県北杜市「震災いじめ」》「助成金たっぷりもらったんだろ…」我が子が陰湿いじめの標的となった理由

被害者母のかたわらで今回の最終報告について語る、いじめ探偵の阿部泰尚氏

「これ以上、『大丈夫』を演じられない…」東日本大震災で転居した中1少女が手首を切った“4年に及ぶ陰湿いじめ”の手口 から続く

「これ以上、『大丈夫』を演じることができない……」

 東日本大震災による原発事故のあった福島県南相馬市から山梨県北杜市M町に引っ越した吉川まみさん(仮名)は、2013年の転校直後からいじめを受けて、2017年11月、自らの手首をカッターナイフで切った。

 幸い命に別状はなかったが、入院を余儀なくされ、病院付属の支援学級で過ごすことになった。明らかになったいじめの実態は壮絶だったにも関わらず、学校や教育委員会は思うように対応してくれない。母親が頼ったのは、いじめ探偵として知られる阿部泰尚氏だった。

 結局、いじめから逃れるため、まみさん家族はM町を離れた。自殺未遂を犯すまで追い詰められていたまみさんだが、その後は少しずつ落ち着きを取り戻し、現在は高校生になった。ところが、今でも苦しみは続いているという。一体なぜなのか――。

 まみさんの胸のうちを綴った手紙を受け取った阿部氏は、「いじめの原因を作ったのは地域の大人たちだ」と断言する。

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■おさまらない自傷行為

 以前住んでいた南相馬市では、避難所を転々とする生活。北杜市に引っ越してきて家族は、やっと落ち着くことができた。いじめの事実を語れば、また引っ越すことになるかもしれない。まみさんは「家族に迷惑はかけたくない」との思いから、いじめの事実を胸の奥にしまい込んでいたのだが、それにも限界があった。

 2018年1月30日。朝ごはんの用意をしている母親・恵子さんに向かってまみさんは絞り出すように言った。

「もう限界。学校に行けない。休ませてください」

 引っ越しから4年、まみさんはずっといじめられていた。

■学校を休み、精神科に通院するように

 母親に初めて、その事実を切々と語った。ギリギリまで耐え忍んできたまみさんは、極度に不安定な精神状態になっていて、いつまた自殺を図ってもおかしくない様子だった。母・恵子さんは一計を案じて「子どもの人権110番」に連絡し、事の次第を説明した。

「同時に精神科の思春期外来を受診しました。通院中も非常に危険な状態なので付属の病院に入院しましょう。ということになったのです」(恵子さん)

 学校を休み、精神科に通院するようになっても、まみさんの自傷行為は続いた。

「しばらくは自分の部屋の壁に頭を打ち付けたり、ベッドの手すりに首を打ち付けるなどの行為があったのです」(恵子さん)

 このまま自宅にいたのでは危険だということで、入院が決定した。24時間の見守りがつき、自傷を防ぐために筆記用具や紐の類は渡してもらえない。そんな入院生活が続いた。

 自殺念慮がおさまった後も、まみさんはM町の中学校には戻らず、病院に付属の支援学級で過ごした。おかげで徐々に事件前の日常を取り戻すことができるようになった。

 ことがここにおよんでも、学校側の認識はいたってイージーだった。2月のはじめに学校での話し合いが持たれたのだが、当時の校長は「チームまみを結成し、みんなで頑張ろー」と半笑いで拳を振り上げたという。

■第三者委員会設置までの紆余曲折 

 国の示したガイドラインでは、いじめによる「重大事態」の疑いがあれば、その段階で速やかに調査することを義務づけている。「重大事態」とは、いじめによって心身や財産に重大な被害が生じた疑いがあったり、いじめによって相当の期間学校を欠席しなければならなくなっているケースをさす。

 いじめによる自傷行為に追い詰められたまみさんのケースはどう考えても重大事態なのだが、学校側は「違う」と言い張った。それどころか、教員への聞き取りからまみさんの自傷行為の原因を「母親との不仲によるもの」といった趣旨の報告書を県の教育委員会に提出したのだ。

 恵子さんから相談を受けるようになった阿部氏は、次のように語る。

「これまで多くのいじめ事件を調査してきたのですが、学校や教育委員会は自殺や自傷の原因を『家族間のもめ事』として事態を矮小化しようとするのはよくあることです。あくまでも悪いのは家族であって学校は関係ないとの態度です。私が関わった愛知県の名古屋市名東区で起こったいじめ自殺事件でも、当初学校や教育委員会は『家族間の問題』と言い張っていました」

■弁護士や児童福祉司などの名前の公表も進まず

 まみさんが手首を切るなどして自殺を図った理由は、いじめにあることが明白だ。しかし、学校も教育委員会も認めようとしない。

「阿部さんのアドバイスを受けて、私は市の教育委員会に対し、まみのいじめについての調査をするための第三者委員会の設置をお願いしていたのですが一向に実現してくれませんでした」(恵子さん)

 2018年11月1日、第三者委員会が機能していないことが批判的に報じられると一転、5日後に北杜市教育長が記者会見して第三者委員会の設置を宣言した。

「ただ、その第三者委員会にしても、弁護士とか児童福祉司などの肩書きは公表するのですが、名前については伏せたままなんです。正直なところ学校や教育委員会に不信感があったので、氏名の公表をお願いしたのですが、それもなかなか進みませんでした」(恵子さん)

 この流れを変えたのが、いじめ探偵の阿部氏だった。

■県外の方を2名推薦し、外の空気を入れることに

「阿部さんにアドバイスをいただきながら、第三者委員会のメンバーについても話し合いを続けました。おかげで、それまで停滞していたお願いごとがスムーズに進むようになったんです」(恵子さん)

 また、既存の第三者委員会の5人は、全員が山梨県内在住だった。

「こうした案件では外の空気を入れたほうがいいと感じたので、私の方から県外の方を2名推薦しました」(阿部氏)

 その後、教育委員会内で適正に審査した結果、第三者委員会の5人のメンバーのうち、2人が県外の識者に入れ替わった。恵子さんは次のように言う。

「私は地域そのものが信用できない。外から人を連れてきてくれた阿部さんには本当に感謝しています」

 新しい布陣で再スタートを切った第三者委員会は、2021年8月20日、夏休みの最中だったが、まみさんに対するいじめに関する報告書の概要を中間報告として公表した。

 その中で「どけ」「死ね」などの暴言、無視や仲間はずれ、ボールをぶつけて笑うなどの行為がいじめであったと認定し、当時の学校や市教委の対応を「不十分だった」と批判した。

■いじめのきっかけを作った大人たち 

 そもそもいじめられるきっかけは、どこにあったのか。恵子さんも首をかしげる。

「今になって思うと、どうやらはじめからターゲットにされていたのだと思います」

 南相馬から引っ越して間もなく、まみさんは地域の剣道サークルに誘われた。週に2〜3回、放課後に体育館に集まり汗を流す。教えるのは地域の保護者たちだ。恵子さんも剣道の経験があったので、「やってみたら」と娘の背中を押した。

「まみ本人もやりたいというので、楽しみにしていたのですが、入会した翌月の試合に出場させられたのです。当然負けちゃうんだけど、そこで同じチームの同級生に『なにやってんだよ』みたいなひどいヤジを飛ばされて、これってどういうことだろうと、思っていたんです」(恵子さん)

 後日、サークルの懇親会の席で、恵子さんはチームのリーダー格の男性から信じられない言葉を投げつけられた。

「お酒が入って、みんないい気分のところ、その男性から『あんたも剣道の経験があるなら、参加してみないか』って誘われたんです。でも高校以来ずっと体を動かしてないから、私は観戦だけにしておきますって、断ったんです。そしたら『そっか津波で防具も流されたんだな』って笑いだして。それがあまりに配慮がない言い方で、思わずムッとしてしまった」(恵子さん)

■親世代のいじめの構図が、そのまま子世代に

 そんな態度が“生意気”に見えたのか、ことあるごとに「あなたはなっていない、態度が生活に表れている」といった個人攻撃が始まった。

「サークルはすぐにやめたのですが、以来、近所の人に『こないだ男性の運転するバイクの後ろに乗ってたんですってね』みたいなことを言われるようになって、まったく身に覚えのないことだったので怖くなってしまいました。そもそもシングルマザーってだけで気に入らないようで、私生活に関する根も葉もないウワサを流されました」(恵子さん)

 娘のまみさんをいじめていた加害者のリーダーYは、剣道サークルで恵子さんを攻撃した男性の娘だ。親世代のいじめの構図が、そのまま子世代にトレースされていたのだ。

 南相馬市から引っ越してきたという事実も、攻撃の理由だった。「避難のための助成金をたっぷりもらってるんだろう」……そんな心無い流言が、そこかしこから聞こえてきた。

「うちの場合は自主避難なので、引っ越しに関する補助金は一切出ていません。こちらも説明するんだけど、まったく取り合ってくれない。とにかく周囲に味方がいないので、言われるばかりで、反論できない。地域と私たち家族の間には、目に見えない壁がずっと存在していました」(恵子さん)

 いじめ探偵の阿部氏も、次のように語る。

「大人の序列がそのままスクールカーストに持ち込まれることはよくあります。剣道サークルの男性はM町で古くから商売をしている人。さらにその妻は幼児教育関連の公務員で、近所から『先生』と呼ばれる存在。その子どもが親と同じような態度に出るのは必然とも言えるのです」

■進学した高校でいじめ加害者と再び

 娘は学校でいじめられて、母親は地域で排除の圧力と闘った。

「娘は中学2年の1年間を病院付属の学校で過ごし、その後はM町から別の町に引っ越してそちらの中学校に通いました。現在は県立の高等学校に通っています」(恵子さん)

 当初想定していた生活とはかけ離れたものになったとはいえ、少しずつ元の日常を取り戻しつつあったのだが――。

「じつはまだ終わっていないんです……」(恵子さん)

 なんとまみさんの通う高校に、いじめ加害者のひとりが在籍していたのだ。

 同校は一般受験と推薦で入学試験の日程や形態が大きく違う。おかげで同学年であっても、誰が受験したのか分かりにくい。まみさんは一般受験で入学したが、いじめの加害者は推薦枠で入学していたのだ。

「今でも廊下ですれ違うときに、まみを睨みつけてきたりするらしいのです」(恵子さん)

 そのたびにまみさんは、過呼吸や心拍数の上昇といったトラウマ反応が出てしまうという。

■忘れたくても忘れることができない苦い記憶

 今年の8月20日、夏休みの最中に第三者委員会が敢えて中間報告をしたことは前述の通りだ。その裏には、高校に進学しても続くいじめの抑止力になれば、との思いがあった。つまり、第三者委員会も未だに続くいじめの実態を認識しているということである。

 渦中にあるまみさんが、今の心情を次のような手紙で伝えてくれた。

〈加害者にされたこと、言われたことは、忘れたくても忘れることができません。呪いのように染みつき、私だけでなく、家族まで今もなお苦しめられています。

 しかし、私のことを理解し、支えてくれた家族、その他の大人がいてくれたおかげで、少し立ち直ることができました。深く感謝しています。

 これから子供を支えてくれる大人が1人でも増えることを願っています〉

■大人は“大人の役目”を果たせているのか

 阿部氏は今回の事件に関わって感じたことを、次のように語る。

「第三者委員会も認めたように、まみさんへのいじめの事実は明白です。そのために苦しんでいる人間がいることを、加害者はきちんと受け止めるべきです。そして、きちんと謝る。親もそのように教育すべきでしょう。このチャンスを逃せば、加害者はその罪に気づくことができずに一生を過ごすことになってしまう。これは、とても不幸なことです」

 いじめが認定されたにもかかわらず、現在も被害が続くことを重くみた高校側は、いじめの加害者に対して「まみさんの教室に近づかないこと」といった口頭注意を行った。しかし、校内で完全に顔を合わせない生活は不可能だ。

「まみさんの手紙にある通り、子供を支えるのは“大人の役目”です。その役目を本当に果たせているのか、周囲にいる大人たちは、自分の胸に手を当てて考えてみてほしい。いじめで深く傷つけられたまみさんがこれ以上、苦しまないようにしてあげてください」(阿部さん)

 まみさんが本当に安心して登校できる日が、一日も早く来ることを願わずにはいられない。

阿部泰尚氏が原案・シナリオ協力をつとめる漫画「いじめ探偵」第1話を読む

【悩みを抱えた時の相談窓口】
「日本いのちの電話」
▽ナビダイヤル「0570-783-556」午前10時〜午後10時
▽フリーダイヤル「0120-783-556」毎日:午後4時〜午後9時、毎月10日:午前8時〜翌日午前8時

(末並 俊司)

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