「うちはビールが売れない。みなさん名物“オロポ”を頼むんです」 刺青、タトゥーを“断らない”西麻布の老舗サウナが乗り越えた“経営危機”

「うちはビールが売れない。みなさん名物“オロポ”を頼むんです」 刺青、タトゥーを“断らない”西麻布の老舗サウナが乗り越えた“経営危機”

左右で男女に分かれている

「韓国での家業が倒産して、両親は全財産1万円で来日しました」 サウナ「adam・eve」経営者が“タレントのマネージャー”を辞めて家業を継いだワケ から続く

 韓国から裸一貫日本に渡り、4年という驚くべきスピードでサウナを開業した両親から事業を受け継ぎ、西麻布「adam・eve」の3代目社長となった文沢圭(ムン・テッキュ)。オロポ(オロナミンCのポカリスエット割り)を産み出したアイデア、刺青OKの理由など、その独自性の裏側に迫る。(全2回の2回目。 前編 を読む)

■刺青OKのサウナ

「うちは問題ないですね。前身の女性専用サウナだった時代から大丈夫でした。この辺りは大使館も多いので、外国人の方もよくいらっしゃるのですが、海外の方は本当にカジュアルにタトゥーを入れるので、それを断るというのはどうかなと。そして、タトゥーはいいけど和彫りはどうするかなど、どこで線引きするかってすごく難しいじゃないですか。入浴前に『見せてください』って尋ねるわけにもいきませんし。タトゥーをお断りする意図は理解できるんですけれども、サウナはみんな平等に気持ちよくなるところなので、うちとしては刺青やタトゥーが入っていようがいまいが、人種や国籍も関係なく、うちのルールだけは守っていただければお断りはしませんよということでやっております。

 幸運にも中国大使館の警備で機動隊が目の前に24時間365日いますし、消防署も歩いて10秒ぐらいのところにあり、警察と消防に囲まれているので、ある意味『日本一安全なサウナ』って言われていますね(笑)」

 adam・eveは24時間365日営業。四半世紀を超える営業の中で幾度となく訪れた危機的状況を、家族や従業員一丸となって乗り越えてきた。その苦労は我々素人には想像を絶するものがあった。

■真夏のチラー故障事件

「24時間営業していると、お店を閉めて家に帰る安心感って全くないんですよ。家にいても常にお店は大丈夫なのかなと気になって休まらないですね。

 入社して一番大変だったのは、お水を冷やす冷却チラーが、真夏のお盆のど真ん中で故障しまして。業者さんも、これは新しいチラーを入れるしかありませんと。でも工事はお盆明けですと言われてしまったんです。サウナーの方々はお分かりかと思いますが、サウナが熱くないことと、水風呂が冷たくないことは、サウナ施設においてはもう致命傷中の致命傷なんですね。その頃はお盆休みって凄い忙しかったので、すぐに氷屋さんを探して、業務用のはさみで持つ巨大な氷の塊を買ってどんどん入れていって。それでもチラーが冷やす水風呂の温度にはならないので、お客様には本当に申し訳ないですけれどもと事情をお伝えして、常連の方は氷の塊を抱きながら『これはこれでいい』とかおっしゃってくれて(笑)、ありがたかったです。

 でも巨大なブロックの氷をストックしておく場所なんてないわけですよ。なので入るだけ冷凍庫に入れて、なくなりそうになったらまた買いに行って。『まとまった量を買いますので、できるだけ夜遅くまでお店を開けてもらえますか』とお願いをして。それを1週間くらいやりましたね。あれはもう二度と経験したくない。家族の間でも『よくやったよねぇ』っていう思い出ですね(笑)」

■心が折れかけた東日本大震災

「帰宅困難の方々が沢山いらっしゃいました。その時は料金もワンコインで入っていただいて、ロッカーもないので貴重品はポリ袋みたいなものをお渡しして自分で管理していただいて。休憩所のテーブルも移動して、沢山のみなさんに朝までいていただいきました。

 ただ、僕らもこれからお店の経営をやっていけるか心配だったので、いったんお店を閉めました。原発事故も影響して、韓国に家族がいる従業員たちの中には、実際に帰った人もいます。結局スタッフの数が半分くらいになってしまい、節電、節水の要請もあり、24時間営業は無理だねという話になりました。それでも、常連のお客様からは『お願いだから開けてください』『サウナに来れないのは死活問題なんだ』というお声を沢山頂戴して、不謹慎なんですけれども、それぐらいうちを愛してくれる方がいらっしゃるんだなと少し嬉しくなりました。

 そこで、時短にして夜11時ぐらいまで営業しました。ただ、世の中の自粛ムードもあり『こんな時期にお店を開けていてけしからん』『看板を点けていたらだめだろう』といったお叱りのお電話も色々頂戴して、本当に悩みました。今も少し当時と似たような状況なので、大変ではあるんですけど」

 そして、オロポに並ぶ名物、サ飯。「adam・eve」は韓国のおふくろの味をベースにしたメニューが充実している。オロポの陰に隠れた、知られざる“裏ドリンク”も人気だ。

■サ飯は韓国のおふくろの味

「お料理は先代の頃から力を入れていまして、女性、男性で少しずつメニューを変えているんです。女性メニューは参鶏湯からスタートして、わかめスープ定食とか冷麺とか、野菜を使ったヘルシーであっさり志向なのが人気です。男性に人気なのは、豆腐チゲや豚バラ炒め定食のような辛くて、ちょっと味濃いめで、ご飯がすすむようなメニュー。特に豆腐チゲと味噌チゲ、ユッケジャンは、これ家で出てたなっていう母の味なんです。だから今でも料理人が代わったら母親が味見して『これとこれとこれ入れて』みたいな感じで調整しています」

■常連が必ず頼む、裏定番

「うちはビールがほとんど出ないんですよ。東京で一番ビールが出ないサウナなんじゃないですかね。みなさん結果的にオロポになっちゃうんですよね(笑)。中にはたまに食事と一緒に生ビールを頼まれる方もいらっしゃるんですが、オロポの量に比べれば本当に微々たるもので。基本的にいらっしゃった方は必ずオロポを頼まれます。

 昔から来ていらっしゃる方は、もう飽きちゃったから別のにしようと他のものを飲まれる方も多いんです。前身の女性専用のEveの時代から、生搾りジュースが人気です。オレンジとグレープフルーツとスイカがあるんですが、特にスイカがすごく身体にいいんですよ。天然の栄養剤と言われるぐらいで、水分もものすごく多いですし。注文を受けてから生のスイカをミキサーに入れて作っているので、果汁100%で本当におススメです。夏は『ジュースじゃなくてカットのスイカで』っていう常連さんもいらっしゃいますけど(笑)」

 筆者もスイカジュースのみずみずしさとその美味しさには衝撃を受けた。

 ちなみに場所柄、ダイニングで何度か有名人が休んでいる姿を目撃したこともあるのだが、なんと過去にはボクシングの世界チャンピオンもお忍びで来店したことがあったという。

「実はadam・eveの経営をする傍ら、先輩のイベント会社の仕事を少しお手伝いしていまして。韓国語、英語、日本語が喋れる強みを生かした音楽フェスのコーディネーションの仕事なんです。ある時、その仕事がお台場であってVIPの対応をしていたら、ボクシング世界チャンピオンのメイウェザーとパッキャオが同じテーブルになっていて、わぁすごいなって思っていたんです。その後、自分はアフターパーティーのコーディネートが遅くまであったんですが、仕事が終わった後に『代表、今どこにいらっしゃいますか。今すぐ来られますか!』ってすごく真剣な声でお店から電話がかかってきたんです。僕がイベントの仕事に行ってるというのは従業員も分かっているので電話がくるのは、困ったことが起きたときなんですよ。

 それで急いでお店に戻ったら、日本語を話せない方々が20人ぐらい団体でいらっしゃっていて。よく見たらさっきお台場で見たメイウェザーがいる (笑)。 聞けばチャンプが『ちょっと疲れたからどこかマッサージでも行こうか』みたいな話になって、スタッフが勧めたのがうちだったそうなんです。2メートルくらいある屈強なボディーガード20人がマッサージ室に一堂に会していました。そしたら、あるスタッフの方に『君、お台場にいなかった?』って言われて。『いや、そうなんです。自分ここのオーナーなんです』って答えたら全員大爆笑してました(笑)」

■創業者の両親から店を受け継いで

「今入社して14年目、社長になって5年目です。お店の経営、従業員の管理から代表としての対外的なあり方まで、まだまだ毎日模索しています。目標のゴールが100だとしたら、ほんとに0.03ぐらいのイメージですね。目標は会長です。会長はただの上司ではなく、母親でもあるので、指摘されたことが上司として言われているのか、親に小言を言われているのかわからないことがあるんですけど(笑)。

 お店では家の話、家ではお店の話になってしまうので、ストレスになる時もありますが、間違ったことはひとつも言わないんですね。機械に対する技術的なことひとつとっても詳しい。やっぱり創業者ですし、人間としても会社の代表としても僕とは比べものにならない経験値があります。両親が裸一貫から頑張ってくれたお陰で今の場所がある。最終的な目標ではあるんですが、なんとか半分ぐらいまで辿り着ければいいなと思っています」

■3代目社長、文沢圭の思うadam・eveのこれから。

「実は一度、ロシアの超大富豪から『自分だけのサウナにしたいから、このままの店を売ってほしい』って言われたことがあったんです。でもそれはお断りしました。僕はadam・eveを地域のランドマークとして絶対に残したいという想いがあるんです。

 両親は設計、デザインを含めてゼロからここを作りあげたので、僕の代では施設を一新できればと思っています。今の僕は与えられたものを管理していく立場です。でも施設をゼロから立ち上げれば、お店に対する愛情とか執着ってまた違ってくると思うんです。代表になってからはそれを意識し始めています。会長は『そんな負担に思わなくていい』と言うんですけれども、親としての優しさがあると思うんです。でも次の時代に向けて施設が新しくなれば、それはそれで両親もお客様も喜んでくれると思いますし。

 僕が今ここに居られるのも両親が人生の大半を苦労してくれたおかげなので、それを少しでもいいから返していかないと、さすがに人生、バランスがとれないんじゃないかなと思います。本当に自分で建てたものを経営、管理するとき、ようやく先代と肩を並べることが出来るのかなと思っています」

INFORMATION

adame・eve  https://www.adamandeve.biz/ ?
住所 東京都港区西麻布3-5-5
お問合せ 03-5474-4490 イブ
     03-5474-4487 アダム
メールアドレス adam.and.eve@lagoon.ocn.ne.jp
ご予約 03-5474-4455
営業時間 年中無休

(五箇 公貴)

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