「無能でもクビを切りづらい社員」とは? 経営者・人事が明かす3つの特徴

「無能でもクビを切りづらい社員」とは? 経営者・人事が明かす3つの特徴

解雇しづらい無能社員の特徴

「無能でもクビを切りづらい社員」とは? 経営者・人事が明かす3つの特徴

「無能なのにクビを切りづらい社員」の特徴とは? ©iStock.com

 近年、「早期退職を募集する企業」が増えています。昨年は上場企業93社が早期退職を募集し、募集人数は判明している80社で1万8635人に達しました(東京商工リサーチ)。

 今年は10月末までに72社が実施し、年間で100社を超える見通しです。経営不振の企業はもちろん、“黒字リストラ”と言われるように業績好調の企業も募集するようになっています。

 早期退職募集の際には、よく「退職勧奨」が行われます。退職勧奨とは、社員が自発的に退職の意思表示(辞職)をしてくれるように、会社から社員に対して働きかけることです。早期退職募集のような特別な時だけでなく、平時から成績不良社員に退職勧奨を行っている企業もあります。

 退職勧奨といえば、ドラマや映画では、他の社員から隔離された環境に追いやり、草むしりのような単純作業に従事させる“追い出し部屋”がお馴染みのシーン。では、実際の退職勧奨はどのように行われているのでしょうか。

 今回、大手・中堅企業31社の経営者と人事部門関係者に「退職勧奨の実態」をアンケートとヒアリングで調査しました。

■「退職勧奨を実施している企業」は4割

 まず「退職勧奨を実施していますか?」と質問しました。

平時から実施している:9社
臨時で実施した:4社
実施していない:18社

※日本では、懲戒解雇に相当する社員に対し、本人のキャリアを傷つけないように退職勧奨を行うことがあり、今回の調査では「実施していない」に分類

 業種別では、製造業では「実施していない」という回答が多く、流通業・サービス業・金融業では「平時から実施している」「臨時で実施した」という回答が多数ありました。外資系2社はいずれも「平時から実施している」でした。この違いは、労働組合の力が強いか弱いかによるものと推察されます。

 なお、「人事部の制度としては実施していませんが、成績不良社員に対し職場の管理職が働きかけをしています」(物流・人事部長)という回答がありました(「実施していない」に分類)。制度としては実施していないものの、現場レベルで実施しているという企業はたくさんありそうです。

「実施していない」と回答した企業は、理由を以下のように説明しています。

「当社は家族主義の経営理念を大切にしており、社員を退職に誘導しようという発想はありません」(機械・社長)

「近年、組織のスリム化を進めた一方、事業が好調で、深刻な人手不足。退職勧奨どころか、もっと人を増やしたいという状況です」(素材・人事部門マネジャー)

「経営陣の一部から実施すべきだという意見もありますが、(労働)組合がうるさいですし、訴訟リスクやレピュテーション・リスクもあり、なかなか踏み切れていません」(建設・人事部長)

■「追い出し部屋が存在する」と答えた会社は1社だけ

 次に、「平時から実施している」「臨時で実施した」という13社に実施方法を訊ねました。13社すべてが「業務成績などの基準を設定して、該当する社員に対し、職場の管理職や人事部門が面談で働きかけている(働きかけた)」と答えました。

 今回、「追い出し部屋が存在する」と回答したのは1社だけでした。実は存在するのに公表していないだけかもしれませんが、次のコメントの通り、追い出し部屋は流行らなくなっているようです。

「当社でも昔は追い出し部屋があり、ずいぶん荒っぽいことをやっていました。でも最近はコンプライアンスがうるさいので、ご法度です。1回面談してダメだったら諦めるように、現場の管理職には指導しています」(IT・専務)

「退職勧奨をホワイトにやるよう努めています。よく現場の管理職が人事の点数稼ぎのために、勝手に部下に退職勧奨をするケースがあります。訴訟リスクを考えると非常に危なっかしいので、そういうスタンドプレーをしないように管理職には注意を促しています」(金融・人事部長)

 退職勧奨それ自体は、違法ではありません。ただ、繰り返し面談したり、面談者が「お前なんかやめちまえ!」といった暴言を吐いたりすると、退職強要に該当し、違法です。人事部門は、退職強要でトラブルに発展しないよう非常に気を使っています。

■「無能なのにクビを切りづらい社員」の特徴とは?

 さらに、退職勧奨を実施している/実施した13社に、「成績不良なのに退職勧奨をしにくい社員はいますか。退職勧奨をしにくいというケースはありますか」と訊ねました。そこには3つ、興味深い回答がありました。

(1)エビデンスが弱いケース
「退職勧奨の理由となるエビデンス(証拠)が何より大切です。営業成績が極度に振るわないなどしっかりしたエビデンスがあれば問題ありませんが、管理部門の仕事や不祥事のようにエビデンスに解釈の余地がある場合、ちょっと慎重にならざるを得ません」(製薬・人事部門マネジャー)

(2)人脈が広い社員
「その対象社員が社内外で人脈が広い場合、かなり気を使いますね。SNSで友達が多く、どこで飯を食べたとか頻繁に発信している社員には、退職勧奨についてあることないこと言いふらされるのではと懸念します。といった事情に関係なく、公正に制度を運用するべきなんですが……」(電機・人事部長)

(3)反撃してくる社員
「数年前、私が退職勧奨の面談をした40代の男性社員は、本題に入ろうとしたところ、『その前に』と言って、会社の人事評価制度の不備を延々と指摘しました。完璧な人事評価制度なんてないわけで、丁寧に説明しているうちに時間ばかりが過ぎ、結局本題については突っ込んだ話ができませんでした」(小売・人事部門マネジャー)

■「退職勧奨」を無効化する3つの方法

 ここまで、企業の立場から退職勧奨について見てきました。では、社員の立場から、退職勧奨に屈しないためには、どうすれば良いのでしょうか。

 もちろん、しっかり業務に取り組んで成績を上げ、「この会社に残って欲しい」と思われるのがベストの対策ですが、仮に無能であっても取るべき対策があります。

 第1に、退職勧奨の理由となるエビデンスを残さないようにします。まず、日頃から不祥事など決定的なエビデンスを残さないよう細心の注意を払います。また、営業成績のような定量的な評価についても、「市場環境が悪かった」「顧客側の対応に問題があった」などエビデンスとしての妥当性を揺るがせるような情報を収集しておくと良いでしょう。

 第2に、日頃から社内外の仲間を増やしておきます。仲間がいると、退職勧奨を受けた際に精神的な支えになりますし、そもそも仲間がいるということ自体が、人事部にとって「ちょっと手を出しにくいな」というプレッシャーになります。

 第3に、実際に退職勧奨を受けたら、一人で対応しようとせず、組合や弁護士に相談すると良いでしょう。管理職から「ちょっと話が……」と別室に呼ばれて退職勧奨の面談だとわかったら、「また後日」といったん打ち切ります。そして、組合や弁護士に相談し、後日面談に臨みます。面談では必ず録音をしましょう。

 という話をある経営者にしたら、「まったくその通りなんだけど、そういうしっかりした対応ができる社員は、元々成績が良いので、退職勧奨の対象にならないのでは?」(食品・副社長)と言われました……。

■退職勧奨が行われない日本は「異常な国」

 ところで、世界では退職勧奨が行われているのでしょうか。全世界の事情はわかりませんが、今回調査した外資系2社がいずれも「実施している」と回答した通り、アメリカでは退職勧奨が普通に行われています。

 アメリカでは、定年制は年齢による労働者の差別に当たるとして原則禁止されています。しかし、企業は年齢に関係なく成績不良社員を解雇することができます。解雇の前段階で、退職勧奨をよく行います。

 日本では、定年制があり、定年に達したら全員がクビになる一方、定年前の解雇は厳しく制限されています。そして、今回明らかになったように、退職勧奨を実施している企業は限定的です。

 この日本の状況を知人のアメリカ人(コンサルティング会社経営)に伝えたら、目をまん丸にして驚いていました。

「どんなに働きが悪い社員でも解雇できない、退職勧奨もしないって、いったい日本の経営者はどうやって社員を働かせているんだ? ある意味スゴイけど、俺は、絶対に日本企業の経営者になりたくないな」

 現役時代に退職勧奨の制度を導入した経験を持つある日本の元経営者は、退職勧奨に及び腰な日本企業の状況について、次のようにコメントしていました。

「退職勧奨を導入しようとすると、社員から経営陣に対し『じゃあ、お前たちはどうなんだ、1億円もらうに値する仕事をしているのか?』という話になる。多くの経営者は、自分たちに跳ね返ってきたら困るから、制度導入を躊躇しているんじゃないですか」

 退職勧奨に日本人はたいていネガティブなイメージを持ちます。ただ、社員の働きがどんなに悪くても解雇どころか退職勧奨すらしないというのは、世界的には異常なこと。日本で退職勧奨が普及していないのは、経営者と労働者の馴れ合いと考えることができそうです。

(日沖 健)

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