「腸が煮えくり返る気持ちに…」山梨県“女子中学生髪切り事件”の被害者が思いを明かした

「腸が煮えくり返る気持ちに…」山梨県“女子中学生髪切り事件”の被害者が思いを明かした

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〈今でこそ思い出すと、腸が煮えくり返る気持ちになりますが、当時は何が起きたのかわかりませんでした〉

 山梨県山梨市の中学校で2016年6月、女子生徒(当時中学2年生)が「臭い」と言われるなどのいじめ被害をアンケートに書いた際、養護教諭は「髪が長い」ことが理由だとして、学年主任が校舎内の廊下で女子生徒の髪を切った。そのため、女子生徒は精神的な被害を受け、翌日から学校へ通うことができなくなった。

 この問題をめぐり、女子生徒は、学校設置者の山梨市を相手に770万円の損害賠償を請求する訴えを起こした。11月30日、甲府地裁で判決が言い渡される。

 冒頭の一文は、高校に進学した後、校内の課題で書いた作文の一節だ。

 判決を前に、筆者は、原告と両親に話を聞いた。

■事務用ハサミで女子生徒の髪を…

 訴状などによると、生徒Aが、女子生徒について「体臭がくさい」という内容の噂を広めた。特に、生徒Aが所属するテニス部の女子部員の中で情報が広がったという。女子生徒は、6月に行われた「いじめ調査のアンケート」で、「『臭いよね』と、からかわれるのが嫌だ。やめさせてほしい」と書いた。前にも、同様のことを3回書いていたことを記憶している。

 すると、6月6日、女子生徒は、学年主任から保健室に呼び出された。そこで体臭に関する指導が行われた。このとき、養護教諭からは「体臭をからかわれるのは、お風呂に入っていないからではないか」「髪が長いのが問題であるなら、短くしてはどうか」などと言われた。帰宅後、女子生徒は母親に「髪を切ってほしい」とお願いした。母は、以前から娘の髪を切っていた。そのため、寝ていたところを起こされたものの、翌日、急いで散髪をした。校則違反にならない、肩より少しだけ上の長さになった。

 しかし、女子生徒はさらに学校で短く切られる。6月8日、学年主任が音楽教諭に「(女子生徒を)借りて良いですか?」と許可を求め、音楽教諭は「放課後、下校のバスが出る直前であれば構わない」と答えた。そして、学年主任は、美容用ではなく、事務用のハサミで髪を切り始めた。

 女子生徒は、のちの主治医の「切っている間、抵抗できなかったのか?」との質問に、「よくわからない」「はっきり嫌と言えなかった」と答えている。帰宅後、女子生徒は「髪を切られた」と涙ぐんだ。そして夕食時に「学校へ行きたくない」と言い出した。家族のLINEグループにも、「もうやだ。泣きたい」と書き込んだ。

 通院した病院では「急性ストレス障害」とされ、その後は「適応障害」と診断された。

 この日の夕食後、母親が担任に電話。「髪を切ったそうで」と告げると、「ああ、ハイハイ」と笑いながら返してきた。母親は「良かれと思ってのこととは理解できますが、やる前に親に一報を入れて欲しかった」と伝えた。そして、「本人は、明日、学校へ行きたくないと言っています」と言うと、担任は驚いた様子で謝罪をしたという。髪を切った学年主任から電話もあり、「いやー。お母さん、すみませんでした」などと謝ったものの、切る前の髪型が支障のあるものだったとの説明をした。

■いじめを黙認され不登校に

 そもそも、なぜ体臭の指導が髪の毛を切るという話になるのかが不思議である。

「娘は、日本人である私と、外国人の夫の間に産まれたハーフです。たしかに、容姿などで日本人同士の夫婦間に産まれた子と比べ、ヨーロッパ的なところがあるかもしれない。しかし、特段、体臭に問題があるわけではない。仮に違いがあっても、からかいの対象になるものではない。中学の対応は、むしろ、いじめの要因が娘にあるといわんばかりではないでしょうか」(母親)

 ちなみに、女子生徒には発達障害がある。診断書によれば、「特定不能の広汎性発達障害」となっている。

 子どもの頃から、表情の意図が分かりづらく、言葉はそのまま捉えてしまう特性があるため、1対複数であると、誤解しやすく、一斉の指示のときには注意が必要と言われている。感覚過敏のために、美容室を利用したことがなく、母親が髪を切っていた。

 女子生徒は、筆者の取材に「中1までは部活が楽しかった」と振り返った。

 父親は「いじめはすぐわかった。苦しそうな表情で、気が重い感じだった。“学校へ行きたくない”と顔が言っていて、それまでと、180度違っていた。その後もいじめが続いた。そして、最終的に、学校へ行かなくなったんです」と話す。

「くさい」と言われるいじめの訴えを受けた学校の対応は、いじめを黙認する一方で、いじめられたと主張する側の女子生徒の髪の毛を切ることだった。その結果、女子生徒は精神的苦痛を受け、不眠や食欲不振、不登校になったのだ。

「不登校になってからは、部屋でTwitterを見たり、寝っ転がったりしていました。(いじめや髪切りの時から見ると)裁判が終わるのはやっと。長かったけど、終わるとなると、あっという間だったかな。苦しんでいたときのことは、今でもめちゃめちゃ覚えています。それにしても、長いな……」(女子生徒)

 証人尋問では自らが証言をした。母親によると、本人の番が終わると、過呼吸を起こした、という。

 裁判官に「なんですか? 言いたいことがあるならはっきり言ってください」と言われたことがあった。「私が学校に行けなくなったのは髪を切られたから。いじめがなかったらそうされなかった」と話したというが、緊張して口をパクパクするシーンもあったとか。

「(証言は)きつかったなあ。あまり記憶がないんですが、裁判長の顔をずっと見ていたと思います。多分、言いたいことを言い切った。裁判長に『言いたいことがあれば』って言われたけど、それが簡単にできたら苦労しないですよ」(同前)

■りんごは自分のアバター、仮面をつけて身を守る

 不登校のときは、特に出かける先もなく、家で過ごすことが多かった。

「Twitterのアカウントは、当時は一つだけでしたが、今は、ただ絵を描いたり、絵を上げるアカウントがあります。病みツイ(=悩んでいることを投稿するアカウント)はありません。まだまだ、当時の自分を客観視できませんね。まだ渦中にいる感じです。ゲームで裁判のシーンがあると 、(精神的に)もうダメだって思ってしまいます」(同前)

 絵を描くのも好きだ。スマホやタブレットで描いている。サイトで売ったこともある。

「地域の活動の会員証のイラストを頼まれて描いたこともあります。iPadを買うのに、サイトでイラストを販売したことがあります。(絵が)売れたことで買うことができました」(同前)

 一枚の絵があるが、泡の中に、女性が横たわっている。これは不登校のときの心境だという。また、教育センターでも、相談支援の一環で、4枚の絵を描いていた。そこには、リンゴの絵があり、「バグの」と名付けられていた。そのキャラクターが、自分を模したものであり、自尊心の象徴だという。

「りんごは自分のアバターなんです。食べ物として好きだし、わかりやすい」(同前)

 そのアバターは剥き出しの自分であり、学校へ行くときや知らない人と会うときなどは「仮面」をつけて、身を守っている。

「TRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム)を幼い頃からしているので、仮面は増やそうと思えば、いくらでも増やせます。その気になればいくらでも装うことができます。仮面のことについて話をするのは、親とカウンセラーぐらいですね」(同前)

 また、急性ストレス障害になったものの、女子生徒は「死にたい」とまでは思わなかった。

「(自分のアバターである、リンゴのキャラクター)『バグの』が殺されたという感覚はありましたが、死にたい感情はなかったなあ。その頃、ネットの掲示板を利用していたのですが、自分よりも病んでいる人もいました。みんな病んでいるな、と思って、(アクセスを)やめました」(同前)

■文科省に問合せするまで学校は調査もしなかった

 この髪の毛を切った件に関しては、「学校事故」としての調査が行われた。これは、母親が翌年6月に、文部科学省に電話で問い合わせをしてから始まった。この案件が「学校事故」にあたるのかは学校も市教委もわからないでいた。また、日本スポーツ振興センターの災害共済給付が精神的被害にも適用されるという説明もなかった。最終的には、災害給付金は支払われた。

「精神的被害も災害給付の対象になると教えてくれたのは弁護士でした。学校では、養護教諭さえ、給付対象になることを知りませんでした。保険の『ほ』の字も言いませんでした。学校や市教委では『災害給付として認められたら、学校事故』にすると言っていました。学校事故と災害給付は別のはず。学校事故として認められるまでも大変でした。文科省に問い合わせをしなければ、調査も始まらなかった」(母親)

 なお、学校対応をめぐっての市を相手にした裁判のほか、いじめの加害生徒を相手にした民事訴訟もしてきたが敗訴に終わった。判決によると、美術の授業で、4人一組になって、正面の人の似顔絵を描く指示があった。その際、生徒Aは、女子生徒がスケッチブックに描いたAの似顔絵を見て、「キモい」と言い、消しゴムで消した。また、Aは女子生徒の体臭のことで両親に相談。マスクをする対策などをした。その後、Aが所属するテニス部でも、女子生徒の体臭のことは話題になっていく。

 女子生徒が不登校になった後に設置されたいじめ問題調査委員会は、「本人にとっては」いじめと認定。それが不登校の原因とも判断した。しかし、判決では、いじめ防止対策推進法上の「いじめ」は認めたものの、「社会通念上許される限度を超えるものではない」として、生徒Aらの民事責任を認めなかった。また、女子生徒への体臭についての話は、最初に両親に相談をしていることから、悪意を持ったものとは言えない、とした。

 女子生徒側は地裁判決に不服ではあるが、控訴はしていないという。

(渋井 哲也)

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