《費用目安は100万円》「親を捨てたい」という声の高まりで5年の間に相談者数が5倍に増加…終活をサポートする“家族代行サービス”の実態

《費用目安は100万円》「親を捨てたい」という声の高まりで5年の間に相談者数が5倍に増加…終活をサポートする“家族代行サービス”の実態

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 2021年5月6日に放映されたNHK「クローズアップ現代+」は「親を棄ててもいいですか?〜虐待と束縛を越えて〜」という特集で、深刻な家族問題に切り込み、大きな反響を呼んだ。はたして、家族関係に悩み、絶縁状態に苦しんでいる人はどれほどいるのだろうか。

 ここでは、日本葬送文化学会常任理事の橘さつき氏による著書 『絶縁家族 終焉のとき―試される「家族」の絆』 (さくら舎)の一部を抜粋。絶縁状態のまま家族の死を迎えた人の苦悩を浮き彫りにした同書から、高齢の家族の「終活」を家族の代わりに行う「家族代行サービス」の実状について紹介する。(全2回の1回目/ 後編を読む )

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■「親を捨てたい」という相談

 終活全般をサポートする民間団体、一般社団法人LMNの遠藤英樹代表理事に話を聞いた。

 ここでは介護から看取り、葬儀に納骨、死後の遺品整理、相続と、終末期から死後まで包括的に家族に代行するサービスを提供している。

 依頼者が望めば、ほとんどのことを家族に代わって引き受けてもらえる、数少ない終活団体だ。

 NHK「クローズアップ現代+」の反響はかなり大きく、最近は問い合わせの8割は親の世話が負担だ、介護をしたくないという相談になってきているという。5年前にはほとんどなかった相談だ。

 そして、そういう相談者のほとんどが今までに何かしらのカウンセリングを受けていて、カウンセラーから「嫌なら親から逃げなさい!」「いいよ、親を捨てても」と言われた人たちだという。

 長年にわたって親との関係に苦しんできた人が、「自分の人生を破滅させないために、親を捨てることも選択肢の一つだ」と諭されても、具体的な方法は教えてはもらえない。

 しかし、「捨てる」ためにはそれなりの受け皿が必要である。「どうしたらできるのか?」と困惑してLMNに相談が寄せられるらしい。

■むやみな放棄は「保護責任者遺棄罪」「死体遺棄罪」に問われる

 行政は何かあれば必ず家族、血縁者に連絡が行くようになっている。むやみに介護も看取りも放棄すれば、保護責任者遺棄罪や死体遺棄罪に問われてしまうことになりかねない。

 家族からはそう簡単に逃れられるわけではないのだ。

 ここ5年の間に、親の介護の負担から逃げたい、絶縁している親の世話をしたくないといった相談や依頼が急増したという。とくにこの一年の「親を捨てたい」という声の高まりに呼応して、相談者が5倍に増加したというのは驚きである。

 だが、相談は多くあっても、一切親の介護も看取りも何もしたくないから、すべて任せたいという依頼はごく少数派だという。

 大抵は「親を捨てたい」と言いつつも、まだそれだけの覚悟はなく、相談することや契約することでひとまず安心するのか、落ち着く人が多い。

 「なにも最初から『捨てる』とまで、覚悟を決めなくてもいいんですよ。人生に決まったシナリオなんかないものでしょう。そのつど、考えて私たちに依頼したいことを決めてもらえばいいんですよ」

 と遠藤氏は語った。

■耐えきれなくなったら、すべてをお願いできるという安心感

 契約をしても本人がどう親と関わっていくかは、そのつど考えていけばよいことで、変更もできる。

 認知症や介護がどうなっていくのか、先は誰にも見えない中で、とりあえず耐えきれなくなったら、すべてをお願いできるという安心感に救われるのかもしれない。

 遠藤氏は続けた。

 「家族と他人の間をつなぐ2.5人称の関係が私たちに求められていることだと思いますね」

 たしかに家の問題を第三者の他人には相談も頼むことも憚はばかられるもの。また、理解もせずに家族の問題に立ち入られることも不快なものである。他者と家族を繋ぐ存在が必要かもしれない。

 一時の憤りの感情のままに、一気にすべてを委ねてしまい、後になってから「一体、自分は何をしたかったのか?」とわからなくなる依頼人もいるという。

 たしかに、介護だけでなく、親の看取りや葬送まですべて人に委ねるには、それなりの覚悟が必要だ。

 それまでに充分に苦しんできた人が、世間からの重圧に押しつぶされることなく、自身や次世代を守るための決断をすることは必要だと思うが、自分自身の気持ちにはしっかり向きあって決めてほしい。

■家族代行業にどこまで頼めるの?

 NHKの番組の最後で信田さよ子氏が語った言葉が思い出される。

 「親を捨ててもいいですよといってあげると、不思議とそういう人は親を捨てないものなんですよね」

 家族代行という仕事が、そうした悩みを抱える人のセーフティーネットになっていることは間違いないだろう。親子2世代の共倒れを防ぐには、代わりになってくれる受け皿の存在が必須である。

 依頼者は自分に代わってくれる存在を得て、初めて今後の関わり方を考える余裕と時間が持てるのかもしれない。

 その家族が背負ってきた深い事情も理解せず、何も手を貸すこともせずに、ただ家族代行に頼る人を非難することこそ、非情な行為なのではないだろうか?

 「私たちの仕事は、家族の関係を切ることが目的ではありません。家族が出来ないことをお手伝いして、家族を救う仕事だと自負しています」

 と遠藤代表はきっぱりと語った。

 2016年に一般社団法人LMNを設立した当初は、子どものいないシニアのために家族代行をすることを主にスタートして、ケースワーカーからの相談と紹介がほとんどだった。

 LMNのLは「生活のlife」、Mは「医療のmedical」、Nは「介護のnursing」を意味する。家族からの相談でも、海外など親と遠く離れて暮らしているために、いざという時に世話に行かれない事情を抱えた依頼者が多かったという。

 「遠隔地との距離」と同じように、深刻な問題を抱えた家族には、どうにもならない「心の距離」があることを社会が受け止めないと、当事者はますます孤立するばかりだろう。

■家族代行サービスとは?

 一般社団法人LMNの場合を例に、家族代行サービスではどんなことを頼めて、どれくらいの費用が必要なのか見ていきたい。

 まず、高齢者本人ではなく、依頼者である家族をサポートする目的のサービスであることがポイント。

 登録料の16万5千円とコンサルティングの費用(医療・介護、相続関連、お片付け、葬儀・供養、マネー〈保険・年金〉)を含む、お得な33 万円のトータルパックを申し込む人が多いそうだ。(実施費用は別途必要)

 パックではなく、必要なサポートを個別に選択することも可能だ。

 それに生活サポートサービス・各種代行業務、定期訪問、緊急時の駆け付け、同行援助や、入所や入院等の手続き・行政手続き代行やサポートなど多種にわたって一回1万1千円(税込み)で頼むことができる。

 訪問などの生活サポートは必要になってから始めてもよい。遠方の場合以外は交通費も含まれる。

 自分で面会や差し入れに行く場合にも交通費は当然かかる。仕事の休みを取るためのリスクや費やす時間も考慮して、自分にとっての利用価値を考えてみるのもよいかもしれない。

 介護施設の選定から納骨までの仲介と手続きをすべてサポートしてもらえる。

■100万円が費用の目安、相談者は親の介護に苦しむ40代〜50代

 だいたい100万円が費用の目安で、死後までの相談、紹介のコンサルティングと生活サポートを含めて必要になる。80歳くらいからサポートして、5〜7年間くらいで他界するケースが多いそうだ。

 だいたい80歳前後の親のための依頼が多い。介護施設に入るなど、何かしら不調が出てくる年齢でもある。相談者の大半は親の介護に苦しむ40代〜50代の女性だという。

 契約する際は依頼者の希望を詳しく聞き、葬儀と納骨の費用を確実に残す計画で、預貯金や年金自給額に合わせてプログラミングをし、途中で見直し、変更も可能だ。

 家族と上手く関係が築けない親の場合、介護施設でも問題を起こして退所を求められる場合が多いそうだ。その場合の転入先の相談や紹介にも応じているという。

 施設入所後も何かと本人からの伝言があるなど施設を通して頻繁に連絡が来ることもあるが、第一連絡先となってもらうことで、家族には必要なことのみの連絡にとどめられ、本人との距離が保てるという。

 葬儀の手配と代行や立ち会い、菩提寺との交渉や納骨の代行、遺品整理、家の売却などと利用者の死後のサポートもしてもらえる。

【契約者が必ずすること】

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*本人が介護施設に入所した時に、身元保証人の手続きと金銭の管理は家族がする。

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*終末期医療における事前指示書

 延命治療はどこまでやるかの事前指示書を預かり、いざという時に家族の希望を病院側に伝える。医師は電話で家族の最終決断を確認する。

 LMNの特徴は、身元保証サービスや介護施設入所の際の保証人代行サービスは行っていないことである。

 保証人代行サービスや身元保証をめぐっては、高齢者を騙して高額な契約金を搾取するトラブルに消費者庁が警鐘を鳴らしている。

 では、どんな家族代行の依頼がくるのか、具体的な例を聞かせてもらった。

■ワンオペ・ダブル介護に疲れ果てた一人娘

 A子さん(40代)のことでケースワーカーから相談が持ち込まれたのは、5年前のことだった。A子さんは一人娘で、夫と二人の娘の四人家族。

 その一年前に父親は脳梗塞で倒れ、要介護4で特養老人ホームに入ることになった。母親の認知症がそれから始まった。

 近所の家の花を勝手に採って、近所から苦情の電話が続いた。また徘徊して警察に保護されたことも何度もあった。

 一人暮らしから母親の認知症が急に進み、目が離せなくなってきたのである。

 夫は義理の間柄なので「われ関せず」で、とくに協力する姿勢も感じられない。

 当時、彼女は父親の介護に続き、実家に住む母親の介護を一人で抱え、疲れ果ててノイローゼ気味になっていたという。

 とにかく母親とA子さんを引き離すのが目的で、遠藤(敬称略)に依頼があった。A子さんはそのときやつれ果てて、うつろな感じだったという。

 緊急を要するということで、3日間で入所できる施設を探し、有料介護施設入所を手配した。母親には検査入院と説得して入ってもらった。

■「今、お忙しいみたいですよ」と答えると「そうなの……」

 虐待とまではいかないが、子ども時代から自分の好きなことをさせてもらえない束縛があり、A子さんは「母を好きではない」と自分の気持ちを語っていたという。

 最初の頃は母を拒絶しながらも捨てきれなくて、どこかで気にかけているように思えた。実家とA子さんの家は車で15分ほどの距離。一人娘ということで、近くに住むことを選んだのかもしれない。

 入居後しばらくは母親も家に帰りたがっていたが、一人暮らしが淋しかったのだろうか? 人との会話を楽しむようになり、施設での生活にも慣れていった。娘が来ない理由を聞かれて、

 「今、お忙しいみたいですよ」と答えると、

 「そうなの……」と大抵の親と同じように、それ以上は聞こうとはしない。

 「家に帰りたい」と言われれば、

 「落ち着いたら、帰りましょうね」と答えるようにしている。

 母親はカラオケも楽しんで、一人暮らしの頃に比べてだいぶ明るくなった。遠藤が訪ねると、いつも喜んで部屋に招き入れ、お菓子などをくれるのだ。

■徐々に落ち着きを取り戻して、母親の面会にも行くように

 LMNが相談を受け、実家は売却し片づけた。母親と離れることで、徐々にA子さんも落ち着きを取り戻して、母親の面会にもだんだん行くようになってきた。

 しかし、入所から約3年後に、母親にがんが見つかり入院となったのだ。たまたま、入院の前に別の用事で施設を訪れていた遠藤とすれ違い、母親から声をかけられて、いつものように部屋に呼ばれてお菓子を手渡されたのが、最後になった。

 入院して一年半ほどで、新型コロナウイルス感染拡大の影響で面会が禁止になってしまったのだ。その間、A子さんも母親に会うことが出来なかった。

 やっと会えたのは亡くなるひと月ほど前、もう治療法がないと、医師から死期が近いことを告げられた。すっかり痩せ細った母親と対面して、A子さんのショックは大きかったようだ。

■母の柩にすがりついて号泣したA子さん

 家族4人の家族葬で、通夜と葬儀が僧侶の読経で執り行われた。享年83。遠藤もスタッフと共に葬儀を見守った。

 A子さんは母の柩にすがりついて号泣していたという。家の墓にA子さんが納骨もして、すべて彼女自身で母親を丁寧に見送った。

 5年の月日の間にゆっくりと母へのわだかまりを解かしていったのだろうか。A子さんの気持ちの変化に、救われる思いがした遠藤だった。

 特養老人ホームにいる認知症の父親(85)は妻の死去を今も知らない。A子さんにはまだ、父のことが残っている。

 A子さんの父親のように認知症の高齢夫婦の場合、互いに配偶者の死を知らずにいることは少なくないらしい。母親も特養にいる父親のことを気にかけることもなかったという。認知症はお互いの存在も忘れさせてしまうのだろうか?

【続きを読む】親の死を「よかったですね」と言われて“救われる”…家族関係に問題を抱えた“絶縁家族”が経験した哀しすぎる最期に迫る

親の死を「よかったですね」と言われて“救われる”…家族関係に問題を抱えた“絶縁家族”が経験した哀しすぎる最期に迫る へ続く

(橘 さつき)

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